【令和4年7月6日(知財高裁 令和3年(ネ)第10094号 特許権に基づく製造販売禁止等請求控訴事件)】
【事案】
本件は、発明の名称を「電気工事作業に使用する作業用手袋」とする特許権(特許第5065448号。本件特許権)を有する控訴人が、被控訴人ヨツギテクノが製造し、その納入を受けた被控訴人ヨツギが販売する手袋(被告製品)は本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものである旨主張して、被控訴人らに対し、特許法100条に基づいて被告製品の製造販売の差止め等を求めた事案である。
裁判所は、控訴人の請求は理由がないとして本件控訴を棄却した。
【キーワード】
訂正の再抗弁、時機に後れた攻撃防御方法
【争点】
本稿では、控訴人が控訴理由書に記載した訂正の再抗弁が、時機に後れた攻撃防御方法に該当すると判断された点についてとり上げる。
【事案の概要】(判決一部抜粋・下線は筆者による。)
第2 事案の概要(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。)
1 本件は、発明の名称を「電気工事作業に使用する作業用手袋」とする特許権(特許第5065448号。本件特許権)を有する控訴人が、①被控訴人ヨツギテクノが製造し、その納入を受けた被控訴人ヨツギが販売する原判決別紙物件目録記載の手袋(被告製品)は本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものである旨主張して、被控訴人らに対し、特許法100条に基づいて被告製品の製造販売の差止め等を求めるほか、②被告製品の製造販売により控訴人に損害又は損失が生じたと主張して、㋐主位的に、被控訴人らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、2356万2000円及びこれに対する被告製品の販売日より後の平成26年3月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前の民法)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を、㋑予備的に、被控訴人ヨツギに対し、不当利得返還請求権に基づいて、357万円及びこれに対する支払を催告した日の後であり訴状送達の日の翌日である令和2年6月18日から支払済みまで同号による改正後の民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、本件特許はその出願前に公然実施された乙1発明を主引用例として進歩性を欠くものであり無効である旨判断して、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これを不服として控訴人が控訴をした。
・・(省略)・・
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件発明は、本件特許の出願前に公然実施された乙1発明による進歩性欠如の無効理由があるから、その他の点について判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、後記2のとおり、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第4の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
・・(省略)・・
3 なお、控訴人は、控訴理由書で、本件発明について訂正する(訂正の再抗弁)旨主張するが、当裁判所は、これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。その理由は、一件記録によると、当該訂正の再抗弁は、原審裁判所が本件特許は無効であるとの心証開示をした後にされたものであるため、原審で時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されたものであるところ、適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらないから、当審における上記主張は、明らかに時機に後れたものであって、そのことについて控訴人には少なくとも重過失があり、また、この攻撃防御方法の主張を許せば、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかであるためである。
・・(省略)・・
【検討】
民事訴訟法157条1項には、「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」として、時機に後れた攻撃防御方法の却下について定められている。裁判所が、同項に基づいて攻撃防御方法の却下をなすためには、①時機に後れて提出されたものであること、②それが当事者の故意又は重大な過失に基づくものであること、③それについての審理によって訴訟の完結が遅延すること、という3つの要件を満たす必要がある。
時機に後れた攻撃防御方法の却下に関し、最高裁第三小法廷昭和30年4月5日(昭和28年(オ)759号)は、「所論引用の大審院判例(昭和八年二月七日判決)が、控訴審における民訴一三九条の適用について、第一審における訴訟手続の経過をも通観して時機に後れたるや否やを考うべきものであり、そして時機に後れた攻撃防御の方法であつても、当事者に故意又は重大な過失が存すること及びこれがため訴訟の完結を延滞せしめる結果を招来するものでなければ、右の攻撃防御の方法を同条により却下し得ない趣旨を判示していることは所論のとおりであつて、この解釈は現在もなお維持せらるべきものと認められる。」と判示しており、控訴審において、攻撃防御方法の提出が時機に後れたものであるか否かを判断するにあたっては、第一審における訴訟手続の経過をも参酌して考えるべきであるとされている。
本件では、控訴人は、原審において訂正の再抗弁を主張したが、原審裁判所が本件特許は無効であるとの心証開示をした後にされたものであるため、原審で時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下された。そこで、控訴人が、さらに控訴理由書で、当該訂正の再抗弁を主張したところ、裁判所が、「適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらないから、当審における上記主張は、明らかに時機に後れたものであって、そのことについて控訴人には少なくとも重過失があり、また、この攻撃防御方法の主張を許せば、本件訴訟の完結が著しく遅れることは明らかである」と判断したものである。「適宜の時機に原審で主張することができなかった事情は見当たらない」との判断によれば、裁判所は、原審における訴訟手続の経過を参酌した上で、控訴理由書で主張された訂正の再抗弁が時機に後れた攻撃防御方法に該当すると判断したものといえる。特に、当該訂正の再抗弁は、原審において、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下されており、当該事情が控訴審においても考慮されたものと思われる。本件を踏まえると、原告/控訴人(権利者)としては、控訴理由書で主張する訂正の再抗弁であっても、時機に後れた攻撃防御方法に該当するとして却下される場合があることを考慮して、第一審における訂正の要否・その内容について検討すべきであるといえる。
本件は、無効の抗弁に対して訂正の再抗弁を主張する権利者の立場、及び訂正の再抗弁が時機に後れた攻撃防御方法にあたるものとして却下されるべきと主張する被疑侵害者の立場の双方から参考になる判決である。
以上
弁護士・弁理士 溝田尚

