【令和4年6月29日判決(知財高裁 令和4年(ネ)10005号)】

【キーワード】
著作権法、公衆送信権、幇助行為、違法アップロードサイト、広告

【事案の概要】

 「漫画村」という名称のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)上に、被控訴人(原審原告)が著作権を有する漫画(以下「原告漫画」という。)の少なくとも一部がアップロードされ、その公衆送信権を侵害された被控訴人が、控訴人エムエムラボ及び控訴人グローバルネット(原審被告。以下、併せて「控訴人ら」という。)らに対し、本件ウェブサイトに広告を提供して本件ウェブサイトの管理運営者に広告料を支払ったという控訴人らの一連の行為(以下「本件行為」という。)が、上記侵害についての幇助行為に当たると主張して、不法行為(民法719条1項・2項、709条)に基づき、損害賠償等を請求した。

【争点】

⑴ 控訴人らの共同不法行為責任の有無
⑵ 被控訴人の損害額

【判決(一部抜粋)】

※以下に抜粋する判決は、控訴審判決に従って原審判決を添削した上、控訴審における追加主張への判断を一部追加したものであり、また下線は筆者による。
第1・第2・第3⑴ 省略
(2)  上記認定事実に基づき,以下判断する。
ア 争点1-1(本件行為の幇助行為該当性等)及び争点1―2(控訴人らの行為と被控訴人の損害との間の一般的な因果関係の有無)について
(ア) 控訴人らの本件行為が、本件ウェブサイトにおける原告漫画の無断掲載行為という著作権(公衆送信権)侵害行為を共同して幇助する行為に当たるかについて検討する。
(イ) 本件ウェブサイトの運営実態を見ると,本件ウェブサイトの運営者は,5万冊以上もの漫画作品をインターネット上に掲載していたが,原告漫画を含め,本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを,著作権者の許諾を得ずに無断で掲載する一方,利用者において無料でそれらの漫画を閲覧することができるようにし,発行翌日に新作閲覧ができるようにするなどのこともして利用者の誘引や閲覧数の増大を図り,費用は広告収入で賄う仕組みを作り上げ,本件ウェブサイトの開設から2年後には,月間の閲覧数が延べ1億7000万人を突破するなど,本件ウェブサイトの利用者は相当の規模に上っていたことが認められる。
(ウ) そうすると,本件ウェブサイトは,その利用者からの支払によりこれを運営するための経費(本件ウェブサイトが使用するサーバ等,その維持管理に必要となる費用や本件ウェブサイトの運営者等の得る報酬等)を賄うことが構造上予定されず,その規模を増大させることにより,本件ウェブサイト上での広告掲載効果を期待する事業主を増加させ,その運営資金源のほとんどを,広告事業主から支払われる広告料によって賄う仕組みであったことがうかがわれるのであって,当該広告料収入がほとんど唯一のその資金源であったというべきである。このような本件ウェブサイトの運営実態からすると,本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払うという行為は、一般的に,その構造上,本件ウェブサイトを運営するための上記経費となるほとんど唯一の資金源を提供することによって,原告漫画を含め,本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを,著作権者の許諾を得ずに無断で掲載するという本件ウェブサイトの運営者の行為,すなわち,公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)といえるものである。
(中略)
 したがって、控訴人らが共同して遂行していた本件行為は、原告漫画についての公衆送信権の侵害行為を幇助する行為に当たるというべきである。
 また、控訴人らが共同して遂行した本件行為という幇助行為の結果、本件ウェブサイトを利用して原告漫画が閲覧されることとなり、その結果、原告漫画の売上げ減少による損害等が発生したと認められ、控訴人らの本件行為と被控訴人の損害との間に相当因果関係が存在するというべきである。
(中略)
イ 争点1-3(被告らの故意又は過失の有無)について
