【知財高裁令和4年9月14日判決(令和4年(行ケ)第10034号 審決取消請求事件)】
【要約】
フランチャイジーであった原告が、フランチャイズ契約期間中にフランチャイザーである被告から許諾を受けて用いていた商標を、フランチャイズ契約の解除後に登録出願し、設定登録を受け、被告に商標権侵害を警告した。被告が請求した無効審判により、商標登録は商標法4条1項7号に基づき無効とされた。本判決も同じ結論(審決取消請求棄却)。
【キーワード】
商標、公序良俗
【事案】
被告は、スマートフォンの修理等の事業を行っており、「iPhone修理王」、「Android修理王」、「XPERIA修理王」、「スマホ修理王」等の名称を店舗等に用いていた。
原告は、被告とフランチャイズ契約を締結し、被告が運営する「スマホ修理王」に加盟した。当該フランチャイズ契約において、以下の規定がなされていた。
2 前項に関わらず、本部は、「XPERIA修理王」を加盟者の商号または企業の別称とすることを認めない。
3 第1項に定める許諾に関しては、以下を条件とする。
①加盟者との本契約期間中ならびに加盟者の事業所内に限る。
(以下略)
また、被告は、原告に対し、原告の店舗屋号を「スマホ修理王 新宿店」、「XPERIA修理王 新宿店」と指定する旨を通知した。原告は、「XPERIA修理王 by スマホ修理王新宿店」と題したウェブサイトを開設するなど、運営する店舗について「スマホ修理王」の商標を使用した。
原告は、被告以外の者からパーツを仕入れたため、フランチャイズ契約の別の条項に基づき、被告からフランチャイズ契約を解除された。
原告は、上記の解除の4日後、「スマホ修理王」の標準文字商標(「本件商標」)を登録出願し、その後設定登録を受けた(指定役務:「電話機械器具の修理又は保守」)。その後、原告は、被告に対し、本件商標の商標権侵害を警告する警告書を送付し、本件商標の使用の中止を求めた。被告は、本件商標の放棄又は譲渡のために50万円を支払う用意があると申し出たが、原告は、合計2670万円のライセンス契約を提案した。
その後の代理人間協議によっても、原告は、100万円から300万円程度では受け入れられないと回答し、合意に至らなかったため、被告は、本件商標について無効審判を請求した。
無効審判において、本件商標は商標法4条1項7号に該当し無効とされたため、原告は、無効審判取消しを求めて本件訴訟を提起した。
【判決】
被告が、原告の店舗の屋号を「スマホ修理店 新宿店」、「XPERIA修理王 新宿店」と指定する旨通知し、原告がフランチャイズ契約の期間中、「XPERIA修理王 by スマホ修理王新宿店」の名称を使っていたことからすると、被告が原告に提供し、許諾した「商標・商号・その他の表示」には、「XPERIA修理王」だけでなく「スマホ修理王」も含まれる。
また、原告は、「スマホ修理王」の商標は被告がフランチャイズ事業で使用しており、その使用のためには被告の許諾が必要であることを十分に認識し、その認識の下で、被告のフランチャイジーとして「スマホ修理王」の商標を使用していた。
そうであるにもかかわらず、フランチャイズ契約の解除後、本件商標の登録出願に及び、設定登録を受けると、被告に対し、商標権侵害を警告し、上記のとおりの協議の経過に至った。
「こうした事実経過等に鑑みれば、本件商標の登録出願は、元フランチャイジーである原告が、被告から本件解除をされたわずか4日後に行ったものであり、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反するものであるのみならず、「スマホ修理王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害する加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われたものというべきである。
このような本件商標の登録出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の出願登録は、商標制度における先願主義を悪用するものであり、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきであって、こうした商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標を保護することにより商標の使用する者の業務上の信用を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする商標法の目的に反することになりかねないから、本件商標は、公の秩序に反するものであるというべきであって、商標法4条1項7号に該当する。」
【検討】
商標法4条1項7号は、公序良俗違反による不登録事由を定めるものであり、公序良俗違反といっても、様々な場合がある。特許庁の商標審査基準では、これらを5つの類型に分けており、本件は、そのうち「(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。」に該当する類型である。この類型は、私的領域に踏み込むものであるため、どこまでを適用対象とするかについて議論があるところであり、裁判例も多く存在する。
本件の事実認定によれば、原告の目的の不当性が相当に大きく、判断が分かれにくいように思われる。しかし、本件では、フランチャイズ契約中に「スマホ修理王」の文言が記載されていなかった点が1つの大きな争点として存在することに留意する必要がある。例えば、仮に被告の原告に対する「スマホ修理王 新宿店」との指定通知がなかったとしたら、「スマホ修理王」との商標がフランチャイズ契約における許諾の対象であったと認定するためには別の理由付けが必要となり、結論が直ちに明らかではなかったとも考えられる。
以上
弁護士 後藤 直之