【令和3年11月4日(知財高裁 令和3年(行ケ)第10061号)審決取消請求事件】

【キーワード】
不使用取消審判、商標法50条1項

【概要】
 本件は、商標の不使用取消審判における事例判断である。
 被告は、「三相乳化」とするロゴ商標(本件商標)の商標権者である。原告は、指定商品「せっけん類、化粧品、香料類」を、

①「化粧品(界面活性剤を使用せず、その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品を除く。)」(取消2018−300004)

②「界面活性剤を使用せず、その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品」(取消2018−300005)

を含む6つに区分し、6件の不使用取消審判を請求した。上記②については不使用により登録を取消す旨の審決がなされ、確定した。
 一方、①については使用が認められ、登録が維持されたので、原告は本件審決取消訴訟を提起した。
 本判決は、以下のとおり述べて、①について被告による使用を認定した。

第1 判旨抜粋

商標法50条2項の規定に照らし、本件請求に係る指定商品である本件請求 商品についての本件商標の使用の主張立証責任は、被告にあるというべきである。
 その上で、本件請求商品である第3類「化粧品(界面活性剤を使用せず、その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を用いて製造した化粧品を除く。)」について、どの範囲の事実を被告において主張立証すれば上記・・・の主張立証責任が尽くされたといえるかについて検討するに、本件請求商品については、次の点を指摘することができる。

 上記について、本件商標の指定商品のうち第3類「化粧品」についてみると、同一の機会に、同一人の関与の下で、特定乳化技術を用いて製造した化粧品を除く化粧品を請求に係る指定商品とする本件審判請求と、特定乳化技術を用いて製造した化粧品を請求に係る指定商品とする審判請求(取消2018-300005号事件。以下「対の審判請求」という。)とがされたものであるところ、特定乳化技術を用いて製造したものであるか否かという基準による区分は、専ら審判請求人によってされたもので、被告が自ら指定商品を限定するなどしていたものではない。
 特定乳化技術を用いて製造したか否かという基準による区分は、商品及び役務について定める商標法施行令別表及び商標法施行規則別表における各区分又は同各区分に直ちに従ったもの、又は準じたものではなく、商品の製造方法による区分であって、商品の種別を区分するに当たり、一般的、類型的に用いられる基準とはいい難い。そして、本件全証拠をもってしても、特定乳化技術が、要証期間を通じて、「化粧品」という商品の区分に関連する事情として、需要者、取引者に周知のものであったとも認められない。そうすると、そもそも上記基準によって指定商品「化粧品」を更に区分すること自体、指定商品を識別するための区分として相当なものと直ちにいえるか、疑問がないとはいえないところである。

 上記に関し、関係証拠によると、特定乳化技術、すなわち、界面活性剤を使用せず、その代わりに親水性ナノ粒子の物理的作用力を利用した乳化技術を「三相乳化」と呼ぶ例があることが認められるが、証拠・・・には、特定乳化技術が開発されたのは、本件商標の設定登録の日(平成16年6月4日)より後の2005年(平成17年)、特許出願が2006年(平成18年)である旨が記載されており、そのほか原告が特定乳化技術について提出する証拠・・・も、いずれも本件商標の設定登録の日頃以降のものに限定されている。

 他方で、本件パンフレット(甲3の3の9)には、「三相乳化は、30年以上に亘って肌と化粧品の研究に従事され、人間の皮脂が三相になっていることを見出されたA先生が確立された技術です」、「A先生から継承した当社独自のノウハウを用いて乳化をしております。安全性が懸念されている合成界面活性剤やナノ粒子の原料なども用いておりません。」などと記載されており、その記載内容からすると、本件パンフレットに記載された「三相乳化」の技術は、前記・・・の本件商標の設定登録の日より後に呼称されるようになった例が認められる「三相乳化」の技術と同一のものであるとは考え難く、特定乳化技術を指すものとも直ちに解し難い。

