【令和3年6月17日(東京地裁 平成31年(ワ)11130号)】
【事案の概要】
本件は、原告が、〈1〉被告富山県による被告標章1から8の使用及び被告JAライフ富山による被告標章1、2、4の使用は、原告の有する商標登録第5458965号の商標権(以下「本件商標権」という。)を侵害する等と主張して、商標権による差止請求権(商標法36条1項)に基づき、被告らに対し、その販売する精米につき被告標章1から4を使用すること、飲食料品の小売サービスの提供において被告標章5から8を使用することの差止めを求め、廃棄請求権(同条2項)に基づき、被告JAライフ富山に対し、被告標章1、2、4を付した精米の包装の廃棄を、被告らに対し、被告標章1、2、4から8を付したパンフレット、ちらし等の広告物の廃棄を、被告富山県に対し、本件ウェブサイトからの被告標章1から8の表示の削除、その占有する被告標章4、8の画像データの廃棄を求めるとともに、〈2〉被告らは一体となって被告標章1から8を使用するものであり、これによって原告は損害を被った等と主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、連帯して5850万円及びこれに対する不法行為より後の日である令和元年5月17日(訴状送達の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
【判決文抜粋】(下線は筆者)
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 請求等
(1) 被告らは、その販売する精米につき、別紙被告標章目録記載1から4の各標章(以下、同目録記載の各標章について、番号に応じ「被告標章1」等という。)を使用してはならない。
(2) 被告らは、飲食料品の小売サービスの提供において、被告標章5から8を使用してはならない。
(3) 被告株式会社JAライフ富山(以下「被告JAライフ富山」という。)は、その所有しかつ占有する被告標章1、2、4を付した精米の包装を廃棄せよ。
(4) 被告らは、被告標章1、2、4から8を付したパンフレット、ちらし等の広告物を廃棄せよ。
(5) 被告富山県は、別紙ウェブサイト目録記載のインターネットウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)から被告標章1から8の表示を削除せよ。
(6) 被告富山県は、その占有する被告標章4、8の画像データを廃棄せよ。
(7) 被告らは、原告に対し、連帯して5850万円及び令和元年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 仮執行宣言
2 被告富山県の答弁
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 仮執行免脱宣言
3 被告JAライフ富山の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
(中略)
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(中略)
(5) 権利関係に係る事実経過等
ア 被告富山県は、平成29年3月8日、被告標章2について、商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務を「第30類 茶、菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、みそ、穀物の加工品、食用酒かす、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類」、「第31類 あわ、きび、ごま、そば(穀物)、とうもろこし(穀物)、ひえ、麦、籾米、もろこし、飼料、種子類、木、草、芝、ドライフラワー、苗、苗木、花、牧草、盆栽」、「第33類 泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、洋酒、果実酒、酎ハイ、中国酒、薬味酒」として商標登録出願をし、平成30年1月5日、これに基づき商標権の設定の登録がされた(商標登録第6007642号)。(甲43)
被告富山県は、令和2年10月30日、後記イの品種登録に先立ち、「第30類 米」、「第31類 籾米、種子類、草、苗」に係る上記商標権を放棄した。(乙51)
イ 被告富山県は、平成29年3月31日、本件米について、品種の名称を「富富富」として品種登録出願をし、令和2年11月25日、これに基づき品種登録がされ(第28233号)、同年12月8日、農林水産省令で定める事項が公示された。(乙50)
