【令和4年1月31日判決(東京地裁 令和2年(ワ)1160号 商標権侵害差止等請求事件)】

【キーワード】
登録商標,商標の類比,登録商標使用の抗弁

【事案の概要】

原告は,衣料用繊維製品及び皮革製品の製造,販売及び輸入を主たる業務とする株式会社であり,被告は,衣料品・日用雑貨の販売及び輸出入を主たる業務とする株式会社である。
 原告は,以下の原告商標権1及び原告商標権2を有している(以下,原告商標権1に係る登録商標を「原告登録商標1」,原告商標権2に係る登録商標を「原告登録商標2」という。)を有している。

<原告商標権1(商標登録第0653109号)>

指定商品:第16類,第20類,第21類,第22類,第24類,第25類
紙製幼児用おしめ,クッション,座布団,まくら,マットレス,家事用手袋,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,布製身の回り品,かや,敷布,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,被服

<原告商標権2(商標登録第5037926号)>

指定商品:第25類
被服

そして,被告は,遅くとも令和元年5月31日から,以下の被告標章1又は2を付した被服(以下,被告標章1を付した被服を「被告商品1」,被告標章2を付した被服を「被告商品2」といい,あわせて「被告商品」という。)を通信販売ウェブサイトにて販売し,販売のために展示した。
 

なお,被告は,以下の被告商標権を有している(以下,被告商標権にかかる登録商標を「被告登録商標」という)。

<被告商標権>

指定商品:第25類
洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛布性ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服

原告は,被告が被告商品に被告標章1又は2を付する行為,被告標章1又は2が付された被告商品を販売し又は販売のために展示する行為,被告商品の広告に被告標章1又は2を付して展示し又は頒布する行為が,原告商標権を侵害するとして商標法36条1項に基づき,各商標の使用の差止を求めた。

【争点】

・登録商標使用の抗弁の成否

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)
第4 当裁判所の判断
1  争点1(原告各登録商標と被告各標章との類否)について
(・・省略・・)
2  争点2(登録商標使用の抗弁の成否)について
(1)  被告は,商標法25条本文が,「商標権者は,指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定して,商標権者が,商標権の効力として,当該登録商標の使用を専有することとしていることを根拠に,被告がその使用する標章について商標登録している場合には,その登録商標と同一の標章を適法に使用し得る権利を有することとなるとして,上記の場合に該当することを,抗弁として主張するものと解される。
 そして,被告は,使用する標章が登録商標と全く同一でなくとも,取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものであれば,上記の抗弁が成り立つものと解するのが相当であると主張するので,以下,この点について検討する。
(2)  被告登録商標は,上段に「KENT BROS.」という明朝体様の欧文字を,下段に「ケントブロス」という明朝体様の片仮名を二段に配して成るものである。
 これに対し,被告標章1は,上段に「KENT」という手書き風タッチの欧文字を,中段に「MARINE SPIRIT」というゴシック体様の欧文字を,下段に「BROS.」という手書き風タッチの欧文字を3段に配して成るものであるから,被告登録商標とは,中段の「MARINESPIRIT」という欧文字を含む点,「KENT」と「BROS.」が横一列ではなく二段に配して成る点,「KENT」及び「BROS.」の字体が明朝体様ではなく手書き風タッチである点及び「ケントブロス」というカタカナを含まない点において外観上相違する。
 また,被告標章2は,上段に「KENT」,下段に「BROS.」という,いずれもゴシック体様の欧文字を二段に配して成るものであるから,被告登録商標とは,「KENT」と「BROS.」が横一列ではなく二段に配して成る点,「KENT」及び「BROS.」の字体が明朝体様ではなくゴシック体様である点及び「ケントブロス」というカタカナを含まない点において外観上相違する。
 以上のような外観上の相違点が存在することに照らせば,被告各標章と被告登録商標が,取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるということはできない。
 したがって,仮に,本件において,被告が主張する登録商標使用の抗弁の適用があり得るとしても,被告各商品に被告各標章を使用する行為について,これが被告登録商標の専用権の範囲内の使用に当たるとは認められないから,上記抗弁は理由がないことに帰する。
(・・以下省略・・)

【検討】

1 登録商標使用の抗弁について
登録商標使用の抗弁とは,被告が,侵害が問題となっている標章の使用について,自らが有する登録商標の使用であることを抗弁として主張することをいう。当該抗弁自体が認められるかは,学説もわかれるところであるが,認められるとしても,当該抗弁が成り立つのはごくわずかな場合に限られるとされている。
すなわち,登録商標使用の抗弁が適用される場面は,①被告の使用する標章が被告の登録商標と同一(社会通念上同一)であり,②被告の使用する標章が原告の登録商標と同一又は類似しており商標権侵害が成立する場面であり,多くの場合,被告の登録商標と原告の登録商標とが同一又は類似していることが前提となる。
すると,そのような場面においては,被告の登録商標のほうが先に登録されている場合,それと類似する原告の登録商標は商標法4条1項11号違反の無効理由を有しているとして無効の抗弁が主張可能であるし,被告の登録商標の方が後に登録されている場合,被告の登録商標は原告の登録商標と類似し商標法4条1項11号違反の無効理由を有するため,当該登録商標の使用であることは商標権侵害の成立を否定する根拠となりえない。

2 本件の検討
本件において,裁判所は,被告が使用する標章と被告の登録商標とを比較し,外観上の相違点があることから「取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるということはできない」として,登録商標使用の抗弁の成立を否定している。
しかし,本件では,直接的に登録商標使用の抗弁について認められるか否かは判断しておらず,上記の判断も,あくまで「仮に」という前提での判示である。そのため,汎用的に適用されるものではないと考えるが,登録商標使用の抗弁を主張する場合に最低でも外観上の相違点がどの程度のものであるかを確認しておく必要があるという点で参考となると考える。

以上

弁護士 市橋景子