【令和3年5月19日判決(知財高裁 令和2年(ネ)第10062号)】

【ポイント】
真正製品の並行輸入の抗弁を認め,当該製品の輸入行為は違法性を欠くと判断した事例

【キーワード】
商標法37条
並行輸入

第1 事案

商標権者が自ら商品を製造してこれを販売代理店に売却し、その販売代理店から被告(被控訴人)が日本に商品を並行輸入した事案であり,商標権者及び商標権者から独占的通常使用権の設定を受けた者(原告ら,控訴人ら)が,当該並行輸入等の行為が原告ら(控訴人ら)の商標権ないし独占的通常使用権を侵害すると主張して,被告(被控訴人)に対し,損害賠償請求,本件標章を付した商品の譲渡,引き渡し,輸入の停止等を求め,訴訟を提起したが,棄却された。そこで,原告らが第1審に対し控訴した。

本稿では,並行輸入(並行輸入の3要件を満たすか)の争点について述べる。

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

2 争点2(被控訴人らの本件各行為がいわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害の違法性を欠く場合に当たるか)について

  (1) 前提事実

  この点に関し、判断の前提となる事実は、原判決24頁22行目の「本件代理店契約において」から同25頁8行目末尾までを下記のとおり訂正するほかは、原判決第3、2、(2)及び(3)(原判決23頁12行目から29頁17行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

  「また、控訴人ハリスやランピョン社が代理店との間で取り交わしている一般的な代理店契約書(甲33の1、2)においては、〈1〉販売代理店は、一定の地域以外の場所で直接的又は間接的に製品を販売、配布等しない旨(以下「地域制限条項」という。)が定められ、また、〈2〉販売代理店は、販売代理店契約が解除された後は、製品の販売を中止しなければならず、商品の売主(商標権者等)は、当該商品を買い戻す権利を有すること(以下「販売禁止等条項」という。)が定められていることが認められる。ランピョン社がMゴルフ社との間で、上記の代理店契約書に基づく契約を締結した事実を認めるに足りる証拠はなく、また、ランピョン社がMゴルフ社に交付したとされる意向表明書にも、上記〈1〉、〈2〉のような条項が記載されていたことを認めるに足りる証拠はないが、Mゴルフ社も2UNDRブランドの商品を扱う販売代理店の一つであって、他の販売代理店と異なる扱いを受ける理由も見当たらないことからすると、Mゴルフ社との間でも、販売代理店に一般的に適用されていたと考えられる地域制限条項や販売禁止等条項が、明示ないし黙示の合意により適用されていた可能性があることは否定できないものと考えられる(これを疑わせるような証拠はない。)。そうであるとすると、Mゴルフ社についても、これらの条項が適用される可能性があることを前提とした検討を行う必要があるものと考えられる。ただし、本件において、ランピョン社が、上記の買戻権を行使したことを認めるに足りる証拠はないから、買戻権が行使されたことを前提とした検討を行う必要はない。」

  (2) 最高裁平成15年判決について

  同判決は、いわゆる真正商品の並行輸入について、それが〈1〉当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり(以下「第1要件」という。)、〈2〉当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係にあることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下「第2要件」という。)、〈3〉我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合(以下「第3要件」という。)には、商標権侵害としての実質的違法性を欠くと判断した。

  この判決は、商標権者から商標の使用許諾を受けた上で、当該商標を付した商品を製造販売した者から、当該事件の被告が商品を輸入したという事案に関するものであった。これに対し、本件の事案は、商標権者が自ら商品を製造してこれを販売代理店に売却し、その販売代理店から被控訴人ブライトが商品を輸入したという事案であり、製品が商標権者自らの手によって製造されていたかどうかという点において、重大な違いがある。このため、後述のとおり、上記の3要件を事案の違いに応じて変容させる必要がないのかという点が問題になり得るものの、基本的には、上記の3要件をベースとして被控訴人ブライトによる輸入行為が実質的に違法性を欠くものであるかどうかを判断すべきであると解されるので、以下、各要件について判断する。

