【令和5年9月14日(大阪地裁 令和4年(ワ)3392号)
【事案の概要】
本件は、原告が、被告に対して「ワンスプーン」ないし「ONE SPOON」との名称(以下、併せて「ワンスプーン」と表記する。)のペット用健康補助食品(以下「原告商品」という。)を卸売販売していたところ、同販売契約の終了後、被告が、インターネット上で「ワンスプーンプレミアム」ないし「ONE SPOON PREMIUM」との名称(以下、併せて「ワンスプーンプレミアム」と表記する。)のペット用健康(栄養)補助食品(以下「被告商品」という。)の販売を開始するなどしたことは、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争(混同惹起行為)に該当するとともに、原告に対する信義則上の義務違反であって、原告の営業権を侵害する不法行為を構成し、これにより、原告において原告商品の販売減少の損害を被ったとして、被告に対し、不競法(4条)又は不法行為に基づき、損害賠償金500万円及びこれに対する令和4年6月10日(訴状送達日であり、不正競争又は不法行為よりも後の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、不競法3条1項に基づき、被告商品の製造販売の差止めを求める事案である。
【判決文抜粋】(下線は筆者)
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、500万円及びこれに対する令和4年6月10日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙製品目録記載のペット用栄養補助食品を製造販売してはならない。
第2 事案の概要
(中略)
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに証拠(後掲のほか、甲22、乙27、28、証人P3、証人P2、原告代表者P1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) P4が設立した緑微研は、平成19年11月22日、本件商標権1に係る商標登録を受け、「ワンスプーン」との名称で、LBSを原材料の一つとして用いたペット用健康補助食品(原告商品)を製造・販売していた(販売については、自ら又は第三者を通じて行っていた。)。
その後、緑微研は、オフィスピースワンに対し、「おいしい納豆菌」という名称でLBSを用いたペット用健康補助食品を独占販売することを許諾したところ、オフィスピースワンの意向もあり、基本的に国内では原告商品を販売しないこととされ、緑微研等は、従来からの顧客に対してのみ限定的に原告商品の販売を継続していた。(以上につき、前提事実(2)ア、甲1、弁論の全趣旨)
(2) P1は、平成28年6月25日、緑微研の代表取締役に就任し、P4とともに同社の業務を行うようになった(前提事実(2)ウ)。
(3) 本件商標権1については、更新登録の申請はされず、平成29年11月22日の経過による存続期間満了により同商標権は消滅した(前提事実(2)エ)。
(4) P3は、平成29年12月に、P1にオーダースーツを届けるため原告の事務所を訪れた際に、原告商品を見掛け、これにつきP1に尋ねたところ、P1から、ペット用の健康補助食品であり、オフィスピースワンが「おいしい納豆菌」という名称で独占販売権を有していること、オフィスピースワンの意向により、国内で原告商品を販売することができないことなどの説明を受けた。
これを聞いたP3は、原告商品を海外で販売することをP1に提案し、P1は、原告商品の営業活動をP3ないしフェイスに委託した。(以上につき、前提事実(3)ア)
(5) P3は、原告商品を海外で販売するための営業活動を行ったが、原告商品が国内で流通していて、海外からもインターネットで検索できる状態でないと販売が困難であることが判明したため、P1を通じて、P4に依頼してオフィスピースワンと交渉してもらい、平成30年8月までには、少なくとも海外での販売の前提とする限度において、国内で原告商品をインターネット販売することの許可が得られた。もっとも、その後、原告商品の海外での販路開拓には至らなかった。(弁論の全趣旨)
