【令和4年11月28日判決(大阪地裁 令和3年(ワ)第9530号事件)】

【判旨】

建築機器等を製造販売する被告に対してスクリューオーガ用掘削ヘッドについて、差止等を請求したが、当該請求が、認められなかった事例。

【キーワード】

掘削ヘッド、コニカルビット、「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の文言解釈

【事案の概要】

本件は、発明の名称を「スクリューオーガ用掘削ヘッド」とする特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明の技術的範囲に属する別紙「被告製品目録」記載1~5の各製品(以下、順に「被告製品1」などといい、これらを併せて「被告各製品」と総称する。)を販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告各製品の販売等の差止め及び販売済みの被告製品4及び5の回収を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償293万6670円及びこれに対する不法行為の日の後(本訴状送達の日の翌日)である令和3年10月30日から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

【本件特許権】

原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特許公報」のとおりである。
ア 登録番号 特許第4147314号
イ 出願日 平成14年8月30日
ウ 公開日 平成16年3月25日
エ 登録日 平成20年7月4日
オ 発明の名称 スクリューオーガ用掘削ヘッド

⑴ 構成要件
本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の構成要件は、次のとおり分説される。
A 外周部に螺旋翼が設けられたスクリューオーガロッドの先端部に装着される掘削ヘッドであって、
B 基部が前記スクリューオーガロッドに取り付けられる基軸の外周部に、外径の等しい3条の螺旋翼が設けられ、
C これら3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに、円錐状の尖った刃先部を有する複数のコニカルビットが軸回りに回転自在にそれぞれ取り付けられ、
D 該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されていることを特徴とする
E スクリューオーガ用掘削ヘッド。

【被告製品】

被告各製品の構成については当事者間に争いがあるが、被告各製品が、構成要件A~C及びEを充足することは当事者間に争いがない。

【争点】

裁判所の判断した争点は、被告製品が構成要件Dを充足するかという点である。

【判旨抜粋】

証拠番号等は適宜省略する。下線は、筆者が付した。
(1) 被告各製品の構成について
被告各製品が、構成要件A~C及びEに係る構成を有することは当事者間に争いがない。争いのある構成要件Dの充足性(「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」といえるか)につき、検討する。
(2) 「中央部が突出する概略円錐状」の意義について
ア 構成要件Dは、「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されている」と規定しているところ、「該複数のコニカルビット群」とは、3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに取り付けられたコニカルビットを指す(構成要件C)から、構成要件Dは、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットのみにより、中央部が突出した概略円錐状に形成されていることを要すると解される。その他、本件発明に係る請求項において、「中央部が突出する概略円錐状」に関する記載はない。
イ 本件明細書には以下の内容が示される。
従来の掘削ヘッドは、複数の小形ビットが台金に固着されていたので、掘削中に岩石等に当たった際、刃先が逃げることができず、損傷を受けやすいという問題点や掘削によって生じた繰粉が穴底からうまく排出されにくいという問題点があった(【0003】)。このような問題点を解決するものとして、直径方向に対向するように設けられた2条の螺旋翼を有する掘削刃の螺旋翼の周縁部及び下端に多数の小形ビットを取り付けたスクリューオーガ用掘削刃がある。これには、軸回りに回転自在な小形のビット(コーン刃)が設けられていて、岩石等に当たった時に当該コーン刃が回転して逃げることができるため、損傷しにくいという利点があるが、2条の螺旋翼が直径方向に対向するように設けられ、これら2条の螺旋翼にそれぞれ設けた小型ビットで掘削を行うものであるから、掘削中に岩石等に遭遇したときは、2条の螺旋翼に設けたビットが当該岩石に当たるたびに断続的な衝撃を受け、スクリューオーガ装置全体が上下に振動して、円滑な掘削ができなくなるおそれがあるほか、螺旋翼自体が先端側の外径が小さくなるように全体として円錐状の尖った形状となっているので、芯ぶれにより、掘削される穴が曲がりやすいというおそれもある(【0004】)。本件発明は、掘削中に岩石等に当たってもビットの刃先が損傷しにくく、断続的な衝撃をうけにくく、しかも穴曲がりが生じにくい掘削ヘッドを提供することを目的とし、基部がスクリューオーガロッドに取り付けられる基軸の外周部に、外径の等しい3条の螺旋翼が設けられ、これら3条の螺旋翼の先端部に固着された複数のホルダに、円錐状の尖った刃先部を有する複数のコニカルビットが軸回りに回転自在にそれぞれ取り付けられ、該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されていることを特徴とする構成をとるものである(【0005】【0006】)。
3条の螺旋翼が並列に設けられていることにより、掘削中に岩石等の掘削しにくい物体に当たっても、断続的な衝撃が比較的小さくてすむようになるとともに、胴部における3条の螺旋翼の外径をほぼ一定にしておくことにより芯ぶれが生じにくくなる結果、穴曲がりが少なくなるという効果を奏するものである(【0006】【0007】【0020】)。これらの本件明細書の記載内容に加え、図面(【図1】~【図4】)に照らすと、外径の等しい3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビット群により、「中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の技術的意義は、胴部における3条の螺旋翼の外径を変えることなく、該複数のコニカルビット群により、基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状の形状にすることで、穴曲がりが生じることを防ぎつつ、掘削効率を高めることにあるものと認められる
また、本件明細書には、発明の実施形態に関して、「小型ビット20、…は、それぞれが取り付けられている螺旋翼10の傾斜方向にほぼ沿うように傾けて設けられている。また、前記ヘッド15には複数(図示例では3個)の小型ビット20、…が設けられていて、掘削ビットの先端部は、これら小型ビット群によって側面視概略円錐状を呈している。」(【0011】)、「掘削ヘッド1の先端部には、全体形状が概略円錐状となるように多数のコニカルビット20、…が設けられているので、これらビットにより効率よく掘削が行われる。」(【0016】)との記載もある。

