【令和5年10月20日(東京地裁 令和3年(ワ)第27154号)】
【事案の概要】
本件は、原告が、被告株式会社スクウェア・エニックス(以下「被告スクウェア・エニックス」という。)が発売したゲームソフトを原作とする小説を執筆し、その際、原告が同小説の主人公の名称を発案して執筆したところ、①被告らが同ゲームソフトを原作とする映画を製作委員会の構成員として共同で制作するに当たり、同映画の主人公の名称として原告が発案した前記主人公の名称を使用したことが原告の著作権を侵害した、②被告スクウェア・エニックスには原告との出版契約に基づき同名称を使用するに当たって原告と協議する義務が存在したにもかかわらず協議をしなかったことについて、被告らは、共同して同協議義務に係る債権侵害をしたとして、被告らに対して、著作権法115条の名誉回復措置としての謝罪文の掲載、著作権侵害又は前記債権侵害の共同不法行為に基づき、連帯して220万円及び遅延損害金を請求する事案である。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して220万円及びこれに対する被告東宝株式会社、被告株式会社スクウェア・エニックス、被告B、被告Cは令和3年6月4日から、被告株式会社白組、被告D、被告Eは同月7日(訴状送達日)から各支払済みまで、年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、別紙謝罪広告記載の広告を別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイトに記載せよ。
3 第1項につき仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(中略)
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
⑴ア 原告は、小説家であり、被告スクウェア・エニックスが平成2年にスーパーファミコン専用のソフトとして発売した「ドラゴンクエストV天空の花嫁」(以下「本件ゲーム」という。)を題材に「小説ドラゴンクエストV天空の花嫁」という題名の小説(同題名で1から3があり、以下、総称して「本件小説」という。)を執筆した者である。原告は、被告スクウェア・エニックスと協議をしながら、発売前のゲームの内容を知らされるなどして同社が発売した「ドラゴンクエストⅣ」を題材にした小説を執筆し、本件小説も、被告スクウェア・エニックスと協議をしながら執筆された。(争いなし、甲10、原告本人)
イ(ア)被告東宝株式会社(以下「被告東宝」という。)、被告スクウェア・エニックス及び被告株式会社白組(以下「被告白組」という。)は、いずれも令和元年8月2日に公開された「ドラゴンクエストユア・ストーリー」という題名の映画(以下「本件映画」という。)の製作委員会の構成員である。(争いなし)
(イ)被告D(以下「被告D」という。)は本件映画の総監督であり、被告E(以下「被告E」という。)は本件映画の監督である。(争いなし)
(ウ)被告B(以下「被告B」という。)は、「ドラゴンクエスト」シリーズのチーフプロデューサーであり、本件映画の全体監修者である。(争いなし)
(エ)被告C(以下「被告C」という。)は、本件映画の原作者であり、監修を務めたものである。(争いなし)
⑵ 原告と被告スクウェア・エニックス(当時の商号は株式会社エニックス)は、平成12年9月14日、本件小説につき出版契約書(以下「本件出版契約書」という。)を作成して出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結した。本件小説は、いずれも同年10月20日に被告から初版が発行された。(甲1~4、弁論の全趣旨)
⑶ 本件ゲームでは、主人公の名称は本件ゲームを起動した時には定まっておらず、その後プレイヤーが主人公の名称を任意に入力して設定する仕様になっている。
原告は、本件小説を執筆するにあたり、本件ゲームの主人公に当たる架空の人物の名称を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」(以下「本件正式名称」という。)と設定し、その通称を「リュカ」(以下「本件通称」といい、本件正式名称と併せて「本件名称」という。)と設定し、本件小説において主人公に当たる人物について本件名称を使用した。なお、「グランバニア」とは、本件ゲームにおける主人公の祖国の名称であり、主人公は同国の王族である。(甲2~4、丙8、弁論の全趣旨)
⑷ 本件映画は、本件ゲームを原作とする映画であり、主人公の名称として「リュカ」が用いられ、作中で「リュカ・エル・ケル・グランバニア」が主人公の名称として用いられるシーンもある。被告らは、本件映画でこれらの名称を使用することにつき、原告の許諾は受けていなかった。(甲5、弁論の全趣旨)
3 争点
⑴ 本件名称に著作物性が認められるか(争点1)
⑵ 被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約に基づき、本件映画を作成するにあたり、原告との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したか(争点2)
