【令和3年1月15日(東京地裁 平成30年(ワ)36690号)】
【判旨】
発明の名称を「携帯情報通信装置及び携帯情報通信装置を使用したパーソナルコンピュータシステム」とする特許第4555901号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告による被告各製品の製造,販売が本件特許権の実施に当たると主張して,主位的請求として不法行為による損害賠償請求権に基づく損害金1億円及び遅延損害金,予備的請求として本件発明の実施料相当額の支払を免れたことによる不当利得返還請求権に基づく利得金の一部として1億円及び遅延損害金の支払いを求めた事案。裁判所は,主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権については,時効によって消滅しているから理由がないとしつつ請求を棄却し,予備的請求に係る不当利得返還請求については,利得金980万1770円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があるとして請求を認容した。
【キーワード】
特許,損害賠償,時効,不当利得返還請求
1 事案の概要及び争点
(1)事案の概要
原告は,画像表示処理に関する発明である本件特許を保有している。本件特許の特許請求の範囲は以下のとおりである。
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A |
ユーザーがマニュアル操作によってデータを入力し,該入力データを後記中央演算回路へ送信する入力手段と; |
B |
無線信号を受信してデジタル信号に変換の上,後記中央演算回路に送信するとともに,後記中央演算回路から受信したデジタル信号を無線信号に変換して送信する無線通信手段と; |
C |
後記中央演算回路を動作させるプログラムと後記中央演算回路で処理可能なデータファイルとを格納する記憶手段と; |
D |
前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログラムとに基づき,前記無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な処理を行い,リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか,又は,自らが処理可能なデータファイルとして前記記憶手段に一旦格納し,その後読み出した上で処理する中央演算回路と,該中央演算回路の処理結果に基づき,単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は後記インターフェース手段に送信するグラフィックコントローラと,から構成されるデータ処理手段と; |
E |
画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するディスプレイパネルと,前記グラフィックコントローラから受信したデジタル表示信号に基づき前記ディスプレイパネルの各々の画素を駆動するディスプレイ制御手段とから構成されるディスプレイ手段と; |
F |
外部ディスプレイ手段を備えるか,又は,外部ディスプレイ手段を接続するかする周辺装置を接続し,該周辺装置に対して,前記グラフィックコントローラから受信したデジタル表示信号に基づき,外部表示信号を送信するインターフェース手段と; |
G |
を備える携帯情報通信装置において, |
H |
前記グラフィックコントローラは,前記携帯情報通信装置が「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画像を表示する場合に,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と,前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と,を実現し, |
I |
前記インターフェース手段は,前記グラフィックコントローラから受信した「ビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を,デジタルRGB,TMDS,LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれかの伝送方式で伝送されるデジタル外部表示信号に変換して,該デジタル外部表示信号を前記周辺装置に送信する機能を有する, |
J |
ことにより, 前記外部ディスプレイ手段に,「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像」を表示できるようにした, |
K |
ことを特徴とする携帯情報通信装置。 |
原告は,平成30年11月25日に本件訴訟を提起したところ,被告は,平成31年4月19日の第1回弁論準備手続期日において,原告の主位的請求に係る本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき,消滅時効を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。なお,被告は,原告の予備的請求に係る不当利得返還請求権については消滅時効の主張をしていない。
(2)争点
本件の争点は,下記のとおりである。本稿では主に損害論に係る争点について説明する。
① 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件D及びHの充足性)(争点1)
② 無効の抗弁(特許法104条の3第1項)の成否(争点2)