(筆者注:本件明細書【図3】)

ウ・・・原告は、平成19年7月3日付けの拒絶理由通知書により、特許庁から、本件発明は、引用発明1及び2に基づき進歩性を欠くとの拒絶理由を通知されたことに対し、構成要件Dに該当する部分を付加して補正した上で、意見書において、引用発明1は、螺旋翼が2条で、円周方向における螺旋翼同士の間隔が大きく、ヘッド先端部のビットの密度が低くなり、しかもヘッド先端部のビットの先端はほぼ同一平面状に位置していて、仮想先端面が平板状を呈しているのに対し、本件発明は、3条の螺旋翼の先端部に複数のコニカルビットが取り付けられ、ヘッド先端部が、全体として中央部が突出する概略円錐状の外形に形成されているから、引用発明1と本件発明とは構成が大きく相違している旨を主張したことが認められる。
このような出願経過に照らすと、原告は、構成要件Dに該当する部分を付加して補正することで、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットにより、ヘッド先端部が全体として中央部が突出する概略円錐状の外形であることを特定したものと解される。
エ 前記アないしウのとおり、構成要件C及びDの文言、本件明細書の内容、「中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の技術的意義、出願経過に照らすと、「中央部が突出する概略円錐状」とは、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたコニカルビットのみにより、側面視を含む全体形状において基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしていることを意味しているものと解するのが相当である。本件明細書には、発明の実施形態として、3条の螺旋翼の先端側に、概略円錐状のヘッド15が、基部を基軸2に固定されており、ヘッド15に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を呈しているものが示される(【0011】)ことから、発明の実施形態には、3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたコニカルビットが側面視を含む全体形状において基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状をしており、かつ、ヘッド15に取り付けられた小型ビットを含む小型ビット群が側面視概略円錐状を呈する形態を含むものと解する余地があるが、前記アの構成要件C及びDの文言に照らすと、「中央部が突出する概略円錐状」の上記解釈は左右されない。
 (3) 被告各製品について
ア 被告製品1
・・・被告製品1は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた3~4基のコニカルビット30により、側面視(基軸10先端方向を上に向けた場合。以下同じ。)において、中央部が平坦又は間隙のある、浅いハ字状に線が描かれていること、全体形状として、基軸10から放射状に3本の緩やかな曲線(ほぼ直線)が描かれていることが認められる。
イ 被告製品2
・・・被告製品2は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた2~3基のコニカルビット30により、側面視において、中央部が平坦又は間隙のある、深いハ字状に線が描かれていること、全体形状として、基軸10から放射状に3本の直線が描かれていることが認められる。
ウ 被告製品3
・・・被告製品3は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた5~6基のコニカルビット30により、側面視において、中央部が平坦又は間隙のある、浅いハ字状に線が描かれていること、全体形状として、基軸10から放射状に3本の緩やかな曲線が描かれていることが認められる。
エ 被告製品4
・・・被告製品4は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた1~2基のコニカルビット30により、側面視において、2点又は点及び線が描かれていること、全体形状として、基軸10付近に2点及び基軸10から螺旋翼20の周縁部に向かって1本の直線が描かれていることが認められる。
オ 被告製品5
・・・被告製品5は、その3条の螺旋翼20の先端部に設けられた3基のコニカルビット30により、側面視において、中央部が平坦又は間隙のある、浅いハ字状に線が描かれていること、全体形状として、基軸10から放射状に3本の緩やかな曲線が描かれていることが認められる。
カ 以上のとおり、被告各製品の3条の螺旋翼の先端部に取り付けられたコニカルビットは、いずれも、側面視を含む全体形状において、直線、緩やかな曲線又は点を形成するにすぎず、同コニカルビットのみにより、基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状を形成しているとはいえず、構成要件Dを充足するとは認められない

【解説】

 本件は、スクリューオーガ用掘削ヘッド(岩盤等を掘削する場合の掘削機の先端部分に取り付けるヘッドに関するもの)に関する特許権を、被告製品が侵害しているかという点が問題となった事案である。
 本件では、本件発明の構成要件A~C及びEについて、被告製品が充足することについては争いがなく、構成要件Dの「該複数のコニカルビット群により、中央部が突出する概略円錐状に形成されていること」の意味が問題となった。
 裁判所は、まず、構成要件C及びDの文言解釈から、「3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットのみにより、中央部が突出した概略円錐状に形成されていることを要する」とし、その上で、本件明細書の記載、本件特許権の審査過程における意見書等の記載からも、同様の結論を導き出した。
 その上で、被告製品は、コニカルビットだけでは、「側面視を含む全体形状において、直線、緩やかな曲線又は点を形成するにすぎず、同コニカルビットのみにより、基軸先端方向に向かって径が小さくなる円錐状を形成しているとはいえ」ないと判断した。
 原告は、構成要件Dについては、「3条の螺旋翼の先端部に取り付けられた複数のコニカルビットが『概略錐面状』に並んで配置されることを意味」する、つまりコニカルビットの配置だけが問題である旨を主張し、意見書、アンケート等を証拠として提出したが、請求は認められなかった。
 本件においては、本件明細書等において、実施例を複数記載(本件明細書では、1種類のヘッドしか記載されていない。)するなどして、被告製品の態様についても、カバーするように記載しておく必要があったように思われる。
 以上のように、本件は、明細書作成等において参考になると思われるので、ここに紹介する。

以上
弁護士 宅間仁志