【令和7年12月1日(知財高裁 令和6年(行ケ)第10056号) 審決取消請求事件】
【キーワード】
商標法4条1項11号、指定商品又は指定役務の類否判断
【事案の概要】
被告は、以下の登録商標(以下「本願商標」という。)にかかる商標権を有する事業者である。
登録番号:登録番号第6414447号
商標:ゴミサー(標準文字)
出願日:令和3年6月23日
登録日:令和3年7月9日
指定商品・役務:第40類 生ゴミ処理機の貸与、化学機械器具の貸与(以下「本件指定役務」という。)
原告は、以下の登録商標(以下「引用商標」という。)にかかる商標権を有する事業者である。
登録番号:登録番号第5769618号
商標:ゴミサー(標準文字)
出願日:平成27年1月19日
登録日:平成27年6月5日
指定商品・役務:第7類 生ゴミ処理機、液体肥料製造装置(以下「引用指定商品」という。)
原告は、本件商標は商標法4条1項11号に違反してされたもの(引用商標と同一であり、両者の指定商品又は指定役務も類似するもの)であるから、その登録は無効にすべきであると主張して、無効審判(無効2023-890069号。以下「本件無効審判」という。)を請求した。
しかし、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)を行った。原告は、当該審決の取消を求めて本件訴訟を提起した。
【審決の要旨(商標法4条1項11号について)】
ア 本件商標と引用商標は、外観上同一のものであり、「ゴミサー」の称呼を共通にすることから、これらは、観念において比較することができないとしても、外観及び称呼を共通にするものであるから、両者は、相紛れるおそれのある同一又は類似の商標である。
イ 商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、その類否を判断する両商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断し、その際には、例えば、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか、商品と役務の用途が一致するかどうか、商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか、需要者の範囲が一致するかどうかを総合的に考慮し判断するのが相当である。
「生ゴミ処理機の貸与」と「生ゴミ処理機」の一般的、恒常的な取引の実情において、貸与と商品の販売とは、流通形態を異にするものであり、また、商品の貸与を業とする者は、当該商品の製造・販売業者ではなく、リース又はレンタルする事業者であることが一般的であるといえる。なお、仮に当該商品の製造・販売業者がリース等の業務も行っていたとしても、前記のとおりそれが一般的、恒常的な取引の実情とはいえず、「生ゴミ処理機」の製造、販売する事業者とそれをリース又はレンタルする事業者が必ずしも一致するとはいえない。また、前記商品と役務の用途については、「生ゴミ処理機の貸与」は、他人の求めに応じて物品を貸与することが当該役務の本質であるといえることから、その用途は、「生ゴミ処理機の貸与のため(用)」であるのに対し、「生ゴミ処理機」の用途は、正に生ゴミを処理・分解するための商品そのものであるから、必ずしも用途が一致するとはいえない。
製造・販売する事業者がリース又はレンタルする事業者と同じであるとはいえないことからすると、必ずしも商品の販売場所と役務の提供場所が一致するとはいえない。
なお、前記商品と役務の需要者の範囲については、いずれも「生ゴミ処理機」を使用する者であるから、需要者の範囲は共通する。
ウ 上記イによれば、本件指定役務中の「生ゴミ処理機の貸与」と引用指定商品中の「生ゴミ処理機」については、それらの製造・販売者及び提供者、用途、販売場所及び提供場所が異なり、需要者の範囲において一致する場合があるとしても、一般的、恒常的な取引の実情を勘案して総合的に考慮すると、当該役務と商品とは相違するものである。
そうすると、両商標の指定商品及び指定役務は、両者に同一又は類似の商標を使用しても、それらの商品及び役務が誤認混同するおそれのない非類似の商品及び役務といわざるを得ない。
【争点】
・本件商標の商標法4条1項11号該当性
・指定役務「生ゴミ処理機の貸与」(第40類)と指定商品「生ゴミ処理機」(第7類)の類似性
【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)
第1~3(省略)
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り)について
⑴ 本件指定役務と引用指定商品の類否について
ア 判断基準
ある商標の指定商品と他の商標の指定役務とが類似のものであるかどうかは、それらの商品及び役務が通常同一営業主により製造、販売又は提供されている等の事情により、それらの商品と役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。
イ 商品の販売と貸与に関する取引の実情
各項末尾に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば、建設機械の販売及び貸与に関する取引の実情として、以下の事実が認められる。
(ア)住友建機販売株式会社のウェブサイトには、同社が製造した建設機械に関し、「お客様サポート」の見出しの下、「SUPPORT 01」の箇所に、「購入サポート」と「レンタル」の両方の記載があり、「レンタル」の箇所には、「取扱拠点」に関する記載及び「レンタル機器補償制度について」の記載が存在する。また、住友建機販売株式会社の目的には、「建設機械、運搬機械の製造、販売、賃貸ならびにその部品の販売修理」が含まれている。(甲66の1・2、67)
(イ)~(エ)(省略)
ウ 検討
(ア)上記イに挙げた事実によれば、建設機械について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情があると認められる。
(イ)(省略)
(ウ)商標法施行規則6条及び同規則別表によれば、「土木機械器具」が、商標法施行令2条及び同施行令別表による商品及び役務の区分の第7類「加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械」に属する商品とされており、建設機械は第7類に属する商品であると認められる。
