【令和4年7月13日判決(東京地裁 令和3年(ワ)第21405号】

【キーワード】
著作権法、写真の著作物、著作権法114条3項

【事案の概要】

 本件は、原告が、被告は原告が著作者である写真(以下「本件写真」という。)を基にして画像を作成し、被告の管理するウェブサイトにアップロードしたとし、このことが、原告の本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び氏名表示権を侵害し、又は公衆による複製権侵害を幇助したと主張して、被告に対し、著作権に基づき本件写真の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止を求めると共に、不法行為に基づく損害賠償として、ライセンス料相当額、著作者人格権侵害による慰謝料及び弁護士費用相当額に加え、これに対する不法行為の日から支払い済みまでの遅延損害金の支払いを求める事案である。

【争点】

損害の発生の有無及び額
※本件では他にも争点が存在するが、本稿で言及するものに絞って記載している。

【判決(一部抜粋)】

※下線は筆者が付した。
3 争点3(損害の発生の有無及び額)について
  (1) 使用料相当額について
  ア 原告は、著作権法114条3項に基づいて、本件写真の使用料相当額を損害額として請求していることから、本件写真の使用料相当額を検討する。
  証拠(甲6、7)によれば、原告は、通常、fotoQuoteのライセンス表に従って写真のライセンスを付与していることが認められるが、同ライセンス表が我が国の市場におけるライセンス額の算定基準として相当なものといえるかどうかは明らかではなく、同ライセンス表のみに依拠して使用料相当額を検討することは相当ではない。
  他方、証拠(甲10)によれば、協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程(以下「本件規程」という。)は、同組合が管理の委託を受けた写真の著作物の使用に係る使用料を定めるものであると認められるところ、本件規程は日本国内において実際に適用されているとうかがわれること、他に本件規程を本件写真の使用料に適用することが不相当な事情や、本件規程に定められた使用料自体が過大であるといった事情がうかがわれないことからすると、原告が本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては、本件規程の内容を参酌するのが相当である。
  そして、本件規程によれば、商用広告目的でウェブページの最初のページより後のページ(以下「セカンダリーページ」という。)に写真を掲載する場合の使用料は、12か月以内で5万円、1年を超える場合の次年度以降は1年毎に2万円とされていることが認められる。
  本件において、被告は本件被告サイトを被告の運営する着物及び浴衣買取サイトへの送客目的で制作したものであるから、本件写真の使用目的は商用広告目的であると認められる。また、本件写真はセカンダリーページにおいて掲載され、その使用期間は前記前提事実(4)のとおり約3年以上4年未満であることから、本件規程に基づくと、原告が本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、11万円と認められる(5万円+3×2万円=11万円)。
  イ 被告は、〈1〉本件被告サイトにより何ら収益を上げておらず、〈2〉原告に損害が発生したとしても、それは、原告自身が使用許諾条件について分かりやすい表示をしなかったことや、写真自体に自己の氏名等を記載しなかったことに起因するものであるから、これらの事情を損害額の算定に反映すべきである旨主張する。
  しかし、〈1〉の主張に関しては、著作権法114条3項の損害額の算定において、被告が利益を受けたか否かは無関係の事実であり、同事情を考慮することはできない。
  また、〈2〉の主張に関しては、前記2のとおり、本件写真のダウンロード元であるビジュアルハントの該当ページを見れば、通常、本件写真は、著作権により保護されており、一定の条件に従わない限り使用することができないことを認識し、又は認識することができ、一方、原告において自己の氏名等を本件写真自体に記載しなかったことは、何ら責められるべき事情ではないから、被告の主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。
(2) 慰謝料について
  前記前提事実(4)のとおり、本件被告サイト上に本件画像が掲載された期間は、約3年2か月間と長期間にわたっていること、他方で、証拠(乙2)によれば、上記期間における本件被告サイトのPV(ページビュー)は207にとどまり、本件写真の公衆への提供又は提示の回数自体は多いとはいえないこと等に鑑みると、原告の本件写真に係る氏名表示権侵害による慰謝料額としては3万円が相当であると認められる。
  (3) 弁護士費用について
  本件の事案の性質及び内容、訴訟経過等に鑑みると、被告による本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権侵害と相当因果関係の認められる弁護士費用の額は1万円と認めるのが相当である。
  (4) 合計額
  以上によれば、被告の不法行為により原告が被った損害の額は、合計15万円(11万円+3万円+1万円=15万円)と認められる。