ウ 被告富山県は、平成29年4月3日、被告標章1、6について、商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務を商標登録第6007642号(前記ア)と同じものとして商標登録出願をした(商願2017-51509、商願2017-51510)。(甲64、65)
また、原告も、平成29年4月3日、本件商標と同様の商標について、商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務を「第29類 乳製品、加工野菜及び加工果実、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、加工卵、最中を使用した即席みそ汁、最中を使用した即席すまし汁、最中を使用した即席スープ、即席味噌汁・即席味噌汁のもと、即席すまし汁・即席すまし汁のもと、即席豚汁・即席豚汁のもと、即席スープ・即席スープのもと、カレー・シチュー又はスープのもと、即席カレー、即席シチュー、お茶漬けのり、ふりかけ、なめ物」、「第30類 スパゲッティのめん・マカロニ・その他の穀物の加工品、米、精米、玄米、もち米、玄米を使用してなる穀物の加工品、米粉、米又は米粉を使用した穀物の加工品、米粉を用いたマカロニ、米粉を用いたスパゲッティのめん、米又は米粉を使用してなるパン、米又は米粉を使用してなる菓子、米粉を使用した麺類、ゆであずき、最中の皮、最中アイス、最中の皮を使用してなる菓子」として商標登録出願をした(商願2017-52163)。(甲46)
上記各商標登録出願について、被告富山県と原告の協議により商標登録を受けることができる者を原告と定めた(商標法8条2項)ことから、平成30年6月22日、原告の上記商標登録出願に基づき、商標権の設定の登録がされた(商標登録第6053897号)。(甲46、64、65)
エ 被告富山県は、平成30年2月20日、被告標章4について、商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務を「第30類 茶、菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、みそ、穀物の加工品、すし、弁当、食用酒かす、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、食用粉類」、「第31類 あわ、きび、ごま、そば(穀物)、とうもろこし(穀物)、ひえ、麦、籾米、もろこし、飼料、種子類、木、草、芝、ドライフラワー、苗、苗木、花、牧草、盆栽」、「第33類 泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、中国酒、薬味酒」、「第35類 市場調査又は分析、商品の販売に関する情報の提供、酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、米穀類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、「第40類 食料品の加工」、「第43類 飲食物の提供」として商標登録出願をし、平成31年3月15日、これに基づき商標権の設定の登録がされた(商標登録第6130868号)。(甲44)
オ 原告は、平成31年4月23日、本件商標に類似する商標であって、本件商標登録に係る指定役務又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするものであるとして、商標登録第6007642号に係る商標登録(前記ア)の無効の審判を請求した(無効2019-890028)が、令和元年12月25日、上記審判の請求は成り立たない旨の審決がされた。(甲53、乙42)
カ 被告JAライフ富山は、令和元年7月9日、継続して3年以上使用をしていないとして、本件商標登録の取消しの審判の請求をし(取消2019-300528)、高橋隆二(被告JAライフ富山訴訟代理人弁護士)は、同年8月2日、同様に、「第35類 米穀類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」、「第35類 豆、米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦、あわ、きび、ごま、そば(穀物)、とうもろこし(穀物)、ひえ、麦、籾米、もろこし、食用粉類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に係る本件商標登録の取消しの審判の請求をした(取消2019-300603)。(丙3、4)
