【令和4年9月12日(東京地裁 令和3年(ワ)第6974号)】

【判旨】

 本件商標に係る損害賠償請求等が、商標的使用ではないとして、請求が認められなかった事例。

【キーワード】

商標、メタタグ、商標法26条1項6号、商標的使用

【事案の概要】

 以下、証拠番号等を適宜削除するとともに、権利濫用についての判断に係る部分について、抜粋する。なお、下線は、筆者が付した。
本件は、別紙商標権目録記載[1]の各商標権(以下、本件において直接問題となるのは同目録記載2の商標権であるので、これを「本件商標権」という。)の商標権者である原告が、被告による被告標章の使用が本件商標権の侵害に当たると主張し、被告に対し、商標法36条2項に基づき、本件ウェブページに係るhtml ファイル内のタイトルタグ及びディスクリプションメタタグ(以下「記述メタタグ」という。)における被告標章の削除を求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金540万円及びこれに対する不法行為の日の後である令和3年8月3日(本訴状送達日の翌日)から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(筆者注:上記が、別紙商標権目録2記載の商標である。)

1 前提事実
(1) 当事者
原告は、葬儀会館の経営、葬儀及び葬儀に付帯する業務等を目的とする株式会社である(甲1)。原告は、大阪市<以下略>において、「セレモニートーリン」との名称の葬儀場(以下「本件葬儀場」という。)を運営している。
被告は、インターネットを活用した情報提供サービス業等を目的とする株式会社である。なお、被告自身は、葬儀会館の運営等の葬儀業自体は行っていない。
(2) 本件商標権
原告は、本件商標権の商標権者である。本件商標権に係る商標(以下、「本件商標」といい、本件商標に係る標章を「本件標章」という。)の指定役務は、別紙商標権目録記載2のとおりである。
(3) 被告の行為等
ア 被告は、「安心葬儀」という名称のウェブサイト(以下「本件サービスサイト」という。)を運営しており、本件サービスサイトにおいて、葬儀希望者が選択した地域に応じて、その条件に見合った葬儀社ないし葬儀場(以下「葬儀社等」という。)を一覧表示して情報提供することにより、葬儀希望者と葬儀社等とのマッチング支援を行うサービス(以下「被告役務」という。)を提供している。本件ウェブページは、本件サービスサイトに含まれる、原告が運営する本件葬儀場に関するものである。
イ 被告は、本件ウェブページを表示するためのhtml ファイルのタイトルタグ及び記述メタタグに、別紙タイトルタグ等目録記載1及び2[2]のとおり記載することで、検索サイト(Yahoo!)において「セレモニートーリン」とキーワード検索した際の検索結果等に本件ウェブページに関する検索結果として見出し及び説明文として次のとおり本件標章と同一である被告標章を含む内容を表示させ、さらに本件ウェブページの見出しとして次の(ア)のとおり表示させ、もって本件標章を使用した。
(ア) 見出し
「セレモニートーリン(大阪府)の斎場詳細/安心葬儀」
10 (イ) 説明文
「セレモニートーリン(大阪府大阪市<以下略>)の口コミ、写真、施設情報、
アクセス・地図など詳しい情報をご紹介します。【安心葬儀】はお客様のご予算や
ご要望に合わせて、…」

