【令和4年5月25日判決(知財高裁 令4(行ケ)10006号 商標登録取消決定取消請求事件)】

【キーワード】

商標法4条1項7号、公の秩序又は善良の風俗を害する商標

【事案の概要】

 原告は、株式会社OMECOという社名で時計を販売する企業であり、以下の登録第6277280号商標(以下「本件商標」という。)の商標権を有していた。

 被告補助参加人(オメガ・エス アー(オメガ・リミテッド))が、本件商標について登録意義を申し立てたところ、特許庁は、本件商標は商標法4条1項15号及び商標法4条1項7号に該当するとして、「登録第6277280号商標の商標登録を取り消す。」との決定を行ったため、原告が当該決定の取り消しを求めて、本件訴訟を提起した。

【争点】

・商標法4条1項7号の該当性

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)

第4 当裁判所の判断

1 検討

本件商標は、その構成文字に相応して「オメコ」の称呼を生じるものであり、この点は当事者間にも争いがないところ、その称呼の語は、・・「女性性器の俗称」・・を意味するとされているものである一方、その称呼から異なる意味合いを直ちに想起させる語は見当たらない。加えて、現に、本件商標は、ドメイン名を「omeco.buyshop.jp」とする原告の運営に係るウェブサイトのページ上部左上に、「変態高級腕時計」の文字と、女性器を模した、二重丸とその中心を縦断する縦線及び円の外側の放射状の短い線で構成される円状図形と一体となって、ロゴマーク様の図形を構成する一部として表示されているほか(甲10の1ないし甲10の3)、このウェブサイトでは、原告の販売に係る腕時計として、上記円状図形及び本件商標が付された腕時計の画像や(甲10の1ないし甲10の3)、「パイパンマン」等の性的な意味合いを認識させる表示が付されたTシャツの画像等の商品画像が多数掲載されているのであるから(乙22ないし25)、本件商標は、上記各辞典に掲載されたそのとおりの意味合いで使用されていると認められ、それ以外の意味合いのものと理解され得る余地はない。

  そうすると、本件商標は、その称呼から、少なくとも需要者に女性器を連想、想起させるものであるから、その構成自体が卑わい又は他人に不快な印象を与えるようなものであって、その余の点について検討するまでもなく、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に該当するものであり、商標登録を受けることができないものに当たる。

2 原告の主張について

⑴  原告は、本件商標の称呼が女性器等を示す俗語であったとしても、本件商標は欧文字で表記されているから、女性器等が連想、想起されることはない、あるいは、このような俗語は関西地方で用いられる方言、俗語であり、日本の社会一般で理解されるものであるとはいえない旨主張する。しかしながら、本件商標の綴りからは自然に女性器が連想、想起される称呼が生じ、それ以外の称呼が自然と生じるものとはいい難いし、また、仮に、関西地方で用いられる方言、俗語であったとしても、関西地方で用いられているならば、周知の用語というに十分である。そして、何より、原告自身が女性器等を連想、想起させるものとして本件商標を使用していることは、前記1において説示したとおりであるから、欧文字で表記されていることや関西地方で用いられる方言、俗語であることが女性器を連想、想起させることを何ら妨げるものではない。

 したがって、原告の上記主張は、いずれにしても採用し得ない。なお、本件商標と同一の称呼を生じさせる原告の商号が現時点で維持されていることは、商標法に従い商標登録の適否を判断する本件の結論を何ら左右しない。

⑵  原告は、本件商標が用いられても、取引の実情からみて、被告補助参加人の業務との間に誤認混同は生じないから、引用商標の信用等又は被告補助参加人の業務上の信用を毀損させるおそれはない旨主張するが、本件商標は、その構成自体から卑わい又は他人に不快な印象を与えるような文字であるから、引用商標の信用等又は被告補助参加人の業務上の信用を毀損させているか否かの点は、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるとの判断を何ら左右しない。

 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。

・・・(以下、省略)

【検討】

1 商標法4条1項7号

 商標法4条1項7号では「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について「商標登録を受けることができない」と定められている。「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標法による保護を認める必要がないためと解される。具体的には、「商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合」等がこれに該当し、「他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する」とされている(特許庁「商標審査基準」)。

 同号該当性が問題となる事案としては、取引の交渉相手の使用する標章を勝手に商標出願するといった「剽窃的な出願」の場面などである。

2 本件

 本件では、「OMECO」という本件商標が、「女性性器の俗称」を意味するため、「構成自体が卑わい又は他人に不快な印象を与える」として、商標法4条1項7号該当性が認められた。「女性性器」自体は、それをモチーフとした祭りが開催されていることからも、「卑わい又は他人に不快な印象」を与えるものと直ちにはいえない可能性もあるが、本件では、原告自身が性的な意味合いの強いブランドイメージを作り上げているため、その社会的影響も相まって、商標法4条1項7号に該当すると判断されたものと考える。

 なお、原告は、株式会社OMECOという社名であるところ、法務局から指摘を受けることなく当該社名が認められたことを、本件商標が商標法4条1項7号に該当しない理由として主張した。しかし、会社法において、商号として禁止されているものは他の会社と誤認される名称等であって、商標法4条1項7号に該当する名称が禁止されているものではない。本件においても、当該事情は商標法4条1項7号の該当性に影響しない旨を判示している。

3 商標法4条1項15号の該当性について

 本件の被告補助参加人は、自身が商標権を有する引用商標(以下の国際登録第765501号等)との関係で、本件商標は商標法4条1項15号に該当すると主張していた。そして、特許庁の決定においては、当該主張は認められ、本件商標は商標法4条1項15号に該当すると認定されている。

 しかし、本件の判示では、商標法4条1項15号の該当性については触れていない。
本件商標と引用商標では、外観、称呼が類似していると思われるが、本件商標が「構成自体が卑わい又は他人に不快な印象を与える」ものである以上、観念が異なると言わざるを得ないため、同号該当性には触れなかったものと考える。
 もし、今後、被告補助参加人側が原告に対して商標権侵害を主張する場合、観念の類似性についてのハードルを乗り越える必要があると考える。

以上

弁護士 市橋景子