東京地裁令和5年4月25日(令4(行ケ)10121号 審決取消請求事件)

【キーワード】
商標法4条1項11号、商標法46条1項、商標登録無効審判、商標の要部

【事案の概要】

  • 被告は、日本において眼鏡商品(以下「被告商品」という。)を製造、販売している事業者であり、以下の登録商標(登録第5918891号。以下「本件商標」)を有している。
    • <本件商標>
    • 商標 Julius Tart(標準文字)
    • 登録出願日 平成28年7月6日
    • 登録査定日 平成29年1月5日
    • 設定登録日 平成29年2月3日
    • 指定商品 第9類「眼鏡用つる、眼鏡用レンズ、眼鏡の部品及び附属品、サングラス、眼鏡」

  • 原告は、2009年8月11日、アメリカ合衆国カリフォルニア州で設立され、同年頃から、その眼鏡フレームを、アメリカ合衆国カリフォルニア州でデザインし、同国及びイタリアで製造した上、アメリカにおいて、「TART」(引用商標)を使用して販売した。また、原告は、2009年(平成21年)から2016年(平成28年)にかけて日本へも眼鏡フレーム及びその関連商品を輸出し販売していた。
  • そして、原告は、以下の登録商標(以下「引用商標」という。)を有している。
    • <引用商標>
    • 商標 TART(標準文字)
    • 登録出願日 平成23年1月18日
    • 設定登録日 平成23年7月22日
    • 指定商品 第9類「眼鏡、眼鏡の部品及び附属品」

  • 原告は、本件商標は引用商標と類似する商標であって、引用商標と同一又は類似する指定商品に使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当するとして、本件商標の商標登録無効審判を請求したところ、不成立審決がなされたため、当該審決の取消しを求めて、本件訴訟を提起した。

【争点】
 本件商標が引用商標と類似するか。

  • 【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)
  • 第1~第3(省略)
  • 第4 当裁判所の判断
  • 1 認定事実
    • ・・・原告は、周知性を立証するための書証として、・・米国における周知性に関するもの等を多数提出するが、本件では本件商標の商標登録出願時及び登録査定時において我が国における引用商標の周知性が問題となるべきところ、これらの書証はこの点の立証に結びつくものとはいえないので、これらの書証に基づく個別の事実認定は行わない。・・・
  • 2 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について
  • (1) 引用商標の周知性について
    • 前記1の認定事実によれば、・・・原告及び原告事業会社は、米国において「TART」の商標を付した眼鏡フレームの販売を開始し、その製造及び販売する眼鏡フレームは、2009年頃から我が国に輸出され、一部の雑誌には、米国の著名人に愛用されてきた【A】氏の事業を承継したブランドに係る眼鏡フレームであると紹介する記事等が掲載されていることが認められる。しかし、我が国に輸出された数量は、証拠上裏付けられる期間(2009年から2016年までの間)で合計約750個程度であって、我が国の眼鏡フレームの市場において主要な割合を占めているとは到底いえず、また、一部の雑誌媒体や眼鏡販売店等のウェブページ等において、原告らが製造販売する眼鏡フレームがかつて著名な俳優が愛用したブランドであり復活したなどと取り上げられたり、原告らが開設するフェイスブック(ただし、英語版)において米国の著名な俳優や歌手等が愛用していることが取り上げられたりしているものの、頻繁に我が国のファッション関係の雑誌等で原告商品が取り上げられているといった事実や、「TART」ブランドに係る眼鏡フレームが原告らによる商品であるとの効果的な広告宣伝を行っており、これにより我が国の需要者等の認知度が高まっているといった事実を認めるに足りる証拠もない。
    • したがって、少なくとも我が国においては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TART」の商標を付した眼鏡フレーム(原告商品)が原告らの業務に係る商品を表示するものとして取引者及び需要者の間において広く認識されているものと認めることはできない。
  • (2) 本件商標の要部について
    • ア 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
    •   これを前提として本件商標についてみると、本件商標の構成中「Julius」と「Tart」の単語の間には空白部分があるが、それぞれの文字は同書同大で、「Tart」の文字部分は強調されていないのみならず、前記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TART」(引用商標)は、本件商標の指定商品である「眼鏡フレーム」等との関係で周知な商標であるとはいえないから、本件商標の構成のうち「Tart」が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。むしろ、本件商標は、「Julius Tart」の欧文字(標準文字)を同書同大でまとまりよく一体的に構成されているものであり、「ジュリアス タート」とよどみなく称呼することが可能であるから、「Tart」を要部として抽出することはできず、本件商標は一体不可分の構成の商標としてみるのが相当である。
    • イ 原告は、前記第3の1(1)イのとおり、本件商標の「Julius Tart」が欧米人の名前であることを前提とし、欧米では氏名はラストネームで呼ばれることが通例であり、「Julius」は欧米系の一般的なファーストネームであって同部分にはさほど注意が惹かれるものではないから、「Tart」がその要部であるとも主張するが、我が国の取引者や需要者を対象にして考えると、「Julius Tart」が欧米人の名前であると想起するとは必ずしも認め難い上、ファーストネームである「Julius」には注意が惹かれないとも認め難いから、原告の上記主張は採用できない。
    •   また、原告は、前記第3の1(1)イのとおり、被告が本件商標中の「Tart」の部分を強調して被告商品の広告及び宣伝をしている事実(甲4、51ないし55)を挙げて、「Tart」が要部であることを示している旨主張するが、そもそも被告のウェブページ(乙3ないし5)では「TART」の文字部分を強調した構成で表記されていないし、この点を措くとしても、商標の構成を離れて実際の商品の宣伝広告の方法から要部を認定すべきとする原告の主張は当を得たものではなく、本件において、仮に被告が「TART」(ないし「Tart」)の文字部分を強調した宣伝等を行っていたとしても、前記認定を左右するものではない。
  • (3) 本件商標と引用商標の類否について
    • 本件商標と引用商標は、外観において構成する文字数が明らかに異なり、称呼においても構成音、構成音数が明らかに異なるものであるから、外観及び称呼において相紛れるおそれはなく、また、両商標は、特定の観念を生じさせるものではないから、観念において比較することができない。
    • そうすると、本件商標と引用商標は、明確に区別することができる商標であり、類似性は低いといえる。
  • (4) 小括
    • 以上によれば、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において明瞭に区別することができ、非類似の商標であるといえるから、両商標の指定商品が同一又は類似するものであるとしても、本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものとはいえない。
  • ・・(以下、省略)・・