【争点】

被告の本件標章の使用が、商標法26条1項6号に該当するか。

【判旨抜粋】

1 事案にかんがみ、争点3(被告標章の使用が商標法26条1項6号に該当するか)を検討する。
(1) 本件サービスサイトの性質及び本件ウェブページの位置づけについて
後掲各証拠及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると、次の各事実を認めることができる。
ア 被告は、平成30年、葬儀に関する困りごとの解決へ向け、葬儀サービスを探している人々と葬儀社をマッチングする事業として葬儀社紹介サービスを提供する本件サービスサイトの運営を開始した。
本件サービスサイトは、被告との提携の有無にかかわらず、全国の葬儀社の情報を掲載することとしており、被告と提携していない葬儀社のページには、葬儀社の電話番号やウェブサイトのリンクを記載し、被告の提供するサービスを介さず直接連絡できる設計としており、本サービスサイトのユーザー(葬儀希望者)が、提携していない葬儀社を指定して被告に問合せをした場合は、当該葬儀社の電話番号を案内する方針としている。なお、提携先の葬儀社については、見積り取得の手配や代行を行っている。
イ 本件サービスサイトにおいて、ユーザーが一定の地域を選択すると、被告が把握するその地域に所在の葬儀社や斎場が一覧表示され(その他、費用・形式別のプランの紹介、葬儀の依頼や相談、一括見積を行うサイトへの遷移ボタン、当該地域の葬儀に関するQ&Aや事例なども表示される)、その一覧の中から、個別の葬儀社等を選択すると、当該個別の葬儀社等に関する被告が把握した情報を提供するページが表示され、本件葬儀場(セレモニートーリン)を選択した場合、本件ウェブページが表示される。
ウ 本件ウェブページは、その固定ヘッダーに「安心葬儀 葬儀のご依頼/ご相談 一括見積なら|安心葬儀」「安心葬儀/葬儀相談コールセンター(無料)通話無料<省略>」といった記載があるほか、ページの上部に「安心葬儀TOP」「葬儀の種類」「宗教・宗派別葬儀」「葬儀の知識」という記載(リンク)や「安心葬儀TOP>大阪府の葬儀社/斎場一覧>大阪市<以下略>>セレモニートーリン」という各ウェブページの階層を示す記載があり、また、「セレモニートーリン」と太字で書かれた下部には、本件葬儀場の外観を撮影した写真が掲載され、「セレモニートーリンとは」「セレモニートーリンの特徴」「セレモニートーリンの住所・地図・アクセス」「セレモニートーリンの情報」「セレモニートーリンの口コミ・レビュー」「セレモニートーリンの葬儀式場・休憩室情報」の各欄にはそれぞれ見出しに対応した情報が記載されているほか、「当サイトは「セレモニートーリン」と提携しておりません。掲載している情報は、葬儀社様の公式サイトの情報など、一般に公開されている情報をもとに、当サイトの方で収集、編集を加えまとめたものになります(中略)。斎場に関する詳細・最新の情報につきましては公式のWeb サイトや電話で直接ご確認ください。」との記載がある。
これより下部には、「セレモニートーリンの近くにある他の斎場」「大阪府で経験・実績の多い葬儀社」「大阪府の家族葬の葬儀事例」の欄には、それぞれ複数の葬儀社や葬儀事例が記載されており、さらに、「葬儀社/斎場を地域を指定して検索する」「葬儀社/斎場を大阪府の市町村から選ぶ」の欄においては、それぞれ選択した対象エリアや地域に所在する葬儀社等を検索することが可能である。
エ 検索サイトYahoo!において、「セレモニートーリン」とキーワード検索すると、検索結果を表示するウェブページにおいて、広告であることが明記された他の葬儀社等のリンクが表示された後、広告表示のないものとしては一番目に原告のウェブサイトへのリンクが「公式/セレモニートーリン・大阪市<以下略>、東大阪のお葬式」等の見出しのもとに何件か表示される。それに引き続き、被告の本件ウェブページについての案内(その詳細は、「https<以下略>>大阪府の葬儀社/斎場一覧>大阪市<以下略>」とドメイン部分等が小さく表示され、その下に見出し(リンク)部分として、「セレモニートーリン(大阪府)の斎場詳細|安心葬儀」が表示され、「評価:4.3 1件のレビュー」との情報及び本件ウェブページの説明文として、「セレモニートーリン(大阪府大阪市<以下略>)の口コミ、写真、施設情報、アクセス・地図など詳しい情報をご紹介します。【安心葬儀】はお客様のご予算やご要望に合わせて、…」が表示され、「セレモニートーリンの特徴・セレモニートーリンの住所・地図…」との表示もされる。)が表示される。なお、その下には、詳細は不明であるが、被告以外の他のサービスサイトと思われるサイトへのリンクも表示される。
(2) 前記認定によると、本件サービスサイトは、その構成において、需要者である葬儀希望者に対し、その条件に見合った葬儀社等の情報提供を行い、また希望者には葬儀の依頼や相談、一括見積を行うことなどを通して、葬儀希望者と葬儀社等とのマッチング支援を行うサービス(被告役務)を提供するものであることが容易に看取できる。
そして、本件ウェブページは、これを単独でみても、そのドメインや本件ウェブページのタイトル部分や末尾の「安心葬儀」等の表示、競合し得る近隣の斎場等の情報も表示されることに加え、本件葬儀場の情報については、ホールの外観、特徴や所在地、アクセス方法、設備情報等の客観的な情報が記載されているにとどまり、これを超えて本件葬儀場の利用を誘引するような記載はみられないこと等の事情からすると、本件ウェブページに接した需要者は、「セレモニートーリン」を、葬儀場を紹介するという本件サービスサイトにおいて紹介される一葬儀社(場)として認識するものであり、原告が本件葬儀場において提供する商品ないし役務に関し、被告がその主体であると認識することはないものというべきである(本件ウェブページを含め、本件サービスサイトの運営者が原告であると認識することがないことも同様である。)
さらに、原告が問題とする本件ウェブページのhtml ファイル中のタイトルタグ及び記述メタタグに記載された内容は、検索サイトYahoo!において「セレモニートーリン」をキーワードとして検索した際の検索結果において基本的に各タグに記載されたとおり表示されると認めることができるが、その内容は、いずれも本件サービスサイトの名称が明記された見出し及び説明文と相まって、原告の運営するウェブサイトとは異なることが容易に分かるものと評価できる上、一般に、検索サイトの利用者、とりわけ現に葬儀の依頼を検討するような需要者は、検索結果だけを参照するのではなく、検索結果の見出しに貼られたリンクを辿って目的の情報に到達するのが通常であると考えられるところ、需要者がそのように本件ウェブページに遷移した場合には、前記のとおり、被告が運営する本件サービスサイトの一部として本件ウェブページを理解するのであって、やはり、被告標章を本件ウェブページの各タグ内で使用することによって、原告と被告の提供する商品または役務に関し出所の混同が生じることはないというべきである。
したがって、被告による被告標章の使用は、商標法26条1項6号の規定により、本件商標権の効力が及ばないというべきである。

