【令和3年2月1日判決(知財高裁 令和2年(行ケ)第10107号)】
【キーワード】
著名商標,混同のおそれ,商標法4条1項15号,無効審判,審決取消訴訟
1 事案の概要
本件は、本件商標の商標権者である原告が、被告が特許庁に請求した商標登録無効審判において、本件商標は商標法4条1項15号 に該当して本件商標(登録第555223号)は無効にされるべきと判断した本件審決について、本件審決の取消を求め、提起した訴訟である。
2 知財高裁の判断
知財高裁は、商標法4条1項15号判断の前提として、被告の営業する「すしざんまい」との表示について、①平成24年12月までに,店舗数が39店舗に及んでおり,同年の売上高見込み及びシェアは,全国のすし店において,いずれも第1位であること、②被告は,「すしざんまい」チェーン店の各店舗において,引用商標1を表示した看板や「すしざんまい」の文字を縦書きして表示した行灯を使用し,自己の運営するウェブサイトにおいて,引用商標1を表示した上で,「すしざんまい」チェーン店の各店舗の店舗紹介を掲載していたこと,③テレビ,新聞及び雑誌において,被告が,平成24年1月の東京・築地市場の初競りでクロマグロを過去最高値の1匹5649万円で競り落とし,その紹介の際には,「すしざんまい」の文字が表示され,また,引用商標1を付した看板の映像や写真も掲載されたこと等を理由として、「すしざんまい」の表示は,周知著名であったと認定した。
その上で、「本件商標と引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通すること」,「本件商標の指定商品である「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」は,需要者が一般消費者である点で共通し」,「販売の対象となる商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通することを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用するときは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法4条1項15号に該当するものと認められる。」と判示し、結論として、知財高裁は、本件審決に誤りはないと判断した。
3 検討
本件では、寿司チェーンとして周知著名な表示である「すしざんまい」が存在する場合に、その一部の文字列である「ざんまい」を指定商品「すし」について商標登録が有効に存続できるのか/無効とされるのかが問題とされた。
「ざんまい」と「すしざんまい」の文字列全体を対比すると、この両者は、外観、称呼、観念が異なるので、非類似であるし、両者は混同しないとして、本件でも、「ざんまい」の登録性は維持されるという結論もあり得たところである(実施に、特許庁の審査では、「ざんまい」は登録されている)。
しかし、知財高裁は、「すしざんまい」の周知著名性を考慮すると、「すし」分野に、「ざんまい」の表示を使用すると、需要者は「すしざんまい」を想起し、何らかの関係のある営業主の業務であると混同をするおそれがあるとして、本件商標「ざんまい」は商標法4条1項15号に該当し、無効にされるべきものであるという判断をした。
周知著名商標に関連する商標をビジネスで使用する場合や、これを出願する場合には、特に注意が必要となる点で、本判決は参考になるといえよう。
以上
弁護士・弁理士 高橋正憲
1「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は商標登録を受けることができない。