【令和3年1月12日(大阪地裁 平成30年(ワ)第11672号)】

1 事案の概要

 原告は、第35類(「求人情報の提供」等)、第41類(「求人に関する講習会の企画・運営又は開催」等)を指定役務として、商標「Re就活」(以下「本件商標」という。)に係る登録商標(商標登録第4898960号)を保有している。原告は、インターネット上に本件商標を掲げたウェブサイトを開設し、求人企業の依頼を受けて、「第二新卒」と称される若年転職希望者を中心とする20代の求職者を対象とした求人広告や就職活動に関する情報を掲載するとともに、会員登録をした求職者に対し、希望条件等に合致する求人企業の求人情報等のメールを送信するサービスを実施していた。
 これに対し、被告は、「リシュ活」を含む標章(以下「被告標章」という。)を使用し、求人者に対し就職情報を提供する等のサービス、求人企業向けに会員登録した求職者の履修履歴情報を検索可能な状態で提供する等のサービスを提供していた。
 本件は、原告が被告による被告標章の使用が本件商標に係る商標権を侵害するとして、被告に対し、被告標章の使用の差止め等を求める事案である。

2 判示内容(判決文中、下線部や(※)部は本記事執筆者が挿入)

 裁判所は、被告標章の使用の対象となる被告役務は、本件商標の指定役務と同一又は類似ということができるとして、以下のとおり、本件商標と被告標章の類否について検討した。
⑴ 需要者とサービス(役務)利用方法の認定
  裁判所は、外観、称呼、観念の検討を行う前に取引の実情について、以下のとおり、原告事業と被告役務の需要者が複数いることを認定し、各需要者がどのようにそれぞれのサービスを利用するかを認定した。

(1) 取引の実情について
 ア 原告の事業
 (ア) 本件商標は、…原告による第二新卒を中心とする20代の求職者を対象としたウェブサイト上での求人情報等の提供、求人企業の求人情報等のメール送信等に係る役務の名称として用いられており、新卒者を対象とする役務については別の名称で行っているから、本件商標に係る役務の需要者は、第二新卒を中心とする新卒以外の若年求職者の採用を希望して求人広告等を依頼しようとする求人企業と、第二新卒を中心とする新卒以外の若年求職者であると認められる。
 (イ) 証拠…によれば、求職者が本件商標に係る役務を利用するに当たり、ウェブサイト上の求人情報を閲覧するには特段の手続きは必要ないが、個別に求人情報メールを受信する等のサービスを受けるには、原告のウェブサイト上で氏名及びメールアドレスを登録して会員規約に同意して会員登録をする必要があることが認められる。また、証拠…によれば、求人企業が本件商標に係る役務を利用するには、原告に対し、企画参加申込書を提出して、所定の金額に係る契約を締結する必要があることが認められる。
 イ 被告役務
 (ア) 被告標章…は、…被告による大学等での履修履歴、成績等を登録した者を対象としたウェブサイト上での求人情報等の提供、スマートフォン用アプリケーション上での求人企業からのオファーメッセージの送受信等を内容とする被告役務に使用されている。  証拠…によれば、…履修履歴データベースへの履修履歴、成績等の登録は、株式会社大学成績センターのウェブサイトにおいて行われており、同サイトでは、学生用であることが明示されていることが認められるから、被告役務は、基本的に大学等に在学中の者の利用が想定され、履修履歴データベースへの登録を前提とする被告役務の利用者も、大学等に在学中の者が想定されているものと認められる。  そうすると、被告役務の需要者は、新卒の求職者を採用するために広告や勧誘メッセージの送信を希望する求人企業及び就職を希望する学生であると認められる。…
 (イ) 証拠…によれば、学生が被告役務を利用するには、メールアドレス、電話番号、現住所と学校情報を登録した上で、アプリをダウンロードすることが必要であり、それのみで先輩社員情報等の求人企業の広告やイベント情報などを閲覧することはできるが、先輩社員情報のレコメンド表示やオファーメッセージの受信には履修履歴データベースへの履修履歴(卒業予定年、学校名、学部名、学科名、講義名、成績評価、単位数)の登録が必要であることが認められる。また、証拠…によれば、求人企業が被告役務を利用するには、オファーメッセージ数に応じた料金に係る企画(パック)を選択し、被告の加盟企業を通じて、履修履歴オファーサービス利用申請書を提出する必要があることが認められる。

