【令和5年11月8日判決(知財高裁 令和5年(ネ)第10064号)】

【事案の概要】

 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、①被控訴人との間で被控訴人の製造する商品の売買に係る基本契約(本件契約)を締結していたところ、当該商品が補助参加人の有する特許権に抵触し、控訴人が将来にわたって被控訴人から当該商品を購入して第三者に販売することができなくなったとして、本件契約上の第三者の工業所有権との抵触について被控訴人の負担と責任において処理解決する旨の約定(本件特約)の債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求等を求めた事案である。

【キーワード】

 知財保証条項、損失補償義務、対応義務、債務不履行、瑕疵担保責任

【前提事実等】(下線は筆者が付した。以下同様)

 原審(大阪地判令和5年4月20日令和2年(ワ)第7001号)より引用した。なお、控訴人が一審原告で、被控訴人が一審被告である。

・本件契約
 原告会社と被告は、平成27年11月30日付けで、以下の内容の商品の売買に係る基本契約を締結した(甲1。本件契約)。
(中略)
ウ 被告は、前記アの商品が第三者の特許権、商標権等の工業所有権に抵触しないことを保証する。万一、抵触した場合には、被告の負担と責任において処理解決するものとし、原告会社には損害をかけない(本件特約)。

裁判所が認定した事実に基づき概略図を作成

【争点】

 争点は複数あるが、本稿においては、本件特約上の対応義務違反の成否についてのみ紹介する。

【裁判所の判断】

(2) 対応義務の内容について
 前提事実及び上記(1)の認定事実によっても、本件契約の締結に当たり本件特約の文言や内容についてXと被告代表者との間で具体的なやり取りがされたものとはいえず、本件全証拠によってもこれを認めることができないところ、本件特約の文言を前提とした一般的な意思解釈を前提にすると、本件特約は、第一義的には、控訴人が第三者から特許権等の侵害を理由に訴えを提起されて敗訴して確定するなど、本件契約の対象商品について特許権等の侵害の事実が確定し、控訴人が損害を被ることが確定した場合の被控訴人の損失補償義務を規定したものと解される。もっとも、本件特約の「万一、抵触した場合には、被控訴人の負担と責任において処理解決するものとし」との文言や被控訴人が商品の製造元として控訴人よりも技術的な知見等の情報を有している立場であったことからすると、本件特約は、単に事後的な金銭補償義務のみならず、被控訴人が、その負担と責任において、紛争を処理解決する積極的な義務をも規定していると解される。そうすると、控訴人が第三者から被控訴人が控訴人に販売した商品が特許権等に抵触することを理由に侵害警告を受けたときには、被控訴人は、本件特約に基づき、控訴人の求めに応じて、控訴人に商品に係る技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報を提供し、控訴人が必要な情報の不足により敗訴し、または交渉上不当に不利な状況となり、損害が発生することのないよう協力する義務も負うものと解される。
 他方で、本件特約上の紛争を処理解決する積極的な対応義務は、損害の発生を防止するために控訴人の求めに応じて被控訴人から技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報を提供して控訴人が不利な状況とならないようにすべき義務であるから、被控訴人が同侵害の事実を争い、同侵害の事実が確定しておらず、また、被控訴人から技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報の提供が行われていたにもかかわらず、控訴人が、その経営判断等により、特許権侵害等を主張する第三者との間で控訴人の不利益を甘受して被控訴人が控訴人に販売した商品の取り扱いについて合意したような場合において、控訴人の損害の補償義務までを被控訴人が負うものではなく、また、特許権侵害等を主張する第三者への被控訴人からの対抗手段としては、自らに有利な主張をし、その根拠資料を示して交渉するなどの手段も存在するものであって、そのような場合に、当該第三者からの解決策の提案に必ず応じなければならないものではなく、加えて、特許権侵害等を主張する第三者に訴訟提起や無効審判請求等までの対抗手段を講ずべき義務を被控訴人が負うものとも解されない。
 したがって、上記判断に反する控訴人の本件特約に係る義務の内容についての主張は失当であって採用できない。

