【令和4年10月19日判決(知財高裁 令和4年(ネ)第10019号)】

【ポイント】
 知財高裁が、当該著作物が自動的にトリミングされツイッター上に掲載される点について、同一性保持権を侵害しないと判断した事案

【キーワード】
ツイッター
ツイート
同一性保持権
著作権法20条
トリミング
やむを得ないと認められる改変
プロバイダ責任制限法4条1項(令和3年改正前)

第1 事案

 本件は、イラストの著作者(被控訴人、一審原告)が、当該イラストがツイッター上に無断でアップロードされ、当該イラストに関するコメントをツイートされたことについて、名誉毀損及び著作権の侵害を主張し、ツイッターを運営する米国法人(控訴人、一審被告)に対して、当該ツイートを行った発信者の情報開示を求めた発信者情報開示請求をした事案における控訴審である。
 本件では、当該イラストの著作者は、著作権侵害の主張の一つとして、当該イラストの一部がツイッターの仕様等で自動的にトリミングされ掲載されたので、同一性保持権侵害を主張していた。以下では、同一性保持権に関する争点について述べる。
 なお、原審(東京地裁令和3年12月23日(令和2年(ワ)第24492号)は、同一性保持権の侵害を認め、原告の請求を認容した。

第2 判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

第3 当裁判所の判断
1 争点1-1(本件ツイート1-1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 「権利侵害の明白性」について
 発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、プロバイダ責任制限法4条1項1号が、発信者情報の開示請求について厳格な要件を定めていること(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)に照らすと、同号が規定する「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならないと解される。
(省略)
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、〈1〉本件ツイート1-1に添付された画像のうち、本件投稿画像1-1-2及び1-1-3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを重ね合わせたものであり、また、〈2〉ツイッターのタイムライン上に表示された本件ツイート1-1における本件投稿画像1-1-2~1-1-4は、被控訴人作成のイラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変又は切除に当たると解する余地がある
イ しかしながら、〈1〉については、著作物がイラストであって重ね合わせて用いることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できることに加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、〈2〉についてみると、証拠(甲49、乙113~119、120の1・2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」に当たるというべきである
エ そうすると、本件ツイート1-1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない

第3 検討

 現状のツイッターでは、ツイッターに写真やイラスト等のデータをアップロードすると、ツイッターの仕様等により自動的にその一部がトリミングされ、ツイッター上に掲載される。本件は、ツイッター上にイラストがアップデートされ、その一部がツイッターの仕様等により自動的にトリミングされ掲載された点について、知財高裁が同一性保持権を侵害しないと判断した事案である。
 同一性保持権を侵害しないと判断した理由として、知財高裁は、上記「第2」記載のとおり、①ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ないこと、②投稿後も、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表示が変更されること、③ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されることが認められることを挙げ、これらを理由に、自動的にトリミングされることは「やむを得ないと認められる改変」に当たると判断した。
他方で、同様の事案(写真の著作者が、当該写真がリツイートされた投稿について、当該写真の端部や氏名表示部分がトリミングされた点について、ツイッター社に対して、リツイートした者の情報を求め、発信者情報開示請求をした事案。以下、「別件」という。)においては、❶知財高裁判決(知財高判平成30年4月25日判決(平成28年(ネ)第10101号))では、同一性保持権及び氏名表示権の侵害を認め、❷その上告審である最高裁判決(最高裁令和2年7月21日判決(平成30年(受)第1412号))では、氏名表示権の侵害を認めた。なお、同最高裁判決においては、同一性保持権の侵害の成否は判断されなかった。この事案も、本件と同様に、ツイッターの仕様等で自動的にトリミングされる点やツイッター上で当該画像をクリックすると、画像の全体が表示される点は共通している。
 ここで、本件と別件の上記❷最高裁判決は、支分権の対象(同一性保持権と氏名表示権)が異なるので、両者の結論は矛盾するものではないと一応の説明がつく。
 他方で、本件と別件の上記❶知財高裁判決は、ツイッターの仕様等で自動的にトリミングされる点において同様の事案にもかかわらず、同一性保持権侵害の成否において、結論が異なっている。本件と別件の大きな違いといえば、前者は当該著作物(イラスト)を掲載することは適法な引用とされたのに対して、後者は違法とされたことである(なお、両者は「ツイート」されたものか「リツイート」されたものかで異なるが、同一性保持権侵害の成否において、この点は大きな違いではないと考える。)。この違いが両者の結論を分けたかもしれない。もっとも、本件判決の該当箇所(特に、「やむを得ないと認められる改変」に当たると判断した上記各理由)においては、当該著作物(イラスト)を掲載することが適法な引用とされたことについては触れられていない。
 このように、本件は、一見すると同種事案の従前の知財高裁判決と矛盾する結論が示されていることから、今後の同種事案の判決が待たれるが、サービスの仕様等により自動的にトリミングされるサービスを検討する上で、実務上参考になる事案である。

以上
弁護士 山崎臨在