【令和5年5月18日(東京地裁 令和4年(ワ)第13979号)】
【ポイント】
アパレルの宣伝広告の写真の著作物性や同一保持権侵害の規範・具体的判断について述べた事案
【キーワード】
写真
著作物性
著作権法20条
同一性保持権
第1 事案
本件は、原告が被告に対して、被告がSNS上に、原告が著作権を有する写真又はその写真を修正した写真を掲載した行為について、著作権(複製権、翻案権、公衆送信権及び送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害すると主張して、被告に対し、差止めや損害賠償請求を求めた事案である。以下では、写真の著作物性及び同一性保持権の争点について述べる。
第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)
1 争点 1(原告写真の著作物性)及び争点 2(原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者)について
(1) 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであり(著作権法2条1項1号)、写真の著作物もこれに含まれる(同法10条1項8号)。写真は、被写体の選択、組合せ、配置、陰影もしくは色彩の配合、構図もしくはトリミング、部分の強調もしくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピードもしくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり、写真を写真の著作物として保護するためには、これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され、その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。
証拠(甲68)及び弁論の全趣旨によれば、原告写真は、2016年(平成28年)8月7日~2020 年(令和 2 年)9 月 30 日の間に撮影されたものであること、撮影は、原告の取扱商品の販売促進目的で行われたこと、被写体は、原告自身がモデルとなっている場合、原告以外の人物がモデルとなっている場合及び商品自体が撮影されている場合があること、原告自身がモデルとなっている原告写真の撮影は、自撮り又は三脚を用いて原告自身が行った場合と原告がスタッフに指示して行われた場合とがあること、原告以外の人物がモデルとなっている場合及び商品自体が撮影された場合の撮影は原告自身が行ったこと、いずれの撮影方法による場合においても、撮影にあたり、原告は、商品がより良く見える写真とするために、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度及び位置等を工夫したことが認められる。
これらの事情を踏まえると、原告写真は、いずれも原告を撮影者とするものといってよく、また、撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現され、その個性が表されているものといえる。
したがって、原告写真は、いずれも写真の著作物といえると共に、原告は、その著作者として原告写真の著作権及び著作者人格権を有することが認められる。
(2)被告の主張について
ア 原告写真の著作物性について
この点につき、被告は、商品が単体で撮影されている場合、商品1点を被写体の人物が着用している場合、複数の商品を着用した被写体の人物が自ら撮影している場合及び複数の商品を着用した被写体の人物が第三者に撮影されている場合に大きく分けた上で、構図、撮影方法及び撮影場所の選択等の点で創意工夫が認められないなどと指摘して、原告写真はいずれも著作物とはいえない旨を主張する。
確かに、原告写真を構成する個別の要素に着目すれば、表面的には他の写真においても見受けられるものが存在するようにも思われる。しかし、原告写真は、原告の取扱商品の販売促進目的で撮影されること以外には明確な制約がなく撮影されたものとみられ、また、撮影対象とされる商品の種類は多数に上ることを踏まえると、商品そのものを単体で撮影するか、被写体の人物に身に着けさせて撮影するか、後者の場合、1 点の商品のみを着用させるか、複数の商品を組み合わせて着用させるか、また、撮影を被写体の人物自らが行うか、第三者に撮影させるかといった観点からだけでも、その組合せは相当多数に上ることは多言を要しない。これに、着用する商品のコーディネートや撮影場所の選択、被写体の人物の体勢や物の配置、背景といった構図等の要素をも加味すると、原告写真において、撮影者がその思想又は感情を創作的に表現し、その個性を表す余地は相当に広いというべきである。こうした事情を総合的に考慮すると、被告が縷々指摘する諸事情を考慮したとしても、なお原告写真はいずれも著作物と認めるに足りるものといえる。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 原告写真の著作者及び著作権者・著作者人格権者について
この点について、被告は、原告写真のうちいずれが自撮り撮影されたものであるかは明らかでなく、その被写体の人物が原告自身かどうかも不明であり、また、原告がスタッフに指示して撮影させたものについては、指示の内容等によってはスタッフが著作者である可能性もあることを指摘して、原告写真の著作権者・著作者人格権者が原告であるとはいえない旨を主張する。
しかし、原告の陳述書(甲 68)においては、上記認定のとおりの事実が陳述されているところ、原告が、モデル兼経営者として、アパレルを自らが共同代表を務める会社を通じて販売していることに鑑みると、その陳述内容には合理性があるといってよく、他方、その信用性を疑うべき具体的な事情は見当たらない。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(省略)
4 争点 3-3(同一性保持権侵害の有無)について
(1)著作者は、その著作物の同一性を保持する権利を有し、その意に反してその変更、切除その他の改変を受けない(著作権法 20 条 1 項)。この同一性保持権は、著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨のものであることから、著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえないと解される。その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行うべきものである。
(2)まず、被告写真のうち、原告写真と全く同一と見られる被告写真 20、21、23、26、29、36、40、42、56、62、64、67、69、71、72、139、140、142、143、242、243、250、251、267、274、278、298、300、309、310、329 については、そもそも改変が認められないことから、著作者である原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものとはいえない。これに反する原告の主張は採用できない。