上記の各審判事件は、特許庁に係属している。(丙20、21)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(中略)
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(中略)
2 被告富山県による標章の使用について
(1) 後記4の本件商標と被告標章1から8の類否の判断に先立ち、被告富山県は被告標章1を被告標章2等から独立して単独で使用していない旨主張するので検討する。
(2)ア 被告富山県は、被告標章1と同一の「ふふふ」を「富富富」の読み仮名として「富富富」と共に使用することがあるが、本件米の名称として「ふふふ」のみを使用したことはない(前記1(2))。
具体的には、被告富山県は、本件ウェブサイトを「富富富(ふふふ)」と称したり、本件パンフレット1に本件イベント1の名称として「「富富富 ふふふ」グルメフェスタ」という名称を記載し、「富富富」の上に「ふふふ」と読み仮名を付して表示したりした(前記1(5))。
イ ここで、「富富富(ふふふ)」という表示や、「ふふふ」と読み仮名を付した「富富富」という表示は、「富」の漢字が「ふ」と読めることや「富富富」と「ふふふ」の配置から、「ふふふ」の部分は「富富富」の部分の読み仮名を記したものと自然に理解できる。これを見る者は「富富富」と「ふふふ」を一体のものとして認識するといえ、これらの文字列は分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているといえる。
したがって、上記の「富富富(ふふふ)」等において、「富富富(ふふふ)」等の文字列の一部である被告標章1(ふふふ)が単独で標章として使用されているとは認められず、「ふふふ」は、「富富富」と一体として使用されていると認められる(これらについての本件商標との類否は後記4(7)において検討する。)。
なお、被告標章4には、中央の「富富富」の文字列と左右の稲穂の図柄の下に「ふふふ」の文字があり、本件米袋2の被告標章4にも「ふふふ」の文字が使用されているが、その「ふふふ」は、その配置や文字の字体、色等からも「富富富」の文字列及び左右の稲穂の図柄と一体の標章と認められる。
(3) 被告富山県は、本件米の名称を被告標章2と同一の「富富富」に決定したほか、被告標章3、4、8を用いたり、被告標章5から7の文字列を用いたりした。(前記第2の1(3)ア~オ)
3 被告JAライフ富山による標章の使用について
(中略)
ウ そして、本件米袋2の表面の上下左右の縁に記載された「富富富(ふふふ)2kg」という文字列のうち、「富富富(ふふふ)」の部分は、「富」の漢字が「ふ」と読めることから、「富富富」の部分とその読み仮名を括弧内に付記した「(ふふふ)」の部分が結合したものであると自然に理解できるものであり、これを見た者はこれらを一体のものとして認識するといえ、これらの文字列は分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているといえる。
したがって、被告JAライフ富山は「富富富(ふふふ)2kg」の文字列を使用したといえるが、その一部である被告標章1(ふふふ)が、単独で標章として使用されているとは認められず、「ふふふ」は、「富富富」と一体として使用されているといえる(これについての本件商標との類否については、後記4(7)において検討する。)。
(3) 被告JAライフ富山が運営する店舗の本件米の陳列場所に貼付された商品札の「ふふふ」と読み仮名を付した「富富富」の表示(前記1(4))は、「富」の漢字が「ふ」と読めることや各部分の配置から、「ふふふ」の部分は「富富富」の部分の読み仮名を記したものと自然に理解できるものであり、これを見た者はこれらを一体のものとして認識するといえ、これらの文字列は分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているといえる。
したがって、上記の「ふふふ」と読み仮名を付した「富富富」の表示のうち、その一部である被告標章1(ふふふ)が、単独で標章として使用されているとは認められず、「ふふふ」は、「富富富」と一体として使用されているといえる。これについての本件商標との類否については、後記4(7)において検討する。
また、被告JAライフ富山は、本件米の精米の販売に当たり、被告標章2の文字列と同一の「富富富」という表示(ちらしにおける「富・富・富」の表示も実質的には「富富富」の表示であると認められる。)を使用した。