令和元年7月には、原告が緑微研から原告商品の製造販売事業を引き継ぎ、同年9月にはP4は死亡した(前提事実(2)ウ)。
(6) P3は、令和元年7月頃、被告の事業推進部長であるP2に対して原告商品を紹介し、同月29日には、P1、P3及びP2の三者での打合せが行われたところ、P2の意向により、原告商品を被告が独占販売することで話を進めることとなった。同年8月には、P4がオフィスピースワンと交渉し、国内で原告商品をインターネット販売することの許可が得られた。
そして、原告及び被告は、同年9月30日付け覚書を取り交わし、同日付けで、被告が原告の販売代理店として、原告商品を独占販売することなどを内容とする本件販売契約を締結した。
併せて、原告とフェイス及びP3とは、同年10月1日付け覚書を取り交わし、本件販売契約に係る原告商品の取引に関し、フェイス及びP3が被告から取引情報を収集して原告に提供するなどし、原告は、その手数料として、フェイス及びP3に対し原告商品1袋当たり600円を支払うことを内容とする契約(以下「本件手数料契約」という。)を締結した。(以上につき、前提事実(3)イ、甲4、7)
(7) 被告は、令和元年9月以降、本件販売契約に基づき、原告の販売代理店として、アマゾン、楽天市場、auPAYマーケット、ヤフーショッピング等のネットショップにおいて原告商品(1袋250gの袋詰め商品)を販売し、令和2年8月には、本件販売契約は1年間更新された。
本件販売契約の継続中、P1とP3は、原告商品のパッケージの記載が医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に違反しないように修正したり、同パッケージにおける販売者の記載を原告から被告に変更したり、原告商品を海外でも販売したりすること等についての意見が折り合わず、険悪な関係となることがあり、令和2年9月5日には、P1がP3に対し、人の会社(原告)のことに口を出すな、二度と事務所にも来るななどと告げたことがあった。P1は、P3とP2がワンスプーンの原材料の配合率を尋ねてくるため、原告の営業秘密を聞き出そうとしていると考え、不審に思っていた。
その後も、P1とP3との間のライン等によるやり取りは行われ、本件販売契約に基づく取引も継続していたが、令和3年8月4日に、P1、P3及びP2の三者での打合せが行われた際、原告商品の今後の販売方針等についての意見が折り合わず、途中でP2が退席するということがあった。
P1は、同月27日、P2及びP3に対し、本件販売契約を更新しない旨の意思表示をする電子メールを送信し、本件販売契約は同月31日をもって終了した。(以上につき、前提事実(4)、甲4、乙5ないし10)
(8) 令和元年9月以降の原告商品の売上げは、別紙原告商品販売数記載のとおりであり、本件販売契約が終了する令和3年8月までの2年間で3837袋であった。また、被告は、本件販売契約の終了に伴い、アマゾンのネットショップにおける原告商品の商品登録を取り消したが、アマゾンにおいては、商品登録を取り消した後も6か月間は購入者への納品が必要であったことから、これに対応するため、本件販売契約終了後は、フェイスが原告から原告商品を購入して被告に供給し、被告が納品しており、その数量は令和4年1月までの期間で598袋であった(合計4435袋)。原告商品はリピート商品であり、これらの購入者数は、多くても1000人程度であった(なお、原告は、アマゾンにおいても、令和3年10月1日の規約改正後〔乙12〕に原告商品の登録を取り消せば、同月末には原告商品の納品の必要がなくなってネットショップを閉鎖できるところ、被告商品の販売に当たって原告商品のカスタマーレビューを流用するために、被告はあえてネットショップの閉鎖を引き延ばした旨主張するが、本件販売契約は同年8月31日をもって終了しているのであるから、被告が上記規約改正を待たずに原告商品の商品登録を取り消したことはむしろ当然のことであって、原告の主張は採用できない。)。(前提事実(4)ア、乙11、12)
(9) 本件販売契約の締結後、令和2年11月初め頃までの間に、P1は、P3ないしP2から「ワンスプーン」との名称につき商標登録がされているかどうか問われたのに対し、大丈夫であるなどと回答したにとどまり、商標登録の確認までは行わなかった。