⑵ 本件商標(「Re就活」)と被告標章(「リシュ活」)の類否
ア 外観・称呼・観念の三点観察
 裁判所は、本件商標と被告標章における外観、称呼及び観念の対比について、外観、観念(※)は異なるものの、称呼においては「極めて類似している」とした。
(※)本件商標からは「通常の時期よりも後に行う就職活動」ないし「再び行う就職活動」の観念が生じるとする一方、被告標章からは特定の観念を生じないとしている。

 …本件商標は、欧文字2文字と漢字2文字からなっており、カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章…とは、語尾の「活」の一文字のみが共通しているに過ぎず、欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから、外観は同一ではなく、類似するものとも認め難い。  また、被告標章…からは特定の観念を生じないため、観念の点において、両者が同一又は類似ということはできない。  しかしながら、称呼においては、両者は長音の有無が異なるに過ぎず、長音は他の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから、離隔的に観察した場合、同一のものと誤認しやすく、極めて類似しているといえる。被告は、アクセントが異なると主張するが、本件商標も被告標章…も造語であるため、固定したアクセントがあるわけではなく、時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほど、印象が異なるものとは認め難い。

イ 取引の実情
 その上で、裁判所は、以下のとおり、取引の実情を検討し、需要者のうち、求人企業においては、各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討すること等を理由に挙げ、本件商標と被告標章の誤認混同は生じないとした。

 取引の実情を踏まえて検討するに、需要者である求人企業においては、前記認定のとおり、本件商標に係る役務についても、被告役務についても、役務利用に当たっては文書による申込みを要し、役務のプランを選択し、相応の料金を支払うものであり、新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異なる重要な活動の一環として行われる取引であるから、求人に係る媒体の事業者が多数ある中で…、どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは、各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ、外観や観念が類似しない本件商標と被告標章…について、需要者である求人企業が、称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。

 一方で、需要者のうち、求職者については、複数のサイトに会員登録することに何ら制約がないこと等から、役務の名称を見てとりあえず会員登録することもあると考えられること、そして、インターネット上で称呼に基づく平仮名・カタカナでの検索も一般に行われていること、検索エンジン側であいまいな表記による検索にも対応できていること等を考慮し、「需要者である求職者は、外観よりも称呼を強く記憶し、称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである」とした。結論として、本件商標と被告商標の誤認混同が生じるおそれがあるとした。

 しかしながら、求職者についてみると、…本件商標に係る役務も被告役務も、利用のための会員登録は簡易であり、無料で利用できる上、証拠…によれば、多数の他の求人情報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており、気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ、情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で、複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく、現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると、求職者については、必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく、会員登録が無料で簡易であるため、役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。
 そして、本件商標も被告標章…も短く平易な文字列であり、発音も容易であること、本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ、インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては、検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり、正確な表記ではなく、称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており、ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば、需要者である求職者は、外観よりも称呼をより強く記憶し、称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。
 そうすると、求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば、需要者に与える印象や記憶においては、本件商標と被告標章…とでは、前記外観の差異よりも、称呼の類似性の影響が大きく、被告標章…は特定の観念を生じず、観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから、前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において、被告標章…を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり、本件商標に係る役務と被告役務とが、同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。

3 若干のコメント

 本判決は、本件商標に係る事業が提供する役務と、被告標章に係る役務の内容について、その需要者(求職者か求人企業か)の性質の違いを意識し、各需要者がどのように当該役務を利用するかを丁寧に検討し、グルーピングした需要者毎に誤認混同が生じるかどうかを検討した例として、参考になる。特に、同一商標をもって複数の需要者(BtoB、BtoC)を対象とするサービスを提供する事業者にとっては、対企業、対一般消費者によって誤認混同の可能性について異なる判断があり得るということで、本判決は参考になろう。

以上

弁護士 藤田達郎