⑶ 本件映画を作成したことが、被告らによる、原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるか(争点3)
⑷ 損害(争点4)
⑸ 謝罪広告の必要性(争点5)
4 争点に対する当事者の主張
(中略)
第3 当裁判所の判断
1 本件名称に著作物性が認められるか(争点1)について
⑴ 著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)が著作物とされている。
原告は、本件名称がそれ自体で著作物であると主張する。しかし、人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、そうである以上、それは、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、著作物ではないと解するのが相当である。当該名称を作成した者が当該名称に対して何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは、その性質から、上記のとおり、それは著作物でないと解される。
本件正式名称は、人物の名称としてはやや長いものの、王族であるという当該人物の出身国名が付されるなどして長くなっているのであって、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものであり、また、本件通称は当該人物の特定のための符号として用いられていることが明らかである。本件名称は、いずれも著作物ではない。
⑵ 原告は、小説中の一場面を際立たせる等の演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が呼称される場合には、名称等が具体的表現になるなどと主張する。
しかし、小説中の特定の場面において登場人物名が重要な役割を果たし、登場人物名の描写を含む当該場面に関する具体的描写が創作的な表現であったとしても、そのことによって、当該描写における特定の語句自体が著作物となるものではなく、当該特定の語句が他の箇所で使われた場合に著作物が使われたことになるものではない。なお、ある特定の場面において登場人物名が効果的に使用され、それにより同場面での当該登場人物の活動等が印象付けられたとしても、そのことを理由として当該特定の場面の具体的描写を離れて登場人物名が著作物となるとすると、特定の場面において活動等を行ったことがある者などという抽象的な概念を著作物として保護することとなるが、それは認められない(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日最高裁第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。
⑶ よって、本件名称は著作物に当たるとはいえないから、原告の被告らに対する著作権侵害の不法行為に基づく請求にはいずれも理由がない。
2 被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約に基づき本件映画を作成するにあたり、原告との間で本件名称を使用することにつき協議する義務に違反したか(争点2)及び本件映画を作成したことが、被告らによる、原告の被告スクウェア・エニックスに対する協議履行請求権の債権侵害の不法行為に当たるか(争点3)について
⑴ 本件出版契約書には次の記載がある。(甲1)
FことA(以下、「甲」という(判決注:原告))と、株式会社エニックス(以下、「乙」という(判決注:被告スクウェア・エニックス))とは、甲が執筆した「小説ドラゴンクエストV」(以下、「本著作物」という)を書籍として、複製並びに頒布する際の条件について、以下のとおり定める。
(著作権の設定)
第1条 本著作物は、乙が保有する著作物「ドラゴンクエストV」(以下「原著作物」という)を題材に甲が創作したものである。
故に、本著作物の原著作物に含まれるものを除き、それ以外の著作権は甲乙の共有のものである。
2.前項の定めにより、甲は本契約の有効期間中であるか否かを問わず、乙の承諾なしに本著作物の全部もしくは一部を転載ないし出版できず、あるいは第三者をして転載ないし出版させることはできないものとする。
(出版権の設定)
第2条 乙は本著作物を複製ならびに頒布する出版の権利を占有する。
2.甲は、乙が本著作物の出版権の設定を登録することを承諾する。
(二次的使用)
第5条 この契約の有効期間中に、本著作物が翻訳・ダイジェスト等、または演劇・映画・放送・録音・録画等、その他二次的に使用される場合、甲はその使用に関する処理を乙に委任し、乙は著作権使用料等の具体的条件について甲と協議の上決定する。
(契約の有効期間)
第6条 この契約の有効期間は、契約の日から5年間とする。
2.この契約は、期間満了の3ヶ月前までに甲乙いずれかから文書をもって終了する旨の通告がなされない限り、この契約と同一条件で自動的に3年間ずつ延長される。
(著作者人格権の尊重)
第9条 乙が本著作物を出版する際、本著作物の内容、表現またはその書名、題号に変更を加える場合には、あらかじめ乙(判決注:ママ)の承諾を必要とする。
(契約条項の変更)
第20条 契約中に別段の明示の規定がある場合を除き、本契約のいかなる条項の変更、追加または削除も両当事者の代表者が記名捺印した書面によらない限り効力を生じない。