(3) 対応義務違反の有無
ア そこで、本件についてみると、被控訴人の対応として以下の事実が認められる。
(ア) 被控訴人は、平成28年11月ないし12月頃、控訴人が補助参加人から最初に呼び出しを受けた際、B弁理士に依頼して協力を求めると共に、控訴人がWC及びSWCの取引を継続できるよう、補助参加人に対して、特許権侵害を否定する対応をとったこと
(イ) 被控訴人は、被控訴人がLBやSLBの開発過程において重要な発案をし、商品の具体化及び実現に深く関与していたことから、補助参加人の主張に理由がなく、乙1特許権には共同出願違反の無効理由があって、補助参加人の主張には十分対抗できるものと判断し、同年12月14日には、Aから共同開発者証明書(乙5)を入手し、速やかに被控訴人代表者が乙1発明の発明者であることを裏付ける証拠の収集を行ったこと
(ウ) 被控訴人は、控訴人及びその取引先であった穴吹工務店の依頼したC弁理士にもLB及びSLBの開発経緯を説明し、乙1特許権に係る出願前のFAX等の重要な資料の提供を行って、平成29年4月5日にC弁理士が補助参加人に対し、特許権非侵害や無効の主張をする前提となる情報を提供したことや控訴人の取引先であった長谷工に対してもLB及びSLBの開発経緯を説明し、資料を提供し、その結果、平成29年7月頃までに、長谷工は、補助参加人との特許権問題について被控訴人の主張が正しいためSWCを採用する旨の決断に至ったこと
(エ) 被控訴人代表者は、接着補助具をコネクター兼用とし、コネクター部と係止部を樹脂で一体成形し、枠状の支持突起を設けることといった乙1発明の主要な構成を全て着想して具体的な構成を創作したと主張し、これを裏付ける資料も存在していたこと(乙1発明の共同発明者であるAが被控訴人代表者も共同発明者であるとの陳述(乙5)、出願前に作成された文言修正途中の明細書案(乙25)、東レとのやり取りや東レの内部資料(乙2、4、10、11、14、15、24))からすると、補助参加人から特許権侵害の主張を受けた平成28年11月頃から長谷工が武新を通じての控訴人との取引を中止した平成30年3月までの間において、乙1特許権が共同出願違反であって無効である旨の被控訴人の主張には、十分な理由及び根拠資料があり、補助参加人の主張に対抗できる見込みのあるものであったといえること
上記の(ア)から(エ)までの各事実によると、被控訴人は、本件特約に基づき、控訴人の求めに応じて、控訴人に商品に係る技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報を提供し、控訴人が必要な情報の不足により交渉上不当に不利な状況となり、損害が発生することのないよう協力する義務を果たしていたものと評価できる。
イ また、前記認定事実によると、平成29年4月頃までの補助参加人への対応については、控訴人とWCDを共同開発していた穴吹工務店とその依頼を受けたC弁理士が主導しており、それ以降については、控訴人は、補助参加人の主張を問題とせずにSWCの採用を決断した長谷工の意向に従って、SWCの取引を推進したことが認められる。それにもかかわらず、一旦はSWCの採用を決断した長谷工を始めとする控訴人の取引先が、控訴人や被控訴人を除いた補助参加人との直接交渉により、最終的にWCやSWCの取引継続を中止することを決めたものであること、さらに、Xの原審本人尋問の結果によると、控訴人は、平成30年に長谷工が補助参加人との直接交渉の結果、それまでの方針を変更してSWCの販売中止を決めたことから、控訴人のような企業が大企業に抵抗することはできないと判断し、補助参加人からの損害賠償請求を受けないことや長谷工からの在庫の補償が受けられることも考慮し、それ以上の販売事業の継続を断念したといえることからすると、控訴人が本件契約に基づく販売事業を断念したのは控訴人がその経営判断により自ら決定した対応であるといえる。

ウ 以上によると、被控訴人に本件特約上の義務違反があるとはいえず、被控訴人が控訴人に対し、本件契約上の債務不履行責任を負うものとはいえない。

【検討】

 本件は、具体的な記載とは言い難い本件特約の内容(以下に再掲する)から、被控訴人(一審被告)の具体的な義務を導いた。

被告は、前記アの商品が第三者の特許権、商標権等の工業所有権に抵触しないことを保証する。万一、抵触した場合には、被告の負担と責任において処理解決するものとし、原告会社には損害をかけない(本件特約)

 本判決と原判決の表現は、以下の表で示すとおり、一部異なる箇所がある。

原判決

本判決

本件特約は、典型的には、原告会社が第三者から特許権侵害を理由に訴えを提起されて敗訴し、損害を被った場合の損失補償を規定したものと解されるが、被告が商品の製造元として原告会社よりも技術的な知見等の情報を有している立場であることを前提に、単に事後的な金銭補償のみならず、被告の負担と責任において処理解決する積極的な作為義務をも規定しているから、原告会社が第三者から被告が原告会社に販売した商品が特許権に抵触することを理由に侵害警告を受けたときについても、被告において、原告会社の求めに応じて、原告会社に商品に係る技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報を提供し、原告会社が必要な情報の不足により敗訴し、又は交渉上不当に不利な状況となり、損害が発生することのないよう協力する義務を負うものと解される。