ア 特開2004-214766号公報(甲11。以下「甲11公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-1)
イ 特開2000-66649号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-2)
ウ サポート要件違反(争点2-3)
エ 本件訂正についての訂正要件違反(争点2-4)
③ 特許権侵害の不法行為による損害の発生の有無及びその額(争点3)
④ 本件発明の実施についての不当利得返還義務の有無及び返還すべき利得の額(争点4)
⑤ 不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の抗弁の成否(争点5)
2 裁判所の判断
(1)消滅時効の成否(争点5)
まず,裁判所は,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するものであり,本件発明に無効理由は存在しないとして,被告による被告各製品の製造販売は本件特許権を侵害するものであると認定した。その上で,原告が遅くとも平成25年8月2日までには損害及び加害者を知っていたとして,同日から時効期間が進行し,本訴提起前である平成28年8月2日の経過をもって消滅時効が完成したと認定した。原告は,消滅時効の起算点を訂正請求の登録日とすべきなど主張したが,当該主張は採用されなかった。
※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)
(1) 消滅時効の成否 前記前提事実(2),(6)ないし(8)のとおり,本件特許の登録は平成22年7月30日にされており,被告各製品の製造,販売は同年12月から平成23年9月の期間に行われたものであったところ,原告は,平成24年1月9日頃,被告による被告各製品の製造,販売が別件特許権の侵害に当たる等として,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を求める別件訴訟を提起し,平成25年8月2日に別件判決が言い渡された。 そして,証拠(甲4,5,乙1,5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,別件訴訟の審理を通じて,遅くとも別件判決の言渡日である平成25年8月2日までには,被告各製品の具体的な構成について本件の訴状で記載した程度には認識していたものと認められる。 したがって,本件の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権については,原告が遅くとも同日までにその損害及び加害者を知ったものと認められるから,改正前民法724条前段の3年の時効期間は同日から進行し,平成28年8月2日の経過をもって,本件訴訟提起前に消滅時効が完成したものと認められる。 (2) 原告の主張について ア 原告は,本件特許に係る訂正登録日が平成30年8月13日であるから,本件発明の技術的範囲はそれ以前には確定しておらず,したがって,原告が被告各製品が本件発明の技術的範囲に属することを認識できるのは,本件特許の訂正登録日以降になると主張する。 しかしながら,証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,本件訂正は,いずれも,特許請求の範囲の減縮(特許法126条1項ただし書1号)又は「明瞭でない記載の釈明」(同3号)を目的としてなされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,同条6項の規定に適合するとして許容されたものである。このような事情に照らせば,前記(1)のとおり被告各製品の構成を認識していた原告は,本件訂正に係る訂正登録前から,被告各製品が本件特許に係る発明(本件訂正前発明)の技術的範囲に属することを認識できたというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ 原告は,本件訂正前発明は進歩性を有していないものであったから,本件訂正の訂正登録日以前には,本件特許権を実質的に行使できなかったとも主張する。 しかしながら,本件訂正前発明が進歩性欠如の無効理由を含むものであったとしても,無効理由を解消するための訂正請求に係る登録がされる前に本件特許権に基づく損害賠償請求訴訟を提起することは妨げられない。そして,当該訴訟の中で本件訂正前発明について特許法104条の3第1項の無効の抗弁が主張されたとしても,訂正の再抗弁として,訂正によって無効理由が解消することを主張立証することにより,これを争うことは可能であったものである。 したがって,原告において,本件訂正の訂正登録がされるまで本件特許権侵害の損害賠償請求権を実質的に行使できなかったとはいえず,原告の上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。 |
(2)不当利得返還請求
一方,不当利得返還請求については,実施料相当額の不当利得が認められるとしつつ,具体的には各考慮要素を踏まえて売上高合計に対し0.01%(980万1770円)と認定した。