 前記・・・の事情を踏まえると、そもそも特定乳化技術を用いて製造したか否かという基準による指定商品の区分が相当かどうかという点はおくとしても、要証期間における本件請求商品についての本件商標の使用の立証について、被告は、特定乳化技術を用いて製造した化粧品を除く化粧品(本件請求商品)を対象とする本件審判請求と、特定乳化技術を用いて製造した化粧品を対象とする対の審判請求を通じてみると、指定商品第3類「化粧品」についての本件商標の使用を立証すれば足り(もっとも、審判請求に係る手続が別個に行われる限り、主張立証はそれぞれの事件について行われる必要がある。)、被告において、要証期間内における第3類「化粧品」に該当する商品についての本件商標の使用を立証した場合には、観念上、当該商品が本件請求商品の範ちゅうに含まれるときは少なくとも本件審判請求が、当該商品が対の審判請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれるときは少なくとも対の審判請求が成り立たないというように、本件審判請求又は対の審判請求のいずれかは少なくとも成り立たない関係にあるものというべきであって、その場合に、当該商品が本件請求商品の範ちゅうに含まれるか、対の審判請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれるかが明確でないとの理由で、いずれの請求も成立すると判断することは、許されないというべきである。このことは、商標法50条2項が、被請求人において、審判請求に係る指定商品又は指定役務の「いずれかについて」の登録商標の使用を証明すれば足りると定めていることにも沿うものである。

 以上のような観点に照らすと、対の審判請求についてその対象とする指定商品の範囲で本件商標の登録を取り消す旨の審決がされて平成30年10月5日に審判の確定登録がされている・・・本件においては、被告の使用に係る「化粧品」に該当する商品が、特定乳化技術を用いて製造したものか否かが明らかでないとしても、当該商品は、特定乳化技術を用いて製造したものではないと推認されると解するのが相当である。

第2 考察

本件では、指定商品「化粧品」に関し、原告がこれを特定乳化技術の使用の有無で区別し、2件の不使用取消審判を請求した。ところが、特定乳化技術は本件商標の設定登録日以降に商標権者以外の者により開発された技術であり、登録日において、商標権者が特定乳化技術を用いていたかどうかは不明であることが認定された。
そこで本判決は、商標権者が立証すべき指定商品についての本件商標の使用の事実について、化粧品に特定乳化技術を使用していないことまでの立証責任を負うことは妥当でなく、化粧品について使用していた事実を立証すれば足りることとし、特定乳化技術を用いていないという事実については、特定乳化技術を用いた化粧品を指定商品とする別件不使用取消審判において、本件商標が不使用により取り消され、確定したことに基づいて推認を行ったものである。
本判決は、立証責任を緩和する根拠として、前記のとおり特定乳化技術が本件商標の設定登録日以降に開発された経緯があることを認定している。これは、商標権者による立証の客観的困難性を基礎づけるものである。そうすると、本件とは異なり、特定乳化技術が登録日以前から知られた技術であり、ただ被告の保有する証拠が不足しているために立証ができないという場合にまで、立証責任の緩和が認められるか否かは、本判決からは明らかでない。
もっとも私見では、元々の指定商品が「化粧品」であり、これを原告が特定乳化技術の利用の有無により恣意的に分離して不使用取消審判を提起したものである以上、商標権者である被告において、特定乳化技術についての立証を求められることを予期できないことから、同様の結論に至るべきである。
更に、仮に本件において、特定乳化技術を用いた化粧品を指定商品とする別件不使用取消審判が請求されていなかった場合はどうであろうか。本判決は、原告が指定商品を恣意的に分離したことにより商標権者である被告が立証責任を果たし得ない事態を招来したことを、立証責任緩和の根拠とする。この点を敷衍すれば、別件審判が提起されていない場合であっても、原告が恣意的に指定商品を特定乳化技術で限定することによって立証の困難性が生ずることに変わりはないから、同様に立証責任を緩和すべきである。もっとも本件では、上記のとおり、別件審判において本件商標の取消が確定していることを、特定乳化技術を用いていないという推認が働く根拠としており、この点については、本判決とは別の理由付けが求められることになろう。

(文責)弁護士・弁理士 森下 梓