【令和3年11月9日(大阪地裁 令和2年(ワ)第3646号)】

【事案の概要】

 原告は、車輪付き杖である別紙商品目録記載の商品(以下「本件商品」という。)の製造元として、本件商品を「ローラーステッカー」の商品名(以下「原告標章」という。)により販売していたところ、本件商品を原告より直接又は間接に仕入れた被告らは、「ハンドレールステッキ」の商品名(以下「被告ら標章」という。)により、本件商品の卸売り又は小売りを行った。

 原告は、原告標章について商標登録を得たものであるが(以下これに基づく権利を「本件商標権」という。)、原告が被告フジホームに対し取引の停止を通告してから本件商標権に係る公報が発行された令和2年1月7日までの期間については、被告らが共同して、未登録である原告標章に化体する信用や出所表示機能を毀損する不法行為を行ったと主張し、前記公報発行日以降は、登録商標の出所表示機能を毀損することで、本件商標権を共同で侵害したと主張して、被告ら標章の使用の差止めを求めると共に、不法行為又は商標権侵害による損害賠償金300万円及びこれに対する共同不法行為後の令和2年4月1日から平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 1 被告らは、原告の製造販売する別紙商品目録記載の商品を販売するに際し、「ハンドレールステッキ」なる商標を付してはならない。

 2 被告らは、原告に対し、連帯して300万円及びこれに対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え

第2 事案の概要

(中略)

 2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定できる事実)

(中略)

  (6) まとめ

  ア 原告は、令和元年8月以降の、被告フジホームに取引の停止を通告し、被告サンリビングに対し直接の販売を開始した以降の被告らの販売行為を問題として、その期間を本件商標権の登録に係る公報が発行された令和2年1月7日により区分している(以下「前半期間」、「後半期間」という。)。

  イ 原告と被告フジホームとの取引が終了した時点で、被告フジホームが在庫として保有していた本件商品は、前記(2)イで特定した仕様のもの(梱包箱に被告ら標章を印字したシールを貼り付け、原告説明書を被告ら説明書に差し替えたもの)であったことになり、それらについての被告フジホームから被告サンリビングへの納入、被告サンリビングからダイワへの納入は、令和元年11月に終了し、後半期間には及んでいない(以下この部分の被告らの行為を「被告ら行為〈1〉」という。)。

  被告フジホームが上記在庫の残余を(前記(2)イで特定した仕様のもの)、自社のオンラインショップで販売したのは、前半期間、後半期間の双方にわたる(被告サンリビングはこれに関与していないが、この部分に係る被告フジホームの行為を、便宜「被告ら行為〈2〉」という。)。

  被告サンリビングが、令和元年8月か9月以降、令和2年3月までの間、原告から本件商品の納入を受け、前記(5)イで特定した仕様(少なくとも梱包箱に被告ら商標を印字したシールを貼り付けたもの)としてダイワに納品したのは、前半期間、後半期間の双方にわたる(原告説明書が被告ら説明書に差し替えられた事実が認められなければ、被告フジホームはこれに関与しないことになるが、この部分に係る被告サンリビングの行為を、便宜「被告ら行為〈3〉」という。)。

  ウ 総合して、公報発行までの前半期間の被告らの行為として問題となるのは、被告ら行為〈1〉、〈2〉及び〈3〉であり、公報発行後の後半期間の被告らの行為として問題となるのは、被告ら行為〈2〉及び〈3〉ということになる。

 3 争点

  (1) 前半期間における共同不法行為の成否(被告らの行為〈1〉、〈2〉及び〈3〉)(争点1)

  (2) 後半期間における商標権侵害の成否(被告らの行為〈2〉及び〈3〉)(争点2)

  (3) 損害の発生及び額(争点3)

 4 当事者の主張

(中略)

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

(中略)

 2 前半期間における共同不法行為の成否(争点1)