なお、被告標章4には、中央の「富富富」の文字列と左右の稲穂の図柄の下に「ふふふ」の文字があり、本件米袋2の被告標章4にも「ふふふ」の文字が使用されているが、その「ふふふ」は、その配置や文字の字体、色等からも「富富富」の文字列及び左右の稲穂の図柄と一体の標章と認められる。
(4) 以上から、被告JAライフ富山は、被告標章4及び被告標章2の文字列を付して本件米袋2を製造し、これに本件米の精米を詰めて商品として販売するなどして、被告標章2、4を商品に使用したと認められる。他方、被告JAライフにおいて、被告標章1は単独で使用されておらず、「富富富」と一体として使用されていると認められる。被告JAライフ富山が、従前、被告標章5、6を使用したことはうかがわれず、今後使用する具体的なおそれを認めるに足りる証拠もない。
4 争点〈3〉(被告標章1から8が本件商標と同一又は類似のものであるか。)について
上記のとおり、被告標章1は被告富山県においても被告JAライフ富山においても単独で使用されていないこと、被告富山県は、被告標章5について写真をアップロードする際に投稿を集約して表示させるために用いるものであると主張し、被告標章6について被告標章2の称呼の一つをローマ字表記したにすぎないと主張していることを考慮し、まず、被告標章2から4、7、8について、本件商標と類似するかについて検討する(後記(2)~(6))。次に、「富富富(ふふふ)」等という態様で使用された被告標章1について、本件商標と同一又は類似といえるかについて検討し(後記(7))、その後、被告標章5及び6について本件商標と同一又は類似であるかについて検討する(後記(8)、(9))。
(1) 本件商標について
本件商標は、「ふふふ」の平仮名文字によって成り、「フフフ」の称呼を生じ、口を開かずに軽く笑う声、口を閉じぎみにして低く笑うときの笑い声の様子、いたずらっぽく、少々ふざけて、含み笑いをするときの様子等といった観念を生じ得る。(甲28~32、乙1、丙1)
(2) 被告標章2について
ア 被告標章2は、「富富富」の漢字によって成り、「フフフ」、「トミトミトミ」の称呼を生じる。そして、「富」の漢字に、「とむ。物がゆたかにある。とみ。財産。」という意味があること(弁論の全趣旨)から、被告標章2は、これらの意味や「3つの富」という漠然とした意味合いを想起させることがあるとしても、何らかの具体的な観念を生じるとまではいえない。
イ 被告標章2と本件商標を比較すると、これらは外観において明らかに異なる。他方、被告標章2と本件商標は、「フフフ」の称呼を共通にする場合がある。もっとも、被告標章2は特定の観念を生じないのに対し、本件商標は軽く笑う声等の観念を生じ、これらは観念において異なる。
そうすると、被告標章2と本件商標は、称呼において類似する場合があるとしても、外観、観念において相違しており、その出所について誤認混同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず、同一又は類似の商品等に使用された場合に、商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められない。
したがって、被告標章2は本件商標と同一又は類似のものではない。
なお、「富富富」は、被告富山県によって育成された本件米の品種名であり(前記1(1)、(6))、被告富山県は、特に、平成30年秋頃以降、本件米について積極的に広告、宣伝しており(同(5))、「富富富」が米の品種名であることは相当程度知られていたと認められる。被告標章2は、この品種名を普通に用いられる方法で表示したものである。
(3) 被告標章3について
ア 被告標章3は、字体のやや異なる薄緑色の「富」を3つ斜め縦書きに並べ、各「富」の右に比較的小さな同色の「ふ」をそれぞれ付して成る。そして、被告標章3のこれらの構成のうち、特徴のある字体や大きさ、配置等から「富富富」の部分が圧倒的にこれを見た者の注意をひくのに対して、「富」の漢字が「ふ」と読めることや配置から、「ふふふ」の部分は「富富富」の部分の読み仮名を付記したものであることが自然に理解できるものである。したがって、被告標章3のうち中心的な識別機能を有する部分は「富富富」の部分であり、また、「ふふふ」の部分の識別機能は弱いというべきである。
そして、「富富富」の部分は「フフフ」、「トミトミトミ」の称呼を生じ得るものの、「フフフ」の称呼を生じる「ふふふ」の部分と結合していることによって、被告標章3は、全体として「フフフ」の称呼を生じるというべきである。
また、「富富富」の部分は、何らかの具体的な観念が生じるとまではいえず(前記(2)ア)、「ふふふ」の部分は軽く笑う声等の観念を生じ得る(前記(1))が、これと結合することによっても、中心的な識別機能を有する「富富富」の部分ひいては被告標章3全体に、何らかの具体的な観念が付加されるとはいえない。