(契約の尊重)
第21条 甲乙双方は、この契約を尊重し、この契約に定める事項について疑義を生じたとき、またはこの契約に定めのない事項について意見を異にしたときは、誠意をもってその解決にあたる。
⑵ 原告は、本件映画で本件名称と類似する「リュカ・エル・ケル・グランバニア」を使用するに当たって、被告スクウェア・エニックスは、本件出版契約5条に基づき、その可否を原告と協議する義務があったと主張する。
本件出版契約第5条では、「・・・本著作物が・・・映画・・・等・・・に使用される場合、甲(原告)はその使用に関する処理を乙(被告スクウェア・エニックス)に委任し、乙は著作権使用料等の具体的条件について甲と協議の上決定する。」と定められている。
本件出版契約は、本件小説について「本著作物」と述べた上で、それについての複製、頒布(譲渡)という著作権法上の支分権該当行為を行う際の条件を定めるとし、また、第1条で、著作権の帰属等を定めた上で、第2条以下でも、出版権(第2条)や著作者人格権(第9条)など著作権法上の権利について定めている。これらからすると、本件出版契約第5条も、本件小説の著作権を原告と被告スクウェア・エニックスが保有していることを前提として、著作権法の権利関係を前提とした義務等を定めたものといえる。そして、原則として、第三者が本件小説を著作権者である原告及び被告スクウェア・エニックスの承諾なく複製、翻案等して利用することは著作権(複製権、翻案権等)を侵害し、第三者がそのような著作権侵害を避けて本件小説の複製、翻案等の利用をするためには原告及び被告スクウェアの利用許諾等を得ることが必要なところ、本条は、そのように第三者において本件小説を利用するための利用許諾が必要な場合、原告及び被告スクウェア・エニックスの双方が当該第三者と個別又は共同で交渉して契約を締結する等の処理をするのではなく、原告と被告スクウェア・エニックスが第三者との契約締結前に許諾の条件について協議の上で決定し、原告が保有する著作権の持分に係る部分についても同協議結果のとおり実現されるように原告が被告スクウェア・エニックスにその処理を委任する趣旨であると認められる。前記協議、処理の委任の対象となる第三者の利用態様が、許諾のない限り著作権侵害を構成するものを想定していることは、協議にかかる具体的条件の例として「著作権使用料」が挙げられていることからも裏付けられる。
以上のとおり、本件出版契約第5条では、第三者との間で第三者が本件小説を著作権侵害とならない態様で利用するための利用許諾の交渉、契約締結、契約に基づく処理を行う場合には、その処理を被告スクウェア・エニックス単体で行うものとし、ただし、その利用許諾の条件については原告との協議の上で決定されたところに基づくことが定められていると認められ、第三者において著作権侵害とならない態様で利用するため交渉が必要ない場合や第三者との間でそのための交渉が持たれない場合には、被告スクウェア・エニックスには原告との間で同条に基づく協議をする義務があったとはいえない。
本件小説で記載されている本件名称について、著作物であるとは認められないことは前記1で説示したとおりであり、本件名称のみを第三者が利用することは著作権侵害に当たるとはいえない。そうすると、原告及び被告スクウェア・エニックスは本件映画の作成に当たって、著作権法上、本件名称の利用についてその利用を拒否できる地位にはなかったのであり、本件出版契約上の義務に基づいて被告スクウェア・エニックスから映画の作成に当たって本件名称の利用許諾条件について映画製作の主体に交渉を持ち掛ける理由もないし、そのような交渉が持たれたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、被告スクウェア・エニックスが本件名称について第三者と利用許諾についての交渉を提起すべき理由もなく、そのような交渉が行われたこともうかがえないのであるから、被告スクウェア・エニックスがこれらの交渉のために本件名称の利用許諾の条件について原告と協議すべき理由もないことになる。
よって、本件において、被告スクウェア・エニックスに、本件出版契約に基づき原告と本件名称の利用条件について協議すべき義務があったとはいえず、同義務の違反があったとはいえない。
⑶ 原告は、本件出版契約の前に原告と被告との間で平成2年5月17日に締結された、テレビゲームであるドラゴンクエストI、Ⅱ、Ⅲの設定に準拠した原告が執筆した「ドラゴンクエスト精霊ルビス伝説上中下」という題名の各書籍についての出版契約(以下「別件出版契約」という。)では、ゲームの設定について著作権があることを前提に契約が締結され、本件出版契約もこれを前提にしたものであり、本件出版契約で規定されている「著作物」には、著作権法上の著作物に当たるか否かにかかわらず、キャラクターの名称も含まれるから、被告スクウェア・エニックスには協議義務があったなどと主張する。
