【令和4年4月22日(東京地裁 平成31年(ワ)8969号)】

【キーワード】

著作権法、複製権、公衆送信権、インラインリンク

【事案の概要】

 被告は、フェイスブック上に作成された被告が製作・配信するオンラインゲームの公式ウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に、別紙被告作品目録2記載の画像(別紙被告画像目録記載1の画像と同じ。以下「被告画像1」という)を表示させるインラインリンクを貼った。原告はこの行為により原告の別紙原告画像目録記載1の画像(以下「原告画像1」という。)に係る著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害され、又は侵害の幇助がされたと主張して、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、別紙被告作品目録2記載の画像の複製の差止及び同画像データの削除を求めるとともに不法行為に基づく損害賠償請求等を行った。なお、上記インラインリンクは第三者がYouTubeに投稿した動画(以下「本件動画」という。)に係るもので、本件動画には被告画像1が含まれる。

 なお原告は、被告による上記ゲームの制作・配信自体による、原告画像1とは別の画像に係る著作権(複製権及び翻案権)の侵害も主張したが、いずれも否定されている。

【争点】

 被告による原告画像1に係る著作権侵害の成否

※本件では他にも争点が設定されているが、今回検討するのは上記の争点に限る。

【判決(一部抜粋)】

※以下、下線は筆者による。

第1・第2・第3 省略

第4 当裁判所の判断

1・2⑴~⑵ 省略

(3) 争点2-2(被告による原告画像1に係る著作権侵害の成否)について
ア 証拠(甲9、乙15ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、本件リンク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そうすると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。
イ これに対し、原告は、〈1〉本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける行為も、本件リンク設定行為も、本件ウェブページの閲覧者にとっては、何らの操作を介することなく被告画像1を閲覧できる点で異なるところはないこと、〈2〉本件リンク設定行為は、被告画像1を閲覧者の端末上に自動表示させるために不可欠な行為であり、かつ、原告画像1の複製の実現における枢要な行為といえること、〈3〉本件リンク設定行為をすることにより、被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たことを指摘し、規範的にみて、被告が複製及び公衆送信の主体と認められる旨を主張する。
 しかし、上記〈1〉についてみると、単に、本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける等の侵害行為がされた場合と同一の結果が生起したことをもって、本件リンク設定行為について、複製権及び公衆送信権の侵害主体性を直ちに肯定することはできないというべきである。
 また、上記〈2〉についてみると、仮に枢要な行為に該当することが侵害主体性を基礎付け得ると解したとしても、本件リンク設定行為の前の時点で既に本件動画の投稿者による原告画像1の複製行為が完了していたことに照らすと、本件リンク設定行為が原告画像1の複製について枢要な行為であるとは認め難いというべきである。なお、本件動画は、本件ウェブページを閲覧する方法によらずとも、本件動画が投稿されたYouTubeの「D」のページにアクセスすることによっても閲覧することができるから、本件リンク設定行為が原告画像1の公衆送信にとって枢要な行為であるとも認められない。
 さらに、上記〈3〉についてみると、本件全証拠によっても、本件リンク設定行為により被告がどの程度の利益を得ていたのかは明らかではないから、その点をもって、被告が原告画像1の複製及び公衆送信の主体であることを根拠付けることはできない。
 したがって、上記〈1〉ないし〈3〉の点を考慮しても、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の主体であると認めることはできず、原告の上記主張は採用することができない。↓
ウ また、原告は、仮に被告が著作権侵害の主体であると認められない場合であっても、少なくとも、被告が本件リンク設定行為により上記著作権侵害を幇助したものと認められると主張する。↓
 しかし、前記アのとおり、被告による本件リンク設定行為は、被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、本件動画の投稿者による被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力・蓄積して公衆送信し得る状態にする行為と直接関係するものではない。そうすると、本件リンク設定行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難いから、被告による本件リンク設定行為が、被告画像1に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するものと認めることはできない。
 したがって、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の幇助者であると認めることはできない。↓
エ 以上のとおり、被告による原告画像1に係る著作権の侵害及びその幇助については、いずれも認めることができない。↓
(4) 争点2に関する結論↓
 以上の次第で、被告が、原告画像1に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害し又はその侵害を幇助したとは認められず、原告画像2ないし8に係る原告の複製権又は翻案権を侵害したとも認められない。