【解説】

1. 総論
 著作権法114条は、著作権侵害に基づく損害額につき、一定の範囲で立証の負担を軽減するものである。ごく簡単に言えば、同条1項は侵害者の譲渡数量と著作権者の単位数量当たりの利益額との積を損害額とするものであり、同条2項は侵害者が侵害により受けた利益の額を損害額と推定するものであり、本件で問題となった同条第3項は、「著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を損害額とするものである。著作権等の行使につき受けるべき金銭の額としては、当該著作権等の使用料相当額が典型である。また、同条5項が、3項の損害額を超える賠償の請求を妨げないと規定することから、3項による損害額は最低限のものとしての意味を有すると理解されている。
 なお、著作権法114条3項は、平成12年改正までは「通常受けるべき金銭の額」とされていた。しかしこのような規定では、初めから許諾を受けて適法に著作物を利用していた場合も、侵害により著作物を利用していた場合も、著作権者等に支払うべき額が同じになり、侵害をして利用し、許諾を受ける手間を省いた方が得になってしまう。このような懸念から、上記改正により「通常」という文言は削除されており、柔軟な損害額の認定が可能になった。

2. 本件の判示
 本件では、被告による本件写真に係る著作権侵害の存在を前提に、著作権法114条3項に基づく損害額の算定が行われている。使用料相当額を立証する資料として、原告はfotoQuoteのライセンス表及び協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程1を提出しているが、前者については我が国市場における算定基準としての相当性が明らかでないとして、後者が採用された。
 そして、上記使用料規程の定めに従って損害額を認定した。

3. 解説・検討
 著作権法114条3項の適用に際しては、通常は、「侵害者の譲渡数×権利者が単位数量当たり受けるべき金銭の額」という計算式が用いられることが一般的である。例えば、原告が著作権を有する映画の著作物について、被告がそれを複製したDVDを販売したという事例について争われた知財高裁平成21年9月15日(平成21年(ネ)第10042号)では、被告による譲渡数量と、上記映画の著作物を収録したDVDの表示小売価格2に使用料率をかけた額との積を損害額としている。
 しかし、本件はウェブサイトへの著作物の利用が問題になるという、譲渡数(閲覧回数)により使用料を決めることが馴染みにくい事案であった。このような事情から、原告は閲覧回数を問わない使用料規程に基づいて損害額の主張をし、裁判所もこれに応じて認定をしたものと考えられる。
 もっとも、使用料規程に従って著作権者の受けるべき金銭の額を算定する場合、権利者が単位数量当たり受けるべき金銭の額(基準となる価格×使用料率)において柔軟な認定を行うことができず、通常の計算式を用いる場合よりも裁判所が裁量により認定できる範囲は狭くなる。このとき、算定される額は、許諾を得て適法に著作物が利用された場合に支払うべき金銭と基本的に同額になるため、侵害した方が得になる、という平成12年改正で懸念された点が現実化してしまうという問題が生じる。
 本件は、被告が外注会社にウェブサイトの作成を依頼したところ、作成されたウェブサイトに本件写真が利用されていた、という主張がされた事案であり、裁判所も被告が故意に本件写真を利用していたとまでは認定していない。このことから、裁判所も本件は適法利用の使用料に上乗せをする必要性に乏しい事案であると判断している可能性がある。しかし、侵害に当たることを認識しつつ著作物をウェブサイトに掲載した場合や、掲載されたウェブサイトで多くの閲覧があった場合など、本件よりも侵害の違法性の強い事案は想定でき、このような場合には、上記の懸念から、単に使用料規程に従って損害額を算定するだけでなく、それに調整を加えることができる構成が検討される可能性は否定できない。
 このような事案では、原告の立場では侵害の違法性が高いことを示す事実を主張立証し、逆に被告の立場では、これを否定する事実を主張立証する必要性が生じる場面もありうるものと考える。

以上

弁護士 稲垣 紀穂


1写真の著作物の使用料について規定するものであり、ウェブサイトへの掲載の場合、目的(一般利用目的か商用広告目的か)、使用箇所(HPトップページ、HPセカンダリーページ、アイコン等で区別される)、使用の期間に基づき使用料が算定される。

2基準とする価格について、著作権者の求める表示小売価格、正規品の実売小売価格(前記表示小売価格よりも低廉であることが多い。)、侵害品の価格のいずれを用いるかについては、裁判所に裁量がある。正規品の実売小売価格を基準とする裁判例が多い(東京地判平成22年4月21日(判時2085号139頁)等)が、前掲知財高裁平成21年9月15日では、著作者が訴外Aとの間で表示小売価格を基準として使用料を計算するという独占的排他的許諾の合意があったという事情が考慮され、同価格が基準とされている。