【令和4年4月28日判決(知財高裁 令和3年(ネ)第10072号 特許権侵害差止等請求控訴事件)】

【要約】
被告らの一方が特許権を侵害する被告製品の販売等を行っていたが、他方についても緊密な一体関係があるとして、共同不法行為の成立を認めた。
【キーワード】
共同不法行為、緊密な一体関係

1 事案

本件訴訟の被告は、被告ジョウズ及び被告アンカーである。「加熱式エアロゾル発生装置、及び一貫した特性のエアロゾルを発生させる方法」と題する発明に係る特許権を有する原告は、被告らに対し、被告らが共同で加熱式タバコ用デバイス(以下「被告製品」という。)の販売、輸出、輸入及び販売の申出をすることが特許権の侵害に当たると主張して、これらの行為の差止め及び被告製品の廃棄を請求した。
実際に被告製品の販売等を行っていたのは被告ジョウズであったため、被告アンカーが特許権侵害の責任を負うかどうかが1つの争点となった。以下、この点を中心に紹介する。

2 判決

⑴ 被告アンカーと被告ジョウズの関係に関する事実認定
第1審判決は、被告アンカーと被告ジョウズの関係に関し、以下のような事実認定をした(以下、控訴審判決における「控訴人」は「被告」として記載)。
・訴外中国アンカー社は、スマートフォンやタブレットの製造・販売を行う中国の会社であり、中国アンカー社を中核企業として、国際的な企業グループ「Ankerグループ」が形成されている。被告アンカーは、Ankerグループの日本法人である。
・被告ジョウズは、平成30年2月28日、被告アンカーの代表取締役Yによって設立され、設立時代表取締役はYであった。被告ジョウズの全株式は、全てYが保有していたが、平成30年4月18日、中国アンカー社の完全子会社であるP社に譲渡された。被告ジョウズのアマゾンにおける出品者プロフィール上の住所地は、同住所に所在するシェアオフィスである。同シェアオフィスの利用契約は、当初、被告アンカーが契約し、平成30年4月16日、被告ジョウズに契約上の地位が譲渡されたものであり、利用契約上の利用者はYのみであった。平成30年10月、同シェアオフィスが入居するビル1階の受付で確認したところ、被告ジョウズの表示はなく、受付の端末で検索したところ、被告アンカーの登録のみが確認された。
・被告ジョウズと被告アンカーは、業務委託契約を締結した。同業務委託契約には、被告ジョウズが被告アンカーに対し、被告ジョウズの喫煙具製品の開発補助業務及びそれに付随する一切の業務、喫煙具製品のマーケティング及びそれに付随する一切の業務、会計事務及び経営管理に関する一切の業務、その他被告ジョウズと被告アンカーの協議の上決定された業務の全部又は一部を委託する旨の条項が存在する。
・被告ジョウズの従業員数は2名であり、そのうち1名であるZは、平成30年4月から平成31年4月末まで被告アンカーに在籍し、令和元年5月から被告ジョウズに在籍していた。令和元年9月1日から同月30日までの被告ジョウズの従業員1人当たりの勤務日数の平均は5~6日、勤務時間の平均は40時間程度である。
・アマゾンの紹介サイトにおいて、被告製品がAnkerのサポートの下開発されたことなどが記載されている。
・被告製品の記者発表に関する記事において、被告アンカーの社長であるYが被告ジョウズの代表取締役を兼任することが記載されている。
・被告アンカーの従業員であったZが被告ジョウズのマネジャーとの肩書で被告製品についてプレゼンテーションを行ったことがある。
・楽天における被告製品の販売サイトにおいては、商品の返送先住所は、被告アンカーの所在地と同じビルであり、少なくとも、被告ジョウズは、被告アンカーに対し、返品された商品の取扱い、マーケティング業務などを委託していた。

⑵ 判断
以上の事実から、被告ジョウズと被告アンカーの人的及び物的な結合関係、被告ジョウズの被告アンカーに対する本件業務委託契約に基づく委託業務の範囲が被告ジョウズの業務全般にわたっていること、被告製品の広告宣伝の態様、その他の諸事情を総合考慮すると、被告ジョウズと被告アンカーは、被告製品の販売等に関し、緊密な一体関係があるものと認められるから、被告製品の販売及びその輸入手続きが被告ジョウズ名義で行われていたことを勘案しても、被告ジョウズと被告アンカーは、平成30年6月以降、共同して被告製品の販売等を行っていたものと認めるのが相当である。
そして、被告製品は、被告方法の使用に用いる物であって、本件発明1による「課題の解決に不可欠なもの」に該当することは、前記のとおりであるところ、被告らは、遅くとも、本件仮処分命令の送達により、本件発明1が特許発明であること及び被告製品が方法の発明である本件発明1の実施に用いられることを知ったものと認められるから、被告らによる被告製品の上記販売等の行為は、本件発明2に係る本件特許権の侵害(直接侵害)に該当するとともに、本件発明1に係る本件特許権の間接侵害(特許法101条5号)に該当するものと認められる。
したがって、被告らについて本件特許権侵害の共同不法行為が成立するものと認められる。

3 検討
本判決では、いかなる場合に特許権侵害の共同不法行為が成立するかという点について一般論は述べられておらず、事例判断である。本件の事例は、いわゆる複数主体による侵害の問題とは異なり、被告製品の輸入・販売等の表面上の行為を被告ジョウズのみが行っていたところ、被告ジョウズと被告アンカーとの関係に基づき、被告アンカーがこれを共同して行っていたと評価できるかどうかが問題となった事案である。
本判決は、「被告ジョウズと被告アンカーは、被告製品の販売等に関し、緊密な一体関係があるものと認められるから」、「被告製品の販売及びその輸入手続が被告ジョウズ名義で行われていたことを勘案しても、被告ジョウズと被告アンカーは、…共同して被告製品の販売等を行っていた」と認定した。本件は、被告らが同一の企業グループに属していることが認められた上、実際の業務委託関係等も明らかに認められた事案であったため、共同不法行為との結論を導くのはさほど困難な事案ではなかったのではないかと思われる。同一の企業グループに属しているとはいえず、証拠上委託関係を立証することも困難な場合に、いかにして「緊密な一体関係」を認めて特許侵害の救済を得ることができるのかについては、事案ごとに難しい課題となると考えられる。


以上
弁護士 後藤直之