【令和3年1月29日判決(東京地裁 平成30年(ワ)第1233号)】

【ポイント】

①特許法102条2項に基づく損害額の推定の覆滅事由の存否、②「本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響は限定的であること」を理由に覆滅した部分について、特許法102条3項の重畳適用の可否について判断した事案

 

【キーワード】

特許法102条2項

特許法102条3項

覆滅事由

本件発明の顧客吸引力

 

第1 事案

 本件は、発明の名称を「コンクリート造基礎の支持構造」とする特許(特許第3887248号)の特許権者である原告が、被告が建設した各構造物における基礎の支持構造の構築が、当該特許権の侵害に当たるとして、損害賠償等を求めた事案である。

 本事案における争点の一つとして、①特許法102条2項に基づく損害額の推定の覆滅事由の存否、及び②特許法102条2項及び3項の重畳適用の可否があった。以下では、当該争点について述べる。

 

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

オ 推定覆滅事由について

・・・

(c) 本件発明が本件実施に係る場所打ちコンクリート杭の顧客吸引力等に及ぼす影響

 前記(a)のとおり、前記1(2)の本件明細書に開示された本件発明の作用効果のうち、剛接合によることなく、コンクリート造基礎を場所打ちコンクリート杭に載置することにより支持することで、水平力が作用した場合であっても、両者に過剰な断面力が発生することを防止できるため、設計の合理性及び施工の容易性が担保されるという点については、本件特許の出願時より前の技術によって奏することが可能であったものである。そうすると、上記の作用効果は、本件発明において新たに見出されたものではないから、本件発明の顧客吸引力を示すものとはいえない。

 他方で、前記(b)のとおり、構成要件Bに係る、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度をコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きくするという構成は、当該構成を採用していない場合に比べて杭頭部の損傷等が生じる可能性を低くするという作用効果を奏するものであり、この点で、本件発明は従来技術との比較で一定の技術的意義を有するものといえる。

 ただし、前記2のとおり、被告各構造物における被告各構造は、コンクリート造基礎を場所打ちコンクリート杭に載置することにより支持するという構成を採り、構成要件Aを充足するものではあるが、構成要件Bに係る構成については、これを採用しないものが存在しており、本件全証拠によっても、コンクリート造基礎を場所打ちコンクリート杭に載置する支持構造を実現するために、構成要件Bに係る構成を採ることが必須であったと認めることはできない

 また、被告各構造は、いずれも被告におけるスマートパイルヘッド工法を採用したものであるところ、同工法に係るホームページ上での紹介においては、「さらに、杭上面から鋼管上面までの間に別途高強度コンクリートを打設することで杭頭接合部の耐力及び変形性能の向上を図ります」(甲41の1)、「さらに杭頭接合部には杭よりも強度が高いコンクリートを打設することで、杭頭接合部の曲げ変形性能を向上させるとともに支圧破壊を防止します。」(甲41の2)との記載がある。これらは、本件発明の作用効果と共通する杭頭部の損傷防止の作用効果に関する記載ではあるものの、直接的には杭軸部と比較して杭頭部に高強度のコンクリートを打設することを述べるものであって、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度をコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きくする構成を採ることによる作用効果を説明するものではない。その他、被告がスマートパイルヘッド工法の紹介に当たって、当該構成による作用効果を明示的に説明していたことを認める証拠はない

 以上の点を考慮すれば、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭について、本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響はある程度限定的であったというべきであり、この点は、102条2項による損害額の推定を一部覆滅すべき事情として考慮すべきである。

・・・

b 被告の技術力、信用、実績及び知名度による影響について

 被告は、被告による利益獲得は、主に、被告の技術力、信用、実績及び知名度によるものであり、本件発明はそれに寄与していないと主張する。

 しかしながら、証拠(乙34)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告は、共に日本を代表する総合建設会社であると認められ、他方、本件実施に係る各構造物が建設された当時において、技術力、信用、実績及び知名度等の点で顧客吸引力に特段の差異があったと認めるに足りる証拠はない。

 したがって、上記の点は、特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情とは認められない。

c 本件実施に係る各構造物における他の特許発明等の実施について

 被告は、本件実施に係る各構造物では、スマートパイルヘッド工法が採用されており、本件特許とは異なる、少なくとも4件の特許に係る発明が実施されており、さらに、スマートパイルヘッド工法以外にも、被告が開発した、品質向上、工期短縮、コスト低減、安全性向上、広い空間の実現等に資する画期的な工法が用いられており、それぞれの工法について被告は様々な特許を取得しているといった点を、推定覆滅事由として主張する。

 しかしながら、被告が主張するいずれの特許発明についても、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭又は本件実施に係る各構造物にこれらが実施されていることについて、具体的な主張立証はない。また、スマートパイルヘッド工法、被告構造物3で採用されているとするナックルパイル工法以外の工法については、被告の主張を前提としても、基礎を支持する杭に関するものではないから、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭の利益に寄与しているとは直ちにいい難い。

