【平成20年12月26日(東京地裁 平成19年(ワ)第4156号)】

第1 事案の概要

 原告は、音楽ユニットの一員として活動し、別紙歌詞目録記載の歌詞(原告歌詞)を創作した。その後、原告らは平成18年8月10日、当該歌詞に基づく音源を制作し、コンピュータハードウェアへ記録して原盤を完成させた(トラック・ダウン行為)。
 他方、被告は、自ら創作した短文(被告表現)を既に公表していたところ、原告歌詞中に類似表現(原告表現)があるとして、テレビ番組において原告が盗用した旨の発言を行い、それが報道された。
 原告は、①被告が将来著作権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使するおそれがあるとしてその不存在確認を求め、②被告の発言が名誉毀損に当たるとして損害賠償等を請求した。
 争点は
・著作権侵害等に基づく将来請求権の不存在確認請求の適法性
・被告の発言が名誉毀損に当たるか
であった。

 

第2 裁判所の判断

1 著作権等に基づく損害賠償請求権不存在確認の訴え(請求第1項)
(1) 確認の利益の有無
 原告は、トラックダウン行為に対して被告が損害賠償請求権を有するかどうかにつき、その有無が早期に確定されれば、その後の原盤の複製・譲渡・放送等の利用行為についても機械的に適法性が確定すると主張し、即時確定の利益があるとした。
 これに対し被告は、当該トラックダウン行為の存在自体を本件訴訟で初めて知ったにすぎないこと、そのような内部的で一度きりの複製行為に対し損害賠償請求権を行使することは現実的でなく、実際にかかる権利行使を行う意思も全くないことを明らかにし、さらに訴訟の過程において、当該トラックダウン行為に関する著作権・著作者人格権に基づく損害賠償請求権を放棄する旨の意思表示をしていた。
 裁判所は、被告のかかる態度、放棄の意思表示、行為の性質等を踏まえ、トラックダウン行為に関する損害賠償請求権が将来行使される現実的な蓋然性は認め難く、原告の地位に法的な不安が残っているとはいえないと判断した。そして、この点に関し即時確定の必要性を否定し、請求第1項については確認の利益を欠く不適法な訴えであると結論づけ、訴えを却下した。
(2) 確認対象の選択の適切性
 加えて裁判所は、原告が確認の対象としたトラックダウン行為の性質にも言及した。
 トラックダウン行為は、録音制作過程の内部的な技術処理にすぎず、一般の取引社会において著作物の利用として認識されている類型とは大きく異なる特殊な行為であること、そのような一度の内部複製行為に対して損害賠償請求権の有無を確認しても、実際の紛争の解決に資する範囲はきわめて限定的であることなどから、この行為を確認の対象とする選択は適切とはいえないと判示した。
 以上を総合し、裁判所は、債務不存在確認としての本件請求第1項には確認の利益がなく、不適法であるとして却下する旨の主文を掲げた。

2 名誉毀損の不法行為に基づく請求(請求第2項・第3項)
(1) 名誉毀損該当性
 裁判所は、本件各テレビ番組における被告の発言内容および放送の態様を詳細に検討し、視聴者の一般的理解に照らすと、被告の発言は、原告が被告表現を盗用した者であると受け取られるものであり、原告を社会的に非難されるべき人物として描写するものであると認定した。
 そのため、被告の発言は、原告の社会的評価を低下させる表現であって、原告の名誉を毀損するものに該当すると判断した。
(2) 公共性・公益目的・真実性等による違法性阻却の有無
 本件各テレビ番組で扱われた紛争は、著名な作家・漫画家間の盗作疑惑という性質上、公共の利害に関する事実であり、被告の発言にも公益目的が認められると評価された。
 しかし、裁判所は、被告が原告表現を被告表現の盗作と断じるについて、事実の重要部分が真実であると認めるに足りる証拠はないと判断した。さらに、被告の主張する依拠性も、単に原告が被告の作品に接した可能性があることや表現間に一定の類似性があることのみからは直ちに肯定できず、盗作と断じるまでの根拠としては不十分であると評価した。
 また、被告の発言を意見ないし論評として位置づけたとしても、その前提となる事実の重要部分が十分に裏付けられているとはいえず、加えて、使用された言辞や断定的な言い回しの程度に照らすと、意見・論評として許容される範囲を超え、原告に対する人格的非難として過剰であると認定した。したがって、被告の発言について、公共性・公益目的の存在を前提としても、違法性は阻却されないと結論づけた。
(3) 損害額および謝罪広告の要否
 裁判所は、被告の発言が大きな注目を集めるテレビ番組等で繰り返し取り上げられたこと、原告が著名なクリエイターとして活動していること、原告の職業的信用に与えた影響の程度などを総合考慮しつつも、原告側の主張額(慰謝料2000万円)は過大であるとし、慰謝料額を相当と認められる水準まで減額したうえで、弁護士費用相当額を加えた金220万円の支払を命じた。
一方で、謝罪広告については、名誉回復の方法としての必要性・相当性や強度を検討した結果、本件においては金銭賠償によって名誉回復を図るのが相当であり、謝罪広告までは要しないとして、これを認めなかった。

 

第3 コメント

 本判決は、著作権侵害不存在確認請求の「利益」判断について参考となるものである。特に、権利者が損害賠償請求権を行使しない旨の意思表示をしている場合、たとえ先行してメディアで強い表現を用いていたとしても、裁判所は訴訟段階における明確な意思表示を重視し、確認請求の利益を否定し得ることを示した点が参考になる。
 また、確認の対象を特定する際には、当該対象が社会通念上、一般的な著作物利用の場面として適切であることが求められることも示された。「トラック・ダウン」という技術的・特異的行為を対象とする確認請求が適切性を欠くとされた点は、実務上の注意点として有用である。
 名誉毀損判断については、短文・フレーズの盗作指摘が問題となる事案において、視聴者・一般人の受ける印象を基準に評価し、真実相当性の不存在や社会的相当性の限界を丁寧に検討する手法が明確に示された。依拠性やアクセスの問題を背景としつつ、発言主体の責任を明確に認定した点に本判決の意義がある。
 総じて、本件は、著作権侵害主張と名誉毀損が併存する紛争において、確認請求の適法性判断と、盗作発言の法的評価を整理するうえで、実務上参考となる判例であるといえる。

 

以上
弁護士 多良翔理