他方、原告写真の翻案といえる被告写真 45、205、213、264、265、268~273、275~277、279、280、282~284、288~290、292、293、295、296 は、その改変により原告写真とは別の著作物を創作するに至ったものであるから、著作者である原告の意に反する改変を行ったものといえる。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
(3)被告写真 1~19、22、24、25、27、28、30~35、37~39、41、43、44、46~ 55、57~61、63、65、66、68、70、73~90、92~138、141、144~204、206~212、214~241、244~249、252~263、266、281、285~287、291、294、297、299、301~308、311~328、330~336 については、対応する原告写真の上下左右の一部を切除したものと見られる点で、原告写真を改変したものといえる。もっとも、このうち被告写真 10~15、22、24、28、31、32、34,35、37、39、41、55、58~61、63、68、 70、74~76、131、136~138、141、148、149、151、153~155、238、241、252、285~287、299、303、305、330、331 については、その切除の程度が一見してはわからないほどごく僅かであり、相当に注意深く観察してようやく僅かに切除されている部分を把握し得る程度に過ぎない。
そうすると、被告写真 10~15、22、24、28、31、32、34,35、37、39、41、55、 58~61、63、68、70、74~76、131、136~138、141、148,149、151、153~155、238、241、252、285~287、299、303、305、330、331 については、その改変の程度はなお客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものにとどまり、著作者の意に反する改変とはいえないとするのが相当である。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたらない。
他方、被告写真 1~9,16~19、25、27、30、33、38、43、44、46~54、57、65、 66、73、77~90、92~130、132~135、144~147、150、152、156~204、206~212、214~237、239、240、244~249、253~263、266、281、291、294、297、301、302、304、306~308、311~328、332~336 については、切除部分が一見して明らかであるところ、原告写真は、原告の取扱商品の販売促進を目的としたものとはいえ、商品をより良く閲覧者に見せるために構図、撮影方法、撮影場所の選択その他の点で工夫がされたものであることに鑑みると、その改変は客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものとはいえず、著作者の意に反する改変といえる。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたる。以上に反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
第3 検討
本件は、アパレルの宣伝広告の写真の著作物性や同一保持権侵害の規範を述べた裁判例である。
まず、本判決は、写真の著作物性について、従前の裁判例が判示した内容と同様に、「写真は、被写体の選択、組合せ、配置、陰影もしくは色彩の配合、構図もしくはトリミング、部分の強調もしくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピードもしくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり、写真を写真の著作物として保護するためには、これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され、その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。」と述べた。そして、「撮影にあたり、原告は、商品がより良く見える写真とするために、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度及び位置等を工夫したこと」等を認定し、原告の写真の著作物性を認めた。
この点について、被告は、原告の写真は個々の諸要素を見れば、創意工夫がされていないので著作物性はない旨と主張をした。しかし、本判決は、商品の撮影態様(単体で撮影するかや被写体の人物と一緒に撮影するか等)や着用する商品のコーディネート、撮影場所の選択、被写体の人物の体勢や物の配置、背景といった構図等の要素を選択しえるので、個性を表す余地は相当に広い旨を述べ、被告の当該主張を排斥した。本判決のこの内容は、写真の著作物性、特に商業写真の著作物性を判断する上で重要な要素が挙げられており、実務上参考になる。
次に、本判決は、同一性保持権については、「著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえないと解される。その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行うべきものである。」と述べた。このように、本判決は、同一性保持権侵害の規範として、「通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のもの」であるか否かという点を提示した。
そして、その具体的な判断としては、本判決は、原告の写真の上下左右の一部を僅かに切除したもので、相当に注意深く観察してようやく僅かに切除されている部分を把握し得る程度に過ぎない写真については、「その改変の程度はなお客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものにとどま」ると述べ、同一性保持権侵害はないと判断した。
他方で、原告の写真において切除部分が一見して明らかであるものについては、「原告写真は、原告の取扱商品の販売促進を目的としたものとはいえ、商品をより良く閲覧者に見せるために構図、撮影方法、撮影場所の選択その他の点で工夫がされたものであることに鑑みると、その改変は客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものとはいえ」ないと判断し、同一性保持権侵害があると判断した。
このように、本判決は、写真、特に商業写真の著作物性判断に重要な要素や同一保持権侵害の規範及び具体的な判断を提示しており、実務上参考になる。
以上
弁護士 山崎臨在