(ア) まず、①平成29年に至るまでの間に、広告収入が違法サイトの収入源となっていることが大きな問題とされ、広告配信会社の多くにおいても一定の方法で広告を出したサイトに違法な情報が掲載されていないかを調べるなどの手段を講じていたことや、官民共同の取組として、海賊版サイトを削除するという対策を継続的に行うほか、周辺対策として広告出稿抑止にも重点的に取り組んでいくことが確認されていたことが指摘できる。そのような状況において、②本件ウェブサイトについては、平成29年4月までの時点で、登録不要で完全無料で漫画が読めるとされるサイトであり、検索バナーが必要な程度に大量の漫画が掲載されていることが一見して分かる状態にあったもので、ツイッター上でも、違法性を指摘するツイートが複数されていたところであった。また、③本件ウェブサイトについては、遅くとも平成29年5月10日時点において、日本の著作物について、著作権が保護されないという前提で掲載されていること等が閲覧者に容易に分かる状態となっていた。
 控訴人エムエムラボは、「MEDIADⅡ」1 を利用して本件ウェブサイトに広告の配信を開始するに当たり、本件ウェブサイトの表題及びURLの提示を受け、運用チームにおいて、それらを含む情報に基づいて登録の可否を審査して承諾し、手動で広告の配信設定をしたものであるところ、前記①~③の事情を踏まえると、遅くとも平成29年5月までの時点で、控訴人らにおいては、本件ウェブサイトに掲載された多数の漫画が著作権者の許諾を得ることなく掲載されているものであることや、そのように違法に掲載した漫画を無料で閲覧させるという本件ウェブサイトが広告料収入をほぼ唯一の資金源とするものであること、それゆえ控訴人らが本件ウェブサイトに広告を提供し広告料を支払うことは本件ウェブサイトの運営者による著作権侵害行為を支える行為に他ならないことを、容易に推測することができたというべきである。
 そうすると、控訴人らは、遅くとも平成29年5月時点で、本件ウェブサイトの運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応すべき注意義務)を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、本件行為を遂行したことについて、控訴人らには少なくとも過失があったと認められる。
 上記に関し、控訴人らが平成29年5月時点で上記の注意義務を怠り、その後、安易に本件行為を継続的に遂行していたことは、控訴人グローバルネットが海賊サイト対策の取組を推進していたJIAAの会員であり、また、「MEDIADⅡ」の利用規約によると本件ウェブサイトが第三者の著作権を侵害するものである場合にはその利用に係る契約を解除し得る旨が定められていたにもかかわらず、その後、同年10月31日に控訴人らの取引先に係る違法サイト「はるか夢の址」の運営者の逮捕が報道されたり、本件ウェブサイトの違法性が社会的により大きく取り上げられ、平成30年2月2日には取引先から本件ウェブサイトが海賊版サイトであると記載した上での問合せを受けたといった事情があった中でも、控訴人らにおいて、本件ウェブサイトへの「MEDIADⅡ」を利用した広告の提供等の当否について検討したことが一切うかがわれず、かえって、取引先に対し、「漫画村」という名称を明記しつつ、同年3月2日には本件ウェブサイトへの広告の掲載が可能であると回答したり、同月23日には広告の効果がいいという根拠の一つとして本件ウェブサイトの保有を挙げたりしていたもので、ようやく同年4月13日に本件ウェブサイトを名指ししてブロッキングを行うという方針を政府が表明して以降に初めて本件ウェブサイトへの配信停止の検討を開始したといった事情によっても裏付けられているというべきである。
 これらによれば,被告らがDを介して本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為(幇助行為)は,前記注意義務に違反した過失により行われたものといわざるを得ない。
(中略)
ウ まとめ
 前記ア及びイによると、控訴人らは、本件ウェブサイトにおける被控訴人の著作権(公衆送信権)の侵害行為を幇助したものとして、共同して不法行為責任を負うというべきである。
3  争点2(被控訴人の損害額)について
(1)  著作権法114条1項に基づく主張(当審における追加主張)について
ア(ア) 著作権法114条1項に基づく損害の算定について、被控訴人は、1PVで漫画1冊の閲覧が可能であったとして漫画1冊当たり1PVと主張するのに対し、控訴人らは、ページを切り替える度にPVがカウントされている可能性があるためPVを原告漫画のページ数で除した数をもって公衆送信を行った数量と認めるべきであると主張する。
