【令和5年3月9日(知財高裁 令和4年(行ケ)第10030号)】

【キーワード】
除くクレーム

1 事案の概要

 本件は、異議申し立ての取消決定の審決等取消訴訟である。
 本件は、除くクレームとする訂正が、特許請求の範囲の減縮にあたるかどうかが争われた。

2 本件発明(訂正後)

少なくとも2層を有する積層体であって、
 第1の層が、2軸延伸樹脂フィルムからなり、前記2軸延伸樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを主成分として含み、
 前記ポリエステルが、前記ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸であるバイオマス由来のポリエステルと、前記ジオール単位が化石燃料由来のエチレングリコールであり、前記ジカルボン酸単位が化石燃料由来のテレフタル酸である化石燃料由来のポリエステルとを含んでなり、
 前記2軸延伸樹脂フィルム中に前記バイオマス由来のポリエステルが90質量%以下含まれ、
 第2の層が、化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなり、且つ、バイオマス由来の原料を含む樹脂材料を含まないことを特徴とする、
積層体(但し、 該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)

3 特許庁の判断(取消決定)

「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く)」との事項を追加することは、特許請求の範囲の請求項4に係る発明の「少なくとも2層を有する積層体」外の構成である、「積層体上」という構成について特定することであり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る発明の「少なくとも2層を有する積層体」そのものの構成や、これを構成する層の性状や形状等の諸元を特定していないから、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当せず、その他、同項ただし書各号に掲げられたいずれのものにも該当しないので、本件訂正は認められない

4 裁判所の判断

「2 取消事由1(訂正要件に関する判断の誤り)について
 (1) 訂正の目的について
 ア 訂正事項2は、請求項1を引用する請求項4を新たな独立項である請求項15とし、かつ、「(但し、該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、 その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるものを除く。)」との事項を追加するものである。
 訂正前の請求項1においては、「積層体」について、「少なくとも2層を有する積層体」と特定しているのにすぎないのであるから、ここにいう積層体には、「第1の層」、「第2の層」及びその他の任意の層からなる積層体が含まれることになるところ、「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」も層を形成するものである以上、この任意の層に該当するといえる。したがって、訂正前の請求項1における積層体は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」からなる積層体(以下「積層体 A」という。)を含んでいたものである。
 そうすると、訂正事項2は、「積層体A」を含む訂正前の請求項1における積層体から積層体Aを除くものといえ、このように積層体を特定したことにより、訂正前の請求項4に係る発明の技術的発明が狭まることになるのであるから、訂正事項2が特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
イ 被告は、前記第3の1(2)ア のとおり、訂正事項2は、「積層体」から、「無機酸化物の蒸着膜」及びその上の「ガスバリア性塗布膜」を「積層体」 内の構成としたものを除く記載とはなっておらず、「積層体」の外に該当する「積層体」の「上」に、新たに「無機酸化物の蒸着膜」を設け、さらにその上に「ガスバリア性塗布膜」を設けたものを除くとする記載となっているから、「積層体」の範囲自体を減縮していない旨主張する。
 しかし、本件発明は、「第1の層」及び「第2の層」で完結した積層体を特定事項とする ものではなく、特許を受けようとする発明を、「第1の層」及び「第2の層」 を有する全ての積層体とするいわゆるオープンクレームに該当するものであるから、権利範囲に含まれる具体的層構成を特定するに当たり、積層体の内外を形式的に区別しても意味がない(「第1の層」及び「第2の層」の外部の層も全て、本件発明における積層体の構成要素となる。)。そして、前記アのとおり、訂正事項2における「該積層体上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるもの」の具体的な内容は、「第1の層」、「第2の層」並びに「無機酸化物の蒸着膜」及び「蒸着膜上に設けられたガスバリア性塗布膜」を備えた積層体であるから、結局、積層体Aと区別できないものである。したがって、訂正事項 2は訂正前の積層体から積層体Aを除く訂正であり、「積層体」の範囲を減縮していることになる。
また、被告は、本件訂正事項2のような「除くクレーム」とする訂正は、 第三者に明細書等の記載に関して誤解を与える可能性があり、不測の不利益を及ぼす蓋然性が高いものというべきである旨主張する。
 しかし、被告主張のような懸念が仮にあったとしても、それは、訂正後の請求項につき、 明確性要件やサポート要件等の適合性を巡って検討されるべき問題という べきであるから、いずれにしても、本件事案において、この点をもって直ちに訂正を認めない理由とすることは相当でない。
ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに当たらないとした本件取消決定の判断には誤りがある。 また、訂正事項3ないし9が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに 当たらないとした本件取消決定の判断にも誤りがある。」

5 コメント

 除くクレームとする訂正が特許請求の範囲の減縮にあたるかどうかについて、特許庁と裁判所の判断が分かれたケースである。本年は、除くクレームについて決定や審決が取り消された事例が数件あり、特許庁と裁判所の除くクレームに対する考え方の相違が目立った。

以上

弁護士・弁理士 篠田淳郎