【令和4年10月31日(令和4年 知財高裁(行ケ)第10041号)】

【判旨】

 本件は、商標法4条1項11号を理由とする商標登録出願拒絶査定に対する不服審判請求(不服2021-4816号事件)の不成立審決に対する取消訴訟であり、原告の請求が棄却された事例。

【キーワード】
商標の類否判断,お守、御守、商標法第4条第1項第11号

【事案の概要】

以下,証拠等は適宜省略する。また、判決の判断に必要な範囲で説明する。
1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実)
⑴ 原告は、令和2年9月11日、令和元年7月23日にされた商標登録出願(商願2019-100303号)の商標法10条1項の分割出願として、別紙1記載のとおりの構成からなり、第35類、第39類、第41類及び第43類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として商標登録出願(商願2020-113205号)をしたが、その後、指定役務については、第35類、第39類、第41類及び第43類に属する別紙1記載のとおりの役務1に補正された(以下、この補正後の上記出願に係る商標を「本願商標」という。)。
⑵ 原告は、令和3年2月4日付けの拒絶査定を受けたため、同年4月14日、拒絶査定不服審判請求をした。
特許庁は、上記請求を不服2021-4816号事件として審理を行い、令和4年3月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月18日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和4年5月16日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
【本願商標】
本願商標の構成は、以下のとおり。

【引用商標】
1 登録第431494号商標(引用商標1)
商標の構成

登録出願日 昭和25年12月23日
設定登録日 昭和28年 9月15日
更新登録日 平成25年 3月26日
指定商品第30類「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除く。)、粉末あめ、水あめ、もち、パン」(平成17年7月13日指定商品の書換登録)

【争点】

本件商標が,商標法第4条第1項第11号15に該当するか否か。

【判旨抜粋】

1 商標法4条1項11号該当性
⑴ 本願商標について
本願商標は、白色の二重叶結びの紐を有するピンク色の花弁模様が配された赤色の御守袋の図形の中央に、「御守」の文字を黄色で縦書きしてなるものであるところ、御守袋の上に「御守」と表示されているその外観からみて、御守(護符)を連想させるものであるから、本願商標は、その構成全体から少なくとも御守の観念を生じ、そして、「御守」の文字が御守袋の上に表示されていることに照らして、少なくとも「オマモリ」の称呼が生じることは明らかというべきである。
⑵ 引用商標1について
引用商標1は、「お守」の文字を手書き風の書体をもって縦書きしてなるものであるから、御守(護符)の観念を生じ、「オマモリ」の称呼を生じることは明らかというべきである。
⑶ 本願商標と引用商標1との類否について
本願商標と引用商標1とは、称呼及び観念を同一とし、両者の外観が異なるとしても、本願商標の外観は、本願商標及び引用商標1から生じる観念及び称呼をそのまま体現した御守(護符)そのものであり、その相違は称呼及び観念から生じる出所の認定を何ら左右するものではないから、両者は、役務又は商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標と認められる。
⑷ 本願商標の指定役務と引用商標1の指定商品との類否について
本願商標の指定役務中の第35類「菓子・パン・サンドイッチ・中華まんじゅう・ハンバーガー・ピザ・ホットドッグ・ミートパイ・人工甘味料・角砂糖・果糖・氷砂糖(調味料)・砂糖・麦芽糖・はちみつ・ぶどう糖・粉末あめ・水あめ(調味料)及び穀物の加工品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、「小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の対象商品である「菓子・パン・サンドイッチ・中 華まんじゅう・ハンバーガー・ピザ・ホットドッグ・ミートパイ・人工甘味料・角砂糖・果糖・氷砂糖(調味料)・砂糖・麦芽糖・はちみつ・ぶどう糖・粉末あめ・水あめ(調味料)及び穀物の加工品」と引用商標1の指定商品中の第30類「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除く。)、粉末あめ、水あめ、パン」とが類似するから、上記引用商標1の指定商品と類似する役務と認められる。
⑸ 小括
以上のとおり、本願商標は、引用商標1に類似する商標であって、引用商標1の指定商品に類似する役務について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当する商標である。

