【令和4年11月17日(東京地裁 令和4年(ワ)第12062号)】
第1 事案の概要
被告らが、原告らの著作物である映画を編集して作成した動画をインターネット上の動画投稿サイト「YouTube」に投稿し、これによって原告らの著作権(翻案権及び公衆送信権)を侵害したと主張して、原告らが被告らに対し、民法709条及び719条1項前段(損害額につき、著作権法114条3項)に基づき、損害賠償を求めた事案。
第2 裁判所の判断
1 被告らは、故意により、いずれも映画の著作物である本件各映画作品について原告らがそれぞれ有する著作権(翻案権及び公衆送信権)を侵害したといえる。
2 損害額について
(1)弁論の全趣旨によれば、YouTubeの利用者がYouTube上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があることが認められる。再生対象の映画の著作権者は、当該レンタル料から著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定しているものと理解されることから、本件において、原告らが本件各映画作品に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、YouTube上で視聴する場合の本件各映画作品それぞれのレンタル価格等を考慮して定める金額に、本件各動画のYouTube上での再生数を乗じて算定するのが相当である。
(2)YouTubeにおける本件各映画作品の各レンタル価格(HD画質のもの)は、1作品当たり400~500円程度であり、400円を下らないこと、うち30%がYouTubeに対するプラットフォーム手数料に充当されること、本件各動画は、それぞれ、約2時間の本件各映画作品を10~15分程度に編集したものであるものの、本件各映画作品全体の内容を把握し得るように編集されたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。これらの事情を総合的に考慮すると、被告らが本件侵害行為によって得た広告収益が700万円程度であること(当事者間に争いがない)を併せ考慮しても、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(法114条3項)は、原告らの主張のとおり、本件各動画の再生数1回当たり200円とするのが相当である。
第3 若干のコメント
本件は、いわゆる「ファスト映画」の損害賠償額について判断を下した初の事例であり、合計で20億円相当という多額の損害(一部請求のため本判決での認容額は5億円)が認定されており、被告らは、結果的に得られた収益の300倍近い損害賠償をする必要があると判断されたため、同様の事例に対する抑止力として、意義のある裁判例であるといえる。
以上
弁護士 多良翔理