  (3) 第1要件について

  ア 上記のとおり、第1要件は、当該商標が当該商標権者等によって適法に付されたものであるかどうかを問題とするのに止まるから、この要件をそのまま適用する限り、商標権者が製造した本件商品の輸入が問題になっている本件においては(控訴人らは、本件商品の全てが、ランピョン社がMゴルフ社に販売した商品であることは立証されていない旨主張するが、既に認定したとおり、Mゴルフ社は、かつてはランピョン社の販売代理店であり、同社から正規の2UNDR商品を購入し、保有していたことが認められ、また、被控訴人ブライトがMゴルフ社から輸入した商品の点数(2387点)は、Mゴルフ社が、ランピョン社から購入し、上記輸入直前の時点において保有していたとしてもおかしくない商品の点数(2448点)の範囲内であるのに対し、被控訴人ブライトが輸入した商品が、上記とは他のルートで入手されたものであったことを疑わせるような証拠は全くないのであるから、本件商品が真正商品であることを否定することはできないものというべきである。)、第1要件が満たされることは明らかであるし、本件代理店契約の解除や、地域制限条項の存在などといった控訴人ら主張の事情は、この判断に何ら影響を及ぼすものではないということになる。そして、これが被控訴人らの主張するところでもある。

  イ これに対し、控訴人らは、本件事案においては、第1要件は、単に適法に商標が付されたことだけではなく、適法に商標が付された商品が、商標権者の意思に基づいて流通に置かれたことまで要求するものとして理解すべきであると主張する。

  たしかに、最高裁平成15年判決の事案は、商標が、商標権者自身ではなく、商標権者から使用許諾を受けた者によって付された事案であったため、使用許諾権者がその権原に基づいて商標を付したのかどうかという意味において、商標が適法に付されたのかどうかが問題となる余地があったのに対し、本件事案のように、商標権者自身が商品を製造販売している事案では、この要件が問題になることはほとんど考えられず、果たして、商標が適法に付されたかどうかのみを単独の要件とする意味があるのかという点が問題となり得る。この点や、最高裁平成15年判決以前には、本件事案のような事案に関し、「商標権者が当該商標を適法に付して流通に置いたこと」を要件とする見解が有力であり、このように「適法に流通に置いたこと」を要件とすることは、非正規のルートで入手された商品が並行輸入された場合を排除するという意味を持ち得るものであることを併せ考えると、最高裁平成15年判決とは事案が異なる本件においては、商標が適法に付されたかどうかだけではなく、それが適法に流通に置かれた(あるいは、商標権者の意思に基づいて流通に置かれた。以下、同じ。)かどうかも問題とする必要があるという見解もあり得るものと考えられる。その意味で、控訴人らの主張にはもっともなところがあるといえる。

  しかし、仮にそのように考えるとしても、本件において、Mゴルフ社は、ランピョン社から正規に本件商品を購入したのであるから、この時点において、本件商品が「適法に流通に置かれた」ことは明らかである。そして、本件代理店契約の解除や地域制限条項の存在といった控訴人ら主張の事情は、上記の判断を左右するに足りるものではないと考えられる。その理由は、次のとおりである。

  ウ すなわち、まず、本件代理店契約解除との関係について検討すると、前認定のとおり、Mゴルフ社は、上記解除によって本件商品を販売してはならない義務を負うと解する余地はある。しかし、このような条項があるからといって、Mゴルフ社が本件商品の処分権限を失うわけではない(本件代理店契約解除によって、直ちにMゴルフ社の本件商品に対する所有権が失われるものではないことは控訴人ら自身が自認しているところであるし、ランピョン社が買戻権を行使した事実が存在しないことも既に指摘したとおりである。)。そうであるとすると、Mゴルフ社が、本件代理店契約解除後に本件商品を売却したとしても、それは、ランピョン社との間で債務不履行という問題を生じさせるだけで、本件商品が「適法に流通に置かれた」という評価を覆すまでのものではないというべきである。実質的に見ても、Mゴルフ社が正規に購入した商品を、本件代理店契約解除後に他に売却したからといって、直ちに商標の出所表示機能が害されるとはいえないのであって、この点からしても、第1要件該当性を否定する理由はない。

  この点は、地域制限条項との関係についても同様であり、地域制限条項は、あくまでも債権的な効力を有するにすぎず、Mゴルフ社による本件商品の処分権限を奪うものではないのであるから、これに違反した処分がされたからといって直ちに、本件商品が「適法に流通に置かれた」という評価が覆るものではないというべきである。実質的にみても、Mゴルフ社が正規に購入した商品を制限地域外で販売したからといって直ちに商標の出所表示機能が害されるとはいえないのであって、この点からしても、第1要件該当性を否定する理由はない(なお、最高裁平成15年判決は、地域制限条項違反を理由の一つとして第1要件該当性を否定しているので、この判断との関係についても念のため触れておく。同判決の事案は、商標の使用許諾契約において地域制限がされていたという事案であったため、使用権者は、そもそも、制限地域外において商品に商標を付す権限を有していなかった。このため、制限地域外で商標を付したとしても、それは「適法に」商標を付したことにならないとの評価を免れなかった。これに対し、本件事案において、Mゴルフ社の商品処分権限は何ら制約されていないことは既に説示したとおりであり、この点において、本件と最高裁平成15年判決の事案とは事案を異にするというべきである。)。