  (1) 判断の枠組み

  ア 原告は、原告が被告フジホームに対し取引の停止を通告し、被告サンリビングが原告と独自に取引を行うようになった令和元年8月から本件商標権に係る公報が発行されるまでの前半期間における被告らの行為は、未登録であるが顧客吸引力、自他識別力を有する原告標章を剥離する不法行為にあたると主張し、具体的には本件商品の梱包箱に被告ら標章の記載のあるシールを貼付し(被告ら行為〈1〉、〈2〉及び〈3〉)、また同梱されていた原告説明書を被告ら説明書に差し替えて(被告ら行為〈1〉及び〈2〉)、被告ら標章を商品名として販売したことが問題であるとする。

  イ 原告の主張は、製造元が一定の商品名で流通に置いた商品については、それ以降の卸売業者、小売業者は、それを許容する旨の特段の合意等がない限り、商品名を変更することはできないとするものであり、これに対し被告らは、本件商品を、原告標章の商品名でのみ販売することについての特段の合意は成立しておらず(被告フジホーム)、卸売業者、小売業者が製造元とは異なる商品名により流通に置くことは一般に行われている旨を主張する一方で(被告サンリビング)、本件商品を被告ら標章で販売することについて、原告の明示又は黙示の承諾がある旨を主張する(被告フジホーム)。

  ウ そこで検討するに、商品に商品名を付して販売する場合、一般には出所の識別や顧客の吸引を期待してなされるのであり、複数の製造者が類似する商品を製造販売する場合に、類似する商品名が使用されれば商品の出所の混同を招くおそれがあることから、不正競争防止法や商標法は、同一又は類似の標章の使用を規制することで商品の本来の主体の利益を守ろうとしたものと解される。しかしながら、製造者における自他識別や顧客吸引の問題は、製造者から卸売業者あるいは小売業者へ商品が譲渡された段階で一旦目的を達すると考えられるから、卸売業者あるいは小売業者としては、当初の商品名により販売すべき旨の合意や製造者が譲渡する際に付した条件、あるいは商品の性質上当然そのようにすべき特段の事情や公的規制のない限り、当初の商品名のまま販売することでその顧客吸引力等を生かすこともできれば、より需要者に訴えることのできる商品名に変更したり、あるいはより商品の内容を適切に説明し得る商品名に変更して販売することも許されると解される。

  原告は、製造者が一定の商品名を付して流通に置いた商品について、その後の段階の者が商品名を変えることができないのは当然である旨を主張するが、製造者が販売を終えた商品について、以後の者が別の商品名により販売したとしても、直ちに製造者の利益が損なわれることにはならないし、ブランドとしての統一を図る等の必要があれば、販売に際しその旨の合意を得れば足りることであるから、そのような合意等のない場合に、卸売業者や小売業者が、常に当初の商品名によらなければならないと解すべき理由はない。

  また、本件事案において、被告らが本件商品を被告ら標章により販売することにより、原告標章により販売されている本件商品よりも優れたものであることを表示したとすれば、需要者をして品質を誤認させる表示をしたということができるかもしれないが、本件はそのような事案ではなく、原告は、商品名を原告標章から被告ら標章に変更したことをもって、原告標章を剥離する不法行為にあたるというものであるから、原告の主張は採用できないといわざるを得ない。

  エ 以上によれば、原告が本件商品を被告らに譲渡した際に、合意や指示等、以後も原告標章を商品名として販売すべき特段の事情が存したにも関わらず、被告らが被告ら標章による販売を行って、これにより原告に損害を生じさせたと認められる場合には、不法行為が成立すると解する余地があるから、以下、このような観点から検討することとする。

  (2) 原告と被告フジホームとの合意の有無

  ア 本件商品を被告らにおいても原告標章により販売すべきことについて、原告と被告フジホームとの間に合意が成立した、あるいは原告がこれを取引の条件とした等の特段の事情が認められるかについては、前記認定した事実によれば、以下のイないしエの点を指摘することができる。