(以下省略)

【考察】

1.総論

 本件は、インラインリンクの貼付行為について、著作権(複製権、公衆送信権)侵害の成立を否定した裁判例である。

 一般に、リンクの貼付行為についてはその種類を問わず、原則として著作権侵害の問題は生じないとされている[1]

 これについて述べた裁判例に、著名なリツイート事件判決(最三判令和2年7月21日民集74巻4号1407頁)の控訴審判決(知財高判平成30年4月25日民集74巻4号1480頁。以下「平成30年判決」という)がある。そして後述するように、本件では概ね同控訴審に沿った判示がされている。

 以下、インラインリンクの貼付行為による著作権侵害の成否について検討する。

2.インラインリンクとは

 インラインリンクとは、ユーザーの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて、リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう[2]。具体例として、Twitterに画像を添付してツイートするケース、本件でも問題になったような、YouTubeに投稿された動画を別のウェブサイトに埋め込んで表示させるケースがある[3]

 このとき、ユーザーの端末に表示されるリンク先の画面等は、リンク設定者のサーバーを介することなく、リンク先サーバーから直接ユーザーの端末に送信され、リンク設定者のサーバーに保存されることもない。しかし、同画像等がユーザーのもとに送信され、ユーザーがこれを閲覧できる状態に置かれるという点では、同画像等につきリンク設定者が複製し、これをその運営するウェブページに張り付けて公衆送信した場合と同様の結果が生じることになる。このことから、インラインリンクの貼付行為について、複製権、公衆送信権の侵害が成立するかが問題となる。

3.インラインリンクの貼付行為と複製権侵害について

⑴ 複製について

 まず、インラインリンクの貼付行為と複製権侵害との関係について検討する。複製とは、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(著作権法2条1項15号柱書き)をいう。

 2.でも述べたが、ウェブサイト上にインラインリンクを貼付し、当該ウェブサイトにおいてユーザーのもとへリンク先の著作物に係るデータが送信されるようになるとしても、それはあくまでリンク先のデータが送信されるだけであり、当該著作物がリンク設定者のサーバー等に有形的に再製されるわけではない。平成30年判決では、原告が著作権を有する写真につき、氏名不詳者がその複製権、公衆送信権を侵害して行ったツイートを被告がリツイートした行為が、複製権、公衆送信権の侵害を構成するかが問題となったが、同判決も以下のように判示し、同行為による複製権侵害を否定している。

「著作物である本件写真は、流通情報2⑵(※筆者注。氏名不詳者によるツイートにより、Twitterのツイート画像保存URLに自動的に保存、表示された本件写真の画像ファイルを指す。)のデータのみが送信されているから、本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。」

 本件においても、「被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そうすると……原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。」として、被告によるインラインリンクの設定行為が原告画像1の複製すなわち有形的再製に当たることを否定している。

⑵ 規範的主体性に関する判断について

著作権侵害行為の主体について判断した判例に、最判平成23年1月20日民集65巻1号399頁(「ロクラクⅡ事件判決」として著名であり、以下そのようにいう。)がある。当該判決は以下のように述べる。

「…複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である…」

 本件で原告は、被告が複製の規範的主体であることを基礎づけるため、①被告によるリンク貼付によって、ユーザーから見てウェブページに被告画像1が貼り付けられるのと同一の結果が生じていること、②リンク設定行為は、原告画像1の複製の実現における枢要な行為に該当すること、③被告はリンク設定行為を通して被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たものと言えることを主張しているが、これは上記の判決に即した主張と考えられる。

 これに対し裁判所は、まず本件における複製行為は、本件動画の投稿者による、本件動画をYouTubeが管理するサーバーへ入力、蓄積した行為であるとして、その物理的な主体が本件動画の投稿者であることを明らかにしている。

 その上で、原告の主張をそれぞれ否定する形で、①単にウェブページに原告画像1を張り付けたのと同一の結果が生じたことをもって、被告の侵害主体性を直ちに肯定することはできない、②投稿者による複製行為は完了しているため、被告によるリンクの貼付行為が当該複製について枢要な行為であるとは認めがたい、③被告によるリンクの貼付行為により被告がどの程度利益を得ていたのか明らかでないと述べ、被告が複製の主体であることを否定した。

