【令和5年1月23日(知財高裁 令和4年(行ケ)第10028号)】

 

キーワード:分割

 

 1 事案の概要

 本件は、無効審判の請求不成立の審決取消訴訟である。
 本件は、「着脱可能に」という、親出願にない用語を追加した分割出願の適法性かが争われた。

 

 2 本件発明(分割出願)

LEDユニットとマウント部とからなるLED照明装置であって、
前記LEDユニットは、
複数のLED発光部と、
前記複数のLED発光部が長手方向に沿って配列された長尺状の基板と、断面コの字状であり、前記コの字状の底面部の外側に前記基板が設けられたベース部と、
前記基板および前記ベース部の前記底面部を覆う長尺状の透光カバーと、を備えており、
前記マウント部は、長尺状の底板部、および前記底板部の短手方向両端から起立する2つの壁部からなる凹部を備え、
前記LEDユニットは、前記マウント部の前記凹部に着脱可能に取付けられる、LED照明装置。

 

 3 裁判所の判断

「(3) 本件特許の請求項1に記載の「着脱可能に」との事項について

ア 新規事項の追加の有無

(ア) まず、親出願の当初明細書等に開示されていた課題について検討すると、親出願の当初明細書等には、【発明が解決しようとする課題】に、「室内がスマートであるとの印象を与えうるLED照明装置を提供する」 (段落【0010】)という課題が記載されており、また、【背景技術】 に関しては、「LED照明装置Xからの光は輝度むらを生じやす」く、「この輝度むらが顕著であると」、「個々のLEDチップ92が視認できてしまう場合があ」り、「見る者が見栄えがよくないと感じてしまう」(段落 【0004】)という課題が示され、第9実施形態に関して、「光のムラを抑える」(段落【0151】~【0155】)という課題が開示されている。
 しかし、親出願の当初明細書等には、多数の実施形態(第1ないし第24実施形態)が開示されており、そこで開示されている課題は、上記の課題に限られるものではない。すなわち、親出願の当初明細書等には、 第1実施形態に関する「このようにLEDユニット2を容易に取り付けることができる。」(段落【0044】)、「このように、LED照明装置A1は、マウント1からLEDユニット2を容易に取り外すことができる。」(段落【0046】)という記載、
・・・
第23実施形態に関する「また、解除レバー161を用いれば、比較的接近して並列に配置された2つのLEDユニ ット21を個別に容易に取り外すことができる。」(段落【0261】)と いう記載があり、これらの記載に鑑みれば、親出願の当初明細書等には、「LEDユニットを交換可能とする」ことが発明の課題として記載されていると認められる。

(イ) 前記(ア)のとおり、親出願の当初明細書等には、「LEDユニットを交換可能とする」という課題が記載されており、この課題は、LEDユニットが「着脱可能に」取り付けられていれば解決可能なものであって、着脱可能とする構成について、特定の構成を採用しなければならないとする特別の要請があるとは認められず、具体的な構成まで特定しなければ解決できないということはなく、当業者であれば、技術常識に照らし、着脱可能とする適宜の方法を選択して解決することができるものと認められる。
 そして、親出願の当初明細書等の段落【0025】、【0026】、【0044】及び【0046】並びに図2、図10及び図11等には、LEDユニット2をマウント1の凹部10aにホルダ11の可撓部11bの 弾性変形を用いて取り付け、取り外すことが記載されており、段落【0250】及び【0251】並びに図103、図104及び図106には、 LEDユニット2をマウント1の凹部に、ワイヤホルダ161を介して取り付け、取り外す構成が記載されている。そうすると、親出願の当初明細書等は、ホルダ11の可撓部11bの弾性変形を用いて取り付け、取り外す構成と、LEDユニット2をマウント1の凹部10aにワイヤホルダ161を介して取り付け、取り外す構成という複数の態様を開示しているということができ、これらの複数の取り付け、取り外す構成を包含する発明特定事項について、「着脱可能に」と特定することは、親出願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるといえ、親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であるものといえるから、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。」

 

 4 コメント

 本件において、原告は、親出願には「着脱可能に」との用語は記載されていない、「着脱可能」の具体的な構成が限定されていないためあらゆる態様を包含する、よって、新規事項追加であり、分割要件違反である、といった主張をした。
 これに対して、裁判所は、親出願の課題のひとつ(複数記載されている)が、「LEDユニットを交換可能とする」ことであると認定し、上記課題は、LEDユニットが「着脱可能に」取り付けられていれば解決可能なものであり、特定の構成を採用しなければならないという特別の事情はないとし、また、親出願には、LEDユニットを取り付け、取り外す構成が複数記載されていることを認定した。そのうえで、これらの複数の取り付け、取り外す構成を包含する発明特定事項について、「着脱可能に」と特定することは、親出願の出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると結論づけた。
 本件は、分割出願の適法性、特に、親出願に記載のない用語を追加する場合の適法性について参考となるものと思われる。

以上
弁護士・弁理士 篠田淳郎