引用指定商品「生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」も、第7類に属するものであるから、引用指定商品と建設機械は同じ第7類に属する商品である。
(エ)以上のとおり、引用指定商品と同じ第7類に属する建設機械について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情がある。これに加え、複写機、プリンター等の出力機器や事務用機器等の商品を取り扱う会社においても、会社の目的に商品の販売と貸与の両方を挙げる会社が複数存在する(甲72~74。なお、被告も、会社の目的に「産業用機械器具の製造、販売及び賃貸」が含まれている[弁論の全趣旨]。)。機械に商標を使用する者がその機械の貸与も行っていることは、通常、特に意外なこととまではいえず、むしろ、予想し得る範疇のことといえる。また、本件指定役務の需要者は生ゴミ処理機を使用する者であり、引用指定商品の需要者も、その多くは、生ゴミ処理機を使用する者であると推認されるから、双方の需要者は多くの部分で共通する。
これらの事情を考慮すれば、本件指定役務と引用指定商品に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるということができる。したがって、本件指定役務と引用指定商品は類似するものと認められる。
⑵ 本件商標と引用商標との比較
本件商標は、「ゴミサー」の文字を標準文字で表してなる商標であり、引用商標も、「ゴミサー」の文字を標準文字で表してなる商標であるから、本件商標と引用商標は同一である。
⑶ 商標法4条1項11号該当性について
上記⑴及び⑵のとおり、本件商標と引用商標は、商標が同一であり、かつ、本件指定役務と引用指定商品が類似しているから、本件商標は、その登録出願の日前の登録出願に係る他人の登録商標である引用商標と同一であって、その商標登録に係る指定商品に類似する役務について使用するものであり、本件商標は商標法4条1項11号に該当する。本件商標は、同法46条1項1号により無効にすべきこととなる。
⑷ 被告の主張に対する判断
被告は、前記第3の1〔被告の主張〕のとおり、建設機械の業界と「生ゴミ処理機」の業界とでは、製品の特性、価格、主要な需要者層等の取引の実情が全く異なり、取引実態の異なる他の業界の事例は、本件指定役務と引用指定商品との類否判断の参考とならないなどと主張する。
しかし、生ゴミ処理機の業界と建設機械の業界の間に相違点があるとしても、建設機械は、引用指定商品と同じ第7類「加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械」に属する商品であることからすれば、建設機械に関する取引の実情を考慮に入れることを不当とすることはできない。また、生ゴミ処理機の業界において、同一の商標がその商品と貸与の役務に使われても、同一営業主のものと誤認されるおそれがないほどに、製造、販売者と貸与者が明確に区別されて需要者に認識されていることを示すといえる証拠もない。
したがって、被告の上記主張は採用することができず、その他、被告の主張する内容を検討しても、上記⑴ないし⑶の認定及び判断は左右されない。
⑸ 取消事由1に関する結論
以上によれば、本件商標が商標法4条1項11号に該当するとは認められないとの本件審決の判断は誤りであり、取消事由1は理由がある。
2 結論
以上のとおり、取消事由1は理由があり、本件審決にはこれを取り消すべき違法がある。
よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。
【検討】
1 指定商品又は指定役務の類否判断
商標法4条1項11号では、先行する他人の登録商標と同一又は類似する商標であって「その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務」について使用するものは商標登録を受けられない旨が定められている。
同号での指定商品又は指定役務の類否の判断は、「商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認められる関係にある場合には、…類似の商品にあたると解するのが相当である」とされている(最判昭和36年6月27日〔橘正宗事件〕)。
としても、上記判断基準は抽象的であり、簡易迅速な審査を困難とさせるといえる。そのため、特許庁の審査実務上は、原則として、願書に記載されている「指定商品又は指定役務」の記載の他に、特許庁の指定する区分及び類似群コードを用いて、指定商品又は指定役務の類否が判断される。「区分」とは、特許庁が政令によって定める指定商品又は指定役務の区分であり、「類似群コード」とは、特許庁が審査の便宜のために、指定商品又は指定役務に対応して定めているコードである(特に、この類似群コードが同じである場合は、原則類似として判断される。)。
このように、指定商品又は指定役務の類否判断においては、裁判例で示された基準と審査実務上の基準が異なっているため、しばしば、審査においては非類似と判断された商品又は役務が、審決取消訴訟等の裁判においては類似と判断されることがある。
2 本件の検討
本件では、指定役務「生ゴミ処理機の貸与」(第40類)と指定商品「生ゴミ処理機」(第7類)が類似するか否かが判断された。両者は、指定商品又は指定役務及び区分が異なっており、さらに類似群コードも異なっている(「生ゴミ処理機の貸与」(第40類):40J09、40J10、「生ゴミ処理機」(第7類):09A06、09G63、11A06)。そのため、実務上は非類似の指定商品又は指定役務に該当すると判断されるものであり、実際、特許庁での無効審判の段階では非類似と判断された。
しかし、裁判所は、両者を類似すると判断した。「生ゴミ処理機」と同区分である「建設機械」において「製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情」が存在するところ、「建設機械」と「生ゴミ処理機」は同区分の商品であることから、当該実情を「生ゴミ処理機」の類否において考慮することは不当でなく、「生ゴミ処理機の貸与」と「生ゴミ処理機」に、同一又は類似の商標を使用する場合、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認められると判断されたものである。
本件を踏まえると、「指定商品又は指定役務」において、審査実務上で用いられている類似群コードが異なっていたとしても、当該商品又は役務の属する「区分」に着目し、同区分の他の商品の取引の実情を考慮して類否を判断することがありうるだろう。
以上
弁護士 市橋景子