そこで、P3が弁理士に確認したところ、「ワンスプーン」との名称の商標登録は誰でもできる状態になっている旨の回答を得たが、P3はこれをP1には伝えずに、フェイスの名義で、令和2年11月12日に本件商標権2に係る商標の登録出願をし、令和3年11月9日に同商標は登録された。(以上につき、前提事実(5))
(10) 被告は、フェイスから本件商標権2に係る商標の使用許諾を受けた上、令和3年12月、「ワンスプーンプレミアム」との名称で、原告商品とは異なるペット用健康補助食品(被告商品)の販売(本件販売行為)を開始した。被告商品にも、原告商品と同様、原材料の一つとしてLBSが用いられている。被告が運営する「ONE SPOON ONE SPOON PREMIUM」のインスタグラムでは、被告商品が先行販売される旨が記載され、「ワンスプーンの良さはそのままに、より食べやすく改良しました」と紹介されたほか、「ワンスプーンは現在Amazonでのみ販売しています」と記載され、原告商品の購入サイトにリンクが張られていた。
本件販売行為に当たっては、被告は、ネットショップ上の原告商品を販売していたページと同一のページにおいて被告商品の販売を開始しており、同ページには原告商品のカスタマーレビューが残ったままとなっていた。同レビューの件数は、ヤフーショッピングハローマート店15件、同ジオマート店6件、楽天市場3件(甲11のうち「2022-01-11」のレビューを除く。)であった。アマゾンについては、令和4年4月初めの時点で81件のレビューが存在したものの、被告商品についてのレビューが含まれており、原告商品についてのレビューの件数は明らかではない(なお、同年6月初めの時点では、レビューの件数は7件となっていた。)。
また、後日修正されたものの、令和4年1月時点でのヤフーショッピングにおける販売ページには、「ONE SPOONがリニューアルしました。1粒1粒をさらに小さくねこちゃんにも食べやすくし、腹持ちの良い製法に変えました。」、「LBSエキスはそのまま配合。」などと記載されていた。(以上につき、前提事実(6)、甲8ないし12、20)
(11) 原告は、令和4年1月28日、前記(9)の商標登録に対して特許庁に異議を申し立てたが、その後、申立ての理由について必要な補正がされず、同年4月26日付けで同異議は不適法なものとして却下された。(乙1、2)
2 本件販売行為は不競法2条1項1号の不正競争に該当するか(争点1)について
(1) 原告は、原告の周知の商品等表示である「ワンスプーン」と類似の標章「ワンスプーンプレミアム」を使用した被告の本件販売行為は不競法2条1項1号の不正競争に該当する旨主張する。同号の不正競争に該当するというためには、商品等表示が周知性を備えること、すなわち、需要者の間に広く認識されていることが必要である。
(2) 認定事実(7)及び(8)のとおり、令和元年9月の本件販売契約の締結後は、被告がアマゾン、楽天市場、auPAYマーケット、ヤフーショッピング等のネットショップにおいて原告商品を販売していたものであり、日本全国のペットの飼育者が需要者として見込まれ得るものと解される。
しかるに、原告商品の売上げは、本件販売契約が終了する令和3年8月までの2年間で3837袋であり、その後の令和4年1月までのアマゾンでの販売数量を含めても4435袋(1袋250g)にすぎず、購入者は多くても1000人程度にとどまっている。原告商品の販売実績が上記の程度にとどまり、他に「ワンスプーン」との標章が特に需要者間に周知されていたと認めるべき事情も見当たらない以上、上記標章は、「需要者の間に広く認識されている」とはいえず、周知性があるとは認められない。
これに対し、原告は、原告商品につき、平成29年までの年間販売量は300kg程度であり、250gの袋に小分けすると約1200袋であった旨主張する。しかし、認定事実(1)のとおり、緑微研等が限定的に原告商品の販売を行っていた事実は認められるものの、その数量が原告の上記主張のとおりであったことを裏付けるに足る証拠はない。また、仮に上記主張に係る事実が認められたとしても、上記数量に照らすと、直ちに上記標章の周知性が肯定されるものではなく、いずれにしても、上記結論が左右されるものではない。