イ 被告標章3と本件商標を比較すると、これらは外観において明らかに異なる。被告標章3の一部の「ふふふ」の部分は、「富富富」の部分の読み仮名を付記したものであることが自然に理解できるものであり、識別機能は弱い。他方、被告標章3と本件商標は、「フフフ」の称呼を共通にする。もっとも、被告標章3は特定の観念を生じないのに対し、本件商標は軽く笑う声等の観念を生じ、これらは観念において異なる。
そうすると、被告標章3と本件商標は、称呼において類似する場合があるとしても、外観、観念において相違しており、その出所について誤認混同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず、同一又は類似の商品等に使用された場合に、商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認めるに足りない。
したがって、被告標章3は本件商標と同一又は類似のものではない。
(4) 被告標章4について
ア 被告標章4は、中央に字体の異なる赤色の「富」を3つ縦書きに並べ、その左右を金色の稲穂の図柄によって囲い、その下に比較的小さな赤色の文字で「ふふふ」を横書きに配置して成る。そして、被告標章4のこれらの構成のうち、特徴のある字体や大きさ、配置等から、「富富富」の部分がこれを見た者の注意を引くものであるのに対し、「富」の漢字が「ふ」と読めることから、「ふふふ」の部分は「富富富」の部分の読み仮名を付記したものであると自然に理解できるものである。したがって、被告標章3のうち中心的な識別機能を有する部分は「富富富」の部分であり、「ふふふ」の部分の識別機能は弱いというべきである。
そして、「富富富」の部分は「フフフ」、「トミトミトミ」の称呼を生じ得るものの、「フフフ」の称呼を生じる「ふふふ」の部分と結合していることによって、被告標章4は、全体として「フフフ」の称呼を生じるというべきである。
また、「富富富」の部分は、何らかの具体的な観念が生じるとまではいえず(前記(2)ア)、稲穂の図柄の部分は稲や米の観念が生じ、「ふふふ」の部分は軽く笑う声等の観念を生じ得る(前記(1))が、これらと結合することによっても、「富富富」や被告標章4全体に、何らかの具体的な観念が付加されるとはいえない。
イ 被告標章4と本件商標を比較すると、これらは外観において明らかに異なる。被告標章4の一部の「ふふふ」の部分は、「富富富」の部分の読み仮名を付記したものであることが自然に理解できるものであり、識別機能は弱い。他方、被告標章4と本件商標は、「フフフ」の称呼を共通にする。もっとも、被告標章4は特定の観念を生じないのに対し、本件商標は軽く笑う声等の観念を生じ、これらは観念において異なる。
そうすると、被告標章4と本件商標は、称呼において類似する場合があるとしても、外観、観念において相違しており、その出所について誤認混同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず、同一又は類似の商品等に使用された場合に、商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認めるに足りない。
したがって、被告標章4は本件商標と同一又は類似のものではない。
(中略)
(7) 「富富富(ふふふ)」や、「ふふふ」という読み仮名が付された「富富富」について
ア 被告富山県及び被告JAライフ富山は、被告標章1を単独で標章として使用しているとはいえない一方、「富富富(ふふふ)」という標章、又は、「ふふふ」という読み仮名を付した「富富富」という標章において、「ふふふ」を使用している(前記2、3(1)イ(ウ)~(オ)、ウ)。
これらについて、「富富富」の部分は「フフフ」、「トミトミトミ」の称呼を生じ得るものの、「フフフ」の称呼を生じる「(ふふふ)」、「ふふふ」の部分と結合していることによって、「富富富」は、全体として「フフフ」の称呼を生じるというべきである。そして、「ふふふ」の部分は、「富富富」の部分の読み仮名を付記したものであると自然に理解できるものであり、識別機能は弱い。
また、「富富富」の部分は、何らかの具体的な観念が生じるとまではいえず(前記(2)ア)、「(ふふふ)」、「ふふふ」の部分は、「富富富」の読み仮名であることが明らかであるから、「富富富」に、何らかの具体的な観念が付加されるとはいえない。
