【令和3年12月10日(東京地裁 令和3年(ワ)第15819号)】

1 事案の概要(説明のため事案を簡略化している)

 本件は、原告が、他人(以下「投稿者」という。)が原告のツイート(以下「原告ツイート」という。)のスクリーンショット画像を添付してツイートしたこと(以下「本件ツイート」という。)が、原告ツイートに係る著作権(複製権又は公衆送信権)を侵害するとして、プロバイダ責任制限法(※1)2条3号の特定電気通信役務提供者である被告に対し、同法4条1項(※2)に基づき、投稿者に係る氏名等(発信者情報)の開示を求める事案である。

(※1)特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(※2)プロバイダ責任制限法4条

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
3 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
4 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

2 争点

 本件では、①原告ツイートが著作物(著作権法2条1項)であるかどうか、②原告ツイートが著作物である場合に、本件ツイートが著作権法32条1項の「引用」に該当するかが争点となった。
 結論として、裁判所は、①を肯定、②を否定して、発信者情報開示請求を認めたものであるが、本稿では争点②について取り上げる。
 なお、①について、原告ツイートの内容は裁判所のウェブサイトで確認することができるが(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/826/090826_hanrei.pdf)、裁判所は、原告ツイートに個性が現れている理由として、「高圧的な表現で同人を罵倒するもの」、「当該ユーザーが不幸に見舞われたことを『ざまあ』の三文字で嘲笑するもの」「簡潔な表現をリズム良く使用して嘲笑するもの」ということに言及している。

 引用該当性について

  著作権法32条1項は、公表された著作物を引用して利用することを認めるが、その要件として、引用がⓐ「公正な慣行に合致するもの」であり、かつ、ⓑ「引用の目的正当な範囲内」であることを要求する。
 裁判所は、以下のとおり判示して、ⓐ及びⓑの要件を充たさないとした(下線部は、筆者が付した。)。

イ 引用の成否について
 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用して利用することができる(著作権法32条1項)。
 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件各投稿は、いずれも原告各投稿のスクリーンショットを画像として添付しているところ、証拠…及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターの規約は、ツイッター上のコンテンツの複製、修正、これに基づく二次的著作物の作成、配信等をする場合には、ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨規定し、ツイッターは、他人のコンテンツを引用する手順として、引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうすると、本件各投稿は、上記規約の規定にかかわらず、上記手順を使用することなく、スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため、本件各投稿は、上記規約に違反するものと認めるのが相当であり、本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが、公正な慣行に合致するものと認めることはできない。
 また、前記認定事実によれば、本件各投稿と、これに占める原告各投稿のスクリーンショット画像を比較すると、スクリーンショット画像が量的にも質的にも、明らかに主たる部分を構成するといえるから、これを引用することが、引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない
 したがって、原告各投稿をスクリーンショット画像でそのまま複製しツイッターに掲載することは、著作権法32条1項に規定する引用の要件を充足しないというべきである。これに対し、被告は、引用に該当する可能性がある旨指摘するものの、その主張の内容は具体的には明らかではなく、本件各投稿の目的との関係でスクリーンショット画像を掲載しなければならないような事情その他の上記要件に該当する事実を具体的に主張立証するものではない。そうすると、被告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、被告の主張は、採用することができない。
 ウ 以上によれば、本件各投稿は、著作権32条1項により適法となるものとはいえない。

3 若干のコメント

 著作権法32条1項の①公正な慣行、②目的条正当な範囲内という引用の要件は、日本も加盟するベルヌ条約(Berne Convention)10条(1)で規定される要件である(それぞれ、①は“fair practice”、②は“their extent does not exceed that justified by the purpose”)。
 この点、①については、学術論文のように伝統的に引用の手法が確立しているような分野であれば「慣行」は明確であるものの、そのような方法が確立していない新しい分野では引用が否定されてしまう可能性があるので、そのような場合には「条理」で判断すべきとの見解がある(中山信弘『著作権法 第3版』399頁(2020年、有斐閣))。
 本件において裁判所は、この公正な慣行に関し、ツイッター社の利用規約に以下の記載があることを理由に、同社が提供するインターフェースを用いずに他人のツイートを複製する行為は公正な慣行に該当しないとした。

【ツイッター社の利用規約抜粋】
「ユーザーは、本サービスまたは本サービス上のコンテンツの複製、修正、これに基づいた二次的著作物の作成、配信、販売、移転、公の展示、公の実演、送信、または他の形での使用を望む場合には、Twitterサービス、本規約またはhttps://developer.twitter.com/ja/developer-termsに定める条件により認められる場合を除いて、当社が提供するインターフェースおよび手順を使用しなければなりません。」
(Twitter, Inc.「Twitterサービス利用規約」、https://twitter.com/tos?lang=ja#yourrights、(2021,8,19))

  【引用ツイートのインターフェース】(赤枠は筆者が付した。)

 この東京地裁の判断を一般化すると、サービス提供者の利用規約に従わない態様で著作物を複製した場合には「公正な慣行」に該当しないとなりそうであるが、そのように考えるとサービス事業者により「慣行」が容易に形成されてしまうため、この東京地裁の判断を安易に一般化することはできないように思われる。

以上

弁護士 藤田 達郎