【令和4年9月28日(知財高裁 令和4年(行ケ)第10038号)】

【判旨】

 原告の、本件商標につき商標法第50条第1項に基づく商標登録取消審判請求を認めず請求は成り立たないとした審決の取消訴訟であり、当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
商標法第50条第1項、不使用取消、社会通念上同一、W.I.S.E.-CSI300 China Tracker

【手続の概要】

以下、本件の不使用取消しに関する部分のみを引用する。なお、証拠番号については、適宜省略する。

⑴ 被告は、以下の商標(登録第5328151号。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
商 標 別紙のとおり

(筆者注:商標は上記のものである。)
登録出願日 平成21年12月11日
登録査定日 平成22年4月28日
設定登録日 平成22年6月4日
指定役務 第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理、投資の仲介、投資用ポートフォリオの管理、財務管理、有価証券の売買、金融派生商品取引、金融・財務分析、信託の引受け、銀行業務、株式市況に関する情報の提供、投資に関する助言又は指導、金融又は財務に関する助言」
⑵ 原告は、令和3年2月12日、本件商標について、商標法50条1項の規定により、商標登録取消審判を請求し(以下「本件審判請求」という。)、同年3月2日、その登録がされた。
特許庁は、上記請求を取消2021-300094号事件として審理を行い、令和3年12月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、令和4年1月5日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和4年5月6日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【本件審決の理由の要旨】

本件商標の通常使用権者であると認められる楽天証券株式会社(以下「楽天証券」という。)は、本件審判請求の登録前3年以内の平成30年3月2日から令和3年3月1日までの期間(以下「要証期間」という。)内に、本件商標と社会通念上同一の商標である「W.I.S.E.-CSI300 CHINA TRACKER」の商標(以下「使用商標1」という。)を、ウェブサイトに表示している。使用商標1は、楽天証券が取り扱う「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外国投資信託(香港ドル建)」(以下、これらを「本件投資信託」という。)の名称であると認められるから、楽天証券は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に本件商標と社会通念上同一の商標を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)をした。
また、被告は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標である「W.I.S.E.-CSI300 China Tracker」の商標(以下「使用商標2」という。)を、「運用報告書(全体版)」に表示し、楽天証券のウェブサイトを通じて提供することで、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する取引書類を内容とする情報に本件商標と社会通念上同一の商標を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)をした。

