【令和4年10月6日(東京地裁令和2年(ワ)第3931号)】

1 事案の概要(説明のため事案を簡略化している)

本件は、被告が、原告(新聞社)の新聞記事を被告社内のイントラネット(以下「被告イントラネット」という。)に保存し、被告従業員がこれらの記事を閲覧できるようにしていた行為について、複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条)の侵害が認められ、原告の損害賠償請求が認容(一部認容)された例である。

本件において、著作権侵害が認められたこと自体について特段珍しい判断がなされたというものではないが、新聞記事や雑誌記事のスキャン画像を平素から社内で共有しているという会社も少なくないと思われるため、実際の紛争事例ということで紹介する。

2 裁判所の判断

本件では、平成30年度に被告イントラネットに保存された新聞記事の内容及び本数を直接裏付ける証拠は存在していたものの、平成29年度以前に保存されたものについては、その内容及び本数を直接裏付ける証拠が存在しなかった。そのため、著作権侵害に係る新聞記事の全体数が明らかではなかった。この点、本判決は、平成29年以前に保存された新聞記事の内容及び本数について、周辺事実を証拠により詳細に認定した上で、その本数の概算を認定し、この概算に基づき損害額を認定した。

以下、多少長くなるが、新聞記事の本数を認定した判決文の一部を引用する(下線等の加工は執筆者が行った。)。

⑶ 平成30年度よりも前に本件イントラネットに掲載された記事について

ア 平成30年度よりも前に本件イントラネットに掲載された具体的な記事の内容や本数を直接裏付ける証拠はない。

もっとも、被告は、平成17年8月24日に被告が開業した直後から、被告が運営する鉄道に関する記事等について、画像データを作成し、本件イントラネットに掲載をしていた…。

イ 被告は、一定の新聞記事について、切り抜いてそれをA4版用紙に貼るなどした上で、…2穴用フォルダにつづって保存しており…、平成16年度から平成29年度分について、そのようなフォルダがある(…「本件フォルダ」…)。このうち、平成24年度以降の本件フォルダに保存された記事については、記事が貼られた用紙に、2つの二重線(枠)の間に、日付、「新聞掲載記事」とのタイトル、取扱部署…が記載され、その下に記事が貼られているもの(…「枠付き記事」…)と、そのような記載がないものがある。平成24年度より前の本件フォルダに保存されたものに、枠付き記事はない。

枠付き記事は、本件イントラネットに掲載する際に容易に周知することができるように、被告が、タイトルや取扱い部署等を記載したものである。

…本件フォルダに保管されていた記事のうち、原告が発行した新聞の記事を「本件保管記事」ということがある…。

<<中略>>

ウ 平成24年度以降の本件保管記事のうち、本件イントラネットに掲載された記事の有無及び数

本件保管記事のうち、平成23年度以降のものには枠付き記事があるところ、枠付き記事は、本件イントラネットに掲載する際に容易に周知することができるように、被告がタイトルや取扱い部署等を記載したものである。平成28年4月にCが被告の広報課長に就任した時には、新聞記事を本件イントラネットに掲載する際には枠を付した上で掲載する取扱いが確立しており、その後もその取扱いが継続していた…。

これらによれば、本件保管記事のうち、枠付き記事である別紙集計表の「枠付きの記事数」欄記載の記事(合計99本)については、いずれも被告が本件イントラネットに掲載したと認めることが相当である。

<<中略>>

エ 平成23年度以前の本件保管記事のうち、本件イントラネットに掲載された記事の有無

本件保管記事のうち、平成23年度以前のものには、枠付き記事はない。

しかし、被告は、平成17年8月24日に被告が開業した直後から、被告が運営する鉄道に関する記事等について、画像データを作成し、本件イントラネットに掲載をしていた…。そして、平成24年度以降の本件保管記事の数が合計115本あり、そのうちの枠付き記事が合計99本ある。

<<中略>>

オ 平成29年度以前に原告が発行する新聞に掲載された自社及び沿線記事以外の記事について、本件イントラネットに掲載された記事の有無

被告は、切り抜いた新聞記事のうち、自社及び沿線記事については、本件フォルダに保管していたが、自社及び沿線記事に分類しなかった記事は本件フォルダに保存していない。そのような記事の数を直接裏付ける証拠はなく、また、そのうち本件イントラネットに掲載された記事の有無やその数を裏付ける証拠もない。

もっとも、平成30年度掲載記事については、多くが、その内容から、被告において被告及び被告が運営する鉄道事業の沿線に関するもの以外の記事に分類されると考えられるものであり、それにもかかわらず、それらの記事が本件イントラネットに掲載された。また、平成30年度とそれより前とで、被告において、本件イントラネットに記事を掲載する基準が全く異なったというような事情もうかがわれない。

これらからすると、本件フォルダに保管されている記事以外にも、被告において切り抜き、本件イントラネットに掲載したが、自社及び沿線記事に分類せず、本件フォルダに保存していない記事が相当数あったと推認することができる。