 そこで検討するに、証拠(甲51)及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトにおいては、ウェブページを切り替えることなく漫画の全ページを閲覧することができたものと認められるから、漫画1冊の全てのページを閲覧しても、1PVのみのカウントとされることもあったことが認められる。したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
 もっとも、他方、証拠(甲4、10、11)によると、そもそも本件ウェブサイトの訪問者において、特定の漫画の閲覧を開始するまでに、何度かウェブページを切り替える必要があったこともうかがわれることから、被控訴人の上記主張も直ちに採用し難い。
 以上の事情に加え、証拠(乙17)及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトへの訪問者一人当たり10.69PVであったと認められること(なお、乙17において、PVは、これに月間の訪問者数及び1ページ当たりの広告枠の数を乗じると広告の月間表示回数(インプレッション数)が算出できるものとして記載されており、あくまで広告が表示されるウェブページを基準にしたものであることが窺われる。)を踏まえた上で、本件ウェブサイトの訪問者が、基本的に、無料で漫画を閲覧できるという本件ウェブサイトの誘引力により本件ウェブサイトを訪れたものと考えられることからして、本件ウェブサイトを訪問した場合、特に原告漫画のような連載ものの漫画の場合は一度の訪問で複数巻を閲覧することが十分に考えられる一方で、途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられること、その他、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能というべきこと、著作権法114条1項に基づく損害に係る当事者双方の主張等を総合的に考慮すると、少なく見積もったとしても、平均して、漫画1冊当たりの「受信複製物」の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らないものと認める(換言すると、「受信複製物」の数量をPVの約5%、二度の訪問当たり1冊にとどめることとする。)のが相当である。
(イ) 証拠(甲5、8)及び弁論の全趣旨によると、平成29年4月から平成30年4月17日(本件ウェブサイトの閉鎖日)までの期間において、本件ウェブサイトの訪問者は、少なくとも月間で延べ1億人であったことが認められる。そして、証拠(甲5、乙23)及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトで閲覧し得た漫画の数は、5万冊~7万冊程度であったと認められるから、その中間値である6万冊を採用して、本件ウェブサイトに掲載されていた漫画1巻当たり、平均して、月間1666人(1億÷6万。小数点以下切捨て。以下同じ。)の訪問者を得ていたとみるのが相当である。
 その上で、前記(ア)の点に加え、原告漫画の発行部数等のほか、証拠(甲1、45、47、乙15)からして、原告漫画については、被控訴人が主張するとおり上記平均の2倍程度の訪問者を得ていたとみるのが合理的であることを踏まえると、結局、原告漫画1巻当たりの「受信複製物」の数量は、月間1666冊(1666×0.5×2)を下回るものではないと認めるべきである。
イ(ア) 訂正して引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1の前提事実の(3)イのとおり、原告漫画1については、平成29年4月21日から同年6月24日にかけて、少なくとも第1巻、第6巻~第15巻及び第24巻が掲載されたものであり、原告漫画2については、同年11月18日までに掲載されたものであるところ、同年6月26日当時の本件ウェブサイトの画面に係る甲10によると、原告漫画1の上記各巻の掲載は、より具体的には、次の順でされたことが認められる。
  a 同年4月21日 原告漫画1の第6巻
  b 同年4月22日 原告漫画1の第7巻・第8巻
  c 同年4月23日 原告漫画1の第9巻・第10巻
  d 同年4月24日 原告漫画1の第11巻
  e 同年4月30日 原告漫画1の第12巻・第13巻
  f 同年5月1日 原告漫画1の第14巻・第15巻
  g 同年5月6日 原告漫画1の第24巻
  h 同年6月24日 原告漫画1の第1巻
