【令和4年6月16日(東京地裁 令和4年(行ケ)第10002号)】

◆商標法3条1項3号、商標法4条1項16号該当性に関する裁判例

【キーワード】

 商標法3条1項3号、商標法4条1項16号

1 事案の概要

 原告が、本願商標の商標登録出願(商願2019-098619号、令和元年7月19日)をしたところ、拒絶査定となった。原告は、当該拒絶査定について拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は拒絶審決(令和3年11月24日)した。原告は、審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。

(本願商標)

指定役務:第44類「あん摩・マッサージ及び指圧、きゅう、はり治療、カイロプラクティック、医療情報の提供、栄養の指導」

◆争点(原告が主張する審決の取消事由)

 (1)取消事由1:商標法3条1項3号該当性に関する判断の誤り

 (2)取消事由2:商標法4条1項16号該当性に関する判断の誤り

   ⇒いずれも原告の主張は排斥された

2 裁判所の判断

1  取消事由1(商標法3条1項3号該当性に関する判断の誤り)について

商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される(最判昭和54年4月10日同53年(行ツ)第129号・最高裁裁判集民事126号507頁参照)

 そうすると、出願に係る商標が、その指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の取引者、需要者によって当該役務に使用された場合に、将来を含め、役務の質を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該役務に使用された場合に役務の質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定役務に関する取引の事情を考慮して判断すべきである。」

「・・・灸は、身体の特定の位置に置いたもぐさに火をつけ、熱の刺激による効果を得る漢方療法であるといえることからすれば、温石を用いた施術及び灸は、患部を熱で温める方法が、温めた石又は火をつけたもぐさのいずれを用いるかという点において異なるものといえるところ、上記(3)アによれば、本件審決がされた当時の本件業界において、温石を用いた施術は、「温石療法」や「温石」等と呼ばれ(上記(3)ア(ア)、(コ)等)、灸とは区別されて取り扱われている実情があったものといえる。・・・しかしながら、・・・本件審決がされた当時の本件業界において、温石を用いた施術は、必ずしも灸と厳格に区別されていたものではなく、患部を温めるための道具として火をつけたもぐさの代わりに温めた石を用いることにより、灸に類似する効果を得ることができる施術として、「温石灸」との名称でも広く行われている実情があった・・・従来から、灸の施術として、もぐさの下に塩や味噌等の材料を置いたり、箱等の道具の中にもぐさを置いたりする方法が広く行われてきたこと、このような灸は、使用する材料や道具等の名称を冠して「味噌灸」、「箱灸」等と称されていることが認められる・・・したがって、「温石灸」の漢字部分及びこの読みを表す「おんじゃくきゅう」の平仮名部分からなる本願商標は、その指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認めるのが相当」

「・・・本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かは、本件審決がされた時点における取引の実情を考慮して判断すべきもので・・・本件審決がされた当時・・・施術として、「温石灸」との名称でも広く行われている実情があったといえることからすれば、原告がそれ以前から温石及びもぐさの両方を用いる施術を「温石灸」と称して行っているなどの事情があるからといって、前記の結論が左右されるものではないというべきである。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。・・・」

 2  取消事由2(商標法4条1項16号該当性に関する判断の誤り)について

「  (1)  前記1で検討したところによれば、本願商標は、その指定役務に使用された場合には、本願商標の取引者、需要者によって、「温めた石を用いた灸(施術)」という役務の質(内容)を表示したものと一般に認識されるものというべきである。

 そうすると、本願商標が、その指定役務のうち「温めた石を用いた灸(施術)」以外の指定役務に対して使用された場合には、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるといえる。

 (2) 以上によれば、本願商標は、役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標であるといえるから、商標法4条1項16号に該当するものと認められる。」

3 コメント

 本件では「温石灸」が、灸とは異なるものと解され得る事情がありえたことを認めたうえで、あくまで審決の際の需要者等の認識(すなわち「温石灸」が「火をつけたもぐさの代わりに温めた石を患部に置く、灸と同種の施術」であると認識されていたこと)を基準に、本願商標が商標法3条1項3号に該当すると判断し、原告の主張を退けている。

 また、その判断において、そのような施術として「温石灸」が広く行われる前から、原告が「温石灸」と称する施術を行っていたとしても、このような判断に影響を及ぼさない旨が判示されている。

 本件では、使用する道具を冠して「〇〇灸」と呼ばれることがあったことも指摘しており、原告が早期に本願商標を商標登録出願していたからと言って商標登録できていた可能性は低いとも考えられるが、早期に出願していれば本件で商標法3条1項3号に該当するとされた根拠の一部は回避できた可能性があるとも思われる。

 本件で、商標法4条1項16号該当性については、商標法3条1項3号該当性の判断の中で先にされた「温石灸」が「温めた石を用いた灸(施術)」として需要者らに認識されていたとの認定に基づき、あっさりと該当するものと認定された。

以上

弁護士 高玉 峻介