【解説】

 本件は、商標権に基づく損害賠償請求等であり、裁判所は、商標的使用に該当しないとして請求を棄却した。
 裁判所は、まず、被告の運営する本件サービスサイトについて詳細に認定した上で、原告のことを記載した本件ウェブページについて、「本件ウェブページに接した需要者は、『セレモニートーリン』を、葬儀場を紹介するという本件サービスサイトにおいて紹介される一葬儀社(場)として認識するものであり、原告が本件葬儀場において提供する商品ないし役務に関し、被告がその主体であると認識することはないものというべきである(本件ウェブページを含め、本件サービスサイトの運営者が原告であると認識することがないことも同様である。)」と判断した。
 その上で、原告が問題としている本件ウェブページのメタタグに記載された内容は、「いずれも本件サービスサイトの名称が明記された見出し及び説明文と相まって、原告の運営するウェブサイトとは異なることが容易に分かるものと評価できる上、一般に、検索サイトの利用者、とりわけ現に葬儀の依頼を検討するような需要者は、検索結果だけを参照するのではなく、検索結果の見出しに貼られたリンクを辿って目的の情報に到達するのが通常であると考えられるところ、需要者がそのように本件ウェブページに遷移した場合には、前記のとおり、被告が運営する本件サービスサイトの一部として本件ウェブページを理解する」と判断した。
 本件において、被告が提供するサービスは、葬儀サービスを探しているユーザーと葬儀社とをマッチングさせるものであり、一定程度、葬儀社の運営する葬儀場等の名称を示さざるを得ず、示し方についても、被告が運営していると混同される態様ではないことから、裁判所の認定は、妥当であろう。
 本件は、事例判断ではあるが、実務的に商標的使用について参考になると思われる。


[1] 1 登録商標(標準文字) トーリン
登録番号 商標登録第6362311号
出願日 令和2年3月10日
登録日 令和3年3月11日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第45類 葬儀の執行、葬儀のための施設の提供、法事又は法要のための施設の提供、祭壇の貸与、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、墓地又は納骨堂の提供
2 登録商標(標準文字) セレモニートーリン
登録番号 商標登録第6362312号
出願日 令和2年3月10日
登録日 令和3年3月11日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第45類 葬儀の執行、葬儀のための施設の提供、法事又は法要のための施設の提供、祭壇の貸与、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、墓地又は納骨堂の提供
3 登録商標(標準文字) ひらのとーりん
登録番号 商標登録第6363290号
出願日 令和2年3月10日
登録日 令和3年3月15日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第45類 葬儀の執行、葬儀のための施設の提供、法事又は法要のための施設の提供、祭壇の貸与、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、墓地又は納骨堂の提供

[2] 1 タイトルタグ
<title>セレモニートーリン(大阪府)の斎場詳細 | 安心葬儀</title>
2 記述メタタグ
<meta name=”description” content=”セレモニートーリン(大阪府大阪市<以下略>)の口コミ、写真、施設情報、アクセス・地図など詳しい情報をご紹介します。【安心葬儀】はお客様のご予算やご要望に合わせて、最適な葬儀社・斎場探しを無料でサポートいたします。¥安心葬儀は最安9.8万円から葬儀社をご提案可能 / 家族葬、一日葬、直葬や火葬式などの葬儀も対応可能です。”>

以上
弁護士 宅間仁志