  エ 以上の次第で、第1要件の内容を最高裁平成15年判決の判断どおりとみた場合でも、それに「適法に流通に置かれたこと」との要件を加えたものとして理解したとしても、いずれにせよ、同要件は満たされているというべきである。

  (4) 第2要件について

  本件においては、控訴人ハリスが我が国における商標権者であると同時に外国における商標権者でもあるから、本件商品に付された商標と我が国の登録商標(原告商標)とが同一の出所を表示するものであることは明らかである。

  なお、被控訴人ブライトは、我が国において被告各標章を利用した宣伝広告活動を行っているが、これは本件商品の輸入後の行為であることからすると、そもそも、かかる事情が第2要件該当性の判断に影響を及ぼすものであるのかは疑問である。また仮に、これらの事情を考慮に入れる必要があるとしても、原告商標と被告各標章が類似のものであることは上記1で原判決を引用して説示したとおりであるから、出所表示の同一性に影響を及ぼすものではなく、いずれにせよ第2要件該当性は肯定されるべきである。

  (5) 第3要件について

  ア 最高裁平成15年判決における第3要件は、「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合」であることというものである。

  ところで、最高裁平成15年判決の事案は、商標権者自身ではなく、商標の使用許諾権者が商品を製造したという事案であった。そこで、商標に係る商品の品質保証のため、商標権者が、商標使用許諾権者(あるいは、その下請等の立場にあった者)の行為に対して、直接的に又は間接的に品質管理を行い得る立場にあったかどうかが重要な問題になり得たものである。これに対し、本件のように、商標権者自身が商品を製造している場合には、商品の品質は、商標権者自身が商品を製造したという事実によって保証されており、後は、その品質が維持されていれば品質保持機能に欠けるところはないといえる。そして、本件商品は男性用下着であって、常識的な期間内で流通している限り、その過程で経年劣化等をきたす恐れはないし、商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば、商品そのものに対する汚損等が生じるおそれもないといえる。

  そうであるとすると、少なくとも、本件のように商標権者自身が商品を製造している事案であって、その商品自体の性質からして、経年劣化のおそれ等、品質管理に特段の配慮をしなければ商標の品質保証機能に疑念が生じるおそれもないような場合には、商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば、商標権者による直接的又は間接的な品質管理が及んでいると解するのが相当である。

  イ そこで、以上の観点から、第3要件が満たされているかどうかを検討するに、本件商品と2UNDR商品の日本における販売代理店が販売する商品とが、登録商標の保証する品質において実質的に差異がないといえることは、原判決「事実及び理由」第3、2(4)オ(原判決31頁24行目から32頁17行目まで)に記載のとおりである。そして、商品のパッケージ等はそのまま維持されていたものと推認できるから、「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあること」との要件も、満たされているものといってよい。

  ウ 控訴人らは、地域制限条項は、商品が最終消費者に販売されるまでの間の品質を商標権者がコントロールするために重要な条項であるから、同条項の違反は商標の品質保証機能を害する旨主張するが、販売地域の制限に係る取決めは、通常、商標権者の販売政策上の理由でされるにすぎず、商品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何らかの関係があるとは解されないから、上記主張は失当である(なお、最高裁平成15年判決の事案における地域制限条項は、商品を製造する地域を制限する条項という意味も持っていたため、どこで商品を製造するかは品質の保持に影響すると解する余地があった。これに対し、本件事案においては、商品自体は商標権者によって製造済みであり、それをどの地域で販売するかが問題になるのにすぎないのであるから、両者が全く事情を異にすることは明らかである。)。また、本件代理店契約が解除されたという事実も、第3要件の充足性に影響を及ぼす事情とはいい難い。

  エ 控訴人らは、本件商品の包装箱にシールを剥がした跡があることや、広告に「訳あり/パッケージ汚れ」との記載があることは、商標の品質保証機能を害する旨主張する

  しかし、包装箱(パッケージ)の汚れ等の不具合は、商品(男性用下着)自体の品質とは直接の関係がなく(パッケージの汚れが、単に表面にとどまらず、内部にまで影響を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠はない。)、本件商品の品質が控訴人らの扱う2UNDR商品の品質よりも実際に劣っていたことをうかがわせる証拠もない。また、「訳あり/パッケージ汚れ」との記載は、商品そのものではなく、そのパッケージに汚れがあることを「訳あり」と称しているのにすぎないものと理解できるから、これによって、2UNDR商品そのものの品質に疑念が生じるおそれはないものといえる。