このことに、原告が従前から継続して新聞を発行していることや平成30年度掲載記事の数や内容等に照らせば、本件フォルダに保存されている記事以外にも、原告が発行する新聞に掲載された原告が著作権を有する記事について、被告が本件イントラネットに掲載したものがあったと推認できる。

カ 平成29年度以前に被告が本件イントラネットに掲載した、原告が発行する新聞に掲載された原告が著作権を有する記事の数

上記のとおり、平成29年度以前に原告が発行する新聞に掲載された原告が著作権を有する記事について、本件フォルダに保存されている本件保管記事の中に本件イントラネットに記載された記事があった…ほか、それに加えて、本件保管記事に含まれないが、被告が本件イントラネットに掲載した記事があったと推認することができる…。

もっとも、平成29年度以前のものについて、そのようにして被告が本件イントラネットに掲載した記事の具体的な数や内容を直接的に裏付ける証拠はない。そして、被告は、平成17年8月24日に被告が開業した直後から、被告が運営する鉄道に関する記事等を本件イントラネットに掲載していて、また、原告が従前から継続して新聞を発行していることなどの事情があるものの、他方、平成30年度、被告は、原告が発行する新聞に掲載された記事のうち、合計295本を本件イントラネットに掲載して、そのうち原告の従業員が作成したものは45%程度にすぎなかった…。本件フォルダに保存されていない、自社及び沿線記事以外の記事であり、かつ、本件イントラネットに掲載された記事について、原告が著作権を有している記事の割合が平成30年度と同率であったことを裏付ける証拠はない。また、本件フォルダに保存されている自社及び沿線記事という基準が比較的選別基準として明確であるのに対し、自社及び沿線記事に含まれない記事について、その切り抜きや本件イントラネットへの掲載の選別基準は明確ではなく、選択者によりその範囲が変わり得るものといえる。平成30年度掲載記事を選別したCが広報課長に就任して記事の選別を行うようになったのは平成28年4月からであり、また、Cは、複数の新聞社の新聞記事で重複する記事についても幅広くイントラネットに掲載するように変更したと述べる…。

以上の事実に、平成30年度について被告が本件イントラネットに掲載した原告が著作権を有する記事の数…等を考慮すると、平成30年度掲載記事の選別を行ったC証人が選別した平成28年度及び平成29年度については、被告による著作権侵害が認められる記事の総数…は、これら両年度の枠付き記事…の合計である52本の3倍に当たる156本を下らないものであると認定するのが相当である

また、本件イントラネットに掲載する記事には枠を付す運用をしており、C証人とは別の者が記事の選別をしていた平成24年度から平成27年度の被告による著作権侵害が認められる記事の総数…は、これらの年度の枠付き記事…の合計である47本の2倍に当たる94本を下らないものであると認定するのが相当である。また、本件イントラネットに掲載する記事には枠を付す運用をする前であり、別紙集計表の「記事数」欄記載の記事のうち本件イントラネットに掲載された記事の数が不明な平成17年度から平成23年度については、本件保管記事…のうち、同「記事数」欄の数の合計の約7割である104本が本件イントラネットに掲載されたと推計した上で、被告による著作権侵害が認められる記事の総数…は、この2倍に当たる208本を下らないものであると認定するのが相当である

そうすると、上記記事の合計は、458本となる

2 争点2(損害)について

…平成30年度以前については、遅くとも平成30年3月31日までに、原告が著作権を有する記事が458本掲載されたと認めるのが相当であるから、これによる損害は137万4000円となる。…

3 若干のコメント

不法行為に基づく損害賠償請求において、不法行為及び損害の立証責任は被害者(本件では原告)が負う。本件は、著作権侵害に係る不法行為が問題となっており、不法行為の具体的事実を主張・立証するには、基本的には、記事の内容やその本数を明らかにしなければ、具体的な侵害事実を認定することが難しい。本件では、平成30年度に社内のイントラネットで共有された新聞記事の内容や本数は明らかであったものの、平成29年度以前のそれらについては、明確にすることができない状況であった。この場合、平成29年度の侵害事実については、立証不十分として侵害を認めないという判断もあり得るとことであるが、裁判所は、周辺事実から著作権侵害が認められる記事の総数の概算を認定し、この概算に係る本数の新聞記事の著作権が侵害されたとして損害額を認定した。

冒頭で述べたとおり、他人の著作物である新聞記事を社内のイントラネットで共有し、これを従業員に閲覧できるような状況にしていた行為について複製権(著作権法21条)・公衆送信権(同法23条)侵害を認めること自体について、特に目新しい判断はない。ただ、本件では、相当数の著作権侵害行為が存在し、その全てを詳細に立証できない場合であっても、周辺事実(実務では「間接事実」といったりする)から侵害行為の数を概算として認定している点が注目される。このような事実認定の手法は、特に、本件のような細かな著作権侵害が積み重なるようなケースにおいて、実務上参考になる。

以上
弁護士 藤田達郎