【令和5年11月22日(知財高裁 令和4年(行ケ)第10059号)】
キーワード:発明該当性
1 事案の概要
本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決の審決等取消訴訟である。
本件は、請求項に記載された発明が、特許法にいう「発明」に該当するかが争われた。
2 本件発明
【請求項1】
再診時、医薬品を処方、処方箋作成時、処方箋には、以前の受診予約日前受診・処方により患者の手元に残った医薬品(以下、患者保有の医薬品と記載する。)のうち、今回処方した期間で服用できずに残る医薬品で、0日分も含めた患者保有分(以下、患者保有分と記載する。)項目を設け、前回、処方した医薬品で分量・用法・用量(投与日数を除く)も同じ場合、今回の投与日数の算定は、二つのパターン
パターン1
前回、処方した医薬品が受診予約日の前日で残数が発生しない場合
パターン2
前回、処方した医薬品が受診予約日の前日まで患者保有分が残っている場合
に区分し、
パターン1では
イ 受診予約日での受診では 受診日(前回の受診予約日)から受診予約日(新たな受診予約日)の前日まで
ロ 受診予約日前での受診では
a 新たな受診予約日が前回の処方箋作成時の受診予約日より後(同日含まず)では、前回の受診予約日から新たな受診予約日の前日まで
b 新たな受診予約日が前回の処方箋作成時の受診予約日と「同日」では、患者保有分「0日」で、期間は投与日数最終日(受診予約日の前日)
c 新たな受診予約日が前回の処方箋作成時の受診予約日より前(同日含まず)では、患者保有分は前回の受診予約日の前日から遡って受診予約日まで
パターン2では
イ 受診予約日での受診
a 新たな受診予約日が患者保有分を生起させた直前の処方箋作成時の受診予約日より、後(同日含まず)では、患者保有分を生起させた直前の受診予約日から新たな受診予約日の前日まで
b 新たな受診予約日が患者保有分を生起させた直前の処方箋作成時の受診
予約日と同日では、患者保有分0日、期間は投与日数最終日(受診予約日の前日)
c 新たな受診予約日が患者保有分を生起させた直前の処方箋作成時の受診予約日より、前(同日含まず)では、患者保有分は患者保有分を生起させた直前の受診予約日の前日から遡って受診予約日まで
予約日より、前(同日含まず)では、患者保有分は患者保有分を生起させた直前の受診予約日の前日から遡って受診予約日まで
ロ 受診予約日前での受診
a 新たな受診予約日が患者保有分を生起させた直前の処方箋作成時の受診予約日より、後(同日含まず)では、患者保有分を生起させた直前の受診予約日から新たな受診予約日の前日まで
b 新たな受診予約日が患者保有分を生起させた直前の処方箋作成時の受診予約日と同日では、患者保有分0日、期間は投与日数最終日(受診予約日の前日)
c 新たな受診予約日が患者保有分を生起させた直前の処方箋作成時の受診予約日より、前(同日含まず)では、患者保有分は患者保有分を生起させ た直前の受診予約日の前日から遡って受診予約日まで
として、投与日数に患者保有分項目を設けた処方箋と患者保有の医薬品を含めた医薬品投与日数算定を特徴とする方法
3 特許庁の判断
本願発明は、処方箋の投与日数に患者保有分の項目を設けるという人為的な取り決め、及び、患者保有の医薬品を含めた医薬品の投与日数を算定する際の算定ルールを示した人為的な取り決めであり、本願発明の構成に技術的手段が何ら特定されていないから、本願発明は、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるとはいえず、特許法2条で定義される「発明」に該当せず、したがって同法29条1項柱書に規定する「産業上利用することができる発明」に該当しないから、本願は拒絶されるべきものである。
4 裁判所の判断
「2 取消事由1(本願の発明該当性に関する判断の誤り)について
(1) 特許法上の「発明」の意義
特許の対象となる「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のう ち高度のもの」であるから(特許法2条1項)、人の精神活動、純然たる学問上の法則、人為的な取決めなどは、「自然法則を利用した」ものといえず、特許の対象となる「発明」に該当しない。
そして、特許請求の範囲(請求項)に記載された「特許を受けようとする発明」が特許法2条1項にいう「発明」に該当するか否かは、それが、特許請求の範囲の記載や願書に添付した明細書の記載及び図面に開示された「特許を受けようとする発明」が前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成、その構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、 全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。
(2) 本願発明の技術的意義について
本願発明に係る特許請求の範囲の記載(前記第2の2)及び本件明細書の記載(前記1)によると、本願発明の技術的意義は次のとおりである。
・・・
(3) 検討
前記(2)のとおり、本願発明は、患者が医師の診察を受ける際に、前回処方された医薬品が患者の元に残っている場合であっても、医師がこれを考慮することなく、診察の日を起算日として医薬品の投与期間を定めて処方をしていたことを課題として、これを解決するため、処方箋に「患者保有分」の項目、すなわち患者が保有している医薬品に関して記載する項目を設け、既に患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与期間を算定する方法の発明であって、これによって、重複処方を防止する効果が得られるとされるものである。
しかしながら、本願発明のうち、「処方箋」の記載事項は、医師法施行規則21条で規定されているから、「分量、用法、用量」の記載は法令に基づく規定、すなわち人為的な取決めと解され、したがって、「分量、用法、用量」と して記載される「投与日数」も人為的な取決めであり、本願発明において、処方箋に「投与日数」として「患者保有分」の項目を設けることもまた、処方箋に医師が記載する事項を定めた人為的な取決めにすぎず、自然法則を利用したものであるとはいえない。
また、本願発明は、患者が保有している医薬品に相当する分を除いた投与期間を算定する方法として、パターン1及びパターン2に分け、さらにパタ ーン1についてイ、ロa・b・c、パターン2についてイa・b・c、ロa・ b・cにそれぞれ分けて、算定方法を具体化しているが、いずれの算定方法も、医師が患者に対して医薬品を処方し、投与する際の投与期間の算定の方法を定めた人為的取決めであって、自然法則を利用したものであるとはいえない。
以上によれば、本願発明は、全体として人為的な取決めであって、自然法則を利用したものとはいえないから、特許法2条1項にいう「発明」には該当しない。」
5 コメント
本件は、審決取消訴訟において、請求項記載の発明が特許法2条1項にいう「発明」に該当するかどうかが争われた比較的珍しい事例である。
本件は、薬の処方方法に関する発明であり、全体としてみたときに、人為的取り決めに過ぎないという認定は妥当であると解される。
以上
弁護士・弁理士 篠田淳郎