【令和5年12月19日(大阪地裁 令和4年(ワ)第9818号)】

 

【キーワード】

商標法、商標権、商標法3条1項3号、記述的表示、無効の抗弁

 

【事案の概要】

 本件は、「熱中対策応急キット」(指定商品:タブレット上サプリメント、カード式温度計、ポーチ、化学物質を充填した保温保冷具、タオル、飲料水等)という標準文字について商標権(以下「本件商標権」といい、これに係る商標を「本件商標」という。)を有する原告が、サプリメント、カード式温度計、収納バッグ、瞬間冷却材、冷感タオル、及び飲料水を一つのセットにした商品(以下「被告商品」という。)に「熱中対策応急キット」なる商標(以下「被告標章」という。)を付して「熱中対策応急キット」の名称で販売し、又は被告商品に関する広告に被告標章を付す等していた被告に対し、被告商品等の販売及び被告商品等に関する広告に被告標章を付するといった被告の行為は、本件商標権を侵害するものであるとして、商標法36条1項に基づき、前記販売等の行為の差止めを求め、同条2項に基づき、被告商品及びこれに関する広告から被告標章を抹消するよう求めるとともに、不法行為に基づき損害賠償金等の支払いを求める事案である。

 

【争点】

本件商標の商標法3条1項3号に基づく無効理由の有無

 

【判決(一部抜粋)】

第1・第2省略

第3 当裁判所の判断

1 省略

2 本件商標の法3条1項3号に基づく無効理由の有無(争点1)について

(1) 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。
(2)ア 本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、これを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表すものとして理解されると考えられる。
イ 本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思うこと。」、「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわせ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に有するところ(いずれも広辞苑第七版、平成30年1月発行)、これらの語を字義どおりに捉えると、「熱中対策応急キット」の語全体から、熱中症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味合いが直ちに導かれるものではない。
 もっとも、「熱中」との語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の一部を示すものとみても不自然とはいえない。
ウ 取引の実情をみると、前記認定事実のとおり、「熱中対策応急キット」との標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一又は類似の商品を含んでいるもの)は、平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告を含む。)において、熱中症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。一方、前記イの「熱中」の語の意味(物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思うこと。)を踏まえて、これに対応するといった用途に用いられる商品が、「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告販売されている事実を認めるに足りる証拠はない。なお、原告も、平成31年(令和元年)から、熱中症に対応するための物品一式が収納されたポーチに「熱中対策キット」との標章を付して広告販売している上、令和5年には、熱中症に応急的に対応するための物品一式がポーチに収納された「熱中対策応急キット」との名称の商品の広告販売を開始している(前記認定事実(7))。
エ 以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対策」との意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有することが一般に認識されていたことが認められる。そして、本件指定商品は、熱中症の対策又は応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらの全部又は一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、標準文字で表される「熱中対策応急キット」との本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして一般に認識される状態となっていたといえる。そうすると、「熱中対策応急キット」との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。
(3) したがって、本件商標は、法3条1項3号に違反して登録されたものであり、無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件商標権を行使することができない(法46条1項1号、39条、特許法104条の3第1項)。

3 結論

 よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

 

【若干の解説等】

1 総論

 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号)及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(いわゆる記述的表示のみからなる商標)を、商標登録を受けることができる商標から除外する。これは、このような商標は取引上一般的に使用されることが多いため、自他商品・役務識別力がなく、また取引上何人も使用する必要があるため特定人の独占を認めることが妥当でなないことに基づく。
 そして、商標法39条に基づく特許権104条の3の準用により、商標権の行使の場面でも特許権と同様、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、権利行使は制限され(いわゆる無効の抗弁)、かつ商標法46条1項1号により、商標法3条1項3号の規定に違反してされた商標登録は審判により無効とされるべき旨が規定されるところ、商標権者は、登録商標が商標法3条1項3号の商標に該当する場合、これについて商標権を行使することができない[1]
 本件は、「熱中対策応急キット」という標準文字に係る商標登録が商標法3条1項3号に違反して登録されたものであるとして、商標法39条の準用する特許法104条の3第1項に基づき、これに係る商標権の行使が否定された事案である。

2 本件の判断

 本判決ではまず、商標法3条1項3号の商標該当性について、その判断基準と判断の方法として以下の内容が確認された(下線及び「※」部は筆者が付した。)。

  • 本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される(※判断基準)。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである(※判断方法)。

 その上で裁判所は、「熱中対策応急キット」の意味について、主として「熱中」の語を「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思うこと。」の意で捉えるか、「熱中症」との語の一部を示すものと捉えるかという観点から検討を行う。
 裁判所は、本件における取引の実情として、まず平成24年ころから本件査定日までに、被告を含む多数の法人が熱中症に応急的に対応するための物品一式として、「熱中対策応急キット」との標章が付された商品が広告販売されている状況を認定した。その一方で、「熱中」の語の意味として「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思うこと。」を踏まえて、これに対応するといった用途に用いられる商品が「熱中対策応急キット」ないし「熱中対策」との標章を付して広告販売されている事実を認めるに足りる証拠はないとした。また裁判所は、原告においても「熱中対策キット」ないし「熱中対策応急キット」の標章・名称を用いて熱中症に(応急的に)対応するための物品一式が収納されたポーチを広告販売されていたことも指摘している。
 これらの事情から裁判所は、①「熱中対策」の語は本件査定日の時点で「熱中症対策」の意味でも一般的に理解され、「熱中対策応急キット」の語は、熱中症の対策又は応急処置に用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有することが一般に認識されていたこと、②本件商標の指定商品も、これらの物品一式ないしこれを収納するポーチ等の商品に含まれることを認定し、その後先立って確認した判断基準に沿って、「熱中対策応急キット」との本件商標がこれらの商品に使用された場合、当該商品の取引者又は需要者によって、当該商品の用途を示すものとして一般に認識される状態になっていたと判断した。
 結論として、本件商標は指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するとされ、原告による本件商標権の行使が否定された。

3 補論

 本件は商標法3条1項3号の該当性が権利行使の段階で問題となった事案であるが、同号の該当性は商標登録の審査段階で問題になることの方が一般的である。実際のところ、本件商標に係る経過情報[2]を見ると、本件商標についてもまさに商標法3条1項1号該当性を理由に一度商標登録を拒絶されており、その後意見書の提出を経て登録査定に至っていることが確認できる。
 もっとも、商標登録の審査段階での判断は特許庁が行うのに対し権利行使段階での判断は裁判所が行うものであって、判断主体が異なること、審査段階と権利行使段階では提出される証拠も異なること等の事情から、本件のように両者の判断が異なることは十分にあり得る。記述的表示のみによる商標(厳密には記述的表示のみによる商標かが争われるような商標)について登録査定を受けることは、それが一般的に用いられ得るものであることから一面魅力的ではあるものの、登録を受けた商標につき権利行使が認められなくては登録の意味がないため、出願費用や年金を水泡に帰さないためにも、出願時に入念な調査を行うべきである。

 

[1] また、商標法26条1項2号によっても、商標法3条1項3号の商標に該当する商標には商標権の効力は及ばないものとされ、いずれにせよ当該商標に係る商標権の行使は制限される。

[2] https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2021-044842/CB4E21AA24EAA1AAA95BDE5257FC3405E7BEC01E6137C4C90E6650379AB477F4/40/ja

以上
弁護士 稲垣紀穂