【解説】

 本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,商標法第4条第1項第11号 2に該当するとの判断を行い,裁判所は当該判断を認めた。
裁判所は,まず,本願商標について「構成全体から少なくとも御守の観念を生じ、そして、「御守」の文字が御守袋の上に表示されていることに照らして、少なくとも「オマモリ」の称呼が生じる」とし、引用商標1について「「お守」の文字を手書き風の書体をもって縦書きしてなるものであるから、御守(護符)の観念を生じ、「オマモリ」の称呼を生じることは明らか」でるとし、次に、両者の類否について、「称呼及び観念を同一とし、両者の外観が異なるとしても、本願商標の外観は、本願商標及び引用商標1から生じる観念及び称呼をそのまま体現した御守(護符)そのものであり、その相違は称呼及び観念から生じる出所の認定を何ら左右するものではないから、両者は、役務又は商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標」であると判断した。
原告は、これに対して、本願商標から「オマモリ」の称呼、護符(御守)の観念が生じても、本願商標が全体として「白色の二重叶結びの紐を有し、ピンク色の桜の花弁模様を配し」たもので、外観上に顕著な違いがあると主張したが、裁判所は、「『白色の二重叶結びの紐』は御守袋の特徴にほかならず、また、『ピンク色の花弁模様及び赤色の色彩』は御守袋としては格別印象に残るような形状・色彩を有するものではない」として主張を排斥した。
 本件では、事例判断ではあるが、御守の文字に、御守袋の絵柄を付したとしても、文字の引用商標1「お守」と類似していると判断しており、本件は、商標の出願等において、参考になると思われる。

以上
弁護士 宅間仁志


1指定役務 第35類
「おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、菓子・パン・サンドイッチ・中華まんじゅう・ハンバーガー・ピザ・ホットドッグ・ミートパイ・人工甘味料・角砂糖・果糖・氷砂糖(調味料)・砂糖・麦芽糖・はちみつ・ぶどう糖・粉末あめ・水あめ(調味料)及び穀物の加工品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、口臭用消臭剤・動物用防臭剤・薬剤(農薬に当たるものを除く。)及び医療用試験紙の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、犬用鎖・ペット用被服類・ペット用ベッド・犬小屋・小鳥用巣箱・ペット用食器・ペット用ブラシ・犬のおしゃぶり・観賞魚用水槽及びその付属品・小鳥かご・小鳥用水盤及びペット用おもちゃの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、ベビーオイルの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
第39類
「外国人観光旅客に対するバスによる乗客の輸送、外国人観光旅客に対する鉄道・車両・船舶・航空機による輸送及び輸送情報の提供、外国人観光旅客に対する旅行及び観光に関する情報の提供、外国人観光旅客に対する荷物の宅配に関する情報の提供、輸送及び旅行に関する情報の提供、バス・タクシー及びハイヤーの運賃・運行状況及び予約状況に関する情報の提供、車両による輸送及びこれに関する情報の提供、全地球測位システム(GPS)を用いた車両・船舶・航空機の位置情報の提供、自動車の貸与及びこれに関する情報の提供、船舶の貸与及びこれに関する情報の提供、観光業務及びこれに関する情報の提供、企画旅行の実施及びこれに関する情報の提供、旅行者の案内及びこれに関する情報の提供、旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ及びこれらに関する情報の提供」
第41類
「外国人観光旅客に対する娯楽情報の提供、インターネットによる娯楽情報の提供、ショー・競技会・試合・コンサート及び娯楽イベントの運営並びに上演、映画・音楽・スポーツ・ビデオ及び演劇の娯楽の提供、技芸・スポーツ又は知識の教授及びこれらに関する情報の提供、セミナーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供、スポーツイベント及び文化イベントの手配及び運営、リクリエーション及びレジャー活動の企画・運営又は開催、食に関するイベントの企画・運営又は開催、人・企業又は地域間の交流会の企画・運営及び開催、娯楽イベントの運営、パーティーの企画・運営・開催、パーティーの企画・運営又は開催に関する情報の提供、興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)及びこれらに関する情報の提供、通訳及びこれに関する情報の提供、翻訳及びこれに関する情報の提供」
第43類
「外国人観光旅客に対する宿泊施設の提供に関する情報の提供、外国人観光旅客に対する宿泊施設の予約の取次ぎ、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ及びこれらに関する情報の提供」
2第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(中略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
(中略)