【令和3年3月24日(東京地方裁判所 平成30年(ワ)38486号)】

【要旨】
著作権侵害を理由とする共同不法行為に基づく損害賠償請求に関し,「被告Aと被告会社との共同不法行為が成立するためには,被告会社のみならず,被告A自身が権利侵害に及んだと認められる必要がある」として,共同不法行為の成立には,各人の行為と結果発生との間の因果関係の存在を必要とすることを前提とする判断がされた。

【キーワード】
共同不法行為,共同直接侵害

【判旨】

(2)  争点3-2(共同不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
原告は,前記3(1)の被告会社の著作権侵害行為について,被告Aが被告会社と共同不法責任を負うと主張する。
 しかしながら,被告Aと被告会社との共同不法行為が成立するためには,被告会社のみならず,被告A自身が権利侵害に及んだと認められる必要があるところ,被告Aが被告会社の従業員に指揮命令して上記の著作権侵害行為を行わせたことなど,被告Aが本件プログラムの著作権侵害を行ったとの評価を基礎付ける事実については,これを認める足りる的確な証拠はなく,そもそも,本件全証拠によっても,上記の著作権侵害行為について,被告Aの具体的な関与の事実を認めるに足りないから,被告A及び被告会社による上記の著作権侵害の共同不法行為が成立するとは認められない。
 したがって,原告の被告Aに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

【検討】

 伝統的な考え方によれば,共同不法行為の成立要件として,各人の行為が不法行為責任の全ての要件を備えること(各人の行為と権利侵害との間の因果関係の存在)が必要である。
 しかし,最近の考え方では,かかる要件を満たす場合,各人は当然に民法709条の責任を負うことから,行為の関連共同性という要件を附加して民法719条1項前段の共同不法行為を論じる意味がなくなるため,①各人の行為の関連共同性と,②共同行為と権利侵害との間の因果関係があれば,③各人の行為と権利侵害との間の因果関係の存在を問題とせずとも,共同不法行為が成立するものとされている 。もっともこの場合に,各人に全ての責任を帰責するためには,関連共同性として,「強い関連共同性」が必要とされている 。
 以上は,民法上の議論であるが,特許権侵害においても,同様に,①各人の行為に強い関連共同性があり,②共同行為と特許権侵害との間の因果関係があれば(全員で特許発明の構成要件の全てを実施すれば),③各人が特許発明の構成要件の全てを実施しない場合でも,共同不法行為の成立を認め,共同不法行為者に全ての責任を帰責すべきとも考えられる。そうでないと,複数人の共同行為によって特許侵害が生じた場合,それによる損害が発生しているにもかかわらず,当該行為が一人の者によるものではないという一事で救済不能となってしまい,妥当ではないからである。
 特許法では,上記の民法上の議論の観点での議論は,それ程されていないようであるが,「共同直接侵害」の観点では,従前から盛んに議論がされている。
すなわち,特許法第68条は,各人の行為が特許発明の構成要件の全部を実施するものではなく,全員の行為を併せると特許発明の構成要件の全部を実施する場合にも特許権侵害(共同直接侵害)が成立することまで規定しているかは明文上,明らかとはいえない 。
 しかし,特許法第68条には,各人がそれぞれ特許発明の構成要件の全部を実施しなければならないことまでは明文上,求めておらず,少なくとも,共同直接侵害の成立を否定するものではない。また,共同不法行為とは別に,共同直接侵害の成立を認めなければ,複数の者により,特許発明の構成要件の全部を実施された場合に,差止請求ができず,特許権の保護の実効に悖る結果となる。
 そこで,各人の行為が客観的関連共同性を有し,かつ,各人が主観的関連共同性を有する場合に,共同直接侵害が成立し得るとの見解が多数存在する。
 このように,共同直接侵害に関する議論は,差止請求に関するものであるが,差止請求(共同直接侵害)が認められるのであれば,各人の行為が客観的関連共同性を有し,かつ,各人が主観的関連共同性を有する場合については,各人の行為が不法行為の要件を満たさずとも,共同不法行為に基づく損害賠償請求を認めることになると考えられる。
 原稿執筆時においては,共同直接侵害に関する裁判例も存在しないところであり,本件でも特に,共同不法行為の点が深く争われたものではないと推察されることから,本件では,共同不法行為の成立には,各人の行為と結果発生との間の因果関係の存在を必要とすることを前提とするが,今後,共同直接侵害や共同不法行為の要件について深く争われる事案が出てきた場合,本件とは異なる結論の裁判例が出てくる可能性はあると考えられる。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一


「不法行為者各人について不法行為の要件を立証しえたならば,各人は当然に民法七〇九条によつて不法行為責任を負わなければならないのであり,行為の関連共同性という要件を付加するところの共同不法行為の規定は無用のものとなること,及び不法行為者各人について故意,過失等の要件,特に因果関係の厳しい立証を被害者に要求することは結局被害者に受忍を迫る結果になることを考えるときは,共同不法行為の成立要件としての因果関係については,共同行為と結果発生との間の因果関係の存在で足りると考えるべきある。」(大阪地判昭和51・2・19判時805-18〔大東水害訴訟第1審判決〕)
2刑法第60条では,「二人以上共同して犯罪を実行した者は,すべて正犯とする。」旨が定められており,共同正犯の成立根拠となる規定が存在する。