【令和4年3月30日(東京地裁 令和2年(ワ)32121号 著作権侵害差止等請求事件)】

【キーワード】

著作権侵害,写真の著作物,複製,翻案,改変,譲渡,頒布,パッケージ

【事案の概要】

 原告は、食品の企画,開発,輸入及び販売を主たる業とする株式会社であるが,企画開発したスティック春巻きの商品パッケージに使用するための以下の写真(以下「原告写真」という。)の著作権を保有していた。

◆原告写真

 被告は,原告写真の画像データを無断で使用して,以下の被告ラベルシール1及び2を制作した。

◆被告ラベルシール1(写真部分を「被告写真1」とする。)

◆被告ラベルシール2(写真部分を「被告写真2」とする。)

 原告は,前記被告ラベルシールを貼付したパッケージの「えびチーズ春巻」を販売した被告に対し,原告写真の無断使用等の中止を請求した。被告は,原告写真の画像データを無断使用した事実を認めたものの,その後,以下の被告ラベルシール3の写真部分(以下「被告写真3」という。)を作成した。

◆被告ラベルシール3

 原告は,被告が被告ラベルシール3を製作する行為は、原告写真に係る原告の複製権及び翻案権を侵害し,当該ラベルシールを貼った商品を販売することは当該写真に係る原告の譲渡権を侵害すると主張し、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告写真1ないし3等の複製、改変、譲渡及び頒布の差止請求,当該写真の廃棄請求、及び民法709条に基づき損害賠償の請求をおこなった。

【争点】

 本稿では、原告写真に係る著作権侵害についての争点のみ取り上げる。

 原告写真と被告写真3において,以下の共通点がある点に争いはないが,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されたものであるかが争いとなった。

共通点内容
a被写体であるスティック春巻を2本ないし3本ずつ両側から交差させている点
b2本のスティック春巻を斜めにカットして、断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程度に見えるようにしている点
c端に角度がついた、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用している点
d皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度をつけて撮影している点
e撮影時に光を真上から当てるのではなく、斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点
f葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置いている点

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1・第2(省略)

第3 当裁判所の判断

1  争点1(著作権侵害の成否)について

(1) 著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。

 また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。

 そうすると、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告写真と被告写真3との間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。

 一方で、原告写真と被告写真3において、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれたものであるような場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないため、当該表現に創作性を肯定して保護することは許容されない。したがって、この場合も、複製又は翻案したものに当たらないと解される。

(2) 原告は、原告写真と被告写真3において共通する部分である共通点aないしfは創作性のある表現であるから、被告写真3は原告写真を複製又は翻案したものに当たる旨主張するので、以下において判断する。

ア 共通点aについて

 原告写真と被告写真3とは、被写体であるスティック春巻を2本ないし3本ずつ両側から交差させている点において共通する。

 しかし、…(中略)…、角度や向きを変えながら料理を順に重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置することは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであるということができる。加えて、…(中略)…、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、ありふれたものといわざるを得ない。

 以上によれば、共通点aは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点aの部分が、原告写真の共通点aの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。

イ 共通点bについて

 原告写真と被告写真3とは、2本のスティック春巻を斜めにカットして、断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程度に見えるようにしている点において共通する。

 しかし、具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということができる。加えて、…(中略)…認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、ありふれたものといわざるを得ない。

 以上によれば、共通点bは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点bの部分が原告写真の共通点bの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。

ウ 共通点cについて

 原告写真と被告写真3とは、端に角度がついた、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用している点において共通する。

 しかし、…(中略)…、白い器は料理の色を引き立てる効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影する際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、…(中略)…、共通点cと同様に、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。

 以上によれば、共通点cは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点cの部分が原告写真の共通点cの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。

エ 共通点dについて

 原告写真と被告写真3とは、皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度をつけて撮影している点において共通する。しかし、…(中略)…、料理写真の構図として、料理を正面から撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るということができる。加えて、…(中略)…、共通点dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。

 以上によれば、共通点dは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点dの部分が原告写真の共通点dの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。

オ 共通点eについて

 原告写真と被告写真3とは、撮影時に光を真上から当てるのではなく、斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点において共通する。

 しかし、…(中略)…、料理写真の撮影方法として、料理の斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるということができる。加えて、…(中略)…、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。

 以上によれば、共通点eは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点eの部分が原告写真の共通点eの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。

カ 共通点fについて

 原告写真と被告写真3とは、葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置いている点において共通する。

 しかし、揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行われることということができる。現に、…(中略)…、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。

 以上によれば、共通点fは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点fの部分が原告写真の共通点fの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。

キ 全体的観察

 前記アないしカのとおり、共通点aないしfはいずれも創作的表現であるとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない。

ク 小括

 以上の次第で、原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するにすぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは認められない。

(3) 以上によれば、被告が、被告ラベルシール3を制作し、商品に貼って食品スーパーマーケット及び量販店に販売することが、原告写真に係る原告の著作権(複製権及び譲渡権又は翻案権)を侵害するとは認められない。

 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求のうち、被告写真3が原告写真に係る原告の著作権を侵害することに基づく差止め、廃棄及び損害賠償請求にはいずれも理由がない。

2 争点2(差止め及び廃棄の必要性)について

(省略)

第4 結論

 したがって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

【若干のコメント】

1.写真の著作物についての一般的な考え方

 写真について,機械による自動撮影など人間が関与しない場合を除き,著作物性は肯定されやすい傾向にあるが,この際,撮影や現像等における創作性が考慮される。具体的には,撮影方法,撮影技法等の選択,撮影後の処理等により,写真の中に撮影者の個性が表現されているといえる場合は創作性が認められる。

 これらに加え,被写体に関する工夫も創作性の判断要素とされるかが問題となる。この点,東京高判平成13年6月21日(判時1765号96頁,以下「西瓜事件」という)では,「写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではない」とする。また,被写体に関する工夫それ自体で創作的表現といえるのであれば,写真の著作物とは別個の美術の著作物として保護される余地もある。

 

2.本件における原告写真の創作性の判断

 原告である食品会社の商品パッケージに表示される食品(スティック春巻)が被写体であるという特性上,被写体の盛付け方法,強調箇所,被写体と合う受け皿の選択,撮影の角度,照明の当て方等の撮影上の工夫の独自性について,当該工夫が同種の食品の撮影にあたり一般的な技法であるか,同種の技法を用いた写真が複数存在するか等を踏まえて判断している。

 結論としては,原告写真と被告写真3について,上記の要素に共通点は認められるものの,ありふれた表現が共通するにすぎず,両者間で創作的表現が共通するとは認められないとして,原告写真の著作物性を否定した。

   本件は商品パッケージに表示される写真という特性もあるが,食品写真については,同種の食品で通常行われる被写体の盛付け方法・位置に係る工夫,当該食品の見せ方や見た目等について独自性が認められない限り,著作物性が肯定されるのは難しいと思われる。

 もっとも,こうした食品の写真であっても,被写体の種類に応じて上記考慮要素がケースバイケースで判断されるので,安易に無断使用するのは危険である。

以上

弁護士 藤枝 典明