(3) したがって、周知性に係る原告の主張が権利濫用に当たるか否かにかかわらず、被告の本件販売行為は、不競法2条1項1号の不正競争に該当するとは認められない。
3 被告による不法行為の成否(争点2)について
(1) 原告は、被告が、本件販売契約の終了後、原告商品を販売するために開設したネットショップを遅滞なく削除(閉鎖)すべき信義則上の義務に違反し、被告商品に原告商品と類似の商品名を付け、被告商品が原告商品の改良後継商品であるかのように虚偽を述べ、上記ネットショップにおける原告商品のカスタマーレビューを被告商品に流用するなどして本件販売行為を行ったことは、原告の営業権を違法に侵害するものであって、不法行為を構成する旨主張する。
この点、被告としては、本件販売契約が終了した以上、原告商品の販売を中止すべき義務は負うものといえるが、上記ネットショップが残存するというだけで原告商品の販売が継続されるものではなく、原告に何らかの不利益が生じるとは認められないから、被告において同削除(閉鎖)を行うべき信義則上の義務があるとまではいえない。
もっとも、認定事実(10)のとおり、被告は、本件販売契約の終了に伴う原告商品の販売終了後、ネットショップ上の原告商品を販売していたページと同一のページにおいて被告商品の販売を開始しており、同ページには原告商品のカスタマーレビューも残置され、「ONE SPOONがリニューアルしました。」などと記載されている販売ページも存在した。そして、被告商品にも原告商品と同様にLBSが原材料の一つとして用いられていることに加え、被告商品の名称(ワンスプーンプレミアム)は、原告商品の名称(ワンスプーン)と類似しており、一般に、一段上等・高級であることを意味する「プレミアム」との文字部分が原告商品の名称に付加されていることからすれば、上記ページを閲覧した需要者としては、被告商品につき、原告商品の後継ないし改良商品であると考える可能性がないとはいえない。
しかしながら、被告商品と原告商品の名称が類似している点について、被告の本件販売行為が不競法2条1項1号の不正競争に該当しないことは前記2のとおりであり、それとは別に不法行為が成立するとは解されない。また、上記ページの記載につき、被告商品が原告商品の後継商品である旨を明示するまでの記述はなく、被告商品において実際に原告商品に何らかの改良が加えられたのであれば、改良した旨の記述が虚偽に当たるとはいえないから、被告が、上記ページにことさら原告商品の評価を低下させ、又は、被告商品の評価を上昇させるような虚偽の事実を掲載したとは認められない。さらに、原告商品に関するカスタマーレビューが上記ページ内に残置されていた点について、当該レビューが被告商品に関するものでないことを閲覧者が認識できるような措置が講じられることが望ましいとはいえるが、認定事実(10)のとおり、残置されていた原告商品に関するカスタマーレビューの件数は、各ネットショップの合計で多くても100件程度にとどまるものと認められるし、被告が、原告商品の評価を低下させ、又は、被告商品の評価を上昇させることを意図してカスタマーレビューを流用したとの事実も認められない。そもそも、カスタマーレビューは商品に関する意見や感想を自由に投稿するものにすぎず、内容は様々で、必ずしも正確性や信用性が担保されたものではなく、一般の閲覧者もそのような性格の記事と理解する。そうであれば、上記ページ内に原告商品に関するカスタマーレビューが残置されていたとしても、そのことゆえに直ちに原告商品の評価が低下し、又は、被告商品の評価が上昇するわけではないから、原告の営業権が侵害されるとは考え難い。
以上によれば、原告の上記主張に係る被告の行為が、不法行為を構成するとは認められない。
