【平成15年10月29日(東京高裁 平成12年(ネ)第3780号、平成12年(ネ)第3781号、平成12年(ネ)第3810号 損害賠償等請求各控訴事件)】

 

第1       事案の概要

 本件は、イタリアの銃器メーカーである控訴人ベレッタ及び当該表示の玩具銃分野における独占的使用権を有する控訴人ウエスタンアームスが、被控訴人ら(マルゼン・丸前商店・KSCプロショップ・KSC・東京マルイ)に対し、実銃の表示(ベレッタ関連各表示)を玩具銃本体やパッケージ等に付して譲渡等した行為は不正競争防止法第2条第1項第1号・第2号に該当するとして、表示の使用差止・金型等の廃棄・損害賠償を求めた事案である。原審は請求棄却。控訴審で、控訴人らは差止・損害額の拡張・追加等を主張した。争点は、①各表示の周知・著名性、②玩具銃における「商品等表示としての使用」該当性、③広義の混同の成否等である。

 

第2       裁判所の判断

1.周知性・著名性
 裁判所は、控訴人各表示のうち、控訴人表示一(「BERETTA」の欧文字表示)についてのみ、我が国の玩具銃の取引者・需要者間で周知であることを認め、これ以外の控訴人表示二~八については、周知・著名性を否定した。実銃市場が国内にほとんど存在しないこと、紹介記事・広告等の到達範囲や態様、刻印の目立ち方等を総合し、「著名」までは到達せず、また表示二~八は需要者に機種等を示す記号的表示として理解されるにとどまると評価した。

2.商品等表示としての使用
 被控訴人各商品の本体・パッケージ等に「BERETTA」等の表示が付されている点は認めつつも、当該付記が直ちに自他商品識別機能を果たす態様での使用とは限らないと位置付けた。玩具銃分野では、実銃と同一外観・表示の再現が商品の本質に由来する側面があり、他方でパッケージ・取説等には各玩具銃メーカー名や製品仕様・対象年齢等が明示され、自他識別は主として玩具銃メーカー名・性能・品質で行われている事実関係を重視した。

3.広義の混同(不正競争防止法第2条第1項第1号)
 裁判所は、次のように判示して広義の混同を否定した。
 ① 我が国では実銃は合法的に一般流通せず、けん銃の需要者層は極めて限定的である。他方、エアーソフトガン等の玩具銃は実銃とは別個の市場で、あくまで区別された商品として取引されている。
 ② 需要者は、同一の実銃形状・表示を再現した多数の玩具銃メーカー品の中から、パッケージや本体等に付された「当該玩具銃の製造者を示す表示」等により商品を識別し、玩具銃としての性能・品質を吟味・評価して選択・購入している。
 ③ したがって、被控訴人各商品およびパッケージ等に、周知表示である控訴人表示一と同一の表示が付されていても、その玩具銃が控訴人ベレッタの業務に係るものと誤信されるおそれはなく、また親子会社・系列会社関係や同一表示による商品化事業のグループ関係にあると誤信させるおそれも認め難い。
 ④ 玩具分野における実物メーカー許諾の「慣行」については、近時例は増加しているものの、長年にわたりごく少数にとどまり、大勢を占める慣行とまではいえない。よって、当該慣行の存在を前提に混同惹起性を導くことはできない。

4.結論
 控訴人らの控訴および当審での追加・拡張請求はいずれも棄却。(なお、原告は上告しているが、却下されている。)

 

第3       若干のコメント

 本件裁判例は、玩具銃に実銃の表示を付した行為について、不正競争防止法上の「混同」を否定した点に特徴がある。裁判所は、玩具銃市場が実銃とは別個の市場であり、需要者は製造者名や性能等で商品を識別していることを重視した。
 また、実銃メーカーとのライセンス契約の存在が一般的な取引慣行とまではいえないとして、混同の根拠にはならないとした点も重要である。
 もっとも、この判断は「銃」という特殊な商品特性に基づくものであり、一般の消費財やキャラクター商品など、需要者が出所を重視する分野では結論が異なる可能性がある。したがって、本件の枠組みを他分野に機械的に当てはめることはできないと考えられる。

 

以上
弁護士 多良翔理