【令和4年3月23日(知財高裁 令和3年(ネ)第10083号 著作権侵害差止等請求控訴事件)】

 

【キーワード】

ソフトウェア、表示画面、GUI、著作物、複製、翻案、著作権侵害、類似性

 

【事案の概要】

書店業務管理用ソフトウェア「Book Answer 3」(以下「原告製品」という。)を製造・販売している原告(控訴人)は、被告(被控訴人)が製造・販売する各ソフトウェア(以下「被告製品」と総称する。)の表示画面(以下「被告表示画面」と総称する。)が、原告製品の表示画面(以下「原告表示画面」という。)を複製又は翻案したものであり、原告の著作権(複製権、翻案権等)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する等と主張して,被告に対し,販売行為等の差止請求及び損害賠償請求を行った。

原告表示画面及び被告表示画面それぞれについて、本件で取り上げられた複数の画面[i]の一例は、以下のとおり紹介する。

単品分析画面

(原告製品)

(被告製品1)

単品詳細情報画面

(原告製品)

(被告製品1)

本稿では、本件の争点のうち、被告表示画面が原告表示画面に係る著作権を侵害するか、という点を取り上げ、特に原告表示画面の複製又は翻案該当性に焦点を当てて説明する。

 

【判旨(概要)】

1.原審(東京地判令和3年9月17日(平成30年(ワ)第28215号)

原審は、以下の理由により原告の請求を棄却した。

⑴ ビジネスソフトウェアの表示画面における複製又は翻案該当性

原審は、原告表示画面及び被告表示画面は、その表示形式や表示内容から「図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に該当する可能性に触れた上、両製品は、一定の業務フローを実現するため、業務の種類に応じた複数の画面及び画面遷移により、ユーザが同一の又は異なる階層に設けられた複数の表示画面間を移動しつつ作業を行うことが想定されるとした。そして、このようなビジネスソフトウェアの表示画面の内容や性質等を踏まえ、被告表示画面が原告表示画面の複製又は翻案に該当するかどうかは、以下のプロセスを経て判断すべきとした。

①両表示画面の個々の画面を対比してその共通部分及び相違部分を抽出する。
②当該共通部分における創作性の有無・程度を踏まえ,被告製品の各表示画面から原告製品の相当する各表示画面の本質的な特徴を感得することができるかどうかを検討する。
③ソフトウェア全体における表示画面の選択や相互の牽連関係の共通部分やその独自性等も考慮しつつ,被告表示画面に接する者が,その全体として,原告表示画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるどうかを検討する。

原審は、上記②について、前記の複数の画面について、それぞれ原告表示画面及び被告表示画面を対比して検討した。その結果、いずれの画面についても、共通部分となる表示形式及び表示内容については、アイデアに属する事項又は書店業務に必要な一般的な情報にすぎず、個々の具体的表現(名称の選択、配列順序、レイアウト等)において、創作者の思想又は感情が創作的に表現されていないとした。また、相違部分については、利用者が画面全体から受ける印象が異なるとし、被告表示画面について、他に原告表示画面の本質的特徴を直接感得しうると認めることができないした。したがって、被告表示画面は、原告表示画面の複製又は翻案には当たらないとされた。

⑵ 編集著作物としての原告製品に係る著作権侵害の可能性

原審は、「ビジネスソフトウェアの特性を考慮すると,一定の業務目的に使用される各表示画面を素材と考え,各画面の選択とシステム全体における配置,更には画面相互間の牽連性に創作性が認められる場合には,素材の選択及び配列に創作性があるものとして,当該ソフトウェアの表示画面が全体として編集著作物に当たるとの考え方も一般論としてはあり得る」ことを理由として、ビジネスソフトウェアの表示画面全体が編集著作物に当たる可能性に言及した。しかし、原告表示画面については、「利用者の操作性や一覧性あるいは業務の効率性を重視するビジネスソフトウェアにおいては,ありふれた構成又は工夫にすぎないというべきであり,原告製品における表示画面の選択や相互の牽連性等に格別な創作性があるということはできない」として、編集著作物に当たらず、編集著作物としての原告製品に係る著作権侵害を否定した。

2.知財高判令和4年3月23日(令和3年(ネ)第10083号)

控訴人は、原告製品と被告製品の各画面について、個別に類似性を抽出して分析的に論じ、原告表示画面が表現上の特徴としている点についての総合的評価を軽視して同画面の著作物としての創作性を否定した原審の判断に誤りがあるとの追加主張をした。具体的には、原告表示画面と被告表示画面との一致箇所をひとまとまりとして捉えて創作性を判断すべきこと、ビジネスソフトウェアのディスプレイにおける表現の創作性については丁寧な検討が必要であること、及び、原告表示画面について表現上主要な箇所は「②データ分析等画面(単品詳細情報画面、日別画面、他店舗在庫表示画面、定期改正入力画面、リクエスト管理画面)であり、同画面に表現上の工夫が多数散りばめられていること等を主張した。