(2) また、原告は、フェイスが、原告が従前本件商標権1に係る商標登録をしていたことを認識していたにもかかわらず、原告との間の業務委託契約(本件手数料契約)に付随する信義則上の義務に違反し、存続期間満了により本件商標権1が消滅していることを利用して、本件商標権2に係る商標登録を行い、原告が「ワンスプーン」の商標登録をし直すことができない状態にしたことは、原告の営業権を違法に侵害するものとして不法行為を構成し、被告がフェイスの本件商標権2を援用することも不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら、認定事実(1)ないし(3)によれば、本件商標権1について登録をしていたのは緑微研(平成28年6月からはP1が代表者)であり、原告が本件商標権1を有していたことはない。また、平成29年11月22日の経過による存続期間満了により本件商標権1は消滅しているところ、認定事実(9)のとおり、原告代表者であるP1は、本件販売契約の継続中に、P3ないしP2から「ワンスプーン」との商標登録がされているかどうか問われたのに対し、大丈夫であるなどと回答したにとどまり、商標登録の確認までは行わなかった。加えて、フェイスにおいて、上記商標の利用の意図もないのに原告を妨害したり、不正な利益を得たりするために上記商標登録を行ったとまで認めるに足りる事情もない。商標の登録出願に関する先願主義の原則に照らせば、フェイスによる本件商標権2に係る商標登録が何らかの違法行為を構成するとは認められず、被告がフェイスから同商標の使用許諾を受けて「ワンスプーンプレミアム」との名称で被告商品を販売していること(本件販売行為)についても、原告に対する不法行為を構成するものとは認められない。
4 結論
よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
【解説】
本件は、原告のペット用健康補助食品(「原告商品」)をインターネット上で販売していた被告が、原告との販売契約(「本件販売契約」)の終了後、原告商品と類似した名称のペット用健康補助食品(「被告商品」)を販売したことが、不正競争防止法(「不競法」)2条1項1号の不正競争(混同惹起行為)に該当するとともに、原告の営業権を侵害する不法行為を構成するとして、原告が被告に対して損害賠償及び被告商品の製造販売の差し止めを求めた事案である。
裁判所は、原告の商品等表示である「ワンスプーン」と類似の標章「ワンスプーンプレミアム」を使用した被告商品の販売行為が不正競争に該当するためには、当該商品等表示が周知性を備えること(需要者の間に広く認識されていること)が必要であるとして、当該商品等表示の周知性を検討した。
そして、ネットショップで販売されていた原告商品の需要者は日本全国のペット飼育者であるとの前提に基づき、原告商品の売り上げが2年間で4000袋程度であり、購入者は多くても1000人程度にとどまっているので、「需要者の間に広く認識されている」とはいえないとして、周知性を否定し、不競法2条1項1号の不正競争に該当しないと判断した。
また、本件販売契約終了後に、被告において原告商品を販売していたネットショップを閉鎖する信義則上の義務があるとまではいえず、原告商品を販売していたページと同一のページにおいて被告商品を販売したとしても、被告商品の販売行為は前述のとおり不競法2条1項1号の不正競争には該当しないので、別途不法行為が成立するとは解されず、当該ページに原告商品のカスタマーレビューが残っていても原告商品の評価が低下するわけではないので、原告の営業権も侵害されないとして、不法行為の成立も否定された。
ネットショップで販売されていた原告商品については、全国のペット飼育者が需要者であり、それを前提とすれば、4000袋程度の売り上げで、1000人程度の購入者しかない原告商品の周知性を否定した判断は妥当であると考える。
また、不正競争とは別途の不法行為の成立も否定された。著作権法によって保護されない著作物に対する不法行為の成立を否定した最高裁判例(最一小判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁(北朝鮮事件:上告審))以降、知的財産法(不競法を含む。)によって保護されない場合において不法行為が認められた例はない[1]。本件では、判決は前記北朝鮮事件を参照してはおらず、そもそも不法行為との構成が困難であったとも考えられる。
本件は、比較的判断が容易な事例といえるが、混同惹起行為の要件である周知性判断の具体的な例として紹介させていただいた。
以上
(文責)弁護士 石橋 茂
[1] 上野達弘「民法不法行為による不正競争の補完性」パテント76巻 号(別冊29号)1頁(2023年)