(イ) 前記(ア)の掲載の状況に加え、同年6月26日現在の本件ウェブサイトの画面に係るものと認められる甲10は、原告漫画1が掲載されたウェブページの1ページ目であるところ、そこには既に原告漫画1の第24巻を含めた上記各巻(合計12巻分)の表紙の画像が掲載された下に、次ページ(2ページ)に移動することができることを示すものとみられる表示があり、原告漫画1を掲載したページが他に存在していたとみられることや、同年5月10日当時の本件ウェブサイトの画面に係る甲38には、漫画が途切れているところがあったり抜けがある場合、連絡をもらえれば対応できる場合3日以内に対応する旨の記載があることのほか、原告漫画2については全巻が掲載されていたこと(なお、証拠(乙15、16)及び弁論の全趣旨によると、原告漫画2は原告漫画1の続編と認められる。)を考慮すると、原告漫画1の第2巻~第5巻及び第16巻~第23巻は、遅くとも同年6月26日までの間に本件ウェブサイトに掲載され、原告漫画1の第25巻~第38巻も、遅くとも同年11月18日までに本件ウェブサイトに掲載されたものと推認するのが相当であり、この推認を覆す事情はない。
(ウ) そうすると、本件ウェブサイトに掲載されていた原告漫画の巻数については、次のように整理することができる。
  a 平成29年4月21日 1巻分
  b 同年4月22日 3巻分
  c 同年4月23日 5巻分
  d 同年4月24日~同月29日 6巻分
  e 同年4月30日 8巻分
  f 同年5月1日~同月5日 10巻分
  g 同年5月6日~同年6月23日 11巻分
  h 同年6月24日~同年6月25日 12巻分
  i 同年6月26日~同年11月17日 24巻分
  j 同年11月18日~平成30年4月17日 53巻分
ウ 他方で、訂正して引用した原判決の第3の1(1)オのとおり、被控訴人は、原告漫画1冊当たり46.2円の利益を得られた(控訴人らも、同額を著作権法114条1項の「単位数量当たりの利益の額」とみることについては特に争っていない。)。
エ 前記ア~ウを踏まえると、本件ウェブサイトにおける原告漫画の閲覧に関して被控訴人が得られたであろう利益は、次のように算定することができる(=本件ウェブサイトに掲載されていた原告漫画の巻数×1巻当たり1か月当たりの受信複製物の数量1666冊×原告漫画1冊当たりの被控訴人の利益46.2円×月数。なお、争点1-3について既に被控訴人の主張を前提として判断した本件行為に係る控訴人らの過失の成立時期を前提としても、既に認定説示した注意義務違反の態様のほか、争点1-1及び1-2について既に認定説示した点に照らすと、本件行為に係る損害を算定するに当たっては、原告漫画のうち平成29年4月にアップロードされたものについても算定の基礎に含めるのが相当である。)。
 (ア) 平成29年4月21日
 1×1666×46.2×1/30=2565円
 (イ) 同年4月22日
 3×1666×46.2×1/30=7696円
 (ウ) 同年4月23日
 5×1666×46.2×1/30=1万2828円
 (エ) 同年4月24日~同月29日
 6×1666×46.2×6/30=9万2363円
 (オ) 同年4月30日
 8×1666×46.2×1/30=2万0525円
 (カ) 同年5月1日~同月5日
 10×1666×46.2×5/31=12万4143円
 (キ) 同年5月6日~同年6月23日
 11×1666×46.2×(1+18/30)=135万4657円
 (ク) 同年6月24日~同年6月25日
 12×1666×46.2×2/30=6万1575円
 (ケ) 同年6月26日~同年11月17日
 24×1666×46.2×(4+6/31+17/30)=879万3358円
 (コ) 同年11月18日~平成30年4月17日
 53×1666×46.2×5=2039万6838円
 (サ) 合計
 3086万6548円(なお、同額を原告漫画1冊当たりの被控訴人の利益の額46.2円で除すると、66万8107部となり、原告漫画の発行部数(その発行に係る期間には原告漫画が本件ウェブサイトに掲載されていた期間が含まれている。)に照らしても、上記の額は過大なものとはみられない。)
オ 弁護士費用については、上記損害金の約1割である308万円を認めるのが相当である。
カ 以上より、著作権法114条1項に基づく損害金のうち1000万円及び弁護士費用100万円の合計である1100万円の支払を求める被控訴人の請求には理由があり、また、被控訴人が遅延損害金の起算日とする平成29年11月18日までに上記の額を超える損害が生じていたと認められるから、同日からの遅延損害金の支払を求める被控訴人の附帯請求にも理由がある。
(以下省略)