 したがって、上記の点は、特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情とは認められない。

d 「鋼管コンクリート部」に限定して利益を考慮すべきとの主張について

 被告は、前記イで検討したとおり、限界利益額算定の対象となるべき侵害品は被告説明図の「鋼管コンクリート部」に限定されるべきであると主張する。

 被告の上記主張を採用できないことは、既に説示したとおりであるが、この点を覆滅事由に係る主張と捉えるとしても、前記2(1)ア(イ)のとおり、被告各構造における鋼管コンクリート部は場所打ちコンクリート杭と一体となっているものである上、前記a(b)の構成要件Bに係る構成をとって、損傷しやすい杭頭部の損傷等を防ぐという本件発明の技術的意義は、杭頭部のみに関するものではなく、場所打ちコンクリートの利益全体に貢献していると認めるのが相当であることからすれば、覆滅事由としても、特許法102条2項による損害額の算定に当たって、鋼管コンクリート部に係る利益に限定して考慮すべきとはいえない。

e 覆滅割合について

 以上のとおり、本件発明の損害に対する寄与の程度についての被告の各主張を検討したところ、前記aのとおり、本件実施に係る場所打ちコンクリート杭について、本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響は一定の限定があり、この点を特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきであり、その覆滅割合は3割と認めるのが相当である

・・・

キ 推定覆滅部分についての特許法102条3項の適用について

 原告は、特許法102条2項による損害の推定が覆滅される部分について、同条3項による損害が認められるべきであると主張するが前記オ()の寄与の程度による覆滅という覆滅事由の性質に照らして、上記覆滅部分について、原告がライセンス機会を喪失したとは認められず、当該部分に同条3項による損害を認めるのは相当でないから、原告の主張は採用することができない。

 

第3 検討

 令和元年に特許法102条1項が改正されたことを契機に、特許法102条1項1号又は2項に基づく損害額の推定が覆滅した部分に、同条1項2号又は3項が重畳適用されるか否かの論点について議論が盛り上がっている。

 本件は、当該令和元年改正後に出された裁判例であり、実務上参考になる事案である。具体的には、①特許法102条2項に基づく損害額の推定の覆滅事由の存否、②「本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響が限定的であること」を理由に覆滅した部分について、特許法102条3項の重畳適用の可否について判断した事案である。

 上記①の争点について、まず、被告が覆滅事由として「本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響」が小さい旨を主張したことについては、本判決は、本件発明は従来技術と比べて「杭頭部の損傷等が生じる可能性を低くするという作用効果を奏するもの」なので、一定の技術的意義はあると判示した。もっとも、⑴本件発明の一部の構成要件を採用しない構造物もあったこと、⑵被告が公に本件発明に係る構成について明示的に説明していないことから、「本件実施に係る場所打ちコンクリート杭について、本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響はある程度限定的であったというべき」と述べ、この点において覆滅事由が存在すると判断した。

 他方で、被告は、「被告の技術力、信用、実績及び知名度による影響」、「本件実施に係る各構造物における他の特許発明等の実施」、「限界利益額算定の対象は「鋼管コンクリート部」のみであること」に関する覆滅事由を主張したが、上記「第2」のとおり、本判決はそれらの覆滅事由の存在を認めなかった。

 このように、本判決は、「本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響は限定的である」という覆滅事由のみを認めた。

 次に、上記②の争点(特許法102条2項に基づく損害額の推定が覆滅した部分について、同法3項の適用の可否)について、本判決は、「前記オ(ア)の寄与の程度による覆滅という覆滅事由の性質に照らして、上記覆滅部分について、原告がライセンス機会を喪失したとは認められず、当該部分に同条3項による損害を認めるのは相当でないから、原告の主張は採用することができない」として、覆滅した部分について3項の適用を認めなかった。

 しかし、「寄与の程度による覆滅という覆滅事由の性質に照らして」という理由は、抽象的でいまいち腑に落ちないものである。加えて、たとえ本件発明の寄与がなかったとしても、被告が販売したものは、被告が無許諾で本件発明を実施した侵害品であることには変わりはない。したがって、今後の裁判例において明瞭な理由が待たれる。

 本判決は、理由がやや明瞭ではない部分があるが、特許法102条2項及び3項の重畳適用の可否について判断した知財高裁の大合議判決(知財高大判令和4年10月20日・令和2年(ネ)10024号)では、「本件発明の作用効果が顧客吸引力に与えた影響は限定的であること」による覆滅事由について、特許法102条2項及び3項の重畳適用の可否を判断はしていないので、本件は実務上参考になる事案である。

以上

弁護士 山崎臨在