4.インラインリンクの貼付行為と公衆送信権侵害について

⑴ 定義について

 公衆送信に関する定義は以下のとおりである。

<公衆送信>
(著作権法2条1項7号の2)
公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信…を行うことをいう。
<自動公衆送信>
(著作権法2条1項9号の4)
公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。
<送信可能化>
(著作権法2条1項9号の5)
次のいずれかの行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回路に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続…を行うこと

 送信可能化の定義は多少複雑だが、インターネットに接続され不特定又は多数人が閲覧可能なウェブサイト等に情報を入力するか、情報を入力したウェブサイト等をインターネットに接続し、不特定又は多数人が閲覧可能な状態を作り出すことによって、自動公衆送信がされ得るようにするようなイメージである。すなわち、公衆送信の一形態として自動公衆送信があり、送信可能化は自動公衆送信の準備行為に当たると整理できる。

 送信可能化がされた時点では、厳密にはまだ自動公衆送信がされているわけではない。しかし、送信可能化の後、自動公衆送信が実際にされたか判別することには困難が伴うことから、自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化も公衆送信に含む(著作権法23条1項)ものと規定されている。

⑵ 送信可能化について

 まず、インラインリンクの貼付行為によって、送信可能化がされたとは言えないと考えられる。なぜならば、インラインリンクを貼りつけたとしても、著作物に係る情報を公衆送信用記録媒体に「記録」したことにもならなければ、自動公衆送信装置に「入力」したことにもならず、上記の送信可能化の定義に沿わないためである。

⑶ 自動公衆送信について

 ウェブサイト上にインラインリンクを貼りつけることによって、同ウェブサイトを閲覧するユーザーのもとにリンク先の画像等が送信されるようになる。換言すると、不特定又は多数人のユーザーの求めに応じて、自動的に送信が行われることになるのであるから、当該貼付行為によって、自動公衆送信がされる状況が作出されたと言える。

 平成30年判決でも上記を踏まえ、以下のような判示がされている。

「(ア) 本件リツイート行為によってユーザーのパソコン等の端末に表示される本件写真の画像は、それらのユーザーの求めに応じて、流通情報2⑵のデータが送信されて表示されているといえるから、自動公衆送信(公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの[放送又は有線放送に該当するものを除く。])に当たる。」

 もっとも、このようにして実現された自動公衆送信の物理的な主体はリンク先の管理者である。したがって、自動公衆送信の文脈では、インラインリンクの貼付により自動公衆送信が行われることは前提として、リンクの貼付を行った者が当該自動公衆送信を行う規範的な主体と言えるかが特に問題となる。

 本件においては上記の旨が明確に判示されているわけではないが、公衆送信の主体につき各種の事情を考慮しつつも、結論として本件動画の投稿者であると判断していることから(3.⑴参照)、公衆送信の物理的主体が本件動画の投稿者であることを前提としているものと考えられる。

⑷ 自動公衆送信の主体について

 自動公衆送信の主体について判断した判例には、最判平成23年1月18日民集65巻1号121頁(「まねきTV事件判決」として著名であり、以下そのようにいう。)がある。当該判決では以下のように述べられる。

「自動公衆送信が、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると、その主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。」(筆者注:判決文に下線あり。)

 平成30年判決では、まねきTV事件判決と上記ロクラクⅡ事件判決の二つの判例を引用しつつ、リツイートによる自動公衆送信について、自動公衆送信の主体は流通情報2⑵のURLの開設者であってリツイート者ではなく、リツイート者が自動公衆送信の主体というべき事情は認めがたいと判断した。

 本件では、公衆送信権侵害の主体について、上記のとおり物理的な主体が本件動画の投稿者であるとの前提で、複製権侵害と同様、主にロクラクⅡ事件判決に沿って判断が行われている。

