【令和3年10月28日(大阪地裁令和2年(ワ)第9699号)】

1 事案の概要

原告(写真家)は、撮影した写真を被告(神社)に無償で利用を許諾していたが、原告と親交のあった被告の広報担当者が被告を退職したことに伴い、令和元年9月13日に利用許諾を解約した。被告は、令和元年9月以降も令和2年12月2日まで、当該写真のデータをインターネット上に掲載していた。そこで原告は、被告が当該写真のデータをインターネット上に掲載した行為は、本件使用写真に係る原告の著作権(公衆送信権)の侵害であると主張して、被告に対し、著作権に基づく本件写真のインターネット上の掲載、自動公衆送信、送信可能化の差止め(著作権法112条1項)及び抹消、廃棄(同条2項)を求めると共に、著作権法114条3項に基づく損害賠償を求めた、という事案である。

2 争点1 本件利用許諾に基づく利用許諾の終期

(1)原告の主張

本件利用許諾は、原告の知的財産である本件写真を、無償で被告に使用収益させ、契約が終了したときは使用収益を終了することを約する契約であるから、使用貸借に類似する契約であり、民法597条3項<現・民法598条2項>を類推適用するべきである。

(2)被告の主張

本件利用許諾には期限の定めがなく、被告及び原告の信頼関係に基づいて継続的な契約関係が続いていたことからすると、その解消にはやむを得ない事由や信頼関係を破壊する行為が必要である。
しかし、原告が本件解約告知をした理由は、P2(原告と親交のあった被告の広報担当者)が退職を余儀なくされたことに対する報復のためであり、P2の退職は被告とP2との間の問題であって、原告と被告との間の本件利用許諾を解消するにあたってのやむを得ない事由や信頼関係を破壊する行為に当たらない。被告は、原告の撮影した写真を無償で利用できるからこそ、一般人に撮影を許諾していない行事等の撮影を認め、原告自身のウェブサイト等で公開することを認めていたものであって、一方的に原告側の利用許諾のみを解消することはできない。

(3) 裁判所の判断

本件利用許諾は、原告が継続的に被告の協力の下で貴船神社の年中行事等の写真を撮影して被告に提供し、被告において提供を受けた写真をウェブサイトやSNS等に使用して、被告の広報あるいは宣伝に利用する一方で、原告においても前記写真を適宜SNSで利用し、原告の宣伝広告に役立てることを、無期限かつ無償で承諾することを内容とする包括的な合意と解される。

原告は、本件利用許諾により原告が受ける利益はないと主張するが、被告の協力により一般参拝者では撮影困難な構図の写真を撮影することができ、被告の広報写真に採用されていることを実績とすることができる点で、一定の利益があることは否定できない。

そうすると、本件利用許諾は、単に原告が過去に撮影した写真の利用を個別に一時的に許諾するものではなく、継続的に撮影した多数の写真を、相互に広報、宣伝に利用することを前提とした複合的な合意といえるものであって、民法上の使用貸借契約の規定を単純に類推適用するのは相当ではない。

<<中略>>

本件利用許諾は、無償であるとはいえ、双方の活動又は事業がその継続を前提として形成されることが予定され、長期間の継続が期待されていたということができ、個別の事情により特定の写真について利用を停止することは別として、本件写真全部について、一方的に利用を直ちに禁止することは、当事者に不測の損害を被らせるものというべきであって、原則として許容されないものというべきである。

もっとも、本件利用許諾は、信頼関係を基礎とする継続的なものであるから、相互に、当初予定されていなかった態様で本件写真が利用されたり、当初予定されていた写真撮影の便宜が提供されないなど、信頼関係を破壊すべき事情が生じた場合には、催告の上解除することができると解される(民法541条)。また、本件利用許諾が、原告が著作権者である本件写真を、期限の定めなく無償で利用させることを内容とするものであることを考慮すると、上記解除することができる場合にはあたらない場合であっても、相手方が不測の損害を被ることのないよう、合理的な期間を設定して本件写真の利用の停止を求めた上で、同期間の経過をもって本件利用許諾を終了させることとする解約告知であれば、許容される余地はあるものと解される。

<<中略>>

    原告が一方的に解約告知をした場合に、本件利用許諾の終了に至る予告期間としては、原告が削除等を要求した令和元年9月13日から1年3か月後の令和2年12月12日までを要すると認めるのが相当である。

3 争点2 差止及び抹消、廃棄の必要性

(1) 原告の主張

被告は、本件解約告知後も、被告のウェブサイトに本件使用写真を掲載し続けていた。被告は、被告のウェブサイト上では本件使用写真を別の写真に差し替えているが、令和3年2月28日時点で、本件写真のデータ自体はサーバ上に残されており、被告次第でいつでも利用できる状態にある。

(2) 被告の主張

被告は、本件解約告知を受けて、紛争状態にある原告との関係を解消することとし、令和2年11月23日の新嘗祭の撮影により1年間の写真がそろったことから、同日、被告のウェブサイトをリニューアルし、同年12月2日、YouTubeの被告のアカウントサイトも変更し、本件使用写真を一切使用しないこととした。また、被告は、同月8日、保有していた本件写真のデータを全て削除した。

(3) 裁判所の判断

被告は、カンバス及びP5との間の業務委託契約に基づき、写真撮影及びウェブサイト等の更新を終え、本件使用写真を掲載しないように広告媒体の再構築を終えているものと認められ、本件写真のデータを全て削除したのであるから、被告において、将来、本件写真をインターネット上に掲載し、自動公衆送信又は送信可能化するおそれがあるとは認められない。

4 若干のコメント

本件は、著作物の無償での使用許諾について、使用貸借の規定の類推適用を認めなかった事例であり、その上で、解除するには、信頼関係を破壊すべき事情が必要であり、それがない場合には合理的な期間の解約予告期間が必要であると判示した事例である。
無償での使用許諾であっても、双方の活動又は事業がその継続を前提として形成されることが予定され、長期間の継続が期待されるような場合には、その全部について利用を禁止することは許容されない点に注意が必要である。
もっとも、本件で、解約予告期間として、1年3か月もの期間を要すると判示されたのは、当該写真が神社の1年の行事を写したものであり、その差し替えには1年以上かかるという事情によるものであると思われるため、同様の事案で、必ずしもこのように長期の解約予告期間が認められるとは限らず、個別の事情に応じた検討が必要となると考えられる。

以上
弁護士 多良翔理