【令和4年9月14日(知財高裁 令和4年(行ケ)第10034号】

【判旨】

 本件商標に係る特許庁の無効2021-890027号事件について商標法4条1項7号の判断には誤りがないとして、請求を棄却した事案である。

【キーワード】
商標法4条1項7号、公序良俗

【事案の概要】

 原告は、平成30年4月3日、「スマホ修理王」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本件商標」という。)について、指定役務を第37類「電話機械器具の修理又は保守」として、商標登録出願をし、令和元年7月9日、その登録査定を受け、同年8月30日、本件商標の商標権の設定登録(登録第6174509号)を受けた。
被告は、令和3年6月8日、本件商標について商標登録無効審判を請求した。
特許庁は、上記請求を無効2021-890027号事件として審理を行い、令和4年3月30日、「登録第6174509号の登録を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。
原告は、令和4年5月2日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【本件審決の要旨】

原告は、被告とフランチャイズ契約を結び、被告の加盟者(フランチャイジー)であったところ、同契約解除のわずか4日後に本件商標を登録出願したものであり、「スマホ修理王」の文字から構成される引用商標1及び「スマホ修理王」の文字を含む引用商標2(別紙の1)が被告の業務である「スマートフォンの修理」について使用される商標であることを十分に認識した上で、それが商標登録されていないことを奇貨として、被告の業務を妨害し、不当な利益を得る目的をもって上記登録出願をしたとみるのが相当であるから、本件商標は、出願の経緯、目的に社会相当性を欠くものがあり、登録を認めることが法の予定する秩序に反するものとして到底容認できない場合に当たり、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。
したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に該当する。

(筆者注:引用商標2は上記のものである。)

【争点】

本件商標が商標法4条1項7号に該当するか。

【判旨抜粋】

証拠番号等は、適宜省略する。下線は筆者が付した。
2 本件商標の商標法4条1項7号該当性
本件契約書には、「『XPERIA 修理王』ブランドでのXPERIA 等修理経営のための FC 契約関係を形成する」(第1条)、「『XPERIA 修理王』の商標…の使用を許諾する。」(第4条1項)とある・・・ものの、「本契約において本部が加盟者に提供するFC サービスの内容は、次の各号とする。…②商標・商号・その他の表示の提供」(第2条)、「本部は、加盟者におけるXPERIA 等修理業経営について『XPERIA 修理王』の商標・サービスマーク、その他営業シンボル・著作物の使用を許諾する。」(第4条1項)、「第1項に定める許諾に関しては、以下を条件とする。①加盟者との本契約期間中ならびに加盟者の事業所内に限る。」(第4条3項)とあり・・・、被告は、原告に対し、原告が本件フランチャイズ契約に基づいて運営する店舗の屋号を「スマホ修理王 新宿店」、「XPERIA 修理王 新宿店」と指定する旨を通知し・・・、原告は、少なくとも本件フランチャイズ契約の契約期間中、運営するスマートフォンの修理業に関し「XPERIA 修理王by スマホ修理王新宿店」の名称を使っていた・・・ことからすると、本件フランチャイズ契約においてフランチャイザーである被告がフランチャイジーである原告に提供し、許諾の対象となる「商標・商号・その他の表示」には、「XPERIA 修理王」だけでなく「スマホ修理王」の商標も含まれるものと解される(なお、原告は、本件商標(標準文字の「スマホ修理王」)は本件フランチャイズ契約で規定されていない旨主張するが、上記のとおりであるから採用できない。)。
また、原告は、被告が開設する「スマホ修理王FC 加盟申し込みホームページ」を利用して本件フランチャイズ契約の申込みをしていること・・・、本件フランチャイズ契約終了後、被告より、ウェブサイト等から「XPERIA 修理王」及び「修理王」の名称を削除するよう求められたのに応じて、本件ウェブサイトの「XPERIA 修理王by スマホ修理王新宿店」(スマホ修理王の部分は引用商標2)の名称を「新宿駅前XPERIA 修理専門店」と変更していること・・・からすると、原告は、「スマホ修理王」の商標(引用商標1、2)は被告がフランチャイズ事業で使用しており、その使用のためには被告の許諾が必要であることを十分に認識し、現にそのような認識の下で、被告のフランチャイジーとして「スマホ修理王」の商標を使用していたと解するのが相当である
そうであるにもかかわらず、原告は、本件フランチャイズ契約に関し、平成30年3月30日付けで、本件解除がされ、WEB サイト等から『XPERIA修理王』および『修理王』の名称を削除するよう求められたその4日後に本件商標の登録出願に及び、令和元年8月30日に本件商標の設定登録を受けると、同年12月20日付けで、フランチャイザーであった被告に対し、被告が展開するフランチャイズ事業で「スマホ修理王」の商標を使用することが本件商標の商標権侵害に当たる旨を警告し(前記1 ア、イ)、本件商標の放棄又は譲渡のために50万円(税別)を支払う用意があると通知した被告に対し、本件商標の商標権買取価格を含め合計2670万円のライセンス契約を提案し、代理人間の協議においても100万円から300万円程度では受け入れられない旨回答したことが認められる。
こうした事実経過等に鑑みれば、本件商標の登録出願は、元フランチャイジーである原告が、被告から本件解除をされたわずか4日後に行ったものであり、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反するものであるのみならず、「スマホ修理王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害する加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われたものというべきである
このような本件商標の登録出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の出願登録は、商標制度における先願主義を悪用するものであり、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきであって、こうした商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標を保護することにより商標の使用する者の業務上の信用を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする商標法の目的に反することになりかねないから、本件商標は、公の秩序に反するものであるというべきであって、商標法4条1項7号に該当する。

【解説】

 本件は、商標件に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本件商標について、商標法4条1項7号 1にもとづいて無効審決をおこなったものであるが、裁判所は当該判断を肯定した。
 裁判所は、まず、原告と被告との契約関係、事実経過に関して詳細に認定した上で、フランチャイザーである被告がフランチャイジーである原告に提供し、許諾の対象となる「商標・商号・その他の表示」には、「XPERIA 修理王」だけでなく本件商標と同じ「スマホ修理王」の商標も含まれるとし、「原告は、『スマホ修理王』の商標(引用商標1、2)は被告がフランチャイズ事業で使用しており、その使用のためには被告の許諾が必要であることを十分に認識し、現にそのような認識の下で、被告のフランチャイジーとして『スマホ修理王』の商標を使用していた」と認定した。
 その上で、本件商標について「本件商標の登録出願は、元フランチャイジーである原告が、被告から本件解除をされたわずか4日後に行ったものであり、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反するものであるのみならず、「スマホ修理王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害する加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われたものというべきである」と判断した。
 裁判所の事実認定を前提とすると、原告は、フランチャイズ契約に従って、「スマホ修理王」との名称を使用しており、当該契約解除の4日後に、本件商標を出願し、さらに、被告に対して本件商標を侵害している旨の警告状を送付し、ライセンス料として本件商標の商標権買取に2670万円を請求する(100万から3000万程度では受け入れられない。)等しているということであり、自らの自己矛盾を起こした行動や、その後の請求金額からすれば、裁判所の認定は、妥当であろう。
 本件は、商標法の公序良俗に係る事案として、実務上参考になると思われる。

以上
弁護士 宅間仁志


1第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(中略)
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標