【令和3年2月24日(知財高裁 令和2年(ネ)10050号)】

【キーワード】
時機に後れた攻撃防御方法

1 事案の概要

 本件は、第1審において特許権侵害が認定され、控訴した被告が、控訴審において新たな先行文献に基づく無効理由を主張したところ、時機に後れた攻撃防御方法として却下された事例である。

2 本件特許発明(請求項1のみ引用)

「【請求項1】
患者を識別するための第1患者識別情報を端末装置より取得する第1取得部と,前記第1患者識別情報と,患者を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2患者識別情報とが一致するか否かを判定する第1判定部と,前記第1判定部が一致すると判定した場合,前記第2患者識別情報に対応する患者の医療情報を,前記端末装置へ出力する第1出力部と,前記第1判定部で一致すると判定された場合に,看護師または医師を識別するための第1医師等識別情報を前記端末装置から取得する第2取得部と,前記第1医師等識別情報と,看護師または医師を識別する情報としてあらかじめ記憶された第2医師等識別情報とが一致するか否か判定する第2判定部と,前記第2判定部が一致すると判定した場合,前記第2患者識別情報に対応す5 る患者の医療情報のうち前記看護師または前記医師が必要とする医療情報を含む表示画面を,前記端末装置へ出力する第2出力部と,を備える情報処理装置。」

3 裁判所の判断(下線は筆者による)

「(2) 原審は,被告製品は本件特許1及び2に係る上記各発明の技術的範囲に属するものであり,控訴人が主張する特許法104条の3に基づく無効の抗弁はいずれも理由がないから,控訴人による被告製品の生産,譲渡等は被控訴人の本件特許権1及び2を侵害するものであるとして,被控訴人の請求を全て認容する旨の判決をし,これを不服とする控訴人が本件控訴をした。
(3) なお,控訴人は,当審において,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を新たに主張した。
 しかしながら,この新たな無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に当たるかどうかは,原審及び当審における審理の経過を総合的に踏まえて検討すべきものであるところ,一件記録によれば,原審においては,平成31年3月12日に第1回口頭弁論期日が開かれた後,審理が弁論準備手続に付されたこと,充足論及び無効論について当事者双方の主張立証が行われた後,令和元年12月20日の第5回弁論準備手続期日において,当事者双方の主張立証が尽くされたことが確認された上で,裁判所の心証開示が行われたことが認められる。そして,裁判所の心証開示が行われた上記第5回弁論準備手続期日までに,乙第18号証に記載された発明を主引例とする無効の抗弁を主張することが困難であったことをうかがわせるに足りる証拠はない。そうであるとすれば,控訴人としては,上記第5回弁論準備手続期日までに新たな無効の抗弁を主張すること(あるいは,少なくとも,速やかにその主張をする予定である旨を告知すること)が可能であったし,そうすべきものであったといえるから,それをしなかったことは時機に後れたものであり,また,時機に後れたことについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そして,そのような評価は,控訴人が控訴をし,審級が変わったからといって変わるものではないところ,当審において新たな無効の抗弁の成否を審理することになれば,訴訟の完結が遅延することは明らかである。
以上の次第で,当審としては,新たな無効の抗弁を時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下したものである。」

4 検討

 控訴審において追加された新たな主引例に基づく無効理由の主張が時機に後れた攻撃防御方法にあたるとして却下された事例である。
 控訴したからといって第1審の仕切り直しというわけではなく、本件のように新たな公知例に基づく無効理由の主張が許されないことがあることに留意が必要である。

 

                                    以上
(文責)弁護士 篠田淳郎