  • 【検討】
  • 1 商標法4条1項11号と商標の類否判断
    • 商標法では、「出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務・・又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を受けることができない旨が定められている。
    • 本号の該当性については、商標が「他人の登録商標又はこれに類似する商標」であるか否かという類否判断が問題となることが多いところ、類否判断は、商標の構成全体での外観、称呼、観念を比較する全体観察によって行うことが原則であるが、例外的に、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、取引上、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分などを「要部」として取り出し、当該「要部」と他人の商標とを比較して類否を判断することが許される。

  • 2 本件の検討
    • 本件において、原告は、本件商標の「Julius Tart」は結合商標であり、「Tart」の部分が「要部」であるとして、引用商標との類似性を主張した。一方、被告は、本件商標の「Julius Tart」は、全体が一体的な商標としてのみ認識されるもので、「Tart」の部分だけが出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえないため、引用商標と類似しない旨を主張した。
    • 裁判所は、結論として、本件商標は一体不可分の商標であり、「Tart」の部分を分離して類否判断をするべきでないとして、引用商標との類似性を否定した。
    • 裁判所が本件商標は一体不可分の商標であると判断した理由の一つには、原告が保有する引用商標の「TART」が、日本国内では周知な商標ではなく、「Tart」の部分が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないことが挙げられている。
    • また、裁判所は、被告が「Tart」の部分を強調して被告商品の広告及び宣伝をしているため、「Tart」の部分が「要部」であるとの原告主張に対して、「商標の構成を離れて実際の商品の宣伝広告の方法から要部を認定すべきとする原告の主張は当を得たものではない」と判示している。
    • 当該判示からすると、結合商標が不可分的に結合しているか否かは、外観、称呼、観念だけでなく、引用商標の周知性を踏まえた構成部分の出所識別標識としての印象という事情も考慮されるが、あくまで、商標の構成から判断するべきであり、商標権者による商標の使用態様等の事情は考慮されないものといえる。
    • 具体的な事情にもよるが、仮に、被告が、実際の被告製品の宣伝広告にあたっては「Julius」の部分を小さく表示し、「Tart」の部分を強調している場合、原告としては、無効審判ではなく、引用商標にかかる商標権の侵害を主張することがありうるかもしれない。

弁護士・弁理士 市橋景子