しかし、裁判所は、以下のとおり述べて、原告の主張を採用しなかった。

「被控訴人製品【※作成者注:被告製品のこと】の各表示画面から控訴人製品【※作成者注:原告製品のこと】の各表示画面の本質的な特徴を感得することはできず,被控訴人表示画面【作成者注:被告表示画面のこと】に接する者が全体として控訴人表示画面【※作成者注:原告表示画面のこと】の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとは認められない…【中略】…。控訴人表示画面と被控訴人表示画面の対比に係る判断は,…【中略】…,控訴人表示画面と被控訴人表示画面の共通する部分をひとまとまりにして検討することによって,上記判断が左右されるものではない。ビジネスソフトウェアのディスプレイ(表示画面)における表現の創作性について丁寧な検討が必要であるという一般論の主張も,上記判断に影響しない。控訴人が②データ分析等画面に多数散りばめられていると主張する表現上の工夫のうち,発注操作を行う欄の配色については,創作者の思想又は感情が創作的に表現されているといえる程度の特徴を有するものとは認められず,同欄の位置や詳細情報を画面の下方に配置することは,書店業務を効率的に行うという観点から通常想定される範囲内のものである。」

 

【若干のコメント】

ビジネスソフトウェアの表示画面(特にGUIのような画像・画面)について、一般論としては、美術の著作物(著作権法10条1項4号)、図面、図表その他の図形の著作物(同条項6号)、また、動きを伴う場合は映画の著作物(同条項7号)とされる余地がある。しかし、業務遂行上要求される機能やユーザの利便性(見やすさ、使いやすさ、わかりやすさ等)といった観点からの制約を受け、また、アナログ形式で実施される帳簿等の書式の慣行等を継承する必要性から生じる制約も受ける。このことから、(個々の表示画面又はそれらの集合体も含めて)創作性の認められる範囲はかなり限定的である。仮に著作物性が認められるとしても、いわゆるデッドコピーに相当するような行為でなければ著作権侵害は認められにくいといえよう。

本件についても、同種案件に関する過去の裁判例[ii]と同様、原告表示画面及び被告表示画面に共通する要素を抽出し、そこに創作的な表現があるかを検討する(濾過テストといえる)判断手法により、複製・翻案該当性を判断したが、例にもれず、共通部分はそれぞれアイデア又は一般的な情報にすぎず、個々の具体的表現に創作性が認められないとして著作権侵害を否定した。また、控訴審は、「原告表示画面と被告表示画面との一致箇所をひとまとまりとして捉えて創作性を判断すべき」という控訴人の追加主張をどこまで検討したか明らかではないが、「共通する部分をひとまとまりにして検討することによって,上記判断が左右されるものではない」として退けている。

また、本件では、原告製品が編集著作物(同12条1項)に当たるかも争われたが、過去の裁判例[iii]と同様、表示画面の選択や相互の牽連性等に創作性が認められないことを理由に、編集著作物に当たらないとして、著作権侵害を否定した。

以上のとおり、本件は、GUIのような画像・画面に関する著作権侵害を否定したという点で従来の裁判例と大きく異なる点はないものの、知財高裁の判断として先例になると考えたため本稿で取り上げた。同種の問題が生じた場合に、知的財産法上のどの構成で保護するべきかという課題は残るが、事業者としては、著作権法のほか、意匠法(画像意匠)、特許法(コンピュータソフトウェア関連発明)等による保護を踏まえた対応を検討すべきであろう。

 

 

[i] 単品分析画面、単品詳細情報画面、日別画面、他店舗在庫表示画面、定期改正入力画面、リクエスト管理画面、発注手入力(条件設定)画面、発注手入力(入力)画面、補充発注(条件設定)画面、補充発注(入力)画面、自動発注設定画面、定期改正(条件設定)画面、定期改正(入力)画面、単品定期改正入力画面、返品(条件設定)画面、商品マスタメンテナンス(新規登録・検索)、商品マスタメンテナンス(抽出)画面が取り上げられている。

[ii] 大阪地判平成12年3月20日(平成10年(ワ)第13577号、積算くん事件)、東京地判平成14年9月5日(平成13年(ワ)第16440号、サイボウズ事件)、東京地判平成16年6月30日(平成15年(ワ)第15478号、ProLesWeb事件)等

[iii] 知財高判令和4年3月23日(令和3年(ネ)第10083号、Book Answer事件)等

以上
弁護士 藤枝典明