イ 「富富富(ふふふ)」という標章や、「ふふふ」と読み仮名を付した「富富富」の標章と本件商標を比較すると、これらは外観において明らかに異なる。これらの標章のうち「ふふふ」の部分の識別機能は弱い。他方、上記各標章と本件商標は、「フフフ」という称呼を共通にする。もっとも、上記各標章は特定の観念を生じないのに対し、本件商標は軽く笑う声等の観念を生じ、これらは観念において異なる。
そうすると、上記各標章と本件商標は、称呼において類似する場合があるとしても、外観、観念において相違しており、その出所について誤認混同を生じさせるような取引の実情があるとは認められず、同一又は類似の商品等に使用された場合に、商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認めるに足りない。
したがって、上記各標章は本件商標と同一又は類似のものではない。
(8) 被告標章5について
(中略)
(10) 小括
以上のとおり、被告標章2から4、7、8は本件商標と類似のものではなく(前記(2)~(6))、「富富富(ふふふ)」や「ふふふ」という読み仮名が付された「富富富」についても本件商標と同一又は類似のものではない(前記(7))。また、被告富山県による被告標章5、6の使用は、本件商標と類似する標章の使用ということはできない(前記(8)、(9))。
第4 結論
以上のとおり、被告らが被告標章1を単独で使用しているとは認められず(前記第3の2(2)、同3(1))、被告標章2から4、7、8、「富富富(ふふふ)」や「ふふふ」という読み仮名が付された「富富富」は本件商標と同一又は類似のものではない(同4(2)~(7))。また、被告富山県による被告標章5、6の使用は本件商標と類似の標章の使用ということはできず(同(8)、(9))、被告JAライフ富山が被告標章5、6を使用するおそれがあるとは認められない(同3(2))。
そうすると、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
【解説】
本件は,被告による「富富富」,「富富富(ふふふ)」等の標章の使用が,原告の「ふふふ」という登録商標(本件商標)の侵害に該当するか否かについて争われた事件である。
本欄では,被告の登録商標「富富富」の無効審決取消訴訟(知財高裁令和2年9月23日判決)についてご紹介した。無効審決取消訴訟では,被告の登録商標「富富富」が原告の登録商標「ふふふ」に類似しないとの判断がされ,無効審決の不成立審決が維持された。
本判決でも,無効審決取消訴訟と同様に,「富富富」ないし「富富富(ふふふ)」と「ふふふ」の類似性が争点となった。
「富富富」(被告標章2)と「ふふふ」の類似性については,外観については明らかに異なり,「フフフ」の称呼を共通にする場合はあるが,被告標章2は特定の観念を生じないのに対し,本件商標は軽く笑う声等の観念を生じ,観念において異なるとされた。そして,被告標章2と本件商標は,称呼に置いて類似する場合があるとしても,外観,観念によって相違しており,出所について誤認混同を生じさせるような取引の実情はないとして,被告標章2は本件商標と同一又は類似ではないと判断された。この判断も,無効審決取消訴訟と同様の判断であり,正当と考えられる。
また,「富富富(ふふふ)」や、「ふふふ」という読み仮名が付された「富富富」と本件商標との類似性については,「富富富」は,全体として「フフフ」の称呼を生じるというべきであるが,「ふふふ」の部分は「富富富」の読み仮名を付記したものであると理解できるものであり,識別機能は弱いとされた。また,「富富富」の部分には何らかの具体的な観念が生じるとまではいえず,「ふふふ」の部分は読み仮名であることが明らかであるから,「富富富」に何らかの具体的な観念が付加されるとはいえず,本件商標は軽く笑う声等の観念を生じることから,両者の観念は異なるとされた。そうすると,上記各標章と本件商標は,称呼において類似する場合があるとしても,外観,観念において相違しているため,出所において誤認混同を生じさせるような取引の実情は認められず,上記各標章と本件商標は同一又は類似ではないと判断された。これらの比較は,無効審決取消訴訟では行われなかったものであるが,正当と考えらえる。
他の被告標章を含め,本件商標と被告各標章の同一又は類似の判断は,一般的な外観,称呼,観念を中心とした総合的な判断により行われたものであり,それ自体正当であると考えられる。原告については,判決文記載の内容以外の情報は無いが,被告と同日に同様の商標を出願していることや,被告JAライフ富山が,本件商標の不使用取消審判を請求している等の事情も,判決に何らかの影響を与えた可能性も考えられる。
本件については,判断は同一ながら,無効審決取消訴訟と同一の商標を対象として商標権侵害訴訟の判断がなされたという点で,取り上げさせていただいた。
以上
弁護士 石橋茂