しかし、本件出版契約は、別件出版契約の約10年後に締結されたもので、本件出版契約に別件出版契約に関する言及もなく、別件出版契約の前提が本件出版契約において前提とされていたとは認められない。なお、別件出版契約の第1条には、「表記の著作物((判決注:ドラゴンクエスト精霊ルビス伝説上中下)以下「本著作物」という)は、ファミコンゲーム・ドラゴンクエストシリーズ(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)の設定のもとに著作されたものである。旨に(判決注:ママ)、本著作物の著作権は、甲(判決注:原告)・乙(判決注:被告スクウェア・エニックス)・アーマープロジェクト・チュンソフト・バードスタジオの五者が共同所有するものとし、甲の印税は・・・・とする。」との定めがある(甲8)。しかし、別件出版契約において、上記の「設定」に、著作権法上の著作物に当たらないキャラクターの名称等が含まれることが定められているわけではない。同条の「設定」が何を意味するかについては明確ではなく、対象のゲームに関する要素のうち、著作権法により著作物といえるもののみを意味すると解しても矛盾はない。
そうすると、別件出版契約に係る原告が主張するその他の経過等を考慮しても、原告と被告スクウェア・エニックスの間において本件出版契約締結に当たり「著作物」という文言を用いたとき、これにキャラクターの名称が含まれるとは認められない。
⑷ また、原告は、被告がキャラクター名が著作権によって保護に値することを前提に利益を得てきたことから、本件名称に著作物性がないと主張することは信義に反するなどと主張するが、被告スクウェア・エニックスが、キャラクター名自体が著作権により保護される対象であることを前提に利益を得てきたと認めるに足りる証拠はなく、原告の主張はその前提を欠く。
⑸ 以上のとおりであって、原告と被告スクウェア・エニックスの間に本件映画に関連して本件名称の使用に関する協議を行う義務があったとは認められない。
よって、被告スクウェア・エニックスに上記義務違反があったことを理由とする原告の請求(争点2関係)には理由がなく、原告が原告主張の債権を有していたとは認められないから、その債権の存在を前提として債権侵害があったことを理由とする請求(争点3関係)も理由がない。
第4 結論
よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
【解説】
本件は、被告スクウェア・エニックスが発売したゲームソフトを原作とする小説を執筆した原告が、執筆の際に同小説の主人公の名称(「本件名称」)を発案して執筆したところ、被告らが同ゲームソフトを原作とする映画を共同で制作するに当たり、同映画の主人公の名称として、原告が発案した前記主人公の名称を使用したため、このことが原告の著作権を侵害したとして、原告が被告らに対して著作権法115条の名誉回復措置としての謝罪文の掲載等を求めた事案である。
本件では、本件名称に著作物性が認められるか否かが争点となった。裁判所は、人物の名称は、当該人物の特定のための符号であり、思想又は感情を創作的に表現したものとは必ずしもいえず、また、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとはいえないとして、当該名称を作成した者が何らかの意味を付与する意図があったとしても、それが、当該人物の特定のための符号として用いられているといえるものである限りは著作物ではないと解されるとの規範を示した上で、本件名称は、正式名称についても通称についても、人物特定のための符号として用いられているので、著作物ではないと判断した。
また、演出にとって重要な意味を持つような用法で登場人物名が呼称される場合には、名称等が具体的表現になる、との原告の主張に対しては、裁判所は、登場人物名が重要な役割を果たす具体的描写が創作的な表現であったとしても、そのことによって、当該描写における特定の語句自体が著作物となるものではない、判断した。その上で、ポパイネクタイ事件の最高裁判決を参照して、特定の場面において登場人物名が効果的に使用されることによって当該登場人物の活動が印象付けられたとしても、当該特定場面の具体的描写を離れて登場人物名が著作物となるとすると、特定の場面において活動等を行ったことがある者という抽象的な概念を著作物として保護することとなり、認められないと示した。
登場人物の名称については、文芸等の中で、作者の意図が反映されることは多いと考えられるが、人物の特定のための符号であって、思想又は感情を創作的に表現したとは必ずしもいえないことから、著作物性は認めないとの裁判所の上記判断は妥当なものと考えられる。
さらに、被告スクウェア・エニックスに関する、原告との間の出版契約に係る協議義務違反との原告の主張について、裁判所は、被告スクウェア・エニックスに原告との協議が必要とされるのは、許諾のない第三者の利用が著作権侵害を構成する場合に限られると解した上で、前記のとおり、本件名称に著作物性は認められないので、第三者が本件名称を利用したとしても、著作権侵害とは構成されず、被告スクウェア・エニックスに原告と協議する義務は発生しないと判断した。本件名称に著作物性が認められないことを前提とすれば、この判断も妥当であると考える。
書籍の題号については、単に書籍の内容を示すものであったり、短くありふれたものであったりすることが多いため、通常は著作物でないと解されている[1]が、本件は、小説の登場人物の名称について、著作物性を否定した事例として紹介させていただいた。
[1] 半田正夫「著作権法概説(第16版)」87頁
以上
弁護士 石橋茂