【令和3年3月17日判決(知財高判 令和2年(ネ)第10052号)】

1 事案の概要(説明のため事案を簡略化している)

 本件は、K学大学院S研究科の修士課程に在籍していた原告が、名称を「癌治療剤」とする特許権に係る発明は、原告が同大学院在籍中に行った実験結果やその分析から得られた知見をまとめた論文(P論文)に基づくものであるから、原告は同発明の発明者の一人であるとして、本件特許権を共有する被告らに対し、本件発明の発明者であることの確認及び特許法74条1項に基づく本件特許権の持分各4分の1の移転登録手続を求めるとともに、被告らが故意又は過失により原告を共同発明者として出願しなかったことにより損害を被ったとして、共同不法行為に基づく損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

 本稿は、本件の控訴審判決を紹介するものであるが、原審の争点は、

   ①本件発明の発明者であることの確認の利益の有無(争点1)、

   ②原告が本件発明の発明者かどうか(争点2)、

   ③特許権の持分移転登録請求の可否(争点3)

   ④不法行為の成否及び損害額(争点4)

であり、原判決は、①につき、原告が本件発明の発明者であることの確認を求める部分は確認の利益を欠き,不適法であるとし、②~④について原告の主張を認めず、原告の請求を棄却した。

 控訴審は原判決を維持したものであるが、控訴審における争点は、

   ①控訴人の共同発明者性(争点1)

   ②本件特許権の持分移転登録手続請求の可否(争点2)

   ③被控訴人らの不法行為の成否及び控訴人の損害額(争点3)

である。控訴審は、本稿では、このうちの①争点1に関し、共同発明者の判断基準について紹介する。

2 控訴審が示した共同発明者の判断基準

 ⑴ 原判決が示した共同発明者の判断基準は、

発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項),特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならない。したがって,発明者と認められるためには,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に,当該創作行為に関与し,発明者のために実験を行い,データの収集・分析を行ったとしても,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,創作活動に現実に加担したということはできないと解すべきである(知財高裁平成19年3月15日判決(平成18年(ネ)第10074号),同平成22年9月22日判決(平成21年(ネ)第10067号)等参照)。

というものである。原判決の判断基準は「技術的思想の特徴的部分」という従来の多くの裁判例が共同発明者の認定の際に用いていた一般的な判断基準(例えば、知財高判平成19年7月30日(平成18年(行ケ)第10048号)、知財高判平成28年2月24日(平成26年(行ケ)第10275号)等多数)に用いられてきた文言を採用した。

 ⑵ これに対し、控訴審判決が示した共同発明者の判断基準は、

 特許法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定している。これらの規定によれば,特許発明の「発明者」といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを要するものと解するのが相当であり,その具体化に至る過程の個々の実験の遂行に研究者として現実に関与した者であっても,その関与が,特許発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認められないときは,発明者に該当するものということはできない。

 というものである(下線部は執筆者が付した。)。

 控訴審判決は、原判決と結論は変わらないものの、共同発明者の判断基準に関し、「技術的思想の特徴的部分」という文言ではなく、あえて「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」という文言に置き換えている。

3 若干のコメント

 上記令和3年知財高裁判決のほか、知財高判令和2年3月30日(令和元年(ネ)第10064号)においても、第一審判決(東京地判令和元年9月11日(平成29年(ワ)第14685号))において共同発明者の認定基準につき「発明の特徴部分」と判示したものを、「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」と書き換えている(なお、上記令和3年知財高裁判決及び上記令和2年知財高裁判決ともに大鷹裁判長である。)。

 共同発明者の認定基準に関し、「技術的思想の特徴的部分」ないし「発明の特徴的部分」という文言ではなく、「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」という文言で規律することによって、具体的なあてはめで何が変わってくるかは、上記2つの知財高裁判決が結論としては原審の判断を是認している以上、よくわからない。

  この点、「発明の特徴的部分」という場合、知財高判平成19年7月30日(平成18年(行ケ)第10048号)は「特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう」とする。この表現と「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」とを比較すると、令和3年知財高判は「技術的課題の解決手段」ではなく、「技術的課題及びその解決手段」としており、「技術的課題」それ自体に関する着想も発明者の認定においては重要である旨を強調したとも読める。

 上記のとおり、「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」と、これまで多くの裁判例で用いられてきた「特徴的部分」との間の違いはよく分からないものの、最近の知財高裁が判示した例として参考になると思われるので紹介した次第である。

以上

弁護士 藤田達郎