本件特約は、第一義的には、控訴人が第三者から特許権等の侵害を理由に訴えを提起されて敗訴して確定するなど、本件契約の対象商品について特許権等の侵害の事実が確定し、控訴人が損害を被ることが確定した場合の被控訴人の損失補償義務を規定したものと解される。もっとも、本件特約の「万一、抵触した場合には、被控訴人の負担と責任において処理解決するものとし」との文言や被控訴人が商品の製造元として控訴人よりも技術的な知見等の情報を有している立場であったことからすると、本件特約は、単に事後的な金銭補償義務のみならず、被控訴人が、その負担と責任において、紛争を処理解決する積極的な義務をも規定していると解される。そうすると、控訴人が第三者から被控訴人が控訴人に販売した商品が特許権等に抵触することを理由に侵害警告を受けたときには、被控訴人は、本件特約に基づき、控訴人の求めに応じて、控訴人に商品に係る技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報を提供し、控訴人が必要な情報の不足により敗訴し、または交渉上不当に不利な状況となり、損害が発生することのないよう協力する義務も負うものと解される。

 他方で、本件特約上の対応義務は、あくまで原告会社に損害が発生することを防止すべき義務であるから、被告は、原告会社がその経営判断により自ら決定した対応に反してまで独自に特許権侵害を主張する第三者に訴訟提起等の対抗手段を講ずべき義務を負うものとは解されない。

 他方で、本件特約上の紛争を処理解決する積極的な対応義務は、損害の発生を防止するために控訴人の求めに応じて被控訴人から技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報を提供して控訴人が不利な状況とならないようにすべき義務であるから、被控訴人が同侵害の事実を争い、同侵害の事実が確定しておらず、また、被控訴人から技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報の提供が行われていたにもかかわらず、控訴人が、その経営判断等により、特許権侵害等を主張する第三者との間で控訴人の不利益を甘受して被控訴人が控訴人に販売した商品の取り扱いについて合意したような場合において、控訴人の損害の補償義務までを被控訴人が負うものではなく、また、特許権侵害等を主張する第三者への被控訴人からの対抗手段としては、自らに有利な主張をし、その根拠資料を示して交渉するなどの手段も存在するものであって、そのような場合に、当該第三者からの解決策の提案に必ず応じなければならないものではな、加えて、特許権侵害等を主張する第三者に訴訟提起や無効審判請求等までの対抗手段を講ずべき義務を被控訴人が負うものとも解されない。

 本判決は、「被控訴人が同侵害の事実を争い、同侵害の事実が確定しておらず、また、被控訴人から技術的な知見や特許権等の権利関係その他の必要な情報の提供が行われていたにもかかわらず、控訴人が、その経営判断等により、特許権侵害等を主張する第三者との間で控訴人の不利益を甘受して被控訴人が控訴人に販売した商品の取り扱いについて合意したような場合」については、被控訴人は控訴人の損害補償義務を負わないことを判示した。原判決の判示内容からでは必ずしも明らかでなかった点を明らかにした点に意味があると考える。
 また、本判決は、原判決と異なり、特許権侵害等を主張する第三者への被控訴人からの対抗手段として、自らに有利な主張をし、その根拠資料を示して交渉するなどの手段が存在する場合について、当該第三者からの解決策の提案に必ず応じなければならないものではない旨判示した。
 一方、特許権侵害等を主張する第三者への被控訴人からの対抗手段として、自らに有利な主張をし、その根拠資料を示して交渉するなどの手段が存在しない場合について、当該第三者からの解決策の提案に応じる義務があるのかどうかは判然としない。もしも特許権侵害等を主張する第三者への被控訴人からの対抗手段として、自らに有利な主張をし、その根拠資料を示して交渉するなどの手段が存在しない場合に、商品の製造元や売主に当該第三者からの解決策の提案に応じる義務を確実に負わせたいのであれば、契約条項に明記する必要があると考える。

 なお、本判決は、前記判断に先立ち、「前提事実及び上記(1)の認定事実によっても、本件契約の締結に当たり本件特約の文言や内容についてXと被告代表者との間で具体的なやり取りがされたものとはいえず、本件全証拠によってもこれを認めることができないところ、本件特約の文言を前提とした一般的な意思解釈を前提にすると」と判示する。
 当該判示は、契約解釈をするにあたり、契約締結前(後)の契約当事者間の交渉等を参酌することを意味するものだと考えられる。契約条項の文言を定めるにあたり、具体的な記載をすることに契約当事者が難色を示す場合であっても、契約締結前(後)の契約当事者間の交渉等を参酌することにより、具体的な記載をしたのと同等の内容になり得ることから、契約締結にあたりどのような交渉があったかを示す資料(例えば、契約交渉中のドラフトのコメント欄にコメントを残す、当該ドラフトを相手方に電子メール等で送付するときにコメントを残すなど)を残しておくことが重要だと考える。

 本件のように、いわゆる知財保証条項の違反の有無が問題となった先行事例としては、知財高判平成27年12月24日平成27年(ネ)第10069号(以下「別件」という。)がある。
 本件と別件との比較については、原判決に関する記事を参照されたい。

 本件は、知財保証条項の内容について解釈し、また、具体的事案における対応義務違反の成否を判断した貴重な事案であることから、紹介した。

以上

文責 弁護士・弁理士 梶井 啓順