  したがって、この点に関する控訴人らの主張は失当である。

  オ さらに、控訴人らは、控訴人ハリスは、正規代理店を経由して日本に輸入された商品については交換に応じる等の保証をしており、品質について独自の信用を構築しているところ、本件商品は保証の対象外であり、本件商品の購入者は、商品に欠陥があった場合も交換等を受けられないのであるから、控訴人ハリスの保証を受けられないことは、品質保証機能を害するとも主張する。

  しかし、控訴人ハリスが、顧客からの要請に基づいて、商品の交換に応じることがあるというだけで、独自の品質管理体制が構築されていたとまでいうことはできないし、そのほかに、控訴人らが、商品の品質について、並行輸入を排除するのに足りるような独自の信用を構築していることを認めるに足りる証拠はない。

  したがって、この点に関する控訴人らの主張も失当である。

  (6) まとめ

  以上の次第で、本件において、第1要件ないし第3要件は、いずれも満たされているというべきであるから、被控訴人ブライトによる本件商品の輸入行為は、実質的な違法性を欠くというべきである。

第3 検討

本件は,原審の判断を支持し,真正製品の並行輸入の抗弁を認めて,当該製品の輸入行為は違法性を欠くと判断した事案である。

本判決でも述べられているように,真正商品の並行輸入については、最高裁平成15年2月27日第一小法廷判決(フレッド・ペリィ事件。以下,「最高裁判決」という。)が,「(1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、(2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、(3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠く」と判示している。

もっとも,本判決は,最高裁判決の3要件をそのまま踏襲すると述べていない。つまり,本判決と最高裁判決は事案が異なるので,「基本的には、上記の3要件をベースとして被控訴人ブライトによる輸入行為が実質的に違法性を欠くものであるかどうかを判断すべきであると解される」と判示している。本判決は,商標権者が自ら商品を製造してこれを販売代理店に売却し、その販売代理店から被控訴人が商品を輸入したという事案であるのに対し,最高裁判決は,商標権者から商標の使用許諾を受けた上で、当該商標を付した商品を製造販売した者から、当該事件の被告が商品を輸入したという事案であった。

本判決は,上記判示のとおり,被控訴人の輸入行為が3要件を満たすかに加えて,実質的に違法性を欠くかについて検討している。

第1要件については,まず「商標が適法に付されたこと」は明らかであると判示したが,上記のように,本判決と最高裁判決の事案が異なること,最高裁判決以前には「適法に流通に置かれたこと」を要件にするべきとの見解もあったことから,本判決は,第1要件として,「商標が適法に付された」ではなく,「適法に流通に置かれたこと」にすべきかについて悩みを見せている。

しかし,最終的には,その悩みについて明確な答えを出さずに,仮に第1要件を「適法に流通に置かれたこと」であるとしても,本判決の事案は,「適法に流通に置かれたこと」を満たすと判断した。また,本判決の事案は,代理店契約の解除後に本件商品が輸入されたことや,代理店契約に地域制限条項があったことから,控訴人が「適法に流通に置かれたこと」を満たさないとの主張がされたが,本判決は,それらはあくまでも債務不履行の問題であることや債権的な効力にすぎないことを理由に,直ちに商標の出所表示機能が害されないと判断した。

第2要件については,本判決は多くは議論せずに,充足すると判断した。

第3要件については,最高裁判決の事案との違い(本判決の事案は,商標権者が商品を製造していたのに対し,最高裁判決の事案は商標使用許諾権者が商品を製造していた)と,本件商品(男性用下着)自体の性質(常識的な期間内においては経年劣化等をきたす恐れがないこと)に着目して,議論を展開した。その結論として,本判決は,「少なくとも、本件のように商標権者自身が商品を製造している事案であって、その商品自体の性質からして、経年劣化のおそれ等、品質管理に特段の配慮をしなければ商標の品質保証機能に疑念が生じるおそれもないような場合には、商標権者自身が品質管理のために施した工夫(商品のパッケージ等)がそのまま維持されていれば、商標権者による直接的又は間接的な品質管理が及んでいると解するのが相当である。」と判示した。

つまり,本判決は,①商標権者自身が商品を製造し,②商品が一定期間経年劣化等しにくい性質のものであれば,③パッケージ等商品の品質を守る工夫が維持されている限り,商標権者による直接的又は間接的な品質管理が及んでいる(第3要件を満たす)という一ケースの規範を示したことになる。

以上のように,本判決は,商標権者自身が商品を製造するケースで,特に第1要件と第3要件の解釈やあてはめが実務上参考になる事案である。

以上
弁護士 山崎臨在