【令和3年10月12日(東京地裁 令和3年(ワ)第5285号)】

 

【キーワード】

著作権侵害、複製権、公衆送信権、氏名表示権、クリエイティブ・コモンズ、CCライセンス、パブリックドメイン、オープンソース

 

【事案の概要】

原告は、自身が撮影した写真(以下「本件写真」と総称する)[i]を画像共有サイト「Flickr」に投稿したが、当該写真には、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス[ii](以下「CCライセンス」という)を付していた。CCライセンスとは、クリエイティブ・コモンズが設定するパブリック・ライセンスの仕組みであり、ライセンサー側が希望することの多い4つの条件(「BY(表示)」「NC(非営利)」「ND(改変禁止)」「SA(継承)」)準備し、各条件を表す所定のロゴ(アイコン)を組み合わせて表示することで、自分の作品の利用条件を発信することができるものである。

【出典:クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの公式サイト「FAQ よくある質問と回答」(以下本記事では「CCライセンスFAQ」という)「特によくある質問」「3.CCライセンスのアイコンはそれぞれ、どのような意味ですか?」より(URL:https://creativecommons.jp/faq/#a3、2024年1月1日最終アクセス)】

本件写真のライセンスは、「BY-SA(表示-継承)」(「クリエイターの作品に関する情報(氏名、タイトル等)を表記すること」及び「改変した場合は同一のライセンスを付加する」を条件に利用を許諾する)であった。
被告は、自ら運営するウェブサイト上で複数の記事を掲載していたが、各記事のタイトル及びリンク等を紹介する同サイトのトップページにおいて、当該各タイトルのアイキャッチ画像として本件写真を掲載した。
原告は、被告が本件写真のタイトルや著作者名を表示せずCCライセンスに遵守しないまま利用していたことから、本件写真の複製権、公衆送信権侵害、氏名表示権侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

 

【判旨(概要)】

1.争点1(著作権侵害の有無を前提とした被告に対する損害賠償請求権の存否)

結論としては、裁判所は、原告の公衆送信権及び氏名表示権が侵害され、当該侵害につき被告の過失も認められると判断した。BY-SAライセンスの内容等に照らしても、他に被告の過失を否定する根拠は見当たらない旨を述べている。
本件写真に付されたBY-SAライセンスに照らせば、原告は、本件写真につき、著作者名や作品タイトルの表示を条件として利用許諾したため、当該条件を満たさない場合、その利用を許諾せず、また本件写真を公衆に提示することを許諾していなかったと認められる。被告は、当該条件に従わないまま本件写真を公衆送信しているので、原告の公衆送信権及び氏名表示権が侵害されたと認められる。

【出典:「CCライセンスFAQ」「CCライセンスの付いた作品を利用したいと考えている方へ」「4.CCライセンスの付いた作品を、そのライセンスに従って利用する限り、お金を支払う必要はありませんか?」より(URL:https://creativecommons.jp/faq/#c4、2024年1月1日最終アクセス)】

 

被告は、本件写真に付されたBY-SAライセンスに基づき利用料は発生せず、権利者に認められるのは差止請求権のみであるので、原告の損害賠償請求権は発生していないと主張する。しかし、CCライセンスFAQの4項(著作権者に利用料の支払請求権が生じる場合の説明)は、「例えば」という文言で、「『NC』(非営利)」のついた作品を、営利を目的として利用する場合」が「作品につけられたCCライセンスの条件を超えた利用をする場合」の一つの例であることを明示し、また、「等」という語句により、CCライセンスの条件を超えた利用をして著作権者から支払いを求められる場合として、営利目的利用以外の場合が存在しうることを前提としている。さらに、上記の場合に損害賠償の請求ができない前提とされる根拠や慣行もない。
また、仮に被告がアイキャッチのサイズを前提にすると前記条件の遵守が困難になるとしても、本件写真を使用しないこともできたのだから、かかる事情が被告の故意・過失を否定する根拠にはならない。

2.争点2(損害額)[iii]

⑴ 著作権法114条3項(ライセンス料相当額の損害額の推定規定)に基づく損害額

被告は、被告がウェブサイト上に公開した記事紹介のアイキャッチとして表示されるよう、本件写真にリンクを設定したため、当該アイキャッチとして表示された場合に本件写真が公衆送信されることになる。しかし、本件写真自体は鑑賞対象として掲載されておらず、ウェブサイト上の位置付けも小さく、公衆送信の回数も当該記事の公開後も相当に少なかったと推認できる。これらを考慮すると、本件写真に係る公衆送信権侵害についての著作権法114条3項に基づく損害金は1万円が相当である。

⑵ 氏名表示権侵害についての慰謝料

CCライセンス条件自体の違反による権利侵害であるが、実際に本件写真が公衆に提示された機会が前記のとおり限られたものであった等の諸事情に照らせば、氏名表示権侵害に係る慰謝料は3万円が相当である。

