【令和4年6月20日判決(知財高裁 令和3年(ネ)第10088号・令和4年(ネ)第10014号)】

【ポイント】

①特許法102条2項に基づく損害額の推定の覆滅事由の存否、②競合品の存在を理由に覆滅した部分について、特許法102条3項の重畳適用の可否について判断した事案

【キーワード】

特許法102条2項
特許法102条3項
覆滅事由
競合品の存在

第1 事案

 本件は、発明の名称を「情報通信ユニット」とする特許(特許第5894635号)の特許権者である被控訴人(一審原告)が、控訴人(一審被告)の製品の製造等が当該特許権の侵害に当たるとして、損害賠償等を求めた事案の控訴審である。
 本事案における争点として、①特許法102条2項に基づく損害額の推定の覆滅事由の存否、及び②特許法102条2項及び3項の重畳適用の可否があった。以下では、かかる争点に関する控訴審の判断について述べる。
 なお、原審(大阪地裁令和3年9月16日判決・令和元年(ワ)9113号)及び控訴審ともに、控訴人の製品の製造等が当該特許権を侵害すると判断した。

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)

⑹ 原判決53頁17行目の「また、」から24行目末尾までを次のとおり改める。
 「その他、エレコムやRuijie社が、原告製品と競合し得る壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセスポイントを販売し、エレコムは、知名度と安価さを兼ね備えた長期の販売実績を有し、Ruijie社は、日本市場への本格参入は令和2年以降であるが、相当の販売実績を有している。具体的には、エレコムは、甲56製品以外にも、原告製品と競合し得るJIS規格対応の壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセスポイントを3種類販売し、知名度を有し、原告製品に比べ価格競争力を有することが認められる(甲78、乙60の2ないし4、乙61)。また、Ruijie社は、原告製品と競合し得る壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセスポイントを25 販売し、令和2年の販売実績が1.7億円、令和3年1月から11月までの販売実績が5.79億円であることが認められる(甲78、乙61ないし66)。
一方、原告製品の売上げは、(省略)。
 このような事情に鑑みると、本件において、競合品の存在を理由として特許法102条2項の推定は覆滅され、その割合は15%と認めるのが相当である。」
(省略)
⑻ 原判決54頁26行目の「被告による」から55頁2行目末尾までを次のとおり改める。
 「競合品が販売された蓋然性があることにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被控訴人の主張は採用できない。」

第3 検討

 本件は、①特許法102条2項に基づく損害額の推定の覆滅事由の存否、②競合品の存在を理由に覆滅した部分について、特許法102条3項の重畳適用の可否について判断した事案である。
 まず、上記①の争点について、原審(大阪地裁令和3年9月16日判決・令和元年(ワ)9113号)では、推定の覆滅事由として、ある一つの競合製品の存在を認め、5%の限度で推定が覆滅されると判断した。これに対して、控訴審では、控訴人がその他に新たな競合品の存在を立証することに成功し、原審より高い、15%の覆滅が認められた。このように、特許権侵害で提訴された側としては、いかに競合品の存在を立証することが重要であるかが分かる。
 また、上記②の争点について、原審は、「被告による各被告製品の販売実績等と直接の関わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては、同条3項適用の基礎を欠く」として、特許法102条2項及び3項の重畳適用を認めなかった。そして、控訴審においても、「競合品が販売された蓋然性があることにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく」という理由から、特許法102条2項及び3項の重畳適用を認めなかった。このように、原審と控訴審は、具体的な理由は異なるものの、特許法102条2項及び3項の重畳適用を認めない立場を採った。
 この論点については、特許法102条と内容を同じくする意匠法39条に関する裁判例(大阪地判令和2年5月28日・平成30年(ワ)6029号)であり、この裁判例は、「推定覆滅に係る部分については、同条2項に基づく推定が覆滅されるとはいえ無許諾で実施されたことに違いはない以上、同条3項が適用されると解するのが相当である」として、競合品の存在を理由に覆滅した部分について、特許法102条3項の重畳適用を認めた。また、この論点については、結論を異にする各学説が存在する。なお、特許法102条2項及び3項の重畳適用の可否について判断した知財高裁の大合議判決(知財高大判令和4年10月20日・令和2年(ネ)10024号)は、この論点について言及していない。したがって、この論点はまだ決着が見えておらず、今後の裁判例の蓄積を待たれる。

以上

弁護士 山崎臨在