(1) 不当利得返還義務の発生について 前記2のとおり,被告各製品は,いずれも本件発明の技術的範囲に属するものであり,前記3ないし6のとおり,本件発明に無効理由が存在するとは認められないから,前記前提事実(6)の被告による被告各製品の製造,販売は本件発明の実施に該当する。 そして,被告は特許権者である原告に対して実施料を支払わずに上記の実施を行ったものであるから,被告による被告各製品の製造,販売により,被告はその実施料相当額の利得を得て,原告は同額の損失を被ったものと認められる。 (2) 実施料相当額について ア 前記前提事実(6)の被告による被告各製品の製造,販売に係る本件発明の実施料相当額は,別紙5「被告各製品の販売状況」記載の被告各製品の売上高を基準とし,そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定するのが相当である。 そして,特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。 イ 実施料率認定の考慮要素に係る事情 (ア) 原告における特許発明の実施許諾の実績等 本件発明についての実施許諾契約が締結されたことはない(弁論の全趣旨)。 原告は,携帯情報通信装置等を製造,販売するメーカーではなく,被告との競業関係はない。原告は,自社が考案・開発した情報処理・通信システムについて,自社自身で製造,販売することはせず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで原告が保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至った例はない(甲50,弁論の全趣旨)。 (イ) 文献に記載された実施料の相場等 a 本件発明に関連する実施料の相場等について,以下のような文献の記載がある。 (a) 本件報告書(「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~ 本編 平成22年3月」。甲38)には,国内企業・団体を対象として,平成21年11月から平成22年2月に実施されたアンケート結果として,技術分類のうち「電気」の製品分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が2.9%(最大値9.5%,最小値0.5%)であり,「コンピュータテクノロジー」の製品分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が3.1%(最大値7.5%,最小値0.5%)であることの記載がある。 また,本件報告書では,「電気」の製品分野である,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態及びロイヤルティ決定手順について,次のような記載がされている。 規格技術に関する特許に係るパテントプールの例では,地デジの通信規格技術について,特許300件ほどのパテントプールが形成され,地デジTV一台あたり,200円の特許料が徴収されていること,MPEG2ビデオ圧縮技術について,特許100件ほどのパテントプールが形成され,DVDなどの製品1台あたり,2米ドルの特許料が徴収されていること。 デバイス等の製品は,数百から数千の要素技術で成り立っており,一つのデバイスが関連する特許は膨大な量となり,1件あたりのロイヤルティ料率を定めると100%を超えてしまうため,デバイスに関する特許は,各社が保有する特許群の中で代表的な特許を選抜し,クロスライセンスによる交渉を行うことが主流であり,交渉によって得られたロイヤルティの差がロイヤルティ料率又は一時金として設定され,その相場は1%未満となること。 (b) 発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」(平成15年発行。甲36)には,電子計算機・その他の電子応用装置の技術分野において,「平成4年度~平成10年度」の実施料率の平均値は,イニシャル有りが13.5%,イニシャル無しが33.2%との記載がある。 b 前記aのとおり,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」には,電気等の分野の実施料率の平均値等の記載があるものの,本件報告書では,エレクトロニクス業界のライセンス交渉実態について,一つのデバイスが関連する特許が膨大な量となることから,実施料率の定めに特徴がある旨の記載がされており,そこで例示されている実施料率は,上記の平均値を大幅に下回るものである。 このような事情は携帯電話機(スマートフォン)である被告各製品にも当てはまるものと考えられるから,被告各製品に関して,業界における実施料の相場等として上記の平均値等の記載を採用するのは相当とはいえない。 (ウ) 被告における被告各製品に関する実施許諾契約の実績 a 被告従業員作成の陳述書(乙7,10),においては,被告各製品に関する実施許諾契約の内容について,以下の説明がされている。 (a) 携帯電話に関する特許は,携帯電話の分野における標準規格の実施に不可欠な特許(標準必須特許)とそれ以外の特許(アプリ特許)に分けられるところ,被告は,携帯電話メーカー業界の慣行として,いずれについても,実施許諾地域を全世界として,複数の特許権を一括でライセンス契約を締結している。 ライセンス料の方式には,売上高に一定の料率を掛けて算出されるランニングロイヤルティを支払う「ランニング方式」と,契約締結時に実施料を一括して支払う「一時金方式」がある。 (b) 標準必須特許のライセンスを含めず,被告各製品の製造,販売に関連する●(省略)●社との間のライセンス契約について,パテントファミリー単位で1件辺りのライセンス料率を算定する(一時金方式を取るものについてもライセンス期間中の売上高からライセンス料率を算定する)と,平均●(省略)●%となる。 (c) 前記(b)の●(省略)●社のうち,ランニング方式での契約は1社(C社)であり,残りは一時金方式であった。このC社との契約においては,●(省略)●平成29年までの平均では約●(省略)●%であった。 (d) 平成22年頃の画像処理・外部出力関連の標準規格としてはHDMI通信規格を含む4規格が存在し,被告は,その当時,被告各製品の販売に関連し,特許ライセンス料を含むこれらの規格の使用許諾料として,1台当たり合計●(省略)●米ドルを支払っていた。 b 前記aの陳述書の記載内容は,本件報告書における前記(イ)a(a)の記載とも整合的であり,前記(ア)のとおり,原告による実施許諾の実績がないことも踏まえれば,本件発明に関し,業界における実施料の相場等を示すものとして,上記陳述書の説明内容を参考とするのが相当である。 (エ) 本件発明の代替可能性,利益への貢献等 a 本件発明の課題や作用効果は,前記1(2)のとおりであり,特許請求の範囲(請求項1)に記載された構成を採用することによって,不合理な二重投資や非効率な資源利用を避けつつ,携帯電話機等の携帯情報通信装置に周辺装置を接続することにより,大画面外部ディスプレイ手段において付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示することを実現するというものである。そして,被告各製品においては,別紙3「被告各製品の構成要素」記載のとおり,HDMI端子を介した外部表示機能を実現する際に本件発明が実施されているものである。 そうすると,被告各製品において,本件発明は,不合理な二重投資や非効率な資源利用を避けるという作用効果を実現するものにすぎないといえ,HDMI端子を介した外部表示に係る通信規格等に関する特許発明のように,外部表示機能の実現自体のために必須のものとまでは認められない。 また,不合理な二重投資や非効率な資源利用を避けつつ,携帯電話機に外部表示機能を実施するという作用効果につき,これを本件発明の構成以外では実現できないことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件発明が他の技術によって代替不可能なほどに重要なものであるとまではいえないというべきである。 b 原告は,本件発明を実施することによって,使用するVRAMないし液晶コントローラICの数が少なくなるため,実施しない構成と比較して少なくとも製品1台当たり960円のコストが削減できると主張する。 しかしながら,前記aのとおり,不合理な二重投資や非効率な資源利用を避けつつ,携帯電話機に外部表示機能を実施することが,本件発明における構成以外では実現できないとは認められない上,被告において,本件発明の構成を採用しない場合であっても,製造コストの低い部品構成を試みること自体は,製造業者として当然のことと考えられる。 そうすると,他の方法と比較して,本件発明の構成を採用することが被告の利益にどの程度貢献しているかにつき,原告が主張するような具体的な金額によって確定することはできないというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 実施料率の認定 (ア) 前記イ(ア)ないし(ウ)によれば,①実際の実施許諾契約における実施料率,業界における実施料の相場等について,次の点を指摘することができる。 本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。このような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約の内容を参考とするのが相当である。 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,そのうち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセンス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成22年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。 なお,上記陳述書における被告従業員の説明によれば,これらのライセンス契約のうち,C社を含む一部の会社との間の契約においてはクロスライセンスの条項が設けられていたところ,前記イ(イ)a(a)によれば,クロスライセンスの存在はライセンス料率を引き下げる要因と考えられるから,上記の被告従業員の説明に係るライセンス料率についても,クロスライセンスによる減額がされていた可能性は否定されない。 (イ) 前記(ア)の点に加え,前記イ(エ)のとおり,②本件発明が被告各製品にとって代替不可能なものとは認められず,③本件発明を実施することによる被告の利益の程度も明らかではないこと,前記イ(ア)のとおり,④原告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至ったことはないことといった事情を総合考慮すれば,本件発明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.01%と認めるのが相当である。 エ 被告が返還すべき利得の額 以上によれば,被告が返還すべき利得額は,別紙5「被告各製品の販売状況」記載の被告各製品の売上高合計980億1770万4000円に実施料率0.01%を乗じた980万1770円と認められる。 |
3 検討
本件では,原告において本件特許の実施許諾の実績がなかったことから,被告が締結した実施許諾の内容を基準として実施料率が計算され,さらに本件発明が代替不可能でないことや原告と被告との間に競業関係がないこと等が実施料率を引き下げる事情として参酌された。特許権侵害訴訟における不当利得返還請求の具体的事例として実務上参考になると思われる。
以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