【若干の解説等】

1.総論
 本件は、著明な「漫画村」という違法アップロードサイトに広告を提供し、その管理運営者に広告料を支払ったという控訴人らの一連の行為が、被控訴人の公衆送信権侵害に係る幇助行為に該当することを認め、被控訴人による不法行為に基づく損害賠償請求を認めた裁判例の控訴審判決である。
 共同不法行為の成立について、控訴審では当事者による主張の補充はあったものの、結論として原審の内容をほぼそのまま維持する形となった。一方損害額については、被控訴人から新たに主張された著作権法114条1項に基づく主張を認め、実質的には原審よりも多額の損害賠償義務を認めている。

2.幇助行為について
⑴ 幇助行為該当性及び相当因果関係について
ア 法律上の規定

 著作権侵害に基づく民事上の損害賠償請求につき著作権法上に特別の規定はなく、それは民法の不法行為に関する規定に基づき行われることになる。民法719条1項2項は以下のとおり、共同不法行為及び教唆者、幇助者の責任について定める。

民法719条1項
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれのものがその損害を加えたかを知ることができないときも同様とする。
同2項
行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

 幇助とは、違反行為の補助的行為をすることをいい2 、これを行った者も共同不法行為の例にならい、行為者と損害について連帯責任を負うことになる。

イ 本件の判示
 本件では、本件ウェブサイトが原告漫画の公衆送信の主体であることに争いはない。そして、本件ウェブサイトでは利用者に利用料金を支払わせることはしておらず、そのほとんど唯一の資金源が広告事業主から支払われる広告料であったという運営実態から、本件行為が本件ウェブサイトの運営主体による公衆送信権侵害行為を補助し、又はこれを容易にするものと認めた。  相当因果関係についても端的にこれを認めている。

ウ 若干の考察
 仮に、本件ウェブサイトが利用者に利用料の支払いを求め、これと広告事業主から支払われる広告料の両方をもって運営資金としていたとすれば結論は変わるだろうか。
 これについては、控訴審で新たに被告からされた新たな主張に対する以下の判示(上記【判決(一部抜粋)】では省略)が参考になると思われる。

「控訴人らは、控訴人らが支払っていた広告料が本件ウェブサイトの運営者の広告料収入のわずかな割合しか占める者でなかったと主張するが、(中略)前記のように広告料収入がほとんど唯一の資金源であったという本件ウェブサイトの実態に加え、当該実態に照らすと、最終的に本件ウェブサイトの運営者に支払われる広告料の金額の多寡にかかわらず広告を本件ウェブサイトに提供するとの行為自体が同運営者による著作権侵害行為を助長するものであったというべきこと(中略)のほか、後記イで認定判断する控訴人らの主観的態様に照らしても、控訴人らが主張する前記の事情は、共同不法行為者間の求償に係る問題にすぎず、被控訴人に対する不法行為責任がないことを基礎づける事情にはならないというべきである。」

 上記においては、控訴人の支払う広告料が、本件ウェブサイト運営者に支払われる全ての広告料のごく一部に過ぎないものであったとしても、本件行為が同運営者による侵害行為を助長するものであることには変わりがなく、そのような事情は共同不法行為者間の求償に係る問題にすぎないことが述べられている。
 これを敷衍すれば、たとえ利用者から徴収される利用料が本件ウェブサイトの運営資金の一部になっており、運営資金に占める広告料収入の割合が低かったとしても、広告料を支払う行為の侵害行為を助長する性質自体に変化はなく、それは(利用者が共同不法行為者に該当するかはさておき)共同不法行為者間の求償に係る問題にすぎないということが言えそうである。

⑵ 幇助行為に係る過失について
ア 本件の判示

 本件では、大要以下の理由で控訴人らの過失が肯定されている。
 まず、❶平成29年に至るまでの間に、広告収入が違法サイトの収入源となっていることが大きな問題とされており、広告配信会社による対策や官民共同の対策が取られていた。そのような状況で、❷本件ウェブサイトについては、平成29年4月時点で登録不要かつ完全無料で読める漫画が大量に掲載されていることが一見してわかる状況にあり、違法性を指摘するツイートも複数されていた。❸本件ウェブサイトについては、平成29年5月10日時点において、著作権が保護されないという前提で掲載されていること等が閲覧者に容易に分かる状態となっていた。
 そして控訴人らにおいては、「MEDIADⅡ」を利用して本件ウェブサイトに広告の配信を開始するに当たり、本件ウェブサイトの表題及びURLの提示を受け、登録の可否を審査して承諾するという手続を踏んでいたところ、❶~❸を踏まえると、遅くとも平成29年5月までの時点で、本件ウェブサイトが多数の漫画を違法に掲載しているという侵害行為の存在、広告収入が唯一の資金源であり、それゆえ広告料を支払うことが前記侵害行為を支える行為になることを容易に推測できた。
 すると、同時点において、本件ウェブサイトの運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応すべき注意義務)を負っていたというべきであり、にもかかわらず本件行為を行った控訴人らには、少なくとも過失があった。

イ ビデオメイツ事件判決

 本件と同様に、著作権侵害の幇助行為者について過失の有無を判断したものとして、ビデオメイツ事件判決(最二判平成13年3月2日(平成12年(受)222号)。以下「ビデオメイツ事件判決」という。)がある。これは、業務用カラオケ装置を用いた音源等の著作権侵害行為について、同装置をリースした会社の責任が問われた事件である。
ビデオメイツ事件判決では、①カラオケ装置はその利用店経営者による著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置と言えること、②著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること、③リース業者は、カラオケ装置の賃貸により営業上の利益を得ていること、④一般にカラオケ装置利用店の経営者が、同装置の提供する著作物について著作権使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であり、リース業者としてはリースの相手方が当該契約を締結し又は申込みをしたことを確認できない限り、著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること、⑤リース業者は、上記許諾契約の締結の有無を容易に確認でき、これによって著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能であることが指摘され、これを根拠にリース業者は「リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申し込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負う」とされた。