【争点】

争点は、本件商標の使用の有無(商標法第50条第1項)である。

【判旨抜粋】

2 楽天証券による使用商標1の使用
⑴ 甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトにおける使用
ア 前記1⑴の認定事実によれば、甲第3号証の1ないし3記載の楽天証券のウェブサイトにおいて、同社が取り扱う指数連動ファンドとして「W.I.S.E.-CSI300 CHINA TRACKER」の表示、すなわち使用商標1が用いられているところ、使用商標1と本件商標とは、一部にスペースの有無やローマ字の大文字と小文字の差異があるものの、構成文字や称呼を共通にする、社会通念上同一の商標と認められる。
イ 甲第3号証の1ないし3そのものは、本件審判請求の登録後の令和3年5月19日時点におけるウェブサイト画面を印刷したものであるが、以下の理由により、要証期間内にも、同様の形態のウェブサイト画面が存在したものと推認することができる。
本件投資信託はオンラインのみにより販売されているところ、楽天証券の内部資料によれば、要証期間内である平成30年10月から令和3年2月までの間、本件投資信託の取引が行われている。
作成対象期間(計算期間)を、それぞれ平成29年、平成30年、令和元年とする本件投資信託の交付運用報告書には、運用報告書の全体版については、販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されているとしてURLを表示しているから、同期間に、楽天証券において本件投資信託を対象とするウェブサイトが存在したことが認められる。
楽天証券の金融商品を取り扱うサイトでは、平成22年頃から、ウェブページ上の表示態様に大きな変更がなく、取引ページにおいて「株価」、「企業情報」(株式を投資対象とする場合)又は「ファンド情報」(投資信託を投資対象とする場合)、 「チャート」の各頁の上側に企業名やファンド名が表示される構成となっており、このような表示態様は、甲第3号証の1ないし3記載の表示態様と同様である。
楽天証券が運営する投資情報メディア「トウシル」のウェブサイトには、要証期間内である2019年(令和元年)3月6日付けの「『MSCI新興国株指数』の中国A株組み入れ拡大で、中国株に追い風か」と題する記事があり、現在もインターネットからアクセスすることができるが、同記事では、楽天証券が取り扱う中国本土株に連動する主なETFとして本件投資信託を紹介し、使用商標1が記載されている。
同記事内において使用商標1が使用されている部分にはリンクが埋め込まれており、同部分をクリックすると、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトと同様の構成の楽天証券のウェブサイトに遷移し、顧客は同ウェブサイトから本件投資信託の取引を行うことができる仕様となっている。
被告が楽天証券と結託して、楽天証券のウェブサイトをあえて改変して、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトを急遽立ち上げ、これを印刷して書証として提出したものであることを疑わせるに足りる事情は見当たらない。
ウ 前記1⑵の認定事実によれば、使用商標2のみならず、使用商標1についても、本件投資信託(「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外国投資信託(香港ドル建)」)の名称であることは明らかであるから、使用商標1は、要証期間を含む期間において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の範ちゅうに含まれる役務に使用されていることになる。
エ 楽天証券のウェブサイトにおける使用商標1の使用が本件投資信託の販売会社としてのものであることは明らかである。前記イのとおり、被告の本件投資信託の交付運用報告書では、運用報告書(全体版)については、販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されているとしてURLを表示しているのであるから、被告が、楽天証券において使用商標1をウェブサイトで使用していることを認識していることも明らかである。そうすると、被告が楽天証券に使用商標1の通常使用権を許諾していることは優に推認される。
そして、前記1⑴のとおり、楽天証券のウェブサイトでは、過去10年の本件投資信託の価格等、本件投資信託に関する重要な情報が示され、本件投資信託の売買も可能なのであるから、「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」が行われていたことになる。
オ 以上によれば、本件商標の通常使用権者である楽天証券は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標1を付して、自社のウェブサイト上で表示し、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしていたものと認められる。
(中略)
3 被告による使用商標2の使用
⑴ア 前記1⑵の認定事実によれば、本件運用報告書には、「W.I.S.E.-CSI300 China Tracker」(使用商標2)の表示がされているところ、使用商標2と本件商標とは、構成文字や称呼を共通にする、社会通念上同一と認められる商標である。
イ 前記1⑵のとおり、本件投資信託は指数連動ファンドであって、「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外国投資信託(香港ドル建)」であり、また、本件運用報告書において管理会社として表示されているのは被告であるから、使用商標2は、遅くとも本件運用報告書の存在する平成29年から令和元年まで、すなわち要証期間内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の範ちゅうに含まれる役務に、被告によって使用されていたことになるし、本件運用報告書は、販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されているから、「役務に関する・・・取引書類・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)がされていたことになる。
ウ 以上によれば、被告は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する取引書類を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標2を付し、日本国内の販売会社である楽天証券のウェブサイトを通じて電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしていたものと認められる。

【解説】

 本件は、商標登録取消審判請求1 を成立しないとした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第50条第1項の使用の有無が問題となった事案である。
 裁判所は、①本件商標と使用商標1とは、社会通念上同一であるとしたうえで、楽天証券の内部資料や、同社が運営する投資情報メディカにおける記載から、要証期間内においても使用商標1が同様の表示態様で表示されていたと使用を認定した。
また、裁判所は、②本件商標と使用商標2とは、社会通念上同一であるとしたうえで、使用商標2が、本件運用報告書において、要証期間中、販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されていたと使用を認定した。
 原告は、①に対しては、楽天証券のウェブサイトが変更された可能性や、被告が楽天証券に対して使用許諾を行っていない等の主張をしたが、裁判所はこれを認めなかった。
 原告は、②に対して、運用報告書(全体版)及び交付運用報告書を作成したときは、遅滞なく金融庁長官に届け出なければならないとされており(投資信託・投資法人法14条6項、225条1項、同法施行令135条1項、5項、平成19年9月28日金融庁告示第90号4条)、運用報告書は公益的な理由から法律上作成が義務付けられる書面であるから、商標法2条3項8号の「取引書類」には当たらない旨主張したが、裁判所は、公益的な理由から法律上作成が義務付けられる書面であっても、同時に取引に関連して作成される書類としての性質を有することはあり得るものであり、本件運用報告書は、ファンドの仕組み、ファンドの運用の経過、ファンドの経理状況等、取引上の意思決定に資する情報が記載されており、取引に関連して作成される書類としての性質を有するとして、主張を排斥した。
 本件は、事例判断ではあるが、不使用取消審判における使用態様等において、実務上参考になると思われる。

以上
弁護士 宅間仁志


1(商標登録の取消しの審判)
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。