  イ 本件基本契約

平成27年2月に、原告と被告フジホームが締結した本件基本契約において、ローラーステッカーの語が使用されているが、これは契約の対象となる商品の内容を特定する趣旨で記載されているに止まり、原告と被告フジホームにおいて、以後これを商品名として使用することを定めた趣旨とは解されない(前記1(1)イ(イ))。

  ウ 被告フジホームの対応

  (ア) 被告フジホームは、本件基本契約を締結する前の平成26年11月、本件商品について、被告ら標章と原告標章を並列した質問状を原告に送付し、被告フジホームとしては、本件商品を被告ら標章により呼ぶ予定である旨を示した(前記1(1)ア(イ))。

  (イ) 被告フジホームは、平成27年6月に梱包箱の損傷についてのクレームがあった際に、被告ら標章を印字したシールを梱包箱に貼付していることを示す写真を原告に送付した(前記1(1)ウ(ア))。

  (ウ) 被告フジホームは、同年9月、本件商品に被告ら標章を付して展示されている展覧会に原告を招いた(前記1(1)ウ(イ))。

  (エ) 被告フジホームは、平成29年1月、ネット上の通販サイトにおける購入者のコメントを整理した文書を原告に交付する際に、本件商品が被告ら標章でも販売されていることを前提とする表題を付した(前記1(1)エ(ウ))。

  エ 原告の対応

  (ア) 原告は、平成28年6月、被告フジホームからの本件商品の不具合の指摘に対し、対処方法を指示すると共に、被告フジホームが本件商品の商品名を変更し、あたかも被告フジホーム独自の商品にように販売しているが、永続できるかとの懸念を表明した(前記1(1)エ(イ))。

  (イ) 原告は、平成30年8月、被告フジホームが本件商品の名称を変えて高く売っていることに対し、年金生活者に対する社会福祉の観点から疑問であるとした(前記1(1)エ(オ))。

  (ウ) 原告は、平成31年3月、被告フジホームへの書面により、商品名を変えられることは、どうしても受け入れることができない旨を告げたが、同時に、被告フジホームに対し、小売価格の統一と、卸売価格の改定をも求めた。

  これに対し、被告フジホームが、卸売価格の改定と共に市場価格及び商品名の統一を原告が主張するのであれば、本件商品の販売を中止せざるを得ないとしたところ、原告は、状況が変化しない限り、被告から注文があれば、本件商品を従前の価格で納品する旨を告げた(前記1(1)オ)。

  (エ) 原告は、令和元年7月以降、被告フジホームに対し、ネット通販サイトにおける廉価販売の是正を求めるようになり、同年8月1月、通販サイトの価格が是正されなかったことを理由に、被告フジホームへの出荷停止を電話で通告したが、同月8日付け書面により、取引停止の理由は、本件商品の名称の変更とネット通販における価格設定の2点である旨を告げた(前記1(1)カ)。

  オ まとめ

  (ア) 前記(2)によれば、本件基本契約において、被告フジホーム側が原告標章を使用すべきこととはされておらず、被告フジホームは、被告ら標章により本件商品を販売する予定である旨を、本件基本契約締結以前より示し、原告との取引開始後もこれを明らかにし、特にこの点を秘匿しようとしたとは認められない。

  そして原告は、平成28年6月と平成30年8月、被告フジホームが本件商品を被告ら標章による販売していることに言及した上で、これに懸念や疑問を表明するに止まり、原告標章を使用するよう求めたり、原告標章の使用が取引の条件である旨を述べたりはしていない。

  (イ) 原告は、平成31年3月に、被告フジホームに対し、商品名の変更は受け入れられないこと等を述べると共に価格の統一等を求めたが、被告フジホームの拒絶に対し、注文があれば従前の卸売価格で提供するとしており、商品名を原告標章に統一することを、それ以上に求めてはいない。

