【令和5年8月10日(知財高裁 令5(行ケ)10003号 審決取消請求事件)】

【キーワード】
商標法3条1項3号、商標法3条2項、位置商標

【事案の概要】

原告は、「Dr.Martens」(ドクターマーチン)と称するブランド(以下「原告ブランド」という。)のブーツやシューズの製造、販売を行っている事業者であり、以下の位置商標について商標登録出願を行ったところ(商願2018-77608。以下、当該出願に係る商標を「本願商標」という。)、令和2年11月24日付けで拒絶査定を受けた。

<本願商標>
商標 

指定商品  第25類 靴類

原告は、拒絶査定を不服として不服審判請求をするとともに、手続補正書を提出して、指定商品を第25類「革靴、ブーツ」に変更したが、特許庁は、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、かつ、同法3条2項に該当しないことを理由として「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行った。
そこで、原告が本件審決の取消を求めて、本件訴訟を提起した。

【争点】

本願商標が商標法3条2項に該当するか。

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)
第1~第4(省略)
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について
・・(省略)・・
2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り)について
(1) 判断の枠組み
商標法3条2項は、商品の形状その他の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるものとして同条1項3号に該当する商標であっても、使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には、商標登録を受けることができると規定する。
 同号に該当する商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標の構成、商品における商標の使用の状況、その商標ないし商品の使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、類似商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 そして、上記において、当該商標は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品等に使用されるものであることを要する。もっとも、商品等は、その販売等に当たって、出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり、また、当該商標に係る特徴以外にも外観上の特徴を有していることがあることに照らせば、商品が、当該商標に係る特徴を具備していたという事情のみによって、直ちに当該商標について使用による識別力の獲得を肯定することは適切ではなく、商品の外観、商品に付されていた名称・標章その他の特徴の大きさや位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該商標が需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、当該商標が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(2) 本願商標の使用状況等
・・(省略)・・
(3) 前記(2)を総合すると、本願商標の用いられた原告商品は、昭和60年頃以降、日本全国において広く販売されており、本願商標の査定時までの販売期間は約35年と相当程度に長く、販売数量や売上高も相当程度に大きいものと認められる。また、本願商標は、全体が黒色の革靴又はブーツに用いられた場合には、視認性が高く目を引く部分であるといえ、需要者及び取引者が、黒等の暗い色の革靴又はブーツに施された黄色のステッチから原告ブランドを想起する例があることが認められる。他方で、黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品については、原告の模倣品対策により、日本国内において流通する量が極めて少ない状況にあるから、本願商標と同じ特徴を有する黒色の革靴及びブーツが多数市場に存在するとはいえない。
 ・・(省略)・・本件アンケート調査の結果からは、需要者(ただし、上記のとおり、本調査としてその対象を限定された需要者層である。)のうち相当程度の者が、黒い革靴に本願商標が用いられた場合に、本願商標から原告ブランド名を想起できる程度に、黒い革靴に用いられた場合の本願商標は、認知度が高いものと認めることができる。
 しかしながら、本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くとはいえない。また、・・(省略)・・地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めることはできない。更に、本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示すものとはいえない。そして、現に、令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通していたことが認められるところ・・、これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するなどもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が十分にある。
 そうすると、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用いられる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。
 なお、前記1(4)のとおり、商標権の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定められるものであるところ(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及びウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を評価することは相当ではない。
・・(以下、省略)・・

【検討】

1 商標法3条2項
本件は、位置商標の商標法3条2項該当性が争われた事例である。
商標法3条2項は、同法3条1項3号~5号に該当する識別力を有さない商標のうち、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」、すなわち使用の結果識別力を有するに至ったものについて登録を認めるものである。

2 本件の検討
 原告は、①原告商品の外観、②使用期間、③使用地域、④販売数量・シェア、⑤広告宣伝の状況、⑥市場での類似製品の流通状況、⑦アンケート調査、⑧取引者の認識、をそれぞれ主張・立証し、本願商標は同法3条2項に該当する旨を主張した。
 これに対して、裁判所は、上記①~⑧を踏まえると「少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知度を得ているということができる」が、本願商標は、下地の色を限定するものではなく、黒以外の色の革靴及びブーツに付されるものも範囲に含まれていることから、本願商標自体は識別力を獲得していないと判示した。
 審決の段階では、特許庁は、本願商標について、一定割合のファッションに関心の高い需要者層の間では原告ブランドを表すものとして一定程度認知されているが、指定商品に係る需要者の間では広く認識されるに至っていないとして、同法3条2項に該当しないと判断していたが、裁判所の上記判断は、「少なくとも黒い革靴に用いる場合」での本願商標の識別力の獲得を肯定したものといえよう。

3 模倣品対策の有効性
 本件において、裁判所は、⑥市場での類似製品の流通状況について、原告による模倣品対策を考慮している。
 すなわち、裁判所は、「黒色の革靴又はブーツであって本願商標と同じ特徴を有する商品」については、原告が模倣品対策を行っていたことから、日本国内での流通量が極めて少ない状況にあると判示しており、当該事情を、本願商標が「少なくとも黒い革靴に用いる場合」に相当程度の認知度を得ている理由の一つとしたと考えられる。一方、「黒以外の色のアウトソール及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品」については、原告は模倣品として扱わず、対策もしていないため、本件審決以前にも流通していた可能性が十分にある、と判示しており、当該事情を、本願商標が識別力の獲得に至っていないと判断した理由の一つとしたと考えられる。
 市場における模倣品の存在は、商標の識別力に影響する事情といえる。模倣品が複数存在する場合、需要者が商標に接しても何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないためである。模倣品対策は地道な作業ともいえるが、自社の商標の識別力の獲得のため(又は識別力がなくならないため)にも根気強く続けていく必要があるだろう。

以上
弁護士 市橋景子