⑶ その他

弁護士費用相当の損害金は1万円が相当である。

 

【若干のコメント】

⑴ 全体

本裁判例は、作品に付されたCCライセンス(BY-SA)違反について著作権侵害が成立すると判断した珍しい事例といえる。
最近では、自社コンテンツ等を対外的に発する場面で、CCライセンスが付された第三者の作品を共有サイトに掲載したり、このような作品を自ら利用したりするケースが増えているため、特に下記「⑶」及び「⑷」の記載を念頭に置くのが望ましい。

⑵ CCライセンスの法的性質とライセンス違反

CCライセンスに関しては、単独行為による利用権の許諾とする見解、及び利用許諾契約が成立しているとする見解がある。本件では、裁判所は、両者間の意思表示に関して詳細な事実認定をすることなく、CCライセンスを付与したことをもって利用許諾が成立すると判断しているといえる。なお、後者の見解については、予め所定の利用条件等を表記することにより利用許諾の意思表示とし、ユーザが対象の著作物等を利用した時点で契約が成立する解するものであるが[iv]、CCライセンス「リーガル・コード」前文[v]の定めにも整合しているといえよう[vi]
そして、いずれの見解によるとしても、CCライセンスの付与は著作権法63条1項の利用許諾であり、BY-SAという条件は同条2項の利用許諾の条件となる。本件では、裁判所は、被告が著作者名や作品タイトルを表示しないまま本件写真を配信するという行為がCCライセンスという利用許諾の条件に反し、原告の公衆送信権及び氏名表示権を侵害すると述べる。一方、「仮に…被告による複製権侵害が認められたとしても,原告の損害額が上記金額であることは左右されない。」と述べているとおり、原告の損害発生との関連性が認められない点を考慮したためか、複製権侵害については認定を避けている。

⑶ 権利者側の課題

CCライセンスを法的に執行する場合には、対象作品に著作権があることが前提となる[vii]。本件では、裁判所は、本件写真が「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)であることを前提として、CCライセンス違反により著作権侵害が成立すると判断しているが、著作物とはいえない作品に付されたCCライセンスに違反するようなケースでは同様の判断はできない。いずれの作品に著作権が生じるかは解釈の余地が残されるが、対象作品が著作物でなければ著作権侵害が成立せず、またCCライセンスの適用がなければ契約違反も成立しないため、権利者側が採りうる法的構成や救済手段が限定される場合がある。

⑷ ユーザ側の課題

仮に権利者以外が自己の作品にCCライセンスを付している場合、ユーザとしては本来の権利者の著作権を侵害し、同人よりクレームや訴訟提起等を受けるリスクは残る。真の権利者が同ライセンスを付していても、ライセンス条件として権利非侵害の保証は免責されているので[viii]、仮に作品中に第三者の権利が含まれる場合には同様の事態が生じる可能性が残る点を踏まえておく必要はある。

 

[i] 裁判所は、本件写真について写真の著作物であると認定している。

[ii] クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの公式サイト「FAQ よくある質問と回答」もご参照。

(URL:https://creativecommons.jp/faq/、2024年1月1日最終アクセス)

[iii] 実際は、本件写真には「被告写真1」及び「被告写真2」が含まれるが、裁判所は、後者が表示されるためのリンクは設定されず、公衆送信は非常に少なかったと推認される旨認定している。そのため、本稿では前者に関する認定に焦点を当てている。

[iv] 水野祐「著作権に関する意思表示・権利状態表記ツールの取組み~クリエイティブ・コモンズ、Rights Statementsを例に~」(「情報の科学と技術」72巻3号、2022年)

[v] 「CC BY-NC 4.0 リーガル・コード」前文は「ライセンスされた権利…の行使により、あなたは、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利 4.0 国際 パブリック・ライセンス…の条項に規律されることを受諾し、同意します。本パブリック・ライセンスが契約と解釈されるであろう範囲において、あなたはこれらの利用条件のあなたによる受諾と引き換えにライセンスされた権利を付与されます。」という定めも、同見解と整合しているといえよう」と定める。

(URL:https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/legalcode.ja、2024年1月1日最終アクセス)

[vi] 松田俊治「ライセンス契約法」(有斐閣、2020年)67頁脚注19は、同文言が民法527条の意思実現による契約の成立を志向している可能性を指摘する。

[vii] 前掲・「CCライセンスFAQ」「クリエイティブ・コモンズの組織と活動について」「8.クリエイティブ・コモンズは、著作権に反対しているのですか?」もご参照。

(URL:https://creativecommons.jp/faq/#f8、2024年1月1日最終アクセス)

[viii] 前掲・「リーガル・コード」第5条等

 

以上
弁護士 藤枝典明