【令和4年3月4日(東京地裁 令和3年(ワ)第21029号)】
【ポイント】
著作権法の適法な引用の成否について判断した事案
【キーワード】
著作権法第32条
引用
2要件説
第1 事案
氏名不詳者らが、電気通信事業等を営む被告らの電気通信設備を経由して、原告が撮影した写真等を利用し投稿を行った。そこで、原告が被告らに対して、当該写真に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたとして、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、当該氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
以下では、本事案の争点のうち、適法な引用の成否について述べる。
第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)
(2) 適法な引用の成否について
ア 本件投稿1-1について
前記前提事実(2)及び(3)アのとおり、本件投稿1-1は、「投稿内容省略」、「投稿内容省略」という書き込みをした上で、原告の子らを写した原告写真1と同一の写真画像を投稿したものである。そして、証拠(甲2の8、甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1-1は、「インスタ(以下省略)」というタイトルの下に、原告に関する誹謗中傷を含む多数の書き込みがされたスレッドに投稿されたものであり、本件投稿1-1には原告写真1の出典は記載されていないことが認められる。
上記認定事実によれば、本件投稿1-1について、書き込みの内容そのものは、原告写真1に写った原告の子らに言及するものであり、原告を誹謗中傷するようなものではないが、特段原告写真1を引用する必要はないというべきであり、書き込み自体長いものではないことから、本件投稿1-1に占める原告写真1の割合は小さくないといえる。そうすると、上記認定事実のとおり原告写真1の出典が明示されていないことも考慮すれば、本件投稿1-1において原告写真1と同一の写真画像を掲載したことは、公正な慣行に合致するものであるとも、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるともいえないから、適法な引用(著作権法32条1項)には当たらないというべきである。
(省略)
(3) 小括
前記前提事実(2)ないし(4)及び前記(1)のとおり、原告は、原告写真1ないし3に係る著作権を有するところ、本件投稿1-1、1-2及び2-3は原告写真1ないし3と同一の写真画像を投稿したものであり、これにより同写真がインターネット上で公開されたものである。
そして、前記(2)のとおり、本件投稿1-1及び1-2において原告写真1及び2と同一の写真画像を投稿したことは適法な引用には当たらず、その他の違法性阻却事由の存在も認められない。
以上によれば、本件掲示板に原告写真1ないし3と同一の写真画像を投稿する本件投稿1-1、1-2及び2-3により、原告写真1ないし3に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明白である(プロバイダ責任制限法4条1項1号)と認めるのが相当である。
第3 検討
本件は、著作権法の適法な引用の成否について判断した裁判例である。
適法な引用の成否の判断基準について、従前の裁判例はいわゆる2要件説(明瞭区別性及び主従関係)を採用していたが、本判決は、著作権法第32条第1項の文言に忠実に「公正な慣行に合致するもの」であるか否か及び「引用の目的上正当な範囲内で行われたもの」であるか否かの総合的な観点で判断する。昨今、いわゆる2要件説で判断する裁判例はほぼなくなり、この総合的な観点から判断する裁判例がほとんどである。
本判決は、「公正な慣行に合致するもの」であるか否か及び「引用の目的上正当な範囲内で行われたもの」であるか否かの総合的な観点から、適法な引用の要否を判断するとしても、具体的にどのような要素を考慮しているのだろうか。本判決は具体的な要素として、①引用する必要性、②引用した著作物の占める割合、③出典の明示を挙げ、本件においては、①「特段原告写真1を引用する必要はないというべき」、②「書き込み自体長いものではないことから、本件投稿1-1に占める原告写真1の割合は小さくない」、③「本件投稿1-1には原告写真1の出典は記載されていない」として、適法な引用を認めなかった。
このように、適法な引用のために、少なくとも必要な具体的要素としては、①引用する必要性、②引用した著作物の占める割合、③出典の明示があるといえるだろう。また、他の裁判例(東京地判令和4年1月27日判決(令和元年(ワ)16040号))を参照すると、適法な引用のための、その他の具体的要素としては、明瞭区別性、引用の目的の存否、著作権者の利益を害しないか否か等が挙げられている。
このように、本判決は、適法な引用のための具体的要素を示しており、実務上参考になる。
以上
弁護士 山崎臨在