ウ 本件とビデオメイツ事件判決との対比

 ビデオメイツ事件判決はカラオケ装置に関する一般的な事情をもとに、カラオケ装置のリース業者一般の注意義務として上記の内容を認定したものである。一方本件では、個別具体的な事情をもとに控訴人らの注意義務を認定しており、両者の判断の過程には差異が見られる。もっとも、ウェブサイトには様々なものがあり、その運営一般が著作権侵害を生じさせる蓋然性が高いものということは難しいこと(①に相当する事情の欠如)、ウェブサイトにおいて侵害される著作物には多種多様なものが想定でき、音楽の著作物におけるJASRACのように一括して管理する主体が存在するわけではないため、許諾契約の締結の有無を確認することは容易でないこと(⑤に相当する事情の欠如)といった事情の違いから、このような差異が生まれることは自然なことと言って良い。同じ著作権侵害の幇助行為について述べた裁判例だからといって、本件のような事例にビデオメイツ事件判決をそのまま参考にすることは難しいだろう。
上記の点から、ウェブサイトへの広告提供・広告料支払いについては、今後も個別具体的な事情から過失を判断する方法が取られると考えられ、その際には、ウェブサイトによる「侵害行為の存在」と問題となる行為が「侵害行為を支える行為になること」を容易に推測できたことから注意義務を導いた本件の判断が参考になる。

3.損害額について
⑴ 法律上の規定

 本件では、著作権法114条1項の適用が認められている。

著作権法114条1項
著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作者隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によって作成されたものを譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行ったときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部または一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

 端的に言えば、侵害によって譲渡・公衆送信等された著作物の数量と、著作権者の侵害された著作権に係る単位数量当たりの利益の積が損害とされるという規定である。本件であれば、公衆送信された数に、著作物一冊当たりの印税を掛けた金額が損害額ということになる。

⑵ 本件の判断

 本件は、おそらく損害額の認定に係る裁判所の広範な裁量を前提に(民事訴訟法248条、著作権法114条の5)、細かな順序を経て受信複製物の数量を認定している。
 まず、漫画1冊を閲覧して計上されるPVが1PVであることを明らかにし、次に本件ウェブサイトの訪問者一人当たりのPV数が10.69PVであると認めている。その上で、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方が明らかでないことを考慮し、漫画1冊当たりの受信複製物の数量は、「本件ウェブサイトの訪問者数の5割」を下回らないとする。
 本件ウェブサイトには少なくとも月間1億人が訪問しており、かつ6万冊の漫画が掲載されていたことが指摘される。また、原告漫画が人気作品であったことから、平均の2倍の閲覧がされていたと仮定し、原告漫画1冊当たりの受信複製物の数量が月間1666冊(1億/6万×0.5×2)を下回らないと認める。
 そして、原告漫画の各巻の本件ウェブサイトへの掲載期間を認定し、どの期間中に何冊の原告漫画が掲載されていたかを明らかにした上で、原告漫画1冊当たりの利益の額が46.2円(電子書籍版価格の10%)と認定し、これらと上記月間受信複製物数とを掛け合わせ、その合計額を損害額とした。

⑶ 若干の考察

 本件において、原告漫画の単位数量当たりの利益は電子書籍版をもとに算出されているが、「その侵害の行為がなければ販売することができたもの」には紙媒体の漫画も含まれると言えるから、こちらの価格をもとに利益の額を算出することも可能なように思われる。本件では請求額が1100万円に限定されていたことから紙媒体の価格を主張するメリットはそれほど大きくなかったと言えるが、このような事情がない場合には、単位数量当たりの利益の額として、まずはより高い紙媒体の価格を主張すべきではないか。

以上

弁護士 稲垣 紀穂


1筆者注。被告は、「MEDIADⅡ」という広告掲載を行うウェブサイトを登録するページを設け、広告掲載を希望するウェブサイト運営者に当該ウェブサイトの表題、URL等を入力させ、入力された情報をもとに被告の運用チーム担当者がこれを審査し、審査に通ったウェブサイトに広告を提供していた。

2我妻・有泉・清水・田山「我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物件・債権-」2021