 原告は複製権侵害の場合と同様、上記①~③(3.⑵記載)の主張を行っているが、裁判所は、①、③は複製権侵害と同様の理由(前記3.⑵参照。)で、②については、本件動画は本件ウェブページを閲覧する方法によらずとも、本件動画が投稿されたYouTube上のページにアクセスすることによって閲覧可能であり、リンク貼付行為が原告画像1の公衆送信にとって枢要な行為とはいえないとの理由でこれを斥け、公衆送信についても被告がその主体であることを否定した。

5.幇助

 最後に、本件では、インラインリンクの貼付行為が、複製権、公衆送信権侵害の幇助行為に該当すると主張されている。しかし裁判所は、「本件リンク設定行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難い」として、そもそも幇助行為に該当しないという理由で上記主張を排斥した。平成30年判決もリツイート行為について、自動公衆送信に限った判断ではあるが以下のように述べており、本件もこれに沿ったものと言える。

「さらに、本件リツイート行為が上記の自動公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難いから、本件リツイート者らを幇助者と認めることはできず、その他、本件リツイート者らを幇助者というべき事情は認められない。」

6.まとめ等

 本件及び平成30年判決に代表されるように、わが国の裁判例においてはインラインリンクの貼付行為について著作権(複製権、公衆送信権)侵害は一般に否定されている。もっとも、下記のとおり、一定の場合には著作権法上の規制が課されている。

■著作者人格権侵害を構成する場合

 著作権侵害は否定されるとしても、著作者人格権侵害の成立を認める裁判例は複数存在する。問題になりうるのは氏名表示権及び同一性保持権侵害である。

 平成30年判決及びその上告審である前掲最三判令和2年7月21日民集74巻4号1407頁は、第三者が行った原告著作物を含むツイートをリツイートする行為につき、リツイートにより原告著作物がトリミングされ、もとは存在した氏名表示部分がカットされたことを理由に、氏名表示権侵害の成立を認めている。

 さらに平成30年判決や、東京地判令和3年12月23日同令和2年(ワ)第24492号は、リツイート又はツイートによって、もとの著作物の一部がトリミングされたことを理由に、同行為について同一性保持権侵害の成立を認めている。

■著作権法113条2項

 リンクを貼りつける行為等により、一定の著作権等を侵害して送信可能化が行われた著作物等(「侵害著作物等」という)の利用を容易にする行為であって、法所定の要件を満たす場合、当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知っていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合には、該著作物に係る著作権等を侵害する行為とみなされる(著作権法113条2項)。典型例として、違法にアップロードされた画像や動画のリーチサイトを運営していたような場合が挙げられる。

 当該規制はインラインリンクの貼り付けに限ったものではないが、同リンクの貼り付けも一定の範囲で規制するものである。

 しかし当然ながら、著作権法上インラインリンクの貼り付けを規制すべきとの立場に立った場合には、上記の規制、制限だけでは十分ではない。著作者の氏名がもともと表示されていなかった、インラインリンクの貼付によってもトリミングが行われなかったなど、著作者人格権侵害が成立しない例は少なくなく、判示から明らかではないが、本件もそのような事案だったことが推察される。

 近年の海外事例として、EU司法裁判所2016年9月8日GS Media BV v. Sonoma Media Netherlands BV事件判決では違法にアップロードされた写真に係るインラインリンクの貼付行為について、公衆送信権侵害が肯定されている。またニューヨーク連邦裁判所2018年2月15日Goldman v. Breitbart事件判決においては、同じく違法にアップロードされた写真に係るインラインリンクの貼付行為につき、展示権(米国著作権法における、インターネット上における著作物の表示に係る権利)侵害が肯定された。このように違法な著作物に係るインラインリンクの貼付行為一般について著作権侵害を認める例が現れ始めていることに照らせば、今後わが国においてその影響が現れる可能性も否定できない。

以上

弁護士 稲垣 紀穂

 


[1] 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」、経済産業省、2022年、166頁。

[2] 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」、経済産業省、2022年、162頁

[3] 「知的財産法の挑戦Ⅱ『インラインリンクと引用』(谷川和幸)」(2020年、249頁)。なお、上記のTwitterのケースでは、ユーザーが画像をTwitterのサーバーにアップロードすると同時にその画像をインラインリンク設定して表示させるツイートそれ自体をも作成することになる。