  (ウ) 以上を総合すると、原告が被告フジホームに本件商品を納入した平成27年2月から令和元年7月までの間において、原告と被告フジホームとの間において、本件商品を原告標章により発売することの合意が成立した、あるいは、原告標章により販売することを、原告が本件商品を被告フジホームに納入する条件としたとの事実を認めることはできない。

  そして、前半期間において、被告フジホームが被告サンリビングに納入し、被告サンリビングがダイワに卸売した本件商品(被告ら行為〈1〉)、及び被告フジホームが自社のオンラインストアで販売した本件商品(被告ら行為〈2〉)は、すべて令和元年7月以前に原告が被告フジホームに納入したものであるから、これらについて、商品名についての制約は存しないものといわざるを得ない。

  (エ) 原告が被告フジホームに対し、令和元年8月8日付けで取引停止を提案した際に、本件商品の名称の変更を理由の一つとはしているものの、前述のとおり、原告の被告フジホームに対する本件商品の納入はそれ以前になされており、商品名についての制約が、遡及的に生じると解することはできない。

  (3) 原告と被告サンリビングとの合意の有無

  ア 前記認定したところによれば、原告が被告フジホームとの取引を停止した後に、被告サンリビングが直接の取引を打診した際に原告が問題としたのは、被告フジホームの卸売先において本件商品の廉価販売がされたことであり(前記1(1)カ)、この時に、原告と被告サンリビングの間で、原告標章のみを使用するとの合意が成立した、あるいは商品名を変更しないことを原告が被告サンリビングとの取引の条件にしたと認めるべき証拠はない(甲5においても、商品名に関しては何らの話もなかったとされている。)。

  イ 原告は、被告フジホームとの取引停止の理由が商品名の変更である旨を被告サンリビングに告げたので、被告サンリビングにおいて商品名を変更してはならないとの認識はあったと主張する。しかしながら、既に認定したところによれば、原告が被告フジホームとの取引を停止した主たる理由は、被告フジホームの卸売先の廉価販売であり、前記アで述べたところによっても、被告サンリビングとの取引開始の時点で、被告サンリビングが商品名の変更に制約がある旨を認識していたとは認められず、原告の主張は採用できない。

  ウ 前半期間において、被告サンリビングが原告から直接仕入れ、ダイワに納品した本件商品について(被告ら行為〈3〉)、原告標章を使用しなければならない、あるいは原告標章を変更してはならないとの制約が存していたと認めることはできず、原告の主張は採用できない。

  (4) 不法行為の成否

  以上によれば、前半期間において、本件商品を被告ら標章の商品名により販売したことは(被告ら行為〈1〉ないし〈3〉)、原告に対する不法行為にはならないというべきであり、これに付随する説明書の差替えも(被告ら行為〈1〉及び〈2〉)、同様といわざるを得ない。

 3 後半期間における商標権侵害の成否(争点2)

  原告は、原告標章(標準文字)が商標登録され、これに係る公報が発行された後は、原告標章を使用せず、被告ら標章により本件商品を販売した行為は、登録商標の出所表示機能を毀損するものとして、商標権侵害が成立する旨を主張する。

  しかしながら、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標を同一又は類似の商標を使用する場合に成立することがその基本であり(商標法25条、37条)、原告が原告標章を付した本件商標を被告らに譲渡した際に、原告標章と同一又は類似の商標を使用する競業者が存在しなかったことをもって、本件商標権はその役割を終えたと見ることができるのであり、原告から本件商品を譲り受けた被告らが、これを原告標章以外の商品名で販売することができるかは、商標権の問題ではなく、前記検討したとおり、原告と被告らとの合意の存否の問題と考えざるを得ない。

  したがって、後半期間において、被告フジホームが本件商品を被告ら標章により、また取扱説明書を差し替えて自社のオンラインストアで販売したこと(被告ら行為〈2〉)、あるいは被告サンリビングが、原告より直接入手した本件商品を、被告ら標章によりダイワに譲渡したことは(被告ら行為〈3〉)、いずれも商標権侵害にはあたらないといわざるを得ない。

