【令和4年11月8日(東京地裁 令和4年(ワ)第2229号)】
【ポイント】
私的使用の複製(著作権法30条1項)の成否について判断した事案
【キーワード】
著作権法21条
著作権法30条
私的使用の複製
その他これに準ずる限られた範囲内
第1 事案
被告が、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の著作物(「本件著作物」)を7部複製し、被告の古くからの知人7名に対し、同複製物を送付したことについて、原告が被告に対して、本件著作物に係る原告の複製権を侵害したと主張して、民法709条に基づき、その被った損害の賠償を請求する事案である。
以下では、本事案の争点のうち、私的使用の複製(著作権法30条1項)の成否について述べる。
第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)
4 争点4(被告による本件著作物の複製が「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)といえるか)について
本件においては、被告が著作権法30条1項にいう「その他これに準ずる限られた範囲内」において使用することを目的として著作物を複製したといえるかが問題となるところ、同項は、個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があり、また閉鎖的な私的領域内での零細な利用にとどまるのであれば、著作権者への経済的打撃が少ないことなどに鑑み、著作物の使用範囲を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ものに限定するとともに、これに加えて複製行為の主体について「その使用する者が複製する」との限定を付すことによって、個人的又は家庭内のような閉鎖的な私的領域における零細な複製のみを許容し、私的複製の過程に外部の者が介入することを排除して、私的複製の量を抑制するとの趣旨・目的を実現しようとしたものと解される。そうすると、著作物の使用範囲が「その他これに準ずる限られた範囲内」といえるためには、少なくとも家庭に準じる程度に親密かつ閉鎖的な関係があることが必要であると解される。
本件においては、前記前提事実(3)のとおり、被告が本件著作物の複製物を配布した7名は、被告の古くからの友人であるものの、本件全証拠によっても、被告とこれら7名との間に、家庭に準じる程度の親密かつ閉鎖的な関係があったとは認められないから、著作物の使用範囲が「その他これに準ずる限られた範囲内」であるということはできない。
よって、被告による本件著作物の複製が「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)に該当するとは認められない。
第3 検討
本件は、著作権法の「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)の成否(「その他これに準ずる限られた範囲内」の解釈等)について判断した裁判例である。
他人の著作物を複製した場合、複製権(著作権法21条)の侵害行為に該当するが、「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)の要件を満たす場合には、複製することができる。具体的には、「①個人的に又は②家庭内③その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(・・・)を目的とするときは」複製することができる。ここで、①「個人的に」とは、「個々の行為主体単独の私人としての活動領域内で完結する」範囲のことをいい、また、②「家庭内」とは、「家庭内での活動領域内に完結する」範囲のことをいう。
本判決は、③「その他これに準ずる限られた範囲内」の解釈等を判示している。具体的には、著作権法30条1項の趣旨(「個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があり、また閉鎖的な私的領域内での零細な利用にとどまるのであれば、著作権者への経済的打撃が少ないことなど」)を踏まえて、「その他これに準ずる限られた範囲内」といえるためには、「少なくとも家庭に準じる程度に親密かつ閉鎖的な関係があることが必要である」と判示する。
そして、本件における具体的なあてはめとしては、「被告が本件著作物の複製物を配布した7名は、被告の古くからの友人であるものの、・・・被告とこれら7名との間に、家庭に準じる程度の親密かつ閉鎖的な関係があったとは認められない」と判断した。
このように「古くからの友人」というだけでは、「家庭に準じる程度の親密かつ閉鎖的な関係」にはならないと判断した。また、上記の判例が示した著作権法30条1項の趣旨や「親密かつ閉鎖的」という言葉からすれば、例えば、人数は10人程度で、かつ、共通の目的のために集まった団体やサークルであれば、「家庭に準じる程度の親密かつ閉鎖的な関係」が認められると考えられる。
このように、本判決は「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)の解釈やあてはめを示しており、実務上参考になる。
以上
弁護士 山崎臨在