 4 まとめ

  以上のとおり、被告らに不法行為があったということはできず、商標権侵害も成立しないから、その余の争点につき検討するまでもなく、差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がないというべきである。

第4 結論

  よって、原告の請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

【解説】

 本件は、原告の商品(本件商品)を、原告(製造元)が付した商品名(原告標章)と異なる商品名で卸売り又は小売りする被告らの行為について、共同不法行為(原告標章が商標登録され公報が発行される前)又は商標権侵害(原告標章が商標登録され公報が発行された後)の成立が争われた事案である。

 前半期間の共同不法行為について、裁判所は、商品に商品名を付して販売する場合、一般には出所の識別や顧客の吸引を期待してなされるところ、製造者における自他識別や顧客吸引の問題は、製造者から卸売業者あるいは小売業者へ商品が譲渡された段階で一旦目的を達すると考えられるから、卸売業者や小売業者としては、当初の商品名により販売すべき旨の合意や製造者が譲渡する際に付した条件、商品の性質上当然そのようにすべき特段の事情等がない限り、当初の商品名のまま販売することで顧客吸引力を生かすことも、より需要者に訴えることのできる商品名に変更することも許されるとの規範に基づき、原告と被告らとの間には、本件商品を原告標章により発売することの合意が成立した、あるいは、原告標章により販売することを、原告が本件商品を被告フジホームに納入する条件としたとの事実を認めることはできず、また、原告と被告サンリビングの間で、原告標章のみを使用するとの合意が成立した、あるいは商品名を変更しないことを原告が被告サンリビングとの取引の条件にしたと認められないので、不法行為は成立しないと判断した。

 また、後半期間の商標権侵害については、裁判所は、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標を同一又は類似の商標を使用する場合に成立することが基本であるから、原告が原告標章を付した本件商標を被告らに譲渡した際に、原告標章と同一又は類似の商標を使用する競業者が存在しなかったことをもって、本件商標権はその役割を終えたのであり、原告から本件商品を譲り受けた被告らが、これを原告標章以外の商品名で販売することができるかは、商標権の問題ではなく、共同不法行為において検討したとおり、原告と被告らとの合意の存否の問題であるとして、原告と被告らとの間に、本件商品を原告標章以外の商品名で販売することはできない、との合意はなかったのであるから、商標権侵害にも当たらない、と判断した。

 この裁判所の判断においては、共同不法行為に関しても、商標権侵害に関しても、製造者が付した標章は、卸売業者ないし小売業者に譲渡された段階で役割を終えたことが前提とされている。この判断では、明示はされていないものの、消尽論の考え方に基づいているといえる。特許権に関しては、市場における特許製品の円滑な流通確保の必要性、特許権者の利得確保の機会があったこと、を根拠として、消尽が認められている[1]。本件で裁判所が挙げた根拠は、商標権者が自ら商品を譲渡した段階で、出所表示機能を示す役割を終わらせた、というものであって、特許権の場合と異なるが、効果としては特許権の場合と同様となっている。

 本件の判断枠組みによれば、商標権者から商品を譲り受けた譲受人は、合意や指示等、以後も商標権者の商標を商品名として販売すべき特段の事情がなければ、商標権者の商標以外の商品名を付して販売することができる。商標権者の商標に顧客吸引力があれば、譲受人があえて別の商品名を付して販売することは考えにくいが、商標権者は、譲受人がどの商品名を付して当該商品を販売するかという点に留意しなければならない。すなわち、商標権者が、譲受人が当該商品を販売する際にも商標権者の商標を商品名とすることが望ましいと考える場合、譲渡の際の契約等で譲受人に対して商標権者の商標を商品名とした販売を義務付ける必要がある。

 本件は、商標権者が譲渡した後の、商品名の取り扱いについて参考になると考え、取り上げさせていただいた。

以上 弁護士 石橋茂


